PandoraPartyProject

SS詳細

わん、にゃん、がん!

登場人物一覧

ミア・レイフィールド(p3p001321)
しまっちゃう猫ちゃん
月待 真那(p3p008312)
はらぺこフレンズ

●祭りの夜に

 ドンチャカ、カッカと賑やかに、石畳を下駄の音が、バチが太鼓を打ち鳴らす。
日は沈んでおり、空には提灯に照らされた橙の煙が昇っていく。
その煙の元は、立ち並ぶ屋台。鉄板の上で裏返されるお好み焼き、ムラなくソースと具が混ぜられる焼きそば、型の上で丸く形作られていくたこ焼き。
その中を、星にも勝る白髪と柔らかな犬耳を揺らし、鼻歌交じりに歩く乙女がいた。

「おーい姉ちゃん、どうだい、一発遊んでいくかい? 弾10発、500ゴールドだよ〜!」

そこをねじり鉢巻きのおやっさんが呼び止める。
彼が手にしているのは、コルクを詰めて撃ち出すタイプの射的銃だ。

「ええのおっちゃん、うちは結構やる方やでぇ?」

銀貨をカウンターに置き、不敵な笑みと共に真那はコルク銃を手に取った。
そして小気味いい音と共に、ばさりと大袋のポテチが撃ち落とされた。 

「どうや、見たかおっちゃん?」
「おーうやるなぁ〜ッ! じゃあ嬢ちゃん、こっちはどうだあ〜?」

親父が次に指さしたのは、複雑に噛み合ったブロック型のおもちゃだ。
二つのブロックを弾一発で落とすには些か重量がありすぎるし、単体ずつを落とすにしても、的確な点を突かねば一方のブロックがもう一方に引っかかってしまい、うまく落ちてくれないだろう。

……さて、これらをどう撃ち落としたものか。真那が思案していた時だった。

「おじ様、ミアもやるの」

鈴音のように通りよく、しかし控えめな声音が、真那の真横に訪れる。
奇しくもその姿は、白狼の獣種たる真那と似ているようで少しだけ違う白猫の獣種。柔らかな耳としなやかな尾が揺れていた。

「おっ、姉ちゃんにライバル登場だなあ。やってみな嬢ちゃん!」

 新たな挑戦者、ミアは店主から銃を受け取ると、静かに狙いをつける。そして、ターゲットに向けてコルクを二発。
その銃口が向いたのは、噛み合うブロックとブロック、その僅かな隙間だ。
撃ち出した反動、それで僅かに揺れた身体。耳飾の鈴音は、落ちた玩具の音で掻き消された。
 
「どう?」
「おお……やるじゃねぇか嬢ちゃん……」
「ふふん」
「おっちゃん、うちもまだやるで、よう見てや!」

思わぬライバルの登場に、真那の心に火がついた。
撃った弾の勢いが吸収されかねない、ふかふかもふもふのクッションを怒涛の連射が叩き落とした。
勿論、これにミアも黙ってはいない。

「……銃なら、負けない……のっ!」

スナック菓子の大袋、少女が焦がれる人形のお家、少年が喜ぶラジコン一式を、次々と撃ち落としていいった。
彼女達の側には、獲得した景品が山と積まれている。

「むむっ……ミアちゃん言うたか? やるなあ……!」
「……まなまなも、さっきの一発はすごかったにゃあ」
「……まさか……二人共……ここまでやるとはな……」

 互いに一歩も譲らぬミアと真那の射的勝負。それを通じて、いつしか彼女達の間に友情が芽生えていた。
その一方、射的屋台の親父の声は、彼女達への歓声からドン引き、興奮から恐怖へと変わっていく。
どうしよう、こんなにあっさり持ってかれたら、こっちは商売上がったり。
火の車、大火事、まっかっかの大赤字だ。親分にも示しがつかねぇ。かくなる上は……!

「やっ……やあ〜すごいなあ〜姉ちゃんにお嬢ちゃん! どうだ、ここで『スペシャルチャレンジ』なんてどうだい?」
「にゃ? スペシャル……チャレンジ……?」
「面白ろそうやん! どんなんどんなん〜?」

首を傾げる真那に店主が見せたのは、ふかふかもふもふ、少女の腕では抱えきれないくらいの巨大なテディベアだ。 

「どうだい姉ちゃん嬢ちゃん、これがうちの目玉商品さ! これをゲットできたなら、残りの景品もぜ〜んぶあげちゃうぞ!」
「……」
「うーん、せやけどおっちゃん。いくらうちでも、こないなぬいぐるみ撃ち落とすのは無理やで?」
「勿論、こいつをそのまま撃ち落とせとは言わないさ。……姉ちゃん達が撃つターゲットは……これだ!」

親父が出したのは、タバコ箱程のサイズのくまさんマスコット。その姿は、テディベアをそのまま小さくしたかのような忠実さと愛くるしさを兼ね揃えている。

「これを丁度、景品台のど真ん中に置く。そこだったら、他のものの邪魔にならねぇしな。嬢ちゃん達は、さっきまでと同じようにこいつを撃ってくれりゃあいい」
「……何回まで、チャレンジできるの?」
「何回でもいいぜ! ただし、弾の代金もさっきと同じ、挑んだだけ貰うからな。『無理だ』と思ったら、早めに諦めるのが吉だぞ」
「なーに言うねん、うちが引き下がるわけないやん! ほなミアちゃん、お先にいただきまーっす!」

 狙いを確かに定めて、マスコットに向けてトリガーを引いた。
撃ち出されたコルクは、しっかりマスコットを捉えた、筈だったが。弾は虚しく空を切り、射的屋台を飾る紅白の布を、僅かに揺らすに留まる。
マスコット確かにことりと小さく動いたのだが……。

「あるぇー……?」
「はっはは、残念だったな姉ちゃん! さあて、嬢ちゃんもやるかい? 嬢ちゃんのかっこいい所、俺も見てみたいなあ〜!」
「……やるの」

店主のおだてに乗ったのか、ミアもまた、スペシャルチャレンジを試みる。
確かに射線は計算通り。ターゲットは小さいが、撃ち落とせぬ大きさではない。手ブレや僅かな風も考慮している。しかし、それなのに。

コルクはマスコットをすり抜けるかのように、背後の布を揺らし。そこに当たったコルクは、軽い音を立てて地面へと落ちた。
即ち、ターゲットから外れたのだ。

「ん〜残念だったな嬢ちゃん! 二人共たくさん撃ったから、そろそろ疲れてるんじゃないのか〜?」

店主の妙にニヤついた表情。
真那も自分も、狙いは確かだったのに当てられなかったという、奇妙な事実。
弾は外れたにも関わらず、僅かに元の位置から移動しているマスコット。
……何かが、おかしい。

二人はその後も代わる代わる、何度もコルクを撃ち出したが、それでも打開には至らない。
二人のお小遣いは、みるみるうちに溶けていく。闇市常連者のごとく消えていく。

「くっ、うちもミアちゃんもこんなに外すなんて〜! でもチャンスや、今度はうちが……!」
「……まなまな、撃つのはちょっと待って」
「ん、なんやミアちゃん?」
「今度は二人で、同時に撃って見たらどうかにゃ」
「あっうちとミアちゃんどっちが落とせるか勝負やな! 負けへんで!」
「うん、今度こそ。これで何かが掴める筈なの」


二人で改めて同時に弾を撃ち出した時。

跳ねたのだ。

何がと言われれば、マスコットが。

どうやってと言われれば、底面部分から勢いよく撥条を出して。

どうなったかと問われれば、そのまま、重力に従って。
ストンと、行儀よく景品台の上に再び座った。

「ちょっとおっちゃん!! 的が動くなんてそんなのアリ!!???」
「ハッハッハ、なんてったって『スペシャルチャレンジ』だからなあ!」
「他のは全部動かへん的やったのに、こんな仕込みしとったとか! ズルいわ!!」
「でも俺はチャレンジするかどうか、ちゃんと選ばせたぞ〜? それに乗ったのは姉ちゃん達だよな〜?」
「ぐっ……! くう……あのクマがあんな早う動くんやったら、連射利く銃やないと当てられへん。せやかてこの銃じゃ、コルク一発撃ったら一発弾を詰めな、次の弾は撃たれへん……連射はとてもやないけど無理や……」

ぐぬぬ、と唸りながらも店主を睨み吠える真那。しかし、そこを涼やかな声が押し留めた。

「……まなまな、まなまな」

かっかと怒る真那の裾を、小さくミアが引っ張る。そして何事か、彼女に耳打ちする。しばらく眉間にしわを寄せ聞いていた真那だったが、それを聞くうちに、口の端をニヤリと吊り上げた。

「ほなミアちゃん、最後の勝負や!」
「まなまなには、負けないにゃ!」

 彼女達に許された球数は、残り一発ずつ。二人は、トリガーに指をかけた。
撃ち出されたコルク。それはやはり、正確にマスコットのど真ん中へと向かっていく。
しかしそんな事は予測済みとばかりに、マスコットはコルクを避けて飛び跳ねた。
故に、一発のコルクが、またも虚しく地へと落ちていく。
そしてマスコットが、降り立とうとしたまさにその時。

その胴を、柔らかなコルクがぶっ叩いた。
既に落ちてゆくのみのコルクを、このマスコットは避けようがない。
再び跳ねて天に逃げようとも、ここは未だ空中。そんな事は許されない。

ぽとり。
小さなクマは、『GET』枠へと収まった。 

つまり。
真那とミアは、このスペシャルチャレンジに打ち勝ったのだ。

「……やったで、ミアちゃ〜ん!!」
「……これも、まなまなが協力してくれたお陰かにゃ」

真那のハイタッチを、控えめながらも受け止めるミア。

「さ〜て目玉商品もなくなっちまったし〜??? 今夜はここで店じまい……」
「おじ様」
「ひゃい?」
「どこ行くんや、まだ祭りはこれからやで?」
「え、えっと」
「そーいやあミアちゃん。この店の景品みーんなうちらのやけど、これ全部持ってくには重いなあ?」
「大丈夫なのまなまな。……ここにいい『荷物持ち』がいるにゃ」

そう、何も射的だけが祭りの花ではない。
むしろ、楽しい時間はまだこれからだ。

二人は今宵の収穫とともに、夜市をカラカラ歩いていく。

真那も、ミアも。
銃の名手である以前に、今日はこの祭りを楽しみに来た少女なのだから。

  • わん、にゃん、がん!完了
  • NM名ななななな
  • 種別SS
  • 納品日2021年08月18日
  • ・ミア・レイフィールド(p3p001321
    ・月待 真那(p3p008312
    ※ おまけSS『祭りの末路』付き

おまけSS『祭りの末路』

焼きそば二パック。お好み焼き一パック。
嬢ちゃんはタン、姉ちゃんカルビの串焼きを一本ずつ。

りんご飴、チョコバナナともにニ本ずつ。

甘いものを食べたあまたしょっぱい物が食いてえからと言って、たこ焼き一舟。
更に再びデザートに、冷やしパインを二人で四本。

……なな、姉ちゃん嬢ちゃん。これだけ食べたら腹いっぱいだろ。なっ?

えっ……わたあめ?
……確かに今そこにあるけどよぉ……まだ食うのか?
あっはい……すぐにお支払いします……。

……なあ二人共……確かに俺は意地悪したけどよぉ。
スペシャルチャレンジ分の代金はちゃんと返したし、取った景品は勿論皆、嬢ちゃん達にあげたじゃねぇか。
あっはい勿論お家まで責任持って運びますともええ。傷1つつけずに持っていきます。

それよりなあ、おっちゃんの懐、もう寒いを通り越して氷河期よ? 永久凍土になっちまってるよ?

えっ……まだまだ金魚すくいも、型抜きも、スーパーボールすくいもやっていくって?

もう……許しておくれよぉ〜!!!
 

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