PandoraPartyProject

SS詳細

後で報告しておきます

登場人物一覧

タイム(p3p007854)
女の子は強いから
烏谷 トカ(p3p008868)
夜霧
暁 無黒(p3p009772)
No.696


 眠らない街、という表現があるが、この場所はまさしくそれであった。
 光り輝くネオンサイン。サーチライトが縦横無尽にあたりを照らし、夜の星々を拝むことなどまるで叶わない。
 しかしながら、道を行き交う人の姿はなく、まるで生命だけがすっぽりと抜け落ちたかのように、もしくは何かを待ち受けているかのように、静まり返っている。
 そびえ立つ摩天楼はきらびやかに見えているが、華やかさよりも、要塞のような厳格さが目に映えた。
 風が吹いて、音が止まる。一瞬の沈黙は妙にやかましく、次の瞬間、ビルタワーの最上階で、窓ガラスが内側から弾け飛んだ。
 静かだった夜景に、無遠慮な爆音が響き渡り、内側から飛び出す人影がみっつ。
「わわわわわわっ、落ちてる! 落ちてるうううううううううううううう!!」
 自由落下。地上から見上げれば首を炒めそうな程の高層ビル。その最上階から屋外に放り出されたのだ。たとえどれほどものを知らなかろうと、誰もが察することができる。
 これは死ぬ。
「おー、迫力あるっすねえ」
「言ってる場合じゃないって! これゲームオーバー!? 怖い! こんな怖いデッド表現やだあああ!」
 ニュートンは誰にでも平等だ。三人は違わぬ速度でどんどん地面に近づいていく。舗装された平らな地面が、死神の鎌のように今か今かと待ち構えている。
 だが、三人の内、冷静なのはひとりではないようで。
「落ち着こうタイムさん。これはムービーシーンだ。自動進行のイベントだから、きっと無事に着地できるはずだよ」
「え、ムービーシーン……?」
 そう、ムービーシーン。この高層ビルが立ち並ぶ眠らない街は、ゲームの世界である。
 曰く、ヴァーチャルリアリティ。視覚、聴覚、嗅覚。それらを別物にすり替えられれば、ヒトはそれを受け入れ、現実であるのだと容易く錯覚する。ここで感じる空気も、雰囲気も、迫力も、今差し迫っている死の実感でさえ、虚構に過ぎない。
 だが、こうまで脳が勘違いを起こすと、幻想だとわかっていても割り切ることは難しい。ゲームなのだと自分に言い聞かせても、落下していく感覚は絶死のアラートをがなり立てて来るのだ。
 だが、と。タイムを諭した男性―――トカは言う。これはゲーム内でも自身を操作できる状況ではなく、ストーリーを見せるためのムービーシーンであるのだと。プレイアブルな環境に至るまで自動進行され、進むだけの、あるいは戦うだけの環境が整ってから、操作が可能になるのだろうと。
「その証拠に、『STAGE START』が出てないっす。ここまでのステージだと、操作可能になる時は必ず出てたっすよ」
「え、そうでしたっけ? 無黒さんすごい、よく見てるのね!」
「本当だね。僕もそこまでは気づかなかっ―――」
 また爆音。
 見上げれば、今飛び出したばかりのビルから複数のロボットが飛び出し、こちらを追ってくるところだった。
 どれもこれも銃器や凶悪な刃物を装備しており、ジェットを吹かして落下よりも早く近づいてくる。
「怖っ。あ、でもムービーシーンだもんね。まだ戦わないし、安心あんし……え?」
 その時、タイムの視界いっぱいに表示される『FINAL STAGE START』の表記。
 意識をすれば腕を動かすことができるようになっている。そう、今まさに最後のステージが開始されたのだ。
 空中で。
「は、は、始まったああああああ! 始まっちゃったあああああああ! 撃ってきてる! 撃ってきてる! え、武器、武器どこ!?」
「落ち着こうタイムさん」
「この状況で!? ゲーム始まっちゃったのよ!?」
「まだ武器が出せないってことは、他にすることが出てくるはずっす。今は冷静に、何をできるようになるか見極めるとこっすよ」
「な、なるほど。なんだー、何ができるんだー。わわっ、迫ってきた! 当たる、なんかぎゅいんぎゅいんしてるノコギリが当たっちゃう!!」
 エンジン音を響かせて、チェーンソウを振りかざしたロボットが近づいてくる。白兵の距離。もうこれは切り刻まれるのではないかと想われた頃、やけに相手の、いや、景色全体の動きが遅くなった。
「これは……そうか、QTEだ。タイムさん、画面の指示をよく見るんだ」
「え、指示? えっと、えっと、右アクションボタン!!」
 画面上にいつの間にか表示された、アクションボタンを表すアイコンと、時間制限を示すように色が変わっていくサークル。それを発見したタイムが慌ててボタンを押すと、彼女の右手が勝手に動き、迫りくるチェーンソウの横腹に手のひらを添えることで体勢を変更。そのまま空中で回避を行うと、次のボタン支持が現れた。
「えっと、左アクションボタン!」
 今度は左足が勝手に動く。回避した姿勢を利用して、今襲いかかってきたロボットに、タイムが蹴りを決めたのだ。
 このような空中でいかなる膂力が為せる技なのか、ロボットは重い鎚にでも殴られたかのような勢いで吹っ飛ぶと、また窓ガラスを割ってビルの奥へと消えていく。
 視界を巡らせれば、仲間ふたりも同じように、敵ロボットを撃退したところだった。
 次の指示を実行すると、タイムは敵ロボットの内、ヘリコプターのようにローターが回転している個体へと組み付いて、その自由を奪う。
 武器を破壊すると、仲間たちへと手を伸ばし、繋ぐことで、自由落下の速度をヘリロボットへと預けることに成功。目に見えて、落ちるスピードは減速していた。
「って言っても、止まっちゃくれそうにないっすね」
「落ちる落ちる落ちる、ぶつかるううううううううううう!!」
 急に重量を加算されたロボットが暴れ、それにしがみつく三人。ふらふらとした動きでほかロボットも巻き込み、そのまま機械とプレイヤーの集団が地面に激突。もうもうと土埃が舞い上がった。
 埃が晴れると、そこには壊れたロボットの残骸と、立ち上がるプレイキャラクター達。
 どうやら上手く減速することに成功し、なんとか着地できた。という演出なのだろう。
「死んだかと思った! 絶対死んだかと思った! え、あれでHP減ってないの!?」
「ゲーム演出っすねえ。よくあることっす。演出じゃあ、刺されても毒を飲んでも死なないっすよ」
「やりすぎると現実味がなくなると思うけど、まあ、それも合わせてゲームなのかな」
「そうだ、その程度でくたばってもらっては困る」
「え、無黒さんなにか言った?」
「へ? 何も言ってないっすよ」
「貴様らにはもっと、苦しんでもらわねばな」
 自分たちのものとは違う、異質のセリフ。振り向けば、巨大なパワードスーツより顔を出し、無数のロボット軍団を従える男がいた。


 その男は、ゲーム説明で大佐とだけ呼ばれていた。
 ロボットの軍団を指揮し、街を乗っ取ろうとした悪い組織の重鎮で、このゲームのいわゆる、ラスボスというやつだ。
 プレイヤーたちは偶然街にいあわせただけの一般人だったが、正義感から大佐とロボット軍団に立ち向かう、というのが本作の大まかなストーリーである。
「でも、なんで一般人がこんな武器を使って戦えるの?」
「元特殊部隊だからっすね。設定書に書いてあったっす」
「元特殊部隊なのか。じゃあ仕方ないね」
「え、納得していいの?」
 仕方ないのである。悪い組織を運営するひとは、一般人に紛れている元特殊部隊には気をつけよう。映画だと結構な頻度で出てくるので、現実感としてポピュラーであるに違いない。
「それにしても、無黒さんは設定なんてよく知っているね。もしかして、相当やりこんでいるのかい?」
「え、あー……まあ、そんなとこっすね。あ、ほら、そろそろっすよ」
 無黒が指をさすと、ロード画面が終了し、大佐の口上が始まった。
「貴様らごときに我が100億の軍隊が敗れるとは、何かの間違いであったに違いない」
「……そんな倒したっけ?」
「たくさん、という意味で大きな数字を使う国はあると聴くし、それじゃないかな。それよりも、さっきから気になっていることが―――」
「だがそれもここまでだ。残る全ての大隊で、貴様らを葬ってくれる!!」
 大佐の声に呼応して、ロボット軍団のカメラアイが怪しく光る。その銃口が、刃が、重量が彼らの方を向いたとき、トカは思わずタイムの首根っこを掴んでその場から横に跳んでいた。
「ひゃああああああああっ」
「っ……無黒さんは!?」
 一瞬の後、それまで立っていた場に銃弾が突き刺さり、あっという間にアスファルトに小さなクレーターがいくつも刻まれた。
 口上に聞き入っていると気付き難いが、一瞬だけ視界に『CHAPTER START』と表示されたのを、トカは見逃さなかったのである。
「だーいじょうぶ。生きてるっすよ」
 彼もまた、トカと同じように反応できていたらしい。建物の壁を盾にして、弾幕から身を隠したまま、返事が聞こえてきた。姿は見えないが、どうやら死亡判定は免れているらしい。
「いたたた。よーし、敵はあっちね、まーっかせといて!」
 銃雨の僅かな間隙。その瞬間を反撃とばかりに身を乗り出し、タイムが引き金を絞る。
「えいや!」
 ヒット確認。ダメージ判定の色は黒。黒い色は仲間に当ててしまった色。フレンドリーファイアである。
「いってーー! 痛いっすよタイムさん! 敵はあっちっすよ!!」
「……あら? おかしいわね」
「タイムさん、すぐに身を潜めて」
「あ、はいっ。わわわ、撃たれる撃たれ……ない?」
 慌てて身を翻したタイムだったが、通常、そのような隙だらけでは蜂の巣にされていてもおかしくはない。どうにも、最終ステージに入ってからゲーム難易度が跳ね上がったことをトカは感じでいた。
 しかしその実、タイムが容易に逃げられたように、先程までの銃雨はまるで襲ってこない。ロボットが動く音も聞こえず、ただ沈黙が場を支配している。
「え、なんっすか? 何が起きてるっすか?」
「何だ……?」
 トカが沈黙する。この状況が、制作陣の意図的なものであるとは考えにくい。ならば、何らかのイレギュラーが生じたと考えるのが正しいだろう。何をした。何が原因で、ロボットは止まっている。先程から感じている違和感はなんだ。
 この数分が、トカの脳で瞬く間に何度も繰り返され、そしてひとつ、奇妙な糸を掴んだ気がした。
「無黒さん! 今のを敵に向けてもう一回はっきり!」
「え? え? えーっと、何が起きてるっすか?」
「違う、その前だ!」
「えーーーっと、敵はあっちっすよ?」
 ロボットが反応する。何かを確かめるように。しっかりと、聞き逃すまいとするかのように。
「もう一度、はっきり! 大佐を指差しながら!!」
「敵はあっちっすよ!!」
「…………声紋、認識、ターゲット、変更完了」
「さあまだまだ地獄のショーははじまぐああああああああああ!」
 無黒のセリフに反応し、ロボット軍団がターゲットをラスボスである大佐に変更。ついでに大佐のパワードスーツも動きを停止し、ロボットの群れにタコ殴りにされるだけのオブジェと化した。
「なかなかやるな! しかし我がロボット軍団はこの程度ではぐわああああああああああ!!」
「うわ、シュール……」
「やられセリフ、限られてるっすからね……」
「なんで音声認識で個々にAIなんか持たせたんだ……いやそれよりも、無黒さん、制作陣だったのか」
「え、なんでばれたっすか!?」
「どゆこと? え、え、どゆこと?」
 トカの言葉に驚く無黒と、事態が理解できずにまだクエスチョンマークを頭に浮かべているタイム。
 つまるところ、無黒の声にロボットが反応したのは他でもなく、ラスボスと声が同じだったからである。無論、偶然似通ったわけではなく、ゲームキャラに声を当てたボイスアクターが、無黒であったということだ。
「これは、俺自身がチートキャラって事っすかね……」
「まさかこんな手で勝つなんてね」
「おのれ、おのれおのれ、貴様らごときに我がロボット軍団が敗れるなどぐわああああああああああああ!!」
「あ、見てみて!」
 大佐がロボット軍団にやられて沈み、視界は空へ。大きな花火が打ち上がり、『STAGE CLEAR』の表記がでかでかと映し出されるところであった。

  • 後で報告しておきます完了
  • GM名yakigote
  • 種別SS
  • 納品日2021年06月21日
  • ・タイム(p3p007854
    ・烏谷 トカ(p3p008868
    ・暁 無黒(p3p009772

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