SS詳細
あまいゆびさき
登場人物一覧
「薫さん、ようこそ。待っていたわ」
猛禽類のような眼差しを向け、フィーネ・ルカーノは薫・アイラ (p3p008443)を見つめている。招かれた屋敷は、ひっそりとし華やかなライムの香りが漂う。それはフィーネにとてもよく似合っている。
「ごきげんよう、フィーネ様。是非とも仲を深めたく、遊びに参りましたわ」
薫がにっこりと微笑めば、彼女は気まぐれに手を伸ばし、薫の頬に口づける。触れた唇は温かく、毒のようだった。
「フィーネ様?」
薫が僅かに驚けば、フィーネは「上がってちょうだい。お腹が減ったでしょう?」
ただ、意地悪く微笑む。
手土産は日本酒だった。ラベルには、ブルーのくらげが印刷されている。そう、夏酒だ。
「ありがとう、薫さん」
忽ち、シンプルなワイングラスに注がれ、満たされていく。清く透き通った音が耳を撫でた。目の前には冷えたすだちうどんとピクルス、牛すじ煮込みが用意されていた。聞けば、フィーネが作ったのだと言う。暑い今日にぴったりな料理だと思った。
「フィーネ様、日本酒がお好きでございましょう?」
「あら、それは何故?」
金色の瞳に仄暗い好奇心を滲ませ、フィーネは問うた。テーブルに瓶を置き、癖のように彼女は自らの指先を交差し、じっと薫を眺めた。爪は短く切りそろえられていた。
「簡単な推理ですわ。一番、嬉しそうなお顔でしたから」
「ふふ、バレた? 最近、飲むようになってね」
彼女は楽しそうに笑った、誰よりも幸福な女のように。
「そうなのですね。フィーネ様、お可愛らしい人で御座いましょう」
薫は目を細め、フィーネの足に自らの足を絡ませる。
「何か御用?」
交差するなまめかしい視線。
「フィーネ様。わたくし、お嬢様育ちで世間知らずかもしれませんが……子供ではございませんことよ」
「そう、それは良いことね」
フィーネはワイングラスに触れ、「でも、今は乾杯しましょ?」
小首を傾げ、笑った。そう、夜は長いのだから。
沢山のことを話したと思う。ただ、記憶は朧気だった。酔い、
「幸せね」
彼女はそう言っていつまでも笑っていた。
「はい、お料理もお酒も素晴らしいものですわ」
「ありがとう……」
とても奇麗な顔で薫はただ、見ていたいと思った。それは額縁の絵を見るような心持だった。フィーネの匂いがする。
「薫さん」
ハッとする。肩に触れられ、微笑もうと顔を上げれば、当然のように唇が塞がれる。薫は目を丸くし、ゆっくりと見つめ合う。フィーネは黙ったままの薫を見つめ、「貴女が好きよ。だから、寝室に行きたいの」
それだけを伝え、フィーネは薫の手首を強く掴んだ。その手は可笑しいくらい汗ばんでいた。
押し倒され、抱き合い、何度も唇を重ねる。淡いランプの光が互いのシルエットをほんのりと照らしている。
「んっ……」
フィーネの荒い息遣いが聞こえる度、薫は無垢に乱れていく。ダブルベッドでフィーネだけが服を着ていた。薫が身に着けていた衣類は全部、床に散らばっている。
「凄いわ……薫さんの胸……とても大きくていいわ……ねぇ、好きよ……愛してる……」
フィーネは執拗に乳房に顔を埋め、ぬるぬると舌を動かし続けている。薫の身体は自らの汗とフィーネの唾液の跡があった。ベッドが小刻みに揺れ、掴んだシーツが掌の汗を吸い上げていく。毛布も掛布団も枕も床に転がっている。
「フィーネ様……」
欲望のまま、真っ当に愛し合う。それはとても自然なことだった。
「ああ、可愛い……とても可愛いわ。それに至極、奇麗……」
耳元で湿ったフィーネの音がし、薫はああと呻いた。声だけでどうにかなってしまいそうだった。熱い舌が伸び、薫の耳のふちをなぞっていく。ふと、唇が耳を強く吸い、濡れた手が薫の乳房を弧を描くように撫で、時折、荒波のように揺らされる。薫は呼吸すら忘れ、大きな声を上げる。フィーネは熱心だった。
「んっ、あっ……んふっ♡」
快楽の虜。おっとりとしたお嬢様は、頬を染め、涙目でフィーネを見上げている。
「可愛い……ねぇ、いいのね? とてもいいのでしょう? 分かるわ」
掠れた声に薫の身体が震え上がり、フィーネの背に爪を立てていく。返事すら出来ずにこくこくと薫は頷く。必死だった。意識ははっきりしているはずなのに。
「とっても素直ね」
「あっ、あっ♡」
髪を撫でられただけで薫はその身を激しく震わせ息を乱していく。触れられただけで感じてしまう。シーツは雨のように濡れ、女の匂いが充満する。苦しいのに、もっと深いところに触れて欲しいと願った。フィーネは薫の唇を吸い、薫の額に口づけ、強張ったその身をじっと眺めている。薫は無防備な姿でぼんやりとフィーネを見つめ、しもべの様に動かなかった。汗が零れ、止まらなかった。
「もう、いいかしら。充分よね」
フィーネは喉を鳴らした。
「あっ……そこは駄目で……やっ、あんっ♡♡」
フィーネの手が確かめるように薫の太ももに伸び、その奥に触れ、人差し指と中指でゆっくりとすくいあげた。途端にシーツをきゅっと握り締め、薫はひくひくと身体を痙攣させる。
「あっあっ、んぐぅ♡♡」
「良い声よ……興奮するわ」
フィーネはハッと笑い、指先を薫の眼前で口に咥えてみせた。
「フィ、フィーネ様……」
羞恥に目を見開き、顔をそむける薫。
「ああ……そんな……駄目ですわ……はしたない……」
薫はぶるぶると震え、大きくかぶりを振った。
「いいじゃない。ねぇ、もっと見せて?」
むせ返るような甘い声。ぐいとフィーネは薫の顎先を掴み、鼻先をちゅっと吸い上げた。
「んっ、はっ♡」
じわじわと何かが押し寄せ、身体が瞬く間に反応してしまう。
「ほら、とっても可愛い顔よ、見たくなるじゃない?」
「それは……フィーネ様だって……」
「嬉しいわねぇ」
フィーネは太ももに口づけ、今度は足の指を口に含んだ。
「あっ」
べちゃべちゃと犬が食べ終えた皿を舐めるようにフィーネは舐め、反応を楽しんでいる。唾液に濡れた指先にフィーネの熱い息が触れ、薫は激しく身を動かす。
「あんっ♡ フィーネ様……」
「うんうん、どうしたの?」
「あっ、あっ♡」
髪は乱れ、切なさが心を支配する。
「ああ、熱い……」
フィーネは服を脱ぎすて、薫に覆いかぶさった。柔らかな身体が熱く重なり合う。感じる肉の重み。甘酸っぱい匂いがする。
「ふふ、幸せねぇ……ねぇ、薫さん。あとはどうして欲しい?」
フィーネはすべての動きを止めた。
「お、お願い致しますわ……早く、終わらせなさい……♡」
薫は唇から乞うように涎を零し、フィーネにしがみ付く。
「ええ、仰せのままに」
フィーネは笑う。薫は紛れもなくお嬢様だ。
「わたくし、もう、動けないで御座いますわ……」
仰向けで脱力する薫。喉は枯れ、全身が強張っている。熱くなった身体は余韻に震え上がっている。薫は目を細めた。カーテンの隙間から光が差し込んでいる。朝なのだろう。ただ、瞼は重い。ベッドが軋み、フィーネが髪を優しく撫でている。
「疲れたでしょう? そのまま、眠りなさい」
母のような声音に目を閉じれば──ぱちりと首に
おまけSS『完全に趣味』
「薫さん、ちょっといい?」
「はい。フィーネ様? こちらは黒縁眼鏡と……セーラー服で御座いますか?」
「そうよ、絶対に合うと思って」
「フィーネ様が言うのでしたら間違いはないですわ。着てみましょう」
「ええ、ありがとう。あっ、いい……最高にいいわね……待って。このまま、猫耳も付けてくれない?」