PandoraPartyProject

SS詳細

写真の母に温もりを

登場人物一覧

ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
ユーリエ・シュトラールの関係者
→ イラスト
ユーリエ・シュトラールの関係者
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ユーリエ・シュトラールの関係者
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ユーリエ・シュトラールの関係者
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 特異運命座標として召喚された、茶色の長い髪を左後ろで纏めた小柄な旅人女性『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)がローレットに所属して早4年近く。
 彼女はローレットの依頼を受け、無垢なる混沌各地を渡り歩いている。
 ある時は北国の険しい山へ、ある時は深い深い森の奥へ、時には師と共に謎の塔の探索にも出向き、異世界の街を模した都市や辺境の島国にだって、率先して身を乗り出す。
 数々の出会いを経て吸血鬼となったユーリエは幻想の町外れで「Re:Artifact」という名のアイテム屋も営んでいる。
 その店では主に携行品、アクセサリーなどが並んでいるだけでなく、幻想から外へと向かう人の為の武器や鎧も提供している。
 その可愛らしいデザインもあってか、客層は女性が多めのようだ。
 口コミもあって少しずつ人気も出てきており、ローレットイレギュラーズとしての活動も併せてユーリエは忙しい日々を過ごしている。
 依頼がない時などは幻想に居を構えている彼女だが、長く留守することも少なくないようで、あちらこちらに溜まった汚れが気になったらしい。
「よし、頑張ってピカピカにするよ!」
 雲一つない青空が広がる気持ちのいい初夏のお昼時。ユーリエは部屋の掃除をと思い立った。
 窓を大きく開いた彼女は早速部屋に積もった埃をはたいていき、床は綺麗に水で絞った雑巾で丁寧に拭いていく。
 綺麗な部屋はすがすがしく、気持ちいい。大きく深呼吸してその心地よさを実感する。
 折角だから、部屋の隅々まで綺麗にしようと、ユーリエは家具も移動させていたのだが……。
「ん……」
 移動させた机からひらりと落ちてきた1枚のカラー写真。
 床へと落ちて拾い上げたそれを見たユーリエは大きく目を見開いた。
「あれ、この写真……。なんでこんな所に?」


 所々、シロツメクサらしき花が群生した草の上。
 茶色の長い髪で片目を隠した母親……ツェツィーリエ・シュトラールがスカートを広げて腰を下ろしており、その上にピンクの衣装を纏った可愛らしい姉妹の姿がある。
 妹は母親のスカートの上に座っていたが、姉は立ったままで母に寄り添っている。
 そんな姉妹を、母親ツェツィーリエは愛おしそうにそっとその手に抱こうとしていた。
 今日のように天気が良い日。ユーリエが家族で野山へとピクニックへと出かけた時の写真だ。撮影したのは、彼女の父なのだろう。
 どうして、この写真が混沌の自室にあるのか、ユーリエにもわからない。
 ただ、写真を目にした彼女の脳裏に様々な思い出が去来し、何とも言えない嬉しさが胸の内に込み上げてくる。
 その気持ちを誰かと共有したいユーリエは、一緒に写っている妹のエミーリエが真っ先に思い浮かんだ。
「エミーリエはこのときのことを覚えてるのかな? 見せてあげなきゃ!」
 ユーリエは手早くやりかけの掃除を片付け、写真を手に家から飛び出していったのだった。


 長髪の姉と比べ、後ろ髪を肩上程度で切り揃えている妹……エミーリエ・シュトラール。
 彼女は混沌に召喚されてから長らく、魔種の手によって終焉の地で捕らわれの身となっていた。
 しかしながら、とある事件を契機として姉であるユーリエに救出されて程なく、自らの意思で姉と同じく吸血鬼となったエミーリエは姉の店の手伝いをしていて。
「いらっしゃいませ! どれになさいますか?」
 可愛らしい容姿とスマイル満点な笑顔は常連客だけでなく一見さんにも大変好評で、売り上げも上々なのだとか。
「お姉ちゃん、フロルのジェラート屋さんで涼みに行ってくるね!」
 そんなユミーリエは陽が昇って少しずつ暑くなってきていたこともあって、避暑の為にその店へと向かったようだ。
 ユーリエが様子を見に足を運んだのは、「Re:Artifact」の隣にあるジェラートの店。
 そこはユーリエと同い年の人間種少女、緑色のうさ耳リボンが特徴的なフロルことフロレンツィア・ツェーレがいて。
「こんにちは、フロレンツィア。エミーリエいる?」
「あら、ユーリエ。いらっしゃい」
 ユーリエが手を振ると、ジェラート屋の店主も笑顔で手を振って出迎えてくれる。
 ジェラートは別世界においては、イタリアのフィレンツェが発祥と言われる氷菓だ。その名も現地の言葉で『凍った』という意味から来ている。混沌にはどういう経緯で伝わったかは不明だが、旅人から伝えられた可能性は大いにありうるだろう。
 果汁や果肉などをふんだんに使い、水や砂糖、卵白などを加え、空気を含ませつつ凍らせて作る。フルーツの濃密な味を感じるのがアイスクリームとは異なる点だろう。
 この店のおすすめであり、自慢の一品は「ティアーズ・ジェラート」。
 涙が出る程の奇跡のおいしさと言われ、密かな人気もあってリピーターもかなりいるのだとか。
 外の暑さもあってジェラートの需要も高まり、店内はかなり盛況な様子。見れば、ヤンキーのお兄さんが複数で買いに来ている他、幻想在住の天義や深緑出身の常連客の姿もある。
 レジでそんなお客さんと接客応対に追われていたフロレンツィアが手で指示した方向、店内の腰掛けでは、床につくほど長い金の髪を持つ幻想種の少女、エルマ・リスペルンがエミーリエと楽しく話をして相手をしてくれていた。
 店はジェラートが好評であり、暑さも手伝ってしばらく混雑が続きそうだ。
 それもあって、客足が落ち着くまでユーリエはエルマとエミーリエの会話に混ざることにし、そちらの腰掛けへと歩いていく。
「こんにちは、二人とも。何のお話してるの?」
「あ、お姉ちゃん!」
 姉の姿を認めたエミーリエの表情がぱあっと明るくなる。
 自分に向けられたとわかっていても、ユーリエでさえその笑顔は眩しく感じてしまう。
「あぁ、ユーリエ、私の生い立ちのお話をしていたの!」
「エルマさん、続きをお願いしてもいい?」
 混沌の各地について興味深々のエミーリエは瞳を輝かせると、エルマも楽しげにジェラートを口にしながら自らの過去を語る。

 エルマは深緑にある隠れ里の一つ、フラワープルームの出身だ。
 彼女はそこで幼少時から沢山の花々や植物と共に育ち、その為か植物と会話することができる。また、戦いは不得手だが、魔法に関しても一応といった程度の回復の心得や拳程度の大きさの石を飛ばすといったものを使える。
 後者はともかく、ガーデニングを趣味としているエルマは花や植物の知識が浅いと自覚している。
 将来、里を支えていく若者として期待されているエルマは里長の言いつけを受けてはるばるやってきた幻想でユーリエと出会い、この近辺を拠点として植物の勉強をしている。
 話が深緑流のガーデニングのやり方へと移ってしばらくしたところで、ユーリエがやってきたわけだが、植物を世話する方法……水やりに土の選び方、最適な肥料にその与え方などや、広くは庭造りの為の植物や鉢、癒しの空間をどう演出するか等々、奥深い話を事細かにエルマは語ってくれる。
「幻想にいるなら、お花屋さんを開こうとも思っているけれど……」
 お花屋さんといえば、女の子のあこがれの職業だが、エルマは幻想種であることに加えて自身の使命もあり、なりたいと思う気持ちは人一倍強いはずだ。
 ただ、エルマは森の隠れ里で育ったこともあって、今もなお人見知りの面が強く、接客など未だに考えられないでいる。
 まして、花屋という職業は植物の知識の他、フラワーアレンジメント技術、冠婚葬祭の知識や生け花といったスキルが求められ、例えアルバイトであってもその辺りを妥協ができない。それもあって、接客だけを他人にお願いするのは職種的に難しい。
 そんなエルマが目にしたジェラート店は、店主のフロレンツィアが愛想よくてきぱきと多数のお客さんと対している。
 お花屋さんは夏場のジェラート店に比べれば、のんびりとした接客ができるだろうが、時期がらのイベント事など需要が高まれば忙しくなるだろう。慣れないと少し精神的に辛いかもしれない。
 エルマの話を聞いていたエミーリエは終始食い入るような態度で、前のめりになりながら楽しそうに耳を傾けている。
 混沌へと来る以前の世界では、ほとんど病院暮らしであった上、混沌でもしばらく監禁されていたエミーリエだ。
 ユーリエと同様に吸血鬼となったで体が丈夫になった彼女は、自らの足で未知の世界を駆け回ることができる。
(その体と目で見るものはきっと。色んな事が目新しくて、色んな世界がきらきらして眩しいんだろうな)
 思わず、そんな妹の姿に、うるっと来るのをこらえるユーリエ。
 エミーリエは話の傍らで、ふと姉の様子がいつもと違うことに気付いたようで。
「あれ……、お姉ちゃん泣いているの?」
「あ、あはは違うの。これはフロルのジェラートがおいしくって」
 顔を覗き込んだ妹に、ユーリエはごまかしながらも涙を拭う。
 すぐばれそうな嘘だと思いはしたが、エミーリエは信じて笑顔で頷いてくれた。
「本当はちょっと泣いてたんじゃないの~?」
 そこへ、いつの間にか店内の客の応対を済ませ、背後へと立っていたフロレンツィアがユーリエの耳元で囁く。
「ぴゃあっ!?」
 突然のことに、ユーリエは背筋がぴんと跳ねて変な叫び声を出してしまった。
「フロル、私が耳弱いの知って……!」
 少し涙目になっていたユーリエに、ジェラートを口にする周囲の客からも小さな笑いが。
 その視線もあって、ユーリエはふくれっ面になってフロレンツィアをにらむ。
「あはは、ごめんごめん。何か用があったかな?」
 からかいすぎたと謝るフロレンツィアはユーリエに謝ってから、店に来た要件を問いかけるのだった。


 フロレンツィアにエミーリエ、エルマと集まるジェラート屋の店内で、ユーリエは小さく頷いて。
「うん、そうなの。実は掃除をしていたらこんな写真を見つけて……」
 ユーリエが取り出したのは、先程発見した家族写真。
 皆が興味を抱いて覗き込むのを確認し、ユーリエはこの写真が自分が5歳の時に家族でピクニックに行った時のものだと話す。
「真ん中がお母さん、こっちが私で。こっちが妹。写真はお父さんが撮ってくれたんだ」
 指さして家族の説明するユーリエをよそに、現地民であるフロレンツィアとエルマはというと。
「「かわいい~!」」
 フロレンツィアはうさ耳リボンを、エルマは長耳をぴこぴこと動かしていて。
 まるで小動物を可愛がるかのような声を上げ、彼女達は幼いユーリエとエミーリエを今の姿と見比べてこの辺りは母親似だとか、ここなんかは今の面影残っているとか、楽しそうに姉妹観察を行う。
「こんなちっちゃい姉妹が、こんなにかわいく成長して……」
「服もお揃いで可愛い!」
 友達の幼少期の姿というものは、強く関心を抱かせるものらしく、しばらく2人は興奮して1枚の写真に見入っていた。
「お母さん、美人さんだね~」
「ユーリエも成長が止まらなかったら、お母さんみたいになったかな?」
 大盛り上がりするフロレンツィアとエルマは驚いた様子も見せ、シュトラール家の血筋について語り合っていた。

 ただ1人、表情をこわばらせたエミーリエはじっとその写真を見つめていて。
「この写真、どこで……?」
 恐る恐る尋ねる妹に、ユーリエは小さく首を傾げながら。
「この写真は、掃除しているときに出てきたよ。エミーリエが持っててくれたんだよね?」
 しかし、心当たりのないエミーリエは小さく頭を振る。
「あれ……、どちらかが召喚される際に紛れ込んだのかな?」
 ピクニックに行った時の記憶はユーリエにもない。
 ただ、混沌に来てから、母に似た人をどこかで見たような気がしてならない。
「それはないよ。だって、お父さんもおかあさんももう……」
 ぽつりと言いかけたエミーリエは歯切れ悪くなって。
 先程まであんなに燥いでシュトラール姉妹を見ていたフロレンツィアとエルマも表情を陰らせてだんまりしてしまう。

 この場だけでなく、店の雰囲気まで暗くなっているのを感じたユーリエは空気を変えようと大きく両手を叩く。
「そ、そうだフロル! 最新作のジェラートができたんでしょ!」
 思い出したかのように話題を逸らすユーリエだが、フロレンツィアは目を丸くして。
「えっ!? な、なんでそれを!? まだ誰にも言っていないのに……」
 どうやら、秘密にしていた新商品だったようなのだが、それが筒抜けだったのに彼女は少し焦り、周囲を見回す。
 残っていたお客さんはこちらの騒ぎを気にはかけていたが、会話内容までは聞こえてはいなかった様子で、フロレンツィアも胸を撫で下ろしていた。
 彼女はこの店の商品の全てを手掛けており、自分のジェラートをみんなに知ってもら居たいと考えている。
 ジェラートという氷菓は、古くは山から氷雪を運んで作るなどされていたという話もあるが、現在は、材料を混ぜ合わせてから固めたり、凍った果物を使って作ったりと製法はいくつかあるが、いずれも冷やす方法が必須。
 フロレンツィアは簡単な氷を作る魔法も使えるが、現状は練達から仕入れた冷凍庫なども使って作っている。
 その作成もあって、外に漏れることはないとフロレンツィアは確信していたのだが……。
「ふふん、私のお店はお隣さんだよ? 鼻が利いちゃったかなー…?」
 くんくんと鼻を鳴らすユーリエもアイテム屋の店主であり、目ざといものを発見する嗅覚は並々ならぬもの。フロレンツィアの新商品もしっかりとかぎ取っていたのである。
「もぉー! 4人だけの秘密だよ」
 周囲をきょろきょろと見回し、フロレンツィアはこの場のユーリエ、エミーリエ、エルマへと小声で語りかける。
「最新作はなんと、鉄帝を意識して作ってみたの」
 フロレンツィアによると、食べるだけで、凍えるような寒さを感じさせるジェラートとのこと。
 デザートとして目をつけた食材は近場の果物店で扱っているイチゴやリンゴ、レモンといった冬場で定番となるものを用意。
 シャリシャリとした食感を高める為、凍らせる回数を少し増やして手間暇をかける。そして、器も冷やし、その周囲に溶けにくい氷を配置して冷たさを持続させる。食べるだけで震えてしまう程の食感を味わえるのだそうだ。
 鉄帝を感じさせるのはそれだけではない。ジェラートの個性である濃厚さを前に出すことで、鉄騎種の人々やラド・バウなどの力強さ、逞しさも感じさせる。
 まだ試作品段階ではあるが、それだけお値段は高くなってしまうと想定しており、品質を維持しながらもコストカットなどを模索している最中なのだとか。
 さすがに他の客の視線もある為、すぐには試作品を提供するとはいかないが、いずれ皆にも振舞いたいのだそうだ。
「あはは、すごいフロルさん! 泣かせるだけじゃなく凍えさせちゃうなんて!」
「そういえば、途中小声になったのは、凍えるとかけたの?」
 感嘆するエミーリエに対して、冷静なツッコミをするエルマ。
「そんなことないよ……って、エルマ、違うから!」
 否定するフロレンツィアに、また大きな笑いが起きる。
 その後、4人の話題の中心はすっかりフロレンツィアのジェラートの話になって。
「店員さん、ジェラートをいただいてもいいかしら?」
「あっ、はい。いらっしゃいませ!」
 時折、フロレンツィアがカウンターに立つ店内はすっかり、和やかな雰囲気に包まれる。
 彼女の接客の合間、4人はしばらくたわいない話で盛り上がり、楽しい時間を過ごすのだった。


 ――夢を見た。
 どこかの部屋の中。優しい朝日が差し込んでくる中、私達姉妹は2人で頭を寄せ合うように横になっていて。
 いや、その光は……太陽に感じられたのは、膝枕してくれるお母さんだ。
 お母さんは私達を優しくあやし、言い聞かせるように語りかけてくる。
「ユーリエ、エミーリエ。人に優しく接しなさい。優しくした分だけ、貴女達のもとに優しさが帰ってくるのよ」
 優しくお母さんはこう諭してくる。
 彼女達の苗字……シュトラールの意味は、光。人々を照らす光なのだと。
「優しくて暖かい光になることを私たちは願っていますよ」
 まだ、エミーリエはうつらうつらと気持ちよさそうに眠っている。
 母の温もりを感じられるこの一時は、エミーリエにとってこころから安らぐことができていたのだろう。
 もちろん、ユーリエだってそれは同じ。
 ユーリエはお母さんに抱かれるその感触をずっと感じていたくて、太ももに頬ずりする。
 ――……あったかい。
 それは、お母さんの肌を通して伝わったからか、それとも、自分達へと向けられた笑顔からか、すごく温かみを感じてほっこりと安心してしまう。
 ただ、ふと、ユーリエは思い出す。
(あぁ、そうだ。あのピクニックの後にお父さんとお母さんは)
 その温かさが少しずつ感じられなくなっていき、太陽のような光もまた遠くなっていく。
 ――寒い。離れたくない。もっと暖めてほしい。
 急に感じる寒さは大切な人が離れていく悲しみか。孤独を感じたからか。
 ――行かないで、お母さん。行かないで……。
 呼び止めようとするが、お母さんはすでに手の届かない場所へ。どんなに手を伸ばしても、母に届くことはない。
 ――行かないで、行かないで……。

「行かないで!!」
 ベッドの上で涙目になりながら手を伸ばすユーリエが目覚めると、ベッドの上で起き上がった体勢になっていた。
 ユーリエが窓を見ると、外はうっすらと明るくなってきている。時計も確認すると、まだ早朝のようだった。
 ユーリエはそこで、ハッと気づく。
「あれ、どんな夢を見ていたんだっけ……」
 頬に涙が流れる理由を何とか思い出そうとするのだが、ユーリエは思い出すことができない。
 僅かに潤む両目へとカーテンの隙間から降り注ぐ太陽の光。
 それが今日だけは、彼女にとって少しだけ眩しく感じられたのだった。

おまけSS『今ある妹の温もりを』

 目覚めたユーリエへとそっと寄り添ってくるエミーリエ。
 どうやら、彼女はユーリエの声で目が覚めたらしい。
「お姉ちゃ……」
 エミーリエは姉の様子がいつもと違うことに気付く。その目からは涙が零れていたのだ。
 やはり、きっかけはあの写真。
 机の上に置いていた写真に写っていたのは『在りし日の』母の姿。
 お父さんも、お母さんも、もう……。
「お姉ちゃん……」
 そんな姉へと、エミーリエが抱き着く。
「私が、いるよ」
 今度はもう離れない。彼女はそう約束する。
 妹のそんな心遣いがユーリエには嬉しくて。
「うん、ありがとう」
 そっと、愛おしい妹の体を抱き寄せたのだった。

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