PandoraPartyProject

SS詳細

プラナリア精神

登場人物一覧

築柴 叶雨(p3p009756)
昼の涙

 機械音声に頼りきりな生活にはもう飽きていた、邪悪な存在が自分自身を苛んでいると謂うならばどれほど良かったのかわかる筈もない。内容次第では枕元も己を癒してくれただろう。しかし蹴り飛ばされた脳味噌、この健在具合は手加減を望んだ俺の仕業なのだ。隣同士で罵詈雑言吐き尽くした中身だ、もう地獄を手繰る紐は見当たらない。ぐるぐると回転を始めた思考回路はどん詰まりで長く永く、虚の螺旋を壊す方法など見つけられないのだ。ねえ、顔色が悪いよと最新機種の画面が発光を仕掛けてくる。黙れ、今度は自らの手でぶち壊す事に成るだろうか。陥った先は誰も知れない泥濘の底で、そこそこの意識が痛め付けられる――最近、よく夢を見る。ジェットコースターやティーカップに乗せられてキャッキャする歓喜ならばどれほど愉快だった事か。自分が世界の中心でしっかりと独りで在ればどれほど愉悦だった事か。つまり決して楽しいもんじゃない。これを幻想だと理解していても判断成せてしまう不快感、ずぶずぶと呑まれる心地は『自分が死んでいく』リアリティに過ぎない。いや、正しく記すならば違うだろう。俺が、俺自身の体を切断して死に絶える悪夢だ。声を掛けても耳を傾けても俺は何方の俺の事も解せないのだ。そういえば昔、誰かが読んでいた本には『こう』書いてあった――自分で自分を殺す夢を見たならば、まず『数字』を刻め――莫迦みたいな詩の群れだ、思い出すだけでも吐き気がする。ぶくぶくと泡立ち始めた走狗が袋小路に嵌まっていく。なんという事だ、痛みが全く見当たらない。
 獣は六を三つ並べたがると知っているが、俺の日常を滅ぼすほどの力を持てない。通学途中で誰かさんに誘われて、ぶらり呆ける自分自身を止められやしないのだ。だらだらとのばしていた肝臓が汗ふいている――再現するかのようにスイッチを押した。箱の中ではスプラッタどもが造り物を演じて――糞が。これは夢でここが現実だと何度繰り返せば『のう』は咀嚼する。めったに刺された腹部からトマト・ケチャップやレッド・ワインが噴出していた。同じ夢が続くなんて可笑しな事ではないのか、伽藍洞の血管が複雑さを増幅させていく。俺の『それ』を返してくれ。俺の『それ』を盗むんじゃねえ。俺の『それ』を――背を這ったのは真実だ、寒い寒い、おそろしいほどに冷えてくる。くしゅん……空気が鼻腔を擽ってきた、夜に潜む化け物はオマエを【どうか】させようと嗤っているのだ。花粉症ではないと書かれている。
 がくり――脱力したのは一昨日、一時間程度しか落ちなかった故だ。嫌だ厭だと藻掻いても気絶じみた夢現からは逃れられない。青色の気儘は遂に息絶え、在り得ないほどの『最期』へと溶け込んで往った――キャハハ。キャハハハ。アハハ、ハ。地獄を表現するならばプラナリアが正解だろう、綺麗に二等分された意識が嗜・被の極で元通りと成っていた。見開いた世界が飛沫にくるい、撫でつければ襞としたもの。うねうねと勝手に出ていった腸が胃袋とさようならしている。びくびくと引き攣ったのは生への執着でも死へと恐怖でもない。どうして大切なものとは『こんなにも』脆いのか。ぶちぶちと裂かれた手足、皮一枚だけで残されている。こんな罵倒も慣れた感じだったか……良い子ぶりやがって、このクソ野郎め。電車に飛び乗れなかったオマエが悪い、引かれろ惹かれろ轢かれろ、そしてもう※度死ね。時が経つにつれて自分が視えた。
 嘘だろ。二人だった俺が今では十人に増えていた。死にたてほやほやの俺が俺の臓腑を食い千切っている。成程、つまり『それ』は俺のものなのだ。虚ろに果てた体内へと『別の俺の中身』が積まれていく。ハハ、どうやって吐けというんだ俺、食事をしても胃液がなければ逆流する事もない。そもそも『俺』にとっての『俺』とは希望を棄てる『門』としか赦されないのだ、何を持っている。刃物すら握らず獣じみて、人を模倣する今に気が触れていた――雨雲に隠れた月を独り占めだ、スッポン――ずず。ずずず。じゅるる。一滴も余さず啜らないと酩酊出来ない、薄れる薄れていくようやく解放され……目覚めたら打撲に気付いた、床で大の字。
 頭痛と倦怠感が全てを語っていた。見たくもない鏡の前で鼻面をかいてみる。だらだらと滝のような体液がのたくって、うぅ、ゴミ箱の世話になった。まだ消えないのか。それどころか鮮明に、髄の髄までも焦げている。色濃いインクが全身に映っており傷ついた構造は『二重』に治せない。臭くて酸っぱい部屋の中でぽつん、いっそ寝ない方がいいのではないかと『俺』たちが頷いた――そうだ。前日の女の子を招いているのだった。面倒だけれど連絡だけはしておかなければ。
 動かしている指が欠けていた。否、欠けてはいない悉くが幻覚だ。
 びびー。びびー。目覚ましアラームが大音量、嘲ると謂うならば今すぐに水没してくれ。
 無自覚の君へ。

  • プラナリア精神完了
  • NM名にゃあら
  • 種別SS
  • 納品日2021年07月13日
  • ・築柴 叶雨(p3p009756
    ※ おまけSS『意識外の出来事』付き

おまけSS『意識外の出来事』

 築柴さん、今度遊びに行ってもいいですか。
 ああ、いいんじゃねえの。

 あの時から期待はしていなかったけれど、二つ返事だったから飛び跳ねてみたのよ。でも、あの人ったら急に無理なんて連絡してきてね。ああ、やっぱり私なんて眼中にないんだって思ったわ。それで、次の日、あの人普通に学校にいたのよ。まあ、流石に声を掛ける勇気はなかったわ。なんだか目がギラギラしていたし、正直、ちょっと怖かったのよ。あれじゃまるで狼か何かだと思ったりして。ええ、そんな事はないのよ、あの人どちらかと言えば遊び人気質だから。
 それで帰り道でもあの人を見かけたのよ。なんだかふらふらしていて、もう見てられないっての。近寄ったらどうなったかって? そのまんまぶっ倒れたのよ! 大学引き返して保健センターへ直送よ直送。その後どうなったかって? 知らないわよ用事あったんだから……。
 ――は? 今日も来てんの!? 一回誰かに診てもらった方がいいわよ!
 たとえばお兄さんとかさぁ。

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