PandoraPartyProject

SS詳細

Baddest day of ____

登場人物一覧

ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼

●慣れた足元に穴が空く
 イレギュラーズは、基本的に『一騎当千』たり得ない。
 理由としては単純で、一対多の状況というのは相手を問わずそもそもが不利であり、比率が偏るほどに加速度的に対応が困難になるからだ。
 四方から長射程の武器で狙われ、その中に一本でも毒が混ぜられれば、どうか。堅牢な守りをして、それでも傷が増えればどうか。
 或いは……運命の女神が邪な笑みを湛えたのならもうたまらない。
 以上、熟達のイレギュラーズである『白金のひとつ星』ノースポール(p3p004381)と『Calm Bringer』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)(ルーク)にとっては説明する必要性すら感じない事実であるが――果たしてその日、2人に油断がなかったかと問われれば嘘になる。
 2人が受けた依頼は単純明快、鉄帝と幻想の間の火種に薪をくべようとする小悪党(要は武器商人だ。イレギュラーズではない方の)の討伐だった。ローレットで正規の人員を充てがえばさほども苦戦しないだろうそれは、しかし2人の正義感と功名心を刺激した。ことルークからすれば、斯様な連中はとりわけ許せぬ者であったことは想像に難くない。
 そうして2人は増援を希望することなく武器商人達のアジトへと殴り込みをかけ……数の差で機動力を殺されたノースポールが、ルークを庇う形で殿を務めたことで人質にされてしまったのである。
「畜生……ッ!」
 ルークは絞り出すように吐き出し、アジトから距離をとった森の影から様子を窺っていた。手首のブレスレットに指を這わせ、深い息を吐きながらどう仕掛けるかを思案する。
 結論から述べてしまおう。彼が普通に戦い、当たり前のように攻略を重視するとしたら、無双の働きを務めることは到底、無理であると断言せざるを得ない。
 だが、今の彼に現実的な試算、などというものを突きつけて額面通りに受け入れるだろうか? どだい無理な話である。
「許さねえ……ポーを傷つけるどころか捕まえるなんて、許せるワケがない……」
 半ば狂乱の域に達した赫怒を緑の眼窩に収め、しかし無謀とは縁遠い足取りでアジトへと近付いていく。フロアは地上2地下1。ボスは上階であることは把握済みだ。静かに入り口へ近付いた彼は、素早くナイフを振り抜き、斬撃を飛ばし1人の喉をかき切る。それに気づくや否やのタイミングで更に1人の声帯を切断し、呼吸に窮するその男へナイフを突きつけた。
「ポーは、お前達が攫った娘はどこにいる? 地下か?」
 有無を言わさぬ声音に、男は首がもげそうな勢いで首を縦に振る。
 喉をかき切られた程度で人間の首が落ちることはない。頚椎が支えているのだから当然だ。
 ルークが頚椎を切り離さなければ、であるが。地に転がった首を見れば、希望的観測に過ぎなかったことは容易に分かろうものだ。
 ぴくりとも眉を動かさずに前進するルークは拳銃のセイフティーを外し、姿を見咎めた男を一瞬のうちに射抜く。瞳には一片の容赦もない。――その怒りの対象がどこに向いているのかはわからない。敵にか、不甲斐ない己にか。どちらにせよ、『どちらにも』容赦はしないということだけは、容易に想像しえる話だった。

「ルーク、怒ってるかな。うぅ、ちょっと心配になってきた……」
 その頃、地下に捕らわれていたノースポールはといえば、多少傷と不調が込み入ってはいるものの、戦う分には支障はない。
 ――それ以上に幸運であったのは。武器商人一党が、彼女が何者であるかを見誤っていたことにある。
「あいつ、逃げねえかなあ。心配だなぁ」
「ア? なぁに、問題ねえ。ヤツの尻を見てみな。あの尾羽、『ありゃあ飛行種に違いねえ』。あいつらは籠に押し込んじまえば何も出来ねえよ。飛べもしねえヒヨッコが何をしようってんだ?」
「そうかなぁ、間違ってねえかなあ、俺ぁ本当に心配なんだよ……」
 気弱な男と無駄に自信たっぷりの男、2人のコンビがその場から離れていく。結果的に前者の懸念が当たっていたのは皮肉の極みだが、上階に向かった彼らを待つ末路を考えれば、大差ないのがまた哀れである。
「飛行種に……見えるのかな?」
 無論、まっとうな準種が獣種と飛行種を間違う、などという冗談じみたミスは犯すまい。ノースポールが鳥に由来した獣種でなければ、起き得まい。すべては偶然。彼らが非情であったがゆえに無関心になりすぎた、冗談めかした末路である。
 周囲に見張りの姿が消え、囚われは彼女1人。あまりに雑な状況に苦笑も忘れ、ノースポールは完全獣化を果たし、檻の隙間から脱出する。
「ルークが無茶をするとは思えないけど、いや、するかな……?」
「ポーの為ならこれくらい、無茶の内に入らないよ」
 獣化を解き、いざ前進せんと考えたノースポールの耳朶に、今まさに想っていた相手の声が響く。ほんの僅か、離れていただけなのに。随分と久しいようにすら思えてしまう相手の声。
 思わず膝から崩れそうになるが、彼女は堪えて前を向き、ルークに精一杯の笑みを向けた。
「それを無茶って言うんじゃないの?」
「じゃあ、俺が無茶しないようにポーがオフェンスに回ってくれるかな。フォローはするからさ」
 互いに気のおけぬやりとりを交わした2人は、即座に上階へ向けて走り出した。

●穴は越えればいいだけで
 何度目かの繰り返しになるが、根本的な話として。イレギュラーズは数多ある英雄譚のように、集団をかき分けて一騎当千を名乗ることは叶わない。
 だが、対集団において相手の虚を突き、一気に切り崩すことは造作もないことだ。
 ルークは拳銃を突き出し、驟雨の如くに弾丸を吐き出させてノースポールの進路を切り拓く。2人の暴挙に気づいて集まっていた者達は、不幸にも巻き込まれ次々と動きを止めていく。辛うじて踏みとどまった大男は、ノースポールの拳の衝撃で仰け反り、尻もちをついたところにサッカーボールキックよろしく蹴りを受けて気絶した。
「誰だよ、あの小娘をひっ捕まえようなんて言ったヤツは?!」
「知るか、口より手を動か、ぐぇっ」
「誰が言い出したのかなんてどうでもいいんだよ。ポーを薄汚いところに閉じ込めておいたお前達を許すワケないだろ。分かる?」
 混乱する相手のことなど意にも介さず、ルークは銃弾をばらまき、斬撃で喉をかき切り、暴れまわる。つい先程遅れを取ったとは思えないほど冷徹に、正確に。恐らくは、ノースポールが危地に陥った際の心の乱れがそのまま、相手に遅れを取るきっかけとなったのだろう。
 だが、その『原因』は先程よりも素早く、『多数を倒す』ことから『1人ずつ確実に倒す』ことへとシフトしつつあった。
 数で押し込まれるのなら、確実に目の前の相手を倒して風穴を空けて活路を作る。敵の数とて無限ではなく、体力は無尽蔵ではないのだから、基本通りに戦って勝利を取りこぼすはずがないのだ。
「貴方達の小銭稼ぎで、どれだけの人が不幸になると思ってるのかな? 許せるワケないよ、そんなの」
 ノースポールは階段に身を躍らせ、一気に上階へと身を躍らせる。そのまま物陰へと突っ込んだ彼女の影を、ボウガンが次々と射抜いていく。タイミングを間違えば同じ轍を踏んだだろうに、なお突っ込むとはなんたる胆力か。
 ボウガンの持ち手が次のクォーラルを装填するより早く、ルークの銃弾が次々と射手を貫いていく。武器商人らしく多彩な人員、武器を備えているのは確かだが、相手が悪かったとしか言いようがない。
「これで全員かな。ざまあ無――」
 ルークは片付いた、と言いたげに拳銃を下ろす。だが、次の瞬間に膨れ上がった殺気に表情を固くすると、ノースポール共々階下へと身を躍らせた。
「あんまり俺のヤサで好き勝手しねぇでくれると助かるんだけどな……あーあ、ここも、そいつらも処分かよ。面倒臭ぇ」
 気怠げな声とは裏腹に、2階から下へと流れ落ちる煙……毒ガスの類だろう、それが内包する殺意は考えるまでもなく。顔を粗雑なマスクで覆った男の目は、2人を心から見下しているように思えた。
 そして、ガスに晒された部下たちは次々と命を落としていくさまは、彼らを先程まで容赦なく傷つけていた2人ですら眉を顰めるもの。
「テメェの部下まで巻き込むのかよ?」
「部下? 道具の間違いだろ。お前達もそれを吸っておとなしく死にな」
 ルークの非難する声を意にも介さず、武器商人の男は彼へと躍りかかる。高所からの落下の勢いそのままに蹴りを放ち、受け止めた彼へと右手を突き出す。次の瞬間、手首から仕込矢――袖箭が放たれ、彼の頬を掠めていく。直後に襲いかかる倦怠感に顔を歪めつつ、ルークは間合いに入った男の手首を掴む。
「自分から近付いてくれるなんてお優しいこった。玩具遊びはガキの特権だぜ?」
 悔しがる余裕も、暴言を吐き散らす暇もない。
 男は、次の一手を打つ前に――ルークが撃ち込んだ弾丸で意識を刈り取られ、そのまま醒めぬ夢に迷い込むこととなった。

「毒で死んだ人は気の毒かもだけど……これで、不幸な目に遭う人は大分減ったんだよね」
「ああ、ちょっとヘマ打ったけどな。ごめんな、ポー」
 2人は壊滅した敵のアジトから脱出すると、外の空気を大きく吸いこみ、達成感で胸を満たす。多少残酷な出来事はあったが、それでも救った人々の方がずっと多いだろう。
 両者は安堵でゆるんだ空気のまま、互いを見つめ――。

  • Baddest day of ____完了
  • GM名ふみの
  • 種別SS
  • 納品日2019年08月18日
  • ・ルチアーノ・グレコ(p3p004260
    ・ノースポール(p3p004381

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