かみさまに選ばれた子

登場人物一覧

●確率論
ㅤ宝くじの一等当選確率をご存知だろうか。
ㅤ有名なもので言うと、それはおよそ1000万分の1という天文学的な数字になる。

ㅤそう、1だ。

ㅤつまり、どれだけ低い確率だろうが、選ばれた一人は宝くじの一等に当たる、ということになる。

ㅤそれが、少女だったというだけのことだ。

●朧気な神性
ㅤイミナには、産まれた時から見える『手』があった。

ㅤまだ世界が闇に包まれ、自身の輪郭すらも朧気だった頃から、その手だけは自身の視界内をふわふわと漂う存在だった。

ㅤそれは視界がハッキリし、父、母、自分、と言った『個』の認識ができるようになっても、ずっとイミナの視界に映り続けていた。
ㅤずっと、頭を撫でてくれていた。

ㅤそれはイミナが5歳になったある日のことだった。

ㅤイミナは母に尋ねた。

「お母さんの『手』はどこにいるの？」

ㅤ首を傾げる母に、イミナも同じようにこてん、と首を傾げた。

「もしかして、『これ』ってイミナにしか無いの？」

ㅤそう言って、虚空を指差すイミナ。
ㅤ母の顔が蒼白に染まった。

●かみさま
ㅤイミナは『かみさま』に選ばれたらしい。

ㅤ『かみさま』は皆の不幸を集めて消してしまう、とっても素敵なお方だそうだ。

ㅤお母さんは泣いていた。
ㅤどうしてイミナが、って。

ㅤでも、イミナは『かみさま』に選ばれた凄い子なんだよね？ㅤなんで褒めてくれないんだろう。

ㅤお父さんはイミナを抱きしめてくれた。

ㅤぎゅーっていっぱい抱きしめてくれたけど、少し痛かったなぁ。でも嬉しかった。

ㅤ『かみさま』も、いっぱい頭を撫でてくれた。

●転換期
ㅤイミナ達が暮らす村に悪い人達が襲撃に来た。

ㅤイミナは怖くて、村長さんの屋敷でお母さんと村のみんなと隠れていた。お父さん達大人の男の人は悪い人を退治しに行ったらしい。

ㅤでも、イミナは思い出した。

ㅤイミナは『かみさま』に選ばれたんだ。みんなの不幸を消してあげないといけないんだ。

ㅤだから、イミナはお母さんに言って悪い人のもとに行くことにした。

ㅤお母さんは、すっごく泣いて、イミナの事を抱きしめてくれたけど、イミナを止めることはしなかった。

ㅤ村長さんも、とっても悲しい顔をしていたけど、イミナに頭を下げて見送ってくれた。

ㅤ悪い人達のもとに行くと、お父さんは凄く驚いた顔をした後、諦めたように武器を下げた。

ㅤイミナは、悪い人を見たら足が震えて動けなくなっていた。でも、『かみさま』に足を撫でて貰ったら、不思議と震えはなくなっていた。

ㅤ悪い人達は、どうやらイミナを探していたらしい。『かみさま』に選ばれたイミナを殺して、『かみさま』を封印しようとしているって言っていた。
ㅤやっぱり悪い人達だった。イミナが何とかしなきゃ。

ㅤお父さん達が見守る中で、イミナは悪い人に飛び交った。大丈夫、イミナには『かみさま』が付いてるから。だからぜったいに大丈夫。

ㅤイミナは悪い人に槍で貫かれた。
ㅤ左胸が暖かくなって、口の中がぬるぬるした。苦い味が口いっぱいで気持ち悪い。

ㅤじわっと痛みが広がってきた。
ㅤ涙が込み上げてくる。

ㅤ泣いちゃだめだと思う程に、声を上げたくなってくる。結局、イミナは泣き叫んでしまった。

ㅤ『かみさま』は何もしてくれなかった。
ㅤただ、イミナの背中をずっと撫でてくれるだけだった。

ㅤしばらく経っても、イミナは死ななかった。
ㅤ普通の人だったら死んでしまうらしい。

ㅤ悪い人達も、お父さん達も、みんな泣き叫ぶイミナに驚いて戸惑っていた。

ㅤイミナからは血が出なくなっていた。身体が冷たくて、でも、『かみさま』が撫でてくれたところだけは不思議と暖かかった。

ㅤ──悪い人が潰れた。

ㅤ一人一人、順番に。ぺちん、ぺちんって上から下に潰れて、辺りが赤くなった。

ㅤイミナは初めてもうひとつの『手』を見た。

●かみさまに選ばれて
ㅤイミナは死ななかった。
ㅤ『かみさま』がずっと撫でてくれたから、いつの間にか身体は冷たくなくなっていて、左胸にも大きな傷があるだけになっていた。

ㅤ村長さんが説明してくれた。これが『かみさま』に選ばれたってことらしい。イミナが頑張れば、イミナは死なないし、イミナが死ななければ、もうひとつの『かみさま』は悪いやつを倒してくれる。

ㅤそれはとっても辛いことらしいけど、イミナは怖くなんてなかった。

ㅤだって、お母さんもお父さんも大好きだから。お母さんとお父さんも、イミナのことが大好きだって言ってくれた。

ㅤ村長さんはイミナの事をいつも気遣ってくれる。村のみんなも、イミナの事を褒めてくれて、応援してくれて、優しくしてくれる。

ㅤ『かみさま』は、ずっと頭を撫でてくれる。

ㅤイミナが痛いときは労るように、イミナが辛いときは慰めるように。
ㅤイミナが頑張ったときは、褒めるように、いつも頭を撫でてくれた。

ㅤだから、イミナは頑張れるんだ。

ㅤこれからも、イミナはみんなを守るからね。

ㅤだって、イミナは『かみさま』に選ばれたんだから。