PandoraPartyProject

SS詳細

磁石のように

登場人物一覧

トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて

 酔いを覚ますように歩いていると、男の叫び声が聞こえた。『特異運命座標』トキノエ(p3p009181)は駆け、辿り着いた先には両手で顔を押さえ、うんうんと呻く男がいた。男の太い指の間から血が滴り、男は喚きながら真っ赤な両手を伸ばした。
「□□ちゃんを返してくれよ。アンタのせいでこのリアム様が振られたんだからよ」
「あ? なんだそりゃ?」
 女の名は知っていたが、見知らぬ醜悪な男がトキノエの腕を掴んでいる。
「……手を放せよ、チンピラ」
 その直後、トキノエは後頭部を殴られ、ばったりと倒れ込んだ。
「はっ! これは血糊だよ、血糊!」
 男は屈み、にたにたと笑う。


「アンタでも俺の頭脳には勝てねえってことだな! 悔しいだろう、トキノエ?」
「うるせえ……会話になってねえよ……」
 薄暗い夜に男のうっとりとした表情が浮かび、とても気分が悪い。
「あー……誰だか知らねえが……上等じゃねえか……」
 ゆっくりと立ち上がり、男を食い殺さんばかりにねめつける。男は喉を鳴らし、後方に下がった。
「急に用事でも出来たかよ!!」
 トキノエは首をぽきりと鳴らし手袋の端を噛み、その弛みを解消する。頭から大量の血が流れていたがそんなことはどうでもいい。
「間合いだよ、間合い」
 男は青ざめ口から唾を飛ばせば、白色の覆面を被った男達と巨躯の男がトキノエを囲みだす。巨躯の男青い瞳の青年の手には汚れた鉄パイプがあった。
「はっ、どうだか……ほら、さっさとかかってこいよ……俺と喧嘩してえんだろうが!!」
 トキノエは赤く濡れた髪を掻きあげ、飛び込んできた覆面の男達の股間を次々と蹴り上げ──髪を掴み、頭突きを決め、唸った。
「なんだよ、これ……もっと本気を出せよ!!」
 真っ正面の男の顔にぱっと手を広げる。
「!!」
 突っ込んできた男の眼球にトキノエの指がぐにゅりとねじ込まれ、男は絶叫し、尻もちをついた。
「て、てめ……くそが!」
 角材を持った男がトキノエの顔を殴り、息を呑んだ。
「な、なんで避けねぇんだ!?」
「あ? そりゃあ、こうするためじゃねえの!!」
 トキノエは男の太い首を両手で掴み、腹部に膝蹴りをお見舞いし、右に動いた。そのまま、真後ろの男に抱きつく。
「見えねえと思っただろ!! 馬鹿が!!」
 ぎょっとする男の喉仏に食らいつくトキノエ。肉を食いちぎり、口から肉片を吐き出す。男は驚き、びくびくと震え上がった。
「……今度はお前だ」
 トキノエの血走った瞳に青年が映りこんだ。
「おい! 奴ァ手負いだ……早く、トドメを刺しちまえ!」
 リアムと名乗った男が遠くから青年に指示を出せば、青年は鉄パイプを真横に構え、微笑む。
「いいねえ。なぁ、絶対に死ぬなよ? 今の俺は加減を忘れちまった!!」
 トキノエはハッと笑う。歯は血で真っ赤に染まっている。にらみ合い、先に動いたのは青年の方だった。トキノエは舌を鳴らす。俊敏な動きと振り下ろされたパイプがトキノエの脇腹に食い込み、骨を鳴らす。トキノエは反射的に真っ赤な涎を溢した。
「ふふ、折れたんじゃない?」
 青年は言った。
「あ? んなことより、続きだろ!!」
 トキノエは飛び退き、片足で地を踏み締め、左腕を振るう。青年は呻いた。拳が青年の顎を打ち、トキノエは青年の股間に瞬時に足を滑り込ませた。だが、その足は青年に捕まれ、回転したパイプがトキノエの鼻先を砕いた。トキノエは衝撃に顔をしかめ、ゆらりと揺れる。
「あぁー……やりやがったな!!」
 鼻血を流しながら赤い唾を吐く。苛立ちがすべての痛みを殺す。ぼりぼりと濡れた頭を掻き、トキノエは手を見つめる。手袋は湿り、不快な臭いを発する。
「あっれー? サンタがいるね! プレゼントは何処かな?」
 青年は笑い、男はトキノエの気迫に喉を鳴らす。
「あ? サンタはお前だろうが!!」
 トキノエは唸り、青年に飛びかかった。右腕を伸ばし、避けようとした青年のこめかみを素早く強打する。
「なっ!? は、え?」
 青年は目を丸くし身体を左右に揺らしながら、立ち向かってきたトキノエを見つめることしか出来ない。パイプが手から滑り落ちていた。
「じゃあな、歯ぁ食いしばれや!!」
 トキノエは鬼のような形相で頭突きを青年の顔に放った。瞬く間に青年の歯が飛び散り、唾液に赤が混じる。トキノエは鼻を鳴らす。青年は倒れ、白目を剥いていた。
「待てよ……また、用事か? おい、用事かって聞いてんだ!! 無視すんじゃねえ!!」
 トキノエはこっそり逃げようとした男の背を蹴り飛ばし、悲鳴を上げた男の顔に何度も拳を振り下ろした。

 男達が地面に転がっている。トキノエは我に返り、舌を鳴らす。皆、酷い顔をしていた。
「うっ、またやっちまった……我慢すれば良かったのか? いやいや……今のは正当防衛だよな……あー、くそ……良い気分で飲んだのによ……」
 息を吐き、少しだけふらつきながらトキノエは男達から遠ざかっていく。

  • 磁石のように完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別SS
  • 納品日2021年06月24日
  • ・トキノエ(p3p009181
    ※ おまけSS『懐かれた?』付き

おまけSS『懐かれた?』

「よぉ、トキノエ。誤解も解けたしリアム様と一緒に飲みに行こう! な、な?」
「いや、行かねえし。おいおい、ちゃんと聞いてるのか? 俺に近づくなよ、チンピラ」
「まぁまぁ、良いだろ! 一杯! 一杯だけ! というか、このリアム様が奢ってやるぞ、トキノエ! これでどうだ?」
「驕り……? んー、まぁ、驕りなら……って、違う! お前と飲んでも楽しくねえってことだよ!」

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