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SS詳細

明日へ続く物語

登場人物一覧

皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方

●永い後日談へ続く前日譚プリクエル
 良く言えば活発で明るく朗らかライブリー、悪く言えば無鉄砲の向こう見ずトラブルメーカー。皿倉 咲良 (p3p009816)はそんな存在だった。いや、「だった」という表現は相応しくない。だってこの混沌世界フーリッシュケイオスに召喚された今も在り方は変わらないのだから。

 ――これは元々の世界での、日常のほんのひと匙……。

●過去α
 正義感は人一倍強いが、それで全てが解決するわけではない。例えば今みたいに。
「あはは……いやぁ、あの子達もやるねぇ!」
『ごめんなさい、私の所為で。ごめんなさい、ごめんなさい……』
「どうして〇〇ちゃんが謝るの? 悪いのはあっちだよ」
『でも……私なんか助けなきゃ、皿倉さんまでこんな事にはならなかったのに』
「困ってる人を見過ごすなんて、女が廃る!」
 えへん。と胸を張る咲良だったが、その姿は埃とゴミまみれ。幸い濡れものはなかったが、お世辞にも綺麗な状態とは言えない。目の前で申し訳なさそうにするクラスメイトの少女も同じで、それがなんだか面白くて笑ってしまいそう。二人で付着した埃だのパンの袋だのを叩き落とした。
 〇〇と咲良は唯のクラスメイトだ。特別仲が良い訳ではないが、挨拶も日常会話もするし、なにかと断れない性格の〇〇が押し付けられた用事を助けたり。数いる友達の一人、と形容するのが最も適切か。
「にしても、イジメだよこれは。ちゃんと先生に言おう」
『――いいよ、どうせ私が悪いから……』
「どうして?」
『根暗で、陰気で、弱い私は、こういう立場がお似合いだって……』
 ぼそぼそと話し出す〇〇。彼女は陰湿なイジメを受けていた。直接的な暴力ではなく、無視や陰口といった精神的な攻撃や、教科書を隠されたり体操着にちょっぴり穴を開けられたり、雑務を押し付けられたり。それをいつも〇〇は静かに受け止めかくしていた。そんな〇〇を咲良は「少し忘れん坊?」「真面目なんだな」と思っていたが……事実は違った。

 切欠はほんの偶然である。教師からの言いつけで、校舎裏のゴミ捨て場の鍵を閉めてこいとの事で向かった。本来教師の役目だが、これはいつもの『善行』で遅刻した咲良への小さな小さなお仕置きという名のご褒美。終わればお疲れ様のお茶を一杯奢ってもらえる。
 今朝、登校途中に道端で異臭排泄物の匂いを放ちながら「あかぁさーん、おかぁさーん」と泣く老婆を見つけた咲良。道行く人は奇異の目で見ながら誰も手を出さず見て見ぬふり。明らかに可笑しいと感じた咲良は、まず学校に電話して、学校が地域の老人ホームと警察に連絡し、救援が来るまでずっと老婆の話し相手になってその場に引き留めた。
「大丈夫、もうすぐ迎えが来るからね」
『おかあさんがいい!』
「そうだね、お母さんが来てくれるよ!」
『おとうとがね、ごはんをこぼしてね……』
「うんうん。あっ、車が来た! お母さんかも!」
 駆け付けたのは老人ホームの名前が入った車とパトカー。介護員と警察が老婆と咲良をそれぞれ保護する。警察は咲良に感謝を述べて、学校へ送ってくれた。完全に遅刻だが誰も咎めたりはしない。咲良のお陰で色んな人が助かったのだから。
『皿倉ぁ、放課後教務室!』
「うっ、はーい」
 担任から困った笑みを浮かべられつつも、一応遅刻は遅刻なのでその処理だろう。こういう事は何度もあるので、今更なんてことなく了承する。
『咲良ってば今日は何したの?』
『この前は捨て猫を交番に届けたんだっけ』
『放っておけばいいのに、咲良はイイ人すぎ~!』
「いや~、考えるより先に気付いたら行動してて。世の為人の為ってコトで!」
『仏の生まれ変わりか?』
 クラスメイト達に囲まれて笑う咲良を、〇〇がじっと隅から見ていた。

 閑話休題。時は放課後、言われた通り教務室に行けば、教師からゴミ捨て場の鍵を閉めてくるように告げられる。今回の遅刻の罰はそれだけ。今日は部活が休みの日だし、掃除が終われば帰るだけなので楽な任務だ。
 さっさと校舎裏に向かうと、声が聞こえる。クラスメイトの××と△△の声だが、彼女らは今日は掃除当番ではないし、こんなところに何の用だろうとソっと壁に隠れて覗き見る。そして見えたのは――笑い声と共にゴミ袋を解き、××は〇〇に向かってぶちまけたシーン!
 〇〇は逃げるでもなく、ゴミを浴びて蹲った。その上から更にペットボトルや空き缶を降り注ぐ。残った汁が制服にじんわりと染みを作った。咲良は咄嗟に体が動きそうになるのを抑える。今朝の会話を思い出した……考えるより先に行動、それも良いけれど……。一息ついてスマホを向ける。一部始終をムービーと写真に収めた。楽しそうな××と△△、縮こまる〇〇がバッチリ映っている。証拠はとった。あとは――!
「ちょっと! 何してるの!?」
『うわっ! えっ、なぁんだ咲良じゃ~ん! びっくりしたぁ~!』
『今〇〇がゴミ散らばせたの一緒に拾ってるトコだったの』
「ふぅ~ん、そうなんだ?」
 言いながら近付き、スマホで先程のムービー画面を××たちに向ける。彼女らは顔面蒼白になり手にしていたゴミ袋を思いっきり咲良に投げつけて逃げていった。袋の中身が容赦なく咲良に降り注いだが、一応この場を治める事には成功した。
『皿倉さん……ごめんなさい……』
 冒頭に戻る。ゴミを払ってから、散らばるそれらを放ってハンカチで髪についた汁なんかを拭った〇〇は校舎を背に座り込む。咲良も隣に座った。しばしの無言、話を切り出したのは咲良から。
「……いつから?」
『……わかんない。気付いたら、こんな風になってた。今日みたいなのは、初めてだったけど』
「どうして先生に言わないの?」
『仕返しでもっと酷い目にあいたくない……』
 〇〇はへにゃっとした笑みを咲良に向けた。
『皿倉さんは強いね。勇気があって、親切で、すごくカッコイイ』
「それほどでも。カッコイイ、かぁ」
『悪を倒す正義の味方みたい』
 ぽりぽりと照れ隠しに頬を掻く咲良に、〇〇は今度は傾き出した太陽に顔を向けた。その表情は酷く儚くて、咲良は無意識のうちに『守らなければ』と心が震える。
「正義の味方か……アタシ、将来警察官になりたいんだ」
『ふふ、すごく似合うね』
「本当? じゃあ、まずは悪事を摘発しなきゃだ!」
 ぐーっと伸びて勢いよく立ちあがる咲良、座ったままの〇〇に手を伸ばす。夕焼けの太陽を背負った咲良はまるで後光が差しているみたいで……恐る恐る手を掴んだ〇〇。
「先生のところに行こう? どの道新しいゴミ袋も取りに行かないと」
『でも……やっぱり怖い……』
「大丈夫、アタシがついてる!」
 断言する咲良に〇〇は安心したように頷き、共に教務室に向かった。これまでの事、今あった事、証拠動画……教師はまず〇〇に今までイジメがあった事に気付けなかったことを謝り、咲良にはよくやったと褒めた。校舎裏のゴミは教師たちが手分けして片すそうだ。
『皿倉さん、本当にありがとう』
「いいよ! こっちには証拠もあるしね、あっちだってもう下手に動けないはず」
『……うん。また明日……咲良さん』
 苗字から名前に呼び方を変え、〇〇は帰って行った。猫背だった彼女の後姿は、今はシャンとしている。これで良かったんだなと家に帰った咲良に朗報。今朝の老婆の保護について、警察から感謝状が贈られるとのこと。ますます警察官への憧れは増していくのだった――。

  • 明日へ続く物語完了
  • NM名まなづる牡丹
  • 種別SS
  • 納品日2021年06月20日
  • ・皿倉 咲良(p3p009816
    ※ おまけSS『〇〇の日記』付き

おまけSS『〇〇の日記』

●日記帳
 ――月――日
 今日は運動靴が片方無かった。先生には忘れたと言った。またか、とため息を吐かれた。それはこっちの台詞なんだけどな。帰る時には下駄箱に戻っていた。こういうところが小賢しい。

 ――月――日
 トイレの外から声が聞こえた。ブス、キモい、根暗、ウザい……みんな私の悪口だ。私がここにいることを知っていて、あの子たちは喋っている。早く死んだら良いのに、なんて、私もそう思う。

 ――月――日
 また掃除当番をおしつけられた。よくそんな毎週、ピンポイントでがあるね。学校の掃除当番も、立派な用事だと思うけど。

 ――月――日
 体操着に穴があいていた。丁度胸のところに二か所。暑かったけど無理矢理上着で乗り切った。

 ――月――日
 どうして。どうして私ばかり。なにがいけないの? 学校、嫌だな。でも、休んでる間にまた何か悪戯されるかもしれない。だから絶対休めない。

 ・
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 ――月――日
 今日はとっても良い日だった! 皿倉さんが私を助けてくれた!! あの皿倉さんが、私なんかを!
 釣り合わないと思っていた。良い人ぶってるけど皿倉さんだって私を助けてはくれないじゃないかと思ってた。
 でも違った。皿倉さんは本当に知らないだけだった。そして知ってすぐ、私を助けてくれた!
 かっこよくて、強くて、勇気があって……誰にでも優しい。本当にすごい。私もあのくらい強くなりたい。
 将来は警察官になりたいんだって。絶対なれると思う。勉強は……私で役に立つかな? もし役に立てるなら、なりたいな。
 きっと明日からの学校は、違う風景だと思う。それを楽しみにして、今日は寝ることにする。
 ありがとう、皿倉さん。

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