PandoraPartyProject

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愛を形にするのは難しい

登場人物一覧

ハインツ=S=ヴォルコット(p3p002577)
月刊ヌー大陸編集長
澄恋(p3p009412)
花嫁キャノン


「それじゃ、ご用件を伺おうかい」
 その女性がハインツのもとを訪ねてきたのは、昼過ぎのことだった。突然の来訪、ではない。事前にきっちりと、連絡を受けている。依頼であるのだと、連絡を受けている。
 依頼。ハインツの専門はオカルトだ。通常では防犯機関にも門前払いされそうな奇怪な事件を担当し、それを解決する。中には眉唾にとどまり、冷やかしも勘違いも多い世界だが、中には一握り、確かに本物があることも、ハインツは認識していた。
 目の前の女性、澄恋と言ったか。彼女の事情はまるでわかっていない。本物であるのか、そこらの眉唾で終わるのかもまだ精査できていない。だが彼女の真剣さを見るに、少なくとも、冷やかしであるということはなさそうだ。
 少しの沈黙。それに耐えきれないわけではなかったが、なんとはなし、手持ち無沙汰になって、出したばかりの珈琲を啜った。
 悪くはない。淹れたのはハインツではなく、最近仕事でよくつるむ男だ。想い人のそれからすると天地ほどの差があるが、自分が淹れるそれよりも、遥かに良好な味を出している。
 舌を流れるその苦味を楽しんでいると、澄恋が口を開いた。
「その、ハインツ様に調べていただきたいことがありまして」
 来た。
 彼に舞い込む事件の殆どは調査から始まる。奇妙な現象、読めない書物、人を呪う何か。大体はそのようなものだ。彼女もやはり例外ではなかった。一体何が出てくるのか。少しの期待と、多量の警戒心を持って、ハインツは応答する。
「へえ、何を調べればいいんだい?」
「はい。『かれぴ』なるものの錬成方法を調べていただきたいのです」
 かれぴ。
 ハインツは深く考え込んだ。知らない単語だったからである。彼とて、この世界のすべてを知っているわけではない。メジャーな連中はだいたい抑えているが、これはその範疇外だ。それはつまり、実在する場合、対処手段を調べるにも難儀するということだ。
 珈琲を淹れた男が部屋の隅でむせこんでいるが、今はそちらにかまけている場合ではない。ことによっては、ハインツとて慎重にならざるを得ないのである。
「『カレピ』か。俺もこの世界は長いが、聞いたことのない単語だな。どういうものなんだ?」
「はい、どうやら形状はいわゆる人型に酷似しているようですが、所持者によって異なる場合もあるそうです」
「なるほど、既に錬成に成功している者もいると。他には?」
「ええ、所持者によれば、『かれぴ』は所持者に甘い言葉を囁き、接触しているだけで多幸感を味わうことができるとのことです」
「幻覚、誘惑能力があるのか。厄介な相手だな。それで、その所持者は他になにか言ってなかったのか?」
「そうですね……あ、この間、言いづらそうに、『かれぴ』に食べられてしまったと」
「食人するのか! 危険極まりないな!!」
「違ぇよ!!」
 横からツッコミが入った。今回の一件とは関係がないため、名前が出てくることはないが、先程むせていた男だ。彼はどうやら『カレピ』なる錬金生物に詳しいらしい。
 予想外だ。このようなところに専門家がいるとは。


「なんだ、つまり恋人を作りたいのか」
 うかつだったと、澄恋は火照る顔を両手で抑えていた。
 澄恋が聞いた話によれば、目前のハインツという人物は非常に一途であるのだという。想い人を大事にするあまり、そのお相手が生命の危機に瀕したときには、禁忌の手法にすら手を染めようとしたのだとか。
 今もなお、その相手を想っており、人前ですらその名前を口にすることもあると聞く。
 そのような人物であるなら、婚活のアドバイスをなにか頂けるのであはないかと、それが澄恋が訪ねてきた理由であるのだった。
 妙な勘違いをさせてしまったに違いない。『かれぴ』錬成はあくまで婚活のイチ手段に過ぎず、あくまで目標は結婚なのである。研究がまるでうまくいっていないせいか、逸るあまりに言葉の切り出しがおかしくなってしまった。
「はい、ハインツ様は非常に愛の深い方だと伺いまして、そのような方でしたら、なにか良い話がお聞かせ頂けるのではと」
「なるほど、俺の専門とは異なるが、確かに愛は重要だ。俺も、そのために全てを投げ出したこともある」
「なんと、そこまで想われているなんて、お相手様は幸せな方ですね」
「そうあって欲しいもんだ。時々喧嘩をすることもあるが、上手くやっていけてると想っているよ」
「まあ、ではぜひその方にもお会いしたく思います。本日はこの場にいらっしゃらないのですか?」
「ん、何を言っている。ずっとそこにいるだろ?」
 奇妙な沈黙が生まれた。一応、応接間をぐるりと見回すが、ここには澄恋と、ハインツと、珈琲を運んできてくれた男性しか居ない。彼には感謝しなければ、誤解されたまま話を続けていれば、どのような結果になっていたかわからない。
 念の為、背後も窓の外も確認したものの、それらしい人物は見当たらない。繰り返そう、ここには澄恋と、ハインツと、珈琲を運んできてくれた男のみ。
 その男と目があった。どういうことかと視線で訴えたが、彼は気まずそうに目線をそらしている。なるほど、これが意味するところはつまり。
「そ、それじゃあ、お二人が―――」
「違うからな!!」
「いえ、私も理解ある身です、ご安心ください。しかしまさか噂のメアリアンさまが男性だなんて」
「違ぇッつってんだろ!!」
 珈琲の男性から激しいツッコミが入ったが、彼らのロマンスを想像する澄恋の耳には、しばらく現実の音は響いてこなかった。


「なんとも、なんとも、お恥ずかしい勘違いを」
 ぺこぺこと頭を下げる澄恋に、ハインツはなんとも言えぬ気持ちになった。
 どうにも、ハインツの想い人は影が薄い。初対面ではまず誰も彼女が視界に入っていることに気づかず、何を言おうと耳に入っていないこともしばしばだ。
 付き合いの長い人物でさえ、彼女のことは時折、見えていないかのように行動する。おかげで、今回のようなあらぬ勘違いを受けることもないわけではなかった。
「いいさ、気にしちゃいない。しかしどうしたもんかな。何かを調べてどうにかなるものでもねぇし、俺も女性への恋愛アドバイスなんて経験がない」
 頭を抱えそうになるも、いえそこはと、澄恋の静止が入った。
「経験談をお聞かせいただければと。可能なら馴れ初めから、お嫌でなければ愛が深まった話など。きっと、どのような話も参考にさせて頂けるに違いありません」
 そう言われれば、悪い気はしない。確かにメアリアンへの想いなら、いくらでも話すことができる。男の惚気を聞いてくれるというのだ。頷くのに、吝かではなかった。
「それじゃあ、そうだな。あれは俺がまだ教授職についていた頃―――」
「あ、お茶菓子切れてたよな。俺、買ってくるわ」
 話し始めようとすると、部屋の隅で話を聞いていた男がそそくさと出かけてしまった。奇妙なことをする。ここじゃあ普段から、珈琲しか出さないだろうに。
 気を取り直し、目を輝かせる澄恋に向けて、自分たちの馴れ初めを話し始める。
 出かけた男が帰ってきたのは夜も更けた頃。ちょうど、話を終えたところだった。

  • 愛を形にするのは難しい完了
  • GM名yakigote
  • 種別SS
  • 納品日2021年06月09日
  • ・ハインツ=S=ヴォルコット(p3p002577
    ・澄恋(p3p009412

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