PandoraPartyProject

SS詳細

ウィステリアの夏

登場人物一覧

ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星

 海洋の夏。燦燦と照り付ける日差しがステラの肌をじりじりと焼いたので、パラソルの下のベンチへ逃げる。遠くを見れば白い砂浜があって、泳いでいる人たちが見えた。
 ここは海浜リゾートとしても有名な街で、まさに夏本番と言う今の時期には、多くの人々が夏の日差しと海を満喫している。ならば自分も海へ――という誘惑を覚えながら、ステラはぎゅっと手を握りしめて我慢した。今日はあくまで、準備の日だ。
「ステラちゃん、まった?」
 と、ステラの視界に、ひまわりみたいな大輪の笑顔が飛び込んでくる。金色に輝く、さらさらとした髪の毛。ステラと同じだけれど、まったく同じと言うわけではない、お揃いだけどどこか違う、それがくすぐったくてうれしいような気持。
「ウィズィお姉ちゃん!」
 ステラが声をあげた。お姉ちゃん――ウィズィに飛びつくように、ステラはベンチから立ち上がった。
「ううん、さっき来たところですよ!」
 実際のところ、少し待った。ウィズィが遅刻した訳じゃなくて、ステラが待ちきれなくて早く来すぎただけなのだが。ウィズィはそんなステラの様子を微笑まし気に見つながら、手に持っていたレモンスカッシュの入ったコップを差し出した。
「そこの売店で売ってたんだ。ステラちゃん、しゅわしゅわ大丈夫だっけ?」
「はい、大丈夫です! たとえダメでも、お姉ちゃんが選んでくれたものなら!」
 ステラは両手で大切そうにそれを受け取ると、ストローに口をつけた。さわやかな酸味と炭酸が、口中に涼しい。
「これ飲んでから行こうか」
 ウィズィがそう言って、ベンチに座る。ステラが頷いて、肩を寄せ合うように隣に座った。夏の気温は暑かったが、隣にいる貴女の体温は心地よい。ウィズィがちょんちょん、と自分の帽子のつばを触りながら、言う。
「暑いねぇ。夏本番って感じだ」
「そうですねぇ。ウィズィお姉ちゃんは、夏は得意ですか?」
「まぁそれは? 伊達に海洋で沢山お仕事してませんから!」
 ふふ、と笑うウィズィに、ステラは、はう、と息を吐く。
「流石です。拙も夏は好きです。というより、多分、季節ごとに変わる姿を見せてくれる世界が好きで。それぞれの良さがありますよね」
「そうだねー。ほら、五月に豊穣に藤の花を見に行ったじゃない? あれもよかったねぇ」
「はい! あの時期ならでは、でしたね。藤の花もよかったんですけれど、お姉ちゃんのお弁当も美味しかったです! お肉ましまし!」
「ステラちゃんのおむすびも美味しかったよ! またお弁当持ってどこか行きたいね」
「はい! 拙はいつでもお誘いをお待ちしていますし、予定が空いているならば、今度お誘いします!」
「ふふ、私もまた誘うからね。気軽に誘って?
 さて、そろそろ買い物に行こうか」
 ステラの手のコップが空になったのを見計らって、ウィズィがそう言った。ステラはぴょん、と立ち上がると、
「はい! 行きましょう、お姉ちゃん!」
 そう言ってにっこりと笑う。夏の涼風に、ステラの髪がふわりと舞った。ウィズィはまぶしそうにその金色の髪を見つめてから、微笑って立ち上がる。

 二人で繁華街を行く。手を引っ張って先を行くウィズィの後ろを、どこか緊張した面持ちてステラはついていく。
 水着を買いに行こう、と提案したのはウィズィだった。それから二人は待ち合わせして、この様に繁華街を歩いている。
 大好きなお姉ちゃん――血がつながっているわけではなく、姉のように慕っているわけだ――と一緒にお出かけできるとなれば、心がワクワクとするわけだが、それ以上に大好きなお姉ちゃんにエスコートされているのだ、と思えば思うほど、なんだか初めての事ばかりで、緊張してしまうステラがいる。
 ウィズィにとっては、ホームグラウンドである海洋を案内するのは慣れたものであったから、緊張感はない……いや、緊張感とは違う所で、胸がどきどきとしている。大好きな妹分とデートができるというのは、たまらなく嬉しい。ウィズィのステラへの溺愛っぷりは、妹分を通り越して恋人なのでは? と思うほどには深いので、今も恋人とのデートのように、それはドキドキしているものだ。
「うう、緊張します。誰かにエスコートしてもらうのって、きっと初めてですから」
 ステラがそう言うのへ、ウィズィが笑う。
「そう? じゃあ、楽しい思い出にしてあげなくちゃね」
「お姉ちゃんと一緒なら、何だって楽しいですよ?」
 ステラがわたわたと言うのへ、ウィズィは歩を緩めて、ステラの隣に並んだ。少しだけ肩を近づけて、手をつなぎなおす。指をからめるように。
「なら、いつも以上に……楽しませてあげなくちゃ。初めてなんでしょ?」
 ウィズィはにっこりと微笑むと、優しく、けれど強く、絡めた指を、ぎゅ、と握った。ステラは少しだけびっくりした後、同じくらいの強さで握り返す。
「……うん」
 ステラがそう頷く。ウィズィは先頭を歩くのではなく、隣で、同じペースで歩いてあげることにした。
「この辺りはね、リゾート地でね……って、見ればわかるかな。
 だから、色々お店も多いの。今日行きたいのは、この間たまたま見つけたお店。
 入り口からでも分かるくらいに、素敵なデザインの水着が沢山あってね。一緒に選びたいなぁって」
「水着、ですか……」
 むむ、とステラが唸った。
「今年はどんなデザインのにしましょうね……お姉ちゃんの水着も、素敵なのが欲しいですね!」
 空いた左手をぐっ、とにぎるステラ。意気込む妹分に、ウィズィは楽しそうな視線を向ける。
「ふふ、ステラちゃんの水着も、いいのを選ばなきゃね。あ、ついたよ。ほら、このお店」
 ウィズィが指さす先には、おおきな建物の洋服店があった。海洋国のお店と言う事もあり水着は常に展示しているみたいで、入り口に飾られた様々な種類の水着が、花のようにカラフルな様相を見せている。
 結構繁盛しているお店のようで、中には多くの人でにぎわっている。ステラが入り口の水着に感嘆していると、
「ほら、はいろ、ステラちゃん」
 ウィズィが促して、二人でお店へと入店した。さわやかな印象を与えるサマードレスが入り口に飾られていて、なんだか涼やかな気持ちになる。入って左手が、一般の服のコーナーで、右手側が、水着や小物のコーナーのようだった。
「お洋服も素敵ですが……今日は水着でしたね!」
 些か名残惜しそうなステラに、
「お洋服は今度にしようか。さ、こっちだよ、ステラちゃん」
 ウィズィが声をかけて歩き出す。左右に並ぶ、様々な女性用の水着。ハイネック、タンクトップ、オフショルダー……それぞれの種類にも、様々なデザインとカラーがあって、花で埋め尽くされた街道を歩いているかのような気分になる。
「むぅ……此方も綺麗ですが、彼方のも捨てがたい……」
 さっそく水着へ視線を巡らすステラ。手に取ってみては、自分の体に当てて、むぅ、と唸る。
「お姉ちゃん、どうでしょうか? ちょっと派手ですかね」
「そうだねぇ……去年の水着はどんなだっけ?」
「そうですね、こう……紺や紫を基調とした……肩からショールをかけるような」
 手振りなどをかわしつつ伝えるステラに、ふむふむ、とウィズィが唸る。
「じゃあ今年は違うタイプのしよっか。私もちょっと気分変えてみようかなぁ」
 と、その手にワンショルダータイプの水着をとりつつ、しかしまずはステラの身体に合わせてみる。
「あ、これとか合うかも?」
「もう、お姉ちゃんのもちゃんと選びましょうよ」
 ステラが口をとがらせるのへ、ウィズィが困ったように笑う。
「ごめんごめん、つい、ね。
 あ、そうだ、せっかくだから、お互い相手に似合うような水着を選んで、試着してみよ?」
「良いですね!」
 ぱぁ、とステラが表情を輝かせる。
「では、小一時間ほどしたら、試着室の前で合流しましょう。ふふ、期待していてくださいね、お姉ちゃん!」
「うん、そっちも、楽しみにしててよ?」
 ウィズィとステラはウィンクなどして見せあうと、早速水着を選びにむかっていった。

 ごそごそ、と衣擦れの音が聞こえる。カーテン越しに聞こえるのは、ステラが着替える音だ。
 試着室の前に立って、ウィズィは腕組しつつ、ステラの登場を待った。むむ、と唸る。自分としては、ステラにとっても似合う水着を選んだはずだ。それは間違いない。自信がある。が、それはそれとして、実際にそれを着てみたステラの姿が、気にならないと言えばうそになる。
 まだかなぁ、と胸中でぼやく。ごそごそと言う音が響く。もういいか。そんな風に思って、ウィズィはカーテンの端から、試着室へ向けて顔を突っ込んだ。
「ステラちゃんどーお? もう着れたー?」
 というウィズィの前に飛び込んできた光景は、下着だけの姿になったまま、水着を手にするステラの姿だ。目を丸くして、口をぱくぱくとさせて、顔を真っ赤にさせている。
「!? ……ああああ、あの!? ま、まだ、なので!?」
「うん、見たらわかる……おお、ステラちゃん、結構発育いいというか」
「もう! さ、流石に怒りますよ!」
 胸元を隠しながらぶんぶんと水着を振るステラに、ウィズィはあはは、と笑ってみせる。
「ごめんごめん、待ってまーす」
 怒られては仕方ない、ウィズィは素直にカーテンを閉めると、壁にもたれかかって愛しい妹分の登場を待つことにした。それから少しした後に、
「い、いいですよ……?」
 と、ステラの声がかかる。ウィズィはカーテンの端から、再び中を覗き込んだ。カーテンを全開にして、ステラの姿を周囲にさらすのは、何か嫌だった。
「わ、うん、やっぱりいいね、似合ってる」
 ウィズィが笑う。ステラは、タンクトップタイプのトップスとボトムスの水着を着ている。カラーは、薄い紫。腰には藤の花の飾りがあしらわれていて、水着の柄も、藤の花をイメージしたそれがついていた。
「あの、この水着の柄って……」
 ステラが言うのへ、ウィズィが頷く。
「うん。藤の花。ほら、さっき、待ち合わせの時も言ったけど……豊穣のさ。あれが忘れられなくて」
 思い出すのは、藤棚の景色。花言葉は、『決して離れない』。交わした約束。絡み合った小指。
 ――夏は向日葵、秋には紅葉を、冬には椿、春にはまた藤を。
 ――二人の心が、これからも決して離れませんように。
 そうした誓いの光景。それを思い出しながら、ウィズィはくすり、と笑った。
「だから……一目見た時にね、これだ、って思ったの」
 ウィズィがそう言うのに、ステラは照れ臭そうにもじもじとして見せた。それが可愛らしかったので、飛びつきそうになるのをぐっと抑える。
「その……実は。拙も、同じ考えでして……」
 ばっ、と、ステラから水着が差し出される。黒のトップスに、紫色の、藤の花をあしらったボトムスの水着のセットだ。
「あの藤棚が、二人の思い出が、忘れられなくて……気づいたら、これを」
「~~~~~っ!」
 ウィズィがたまらず、試着室の中に飛び込んだ。カーテンをしっかりしめて、一息に服を脱ぎ去る。
「えっ、えっ、えっ!?」
 ステラが目を白黒させるのへ、
「待っててね! 今着ちゃうから!」
 と、ウィズィは素早く、ステラが差し出した水着へと着替えてしまった。
「ほら、ステラちゃん、見てみて」
 そう言って、試着室の鏡を指さす。同じモチーフの水着を着二人が、肩を寄せ合わせて立っている。
「えへへ、おそろい」
 ウィズィが笑うのへ、ステラは顔を赤らめながら、何度も頷いて見せた。
「なんだか……すごく、嬉しいです」
 うまく言葉にできない感情を何とか言葉にして、ステラは顔を赤らめた。
「うん。私も、すっごく嬉しい!」
 ウィズィも頷く。なんだか、心がつながったような、そんな気分がしたのだ。

 水着は決まった。かごに入れて、そのまま小物を覗きに行く。
「ビーチサンダルは……ほら、これとかどう? 白くてアクセントになるかも」
「良いですね。他には……パラソルでしょうか? 可愛らしいのにしましょう。ほらほら、こっちですよ、お姉ちゃん!」
 さっきよりも強く握り合った手を、ステラが引く。ウィズィは心地よくそれに引かれながら、店の中を歩いていく。
「帽子も必要ですね……それから日焼け止め。お姉ちゃん、ちゃんとケアしてますか?」
「してるよぉ。ステラちゃんこそしてる? ステラちゃん、お肌白くてきれいなんだから、ちゃんとケアしなくちゃだめだよ?」
「ふふ、最近はちゃんとしてます!」
「最近は?」
 ぷに、とウィズィがステラの頬をつつくのへ、ステラは、あう、とうめいた。
「昔は……元の世界にいたころは、訓練ばかりでしたから。今は、そうですね。少しくらい、そう言う事も出来るようになってきました」
「いい事だねぇ。ステラちゃん、綺麗なんだから! ちゃんとしなきゃだめだよー」
 あうあう、とステラが呻いた。ウィズィが楽しげに笑う。ステラはふるふると頭を振って、意識を切り替えると、
「えっと! パラソル! パラソルです!
 これなんてどうですか? 大きくて、広くて。ゆったり使えそうですよ?」
 と、大きなパラソルを指さす。二人が陰に入っても、ゆったりできそうなサイズだ。しかしウィズィは、うーん、と唸ってみせると、
「パラソルはもっと小さくてもいいんじゃない?」
 と、言った。そのまま、他の小物に視線を移しつつ、小さな声で、
「だって、その方が……くっついてられるよ」
 と、少しだけ頬を赤らめて言うのへ、ステラは目を丸くして、それからとろけるような笑顔を向けた。
「えへへ、えへへ~……そうですね。くっついてられますね。
 じゃあ、こっちのにしましょうか?」
 と、ワンサイズ小さいパラソルを差す。小さくて、可愛らしい、二人だけのシェルター。
「……でも。パラソルなんてなくても、拙はこうやって、ぴったりくっついてあげますよ~」
 ステラが肩を寄せて見せるのへ、ウィズィはこほん、と咳払いしつつ、ゆっくりと肩を寄せるのであった。

 紙袋いっぱいの荷物を手にして、二人はお店を出る。何十分か、何時間かぶりの太陽の日差しが、少し体に熱い。とはいえ、二人の気持ちはそんなものなんて目じゃないくらいに暖かだった。
「色々かいましたね! ふふ、実際に使うのが楽しみです!」
「そうだね。あと、水着も。試着室で見たけど、やっぱりちゃんと、ビーチで見たいなぁ」
 二人は笑いながら、繁華街へと出る。遠くに見えるビーチが、二人に夏の思い出の予測を見せた。
「海だけじゃなくて……色々したいです! キャンプも良いですね! それから……」
 子供のようにやりたいことをあげようとするステラの頭を、ウィズィは優しく撫でた。
「うん。いっぱい、いろんな思い出作ろうね。ステラちゃん!」
 その言葉に、ステラはにっこりと笑う。
 太陽の日差しは熱く、それでも二人の前途を照らすように、輝いていた。

  • ウィステリアの夏完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別SS
  • 納品日2021年07月26日
  • ・ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371
    ・橋場・ステラ(p3p008617

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