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七彩の祝祭・序

登場人物一覧

月待 真那(p3p008312)
はらぺこフレンズ
真道 陽往(p3p008778)
双銃の狼

●七彩の祝祭
 陽往のふるさとであるその村では、七彩の祝祭セブンス・ハーベストと呼ばれる祭りが催される。
 出店は勿論、踊り子たちが踊ったり、商人にとっては年に一度の重要な稼ぎ時だ。
 閉鎖的ではなくとも人口の少ないその村で行われる、数少ないイベントだからだ。その日の為に腕によりをかけて作った商品たちが、客――否、友の前に晒されるのは心地がいい。自分の技術や実力の向上を見てもらえるまたとない機会だからだ。
 その日の為に準備をしてきた商人たちのなかには、陽往や真那、それから善吉も含まれている。一生懸命に準備をしてきた三人にとって、今日は特別な日だ。
「じいちゃん、俺緊張してきた」
「わしに言うでない」
「ハル、顔死んでる!」
「うっせー、そういう真那は顔が青いぞ」
「だ、だって私、こんな大勢の人の前でご飯出すの初めてなんやもん!」
「まぁ落ち着くのじゃ。で、陽往、今日は何処に店を出すのじゃ?」
「あ、そうだったな。忘れ物はないか?」
 じいちゃん、と声をかけた陽往は、スニーカーをとんとんと履きならして扉に手をかけた。
「真那が持っとるはずじゃ、二人で確認してみてくれ」
「はあーい」
 真那が両手いっぱいに持った荷物は、今日のために仕込んでおいた分の荷物だ。勿論これだけではないし、陽往と善吉は真那よりも多く持っている。女の子に無理をさせるわけにはいかないと言ってきかなかった。ので、真那は少々少ない。その分先に確認するのだ。きっと楽だろう。
「調味料よーし」
「ハル待って、ちゃんと調味料も確認しなあかんって!」
「それもそうだな!」
「塩よーし」
「砂糖よーし」
「なんだこれ」
「私もしらん」
「焼肉ソースっぽい味がする」
「何食べてるんじゃ! 新品じゃが!?」
「やば、ハルばれた! ふた閉めて!」
「いやもうバレてるんじゃよな」
 頭を抱える善吉。まあ大丈夫だろうと考えることにした。どうせ味付けは一緒だ。たぶん。きっと。メイビー。
「あとはー、油もあるし」
「これお肉や!」
「あと野菜な」
「これは茄子やな」
「これはピーマン」
「これはレタス」
「キャベツじゃ……」
「やっぱハル緊張してる!??」
「うっせー!!!」
「まあ良い、ちゃんと準備はしてあるから、ばっちりってことじゃろうて」
 ぐっとサムズアップ。準備ができたならばっちりだ。さあ、出発しよう。
 すべての準備が整った。いざいかん。たくさんの人に愛される料理を、この手で生み出したのだから――後は食べてもらうだけだ!


「よってらっしゃい見てらっしゃい!」
「おいしい焼き串、気にならへんー?」
 村の出店の列を縫うように出歩きながら、真那と陽往は善吉が焼いた串を売り捌く。
「私がこれ食べたいわ~」
「あ、わかる。俺も腹減った……けど、食ったらじいちゃんに怒られちまう」
「やんなー……早く売って戻って食べよう」
「おう、そうだな」
 色々な屋台から飛んでくるいい匂いにつられそうになっては、頬をしばいて理性を取り戻す。冷静にならないと財布の中身がすっからかんだ。
「うー、私あれ食べたい。焼きトウモロコシ」
「あのおじちゃんのトウモロコシすっげー甘いんだよ……」
「なんでそんな食欲誘うこと言うん。挑発!?」
「だって俺も食いたいんだもん!!!」
 ぎゃあぎゃあと道の真ん中で食べ物を持ちながら言い争う二人は嫌でも人目を引くものだから、客に呼び止められ串を購入される回数も少なくは無かった。もっとも、客が寄ってくる原因は美味しそうな串を持ちつつも言い争う二人の愉快さによるものなのだが。
「ありがとう、美味しく食べるよ!」
「まいどあり~!」
「はぁ、私らの分戻ったらあるかな?」
「もう売り切れてそうだな……」
 二人そろってがっくりと肩を落とす。その美味しさは二人も認める一級品。何回も三人で試行錯誤したからこそわかるが、万人に愛される味だといえるだろう。
 ふと、真那が気付く。
「……折角お財布持ってきたんやし自分らで食べたらいい宣伝になるんちゃうかな?」
 あたかも重大そうな顔をして。
 はっと、陽往もそれに頷き同意する。
「……天才か?」
 二人にとってはこの程度のことでも重大なのだ。おいしいもんね。しかたないね。
 と、そのとき。
「にいちゃん!」
「あっ」
 陽往の弟妹たちがわらわらと二人を取り囲む。
「おれにもいっこちょうだい!」
「わたしにも!」
 残り数本ともいえるだろうその串を食らおうとしていた二人の食欲は限界。だが、ここで小さな子達に我慢させる方がもっと酷だろう。と、言うことで。
「いいかお前ら、よく味わって食べるんだぞ。いいな?」
 血涙を流しそうな勢いの陽往に目もくれず、肉にがっつく弟妹たちに苦笑しながら、陽往はそっと頭を撫でる。
「おいしい?」
「うん!」
「ハルがんばってたもんな」
「うっせ!」
「にーちゃんがんばったの?」
「めっちゃがんばってたで!」
「ま、真那、黙ってろ」
「にいちゃんすっげー!」
「わたしね、わたしね、みんなにおみせのせんでんしてくる!」
「あっ、ぼくも!」
 てってこてーと走り去った弟たちをとめることはしない。ようやく普通の距離感に戻れたのだから。
「……あ、串なくなってる。戻ろ、ハル!」
「……おー」
 真那よりも先に店に走る陽往の姿を、真那は微笑まし気に見守った。

●はたらくおおかみ
「お前ら! どこいっとったんじゃ、老体にひとりでさばけっちゅーんか!??」
「じいちゃん落ち着けよ、血圧あがるぞ?」
「うるさいわい、二人が置いてくからじゃろうて」
「でも腕前はプロみたいになってるやん! さすがやな、おっちゃん!」
「皮肉じゃのう、まあよい、手伝え!」
「はあーい!」
 元気よく返事をした真那は客に出来立てを渡し会計をする。陽往は善吉の代わりに火の番をし、善吉は汗を拭きながら水分補給。この炎天下の元でひとり、ずっと屋台をまわしていたのだ。今宵のMVPは間違いなく善吉だろう。
「にしても思ってたより売り捌くのがはやかったのう、初日はよく売れるのかのう」
「わかんね。でも普段はもう少し落ち着きがあるっていうか、こんなに繁盛してる店もなかった気がするけどな」
 客の少ない切れ目に言葉を返すのが手一杯な善吉たちの『喜々一発』は他の店に比べて繁盛しているようだ。
「なんでじゃろうなあ、突然湧いて出たよそ様の店に並ぶなんて優しいひとたちじゃのう」
「おいしいものはやっぱ言葉を越えたパワーがあるんちゃう?」
 と、真那。『やっぱおっちゃんの料理は天下一やからな』と得意げに鼻をならした真那。淡々と串をひっくり返した陽往がすかさず否定する。
「いや、俺がうまいよーって宣伝しといたから」
「準備がええのう」
 ふう、と茶を飲み干した善吉が満足げに笑って。
「ま、わしも休憩したことじゃし二人は飯にしてこい。串は二人の分用意してあるから、向こうで休憩してくるといい」
「串あんのおっちゃん!?」
「どうせ二人のことじゃ、自費でも買おうとするじゃろう」
「なんでバレてんの……」
「真那、俺は遠慮を捨てる! 俺の方がたくさん食ってやる!」
「あーーーーっずるい!! 私の方が多く食べるんやからな!!」
 荷物を纏めてドタバタと走り去る二人の背を眺めながら、ぼんやりと空を眺めた善吉。
「すみませーん、まだ開いてますか?」
「はい、やっとります。何本ですか」
「あー、五本で!」
「はい、少々お待ちくださいね。500G置いといてください」
 新しく迎えた客の為に、よっこらせと腰を上げて、再び店に立った。

●今日もよく頑張りました!
「はあ、美味しいな~」
「おれのにく!!!!」
「わたしのやもん!!」
 串を取り合いながら、二人はがつがつとご飯を食べ進める。寝泊まりしていた家に炊飯器をセット、ちょうど帰って来た時が炊き立てになるように調整してくれていたらしい。そこまで気配りができるとは、ほんとうに頭が上がらない。
「はー……ハルはたのしい?」
「ほへ?(意訳:俺?)」
「うん」
「はほひー(意訳:たのしい)」
「いや飲み込んでから喋りいや!」
 やれやれと首を横に振った真那を横目に、ごくんと飲み干した陽往はご機嫌に串を頬張る。負けじと真那は自分の分を茶碗に乗せてガード。そういうところだけは譲らない。
「みんなで楽しみたかったってのもあるけど、実際に自分が店に立つ側になると新しい発見になるな。俺は今まで楽しませてもらう側だったなって思ったし、俺が誰かに笑顔を与えられてるって思うとすっげー嬉しい」
 満足げに、串を頬張りながらいう陽往に真那は頷いて。
「私もハルが大切にしてるお祭りに来られて嬉しいわ!」
 うんうんと頷いて。
「さーおっちゃんのところ戻ろう! あ、でも先に洗い物はしてこな」
「おっけー。ちゃっちゃと終わらせて、じいちゃんのところに戻るか!」
 うんと伸びをした二人は、満たされた腹をさすりながら、まずは台所へ。ご飯一粒残さず平らげたお茶碗をぴかぴかにしてから、善吉の元へ戻るのだった。

  • 七彩の祝祭・序完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2021年08月05日
  • ・月待 真那(p3p008312
    ・真道 陽往(p3p008778

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