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音呂木神社の巫女見習い

登場人物一覧

音呂木・ひよの(p3n000167)
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女

「私ちゃん、本気で弟子入りしようかな?」
「良いですよ?」

 ――え、いいの!?

 秋奈はそう言いかけたがひよのの泰然とした様子に「先輩がそう言うならいいや!」と『巫女見習い』として一日音呂木の巫女大剣を行う事にしたのであった。
 ひよの曰く「音呂木は、血筋という者も大事にして居ますが、社をお守りするくらいならお手伝い頂けますし」と言う事である。
 元から悪性怪異:夜妖への対応と学業、カフェローレットでの給仕アルバイトと多忙を極めるひよのだ。実家の手伝いを買って出てくれた秋奈には猫の手も借りたい状況で二つ返事で返したのかも知れない。
「そういえば、先輩って色々してるよね? 巫女さんだけじゃなくって」
「ええ、そうですね。悪性怪異:夜妖に関しては希望ヶ浜では本来は存在しないものですから。存在を許容し対応できる存在はある種、希有ですからね。
 皆さんを迎え入れる『案内役』のような役目を担うべきでしたし……カフェローレットでの給仕も同じですよ。夜妖情報を集めやすくする為、と、気軽な情報収集ですね」
 多忙なのですよ、と労るように進めてくるひよのに「肩でも揉む?」と秋奈は揶揄い笑う。ご多忙な先輩の『弟子』として本日の秋奈は真面目モードなのだ。
 早速と巫女服に身を包む。どの様なデザインでも構わないというひよのの言葉に甘え、トレードマークのマフラーを着用する。サイドテールの結い紐は巫女服のデザインに合わせておいた。余談だが、『真面目な巫女服』を着用してきた秋奈を見てひよのは驚いたらしい。……クリスマスの時のミニスカサンタのイメージが強かったのだろう。
「――と、言っても、日常的には余りお弟子さんをどうこうする、というのはないのですよね。
 境内の掃除をし、授受物を作成する。それから……ああ、何だか信心深い皆さんが持ち込んでくれる『心霊相談』に乗ってみたりだとか」
「『心霊相談』?」
「ええ。再現性東京では、混沌世界で言われる精霊や怨霊という存在は認められておりません。本来ならば、モンスターで括る存在全てが『心霊現象』であったり『神様の祟り』だったりするのですよ」
 言葉のマジックだ、と呟く秋奈に「そうやって身を守っているのです」とひよのは可笑しそうに小さく笑う。故に、心霊相談を持ち込んで貰った場合は、それが『本来的な霊障』であるか『モンスター由来』なのかを分けて考えるらしい。勿論、後者であった場合は特異運命座標が希望ヶ浜の学生として受注する『悪性怪異:夜妖』への対応と繋がっていくのだが。
「私ちゃんに相談とか聞く能力が備わってるかな~?」
「秋奈さん、聞き上手ですよ。話し上手が勝るだけで」
「それって褒めてる?」
「勿論」
 何だか上手いこと言いくるめられてしまった気もするが、社務所で二人でお守りを作りながら、一日を終えてみるという事になった。どうやら、ひよのの母が母屋で昼食を準備してくれているらしい。忙しない彼女は神職である父の手伝いで直ぐに出てしまうらしく、擦れ違いにはなるのだが……。
「ひよの先輩ってお父さんとお母さんは結構忙しい人?」
「まあ。それなりに? ……まあ、両親も校長先生と同じような役割だと思ってください。大人は大人の出来ることを。子供は子供しか出来ない事を、ですよ」
 意味深な言い方をしてから午前の作業が終わり次第、オムライスを食べに行こうとひよのは微笑んだ。簡単な昼食があるだけでもやる気は漲るというもので。
「外でランチ、なんて暇もありませんから。さ、頑張りますよ秋奈さん」
「オッケー! 後輩じゃなかったや……弟子として、私ちゃんまじめにがんばるのです!!」
 但し、先輩が見て居る間は、なんて言葉は出さなかった。
 作業を進めながら、秋奈はちら、とひよのの顔を見る。普段ならば意地の悪い笑顔を浮かべている彼女は背筋をピンと伸ばして真面目な表情を浮かべている。慣れた様子で作業を進め、時折外の様子を確認する横顔は美しく整っている。
(先輩って黙っていれば美人さんってタイプ。私ちゃんと一緒――なんちって)
 ぼんやりと作業の手を止めて眺めて居たことに気付いたのだろうか「お弟子さん、おてて」と揶揄うようにひよのは笑う。
「止めちゃ、ダメ……でしょう? ほら、もう少し頑張りましょう。昼からは境内の掃除をしなくてはなりませんからね」
「ねえ、先輩」
「はいはい、後輩?」
「こーんなこと、聞いちゃいけないかもしれないんだけどさ。もっと『夜妖を倒す巫女の弟子になりたい!』みたいな感じのお願いをしたはずなんだけどー……これってどう見ても雑用係じゃね? 気のせい? それとも、下積みから遣った方が輝く的な?」
 湯飲みに注がれていた冷茶を流し込んでから、首を傾げてわざとらしく問い掛ければひよのは「あ」と言う顔をしていた。
 ――確かにそうだ。真性怪異などに対抗する手段を得たいだとか、特異運命座標としての経験を活かして素晴らしい巫女になりたいだとか。そんな展望よりも、これはアルバイト巫女さん状態なのだ。
「んんッ、そうですよ。何事も下積みから。まずは神様に認めて頂くところからです!」
(……あ、誤魔化した)
 すっきりと微笑んだひよのは「さあ、千里の道も一歩から!」と突然高らかに宣言した――明らかに誤魔化している。

 悪性怪異の相談が持ち込まれたのは、昼食を終えて境内の散歩――ではなく、掃除を行っている時であった。
 ……散歩、と言ったのは『見て居ない時は普段通り』の秋奈ちゃんであったからだ。ひよのの視線が飛んできたことに気付いて慌てて握った箒は逆向き、落ち葉の上でタップダンスをしている様子でもあったが、ひよのは何も言うことはなかった。
「秋奈さん、『ご相談』らしいのですが同席してくださいますか?」
「あっ、はーい! よろこんで!」
 まるで居酒屋のテンションでそう答える彼女に依頼人はきょとんとしたが、ひよのはくすくすと笑う。
 社務所の奥に、四人がけのテーブルが用意されていた。簡素ながらも外部からは見ることの出来ないように、できるだけ配慮された作りだ。窓がないのは『窓』を怯える人々も多いからなのだろう。流石にテーブルの下から誰かが覗いているという怪談を持ち込まれたときにはこれ以上、物を避けることが出来なかったとひよのは可笑しそうに笑っていた。
「好きに腰掛けてくださいね」
 依頼人に椅子を勧めてから、ひよのの一瞥が飛んでくる。秋奈は直ぐさまに其れがどういう意味合いであるかを認識し、大きく頷いた。
(お茶ってことでしょ? ふふん、先輩の視線の意味は秋奈ちゃんはバッチリだぜ!)
 揃えられていた茶器と茶葉。用意をしながらこっそりと聞き耳を立てれば、依頼人の訥々とした語り口はホラーめいている。
 見知らぬ存在から電話が掛ってくる。それも、毎日。徐々に間隔を狭めて。電話に出てみれば無言電話。時折、何かの波の音がする――と言うよく聴くような怪談を持ち込んだ依頼人は憔悴した雰囲気だったのである。
 肩を竦めて身を屈めた依頼人が何だか可哀想になり、『巫女』としてどう声を掛けるべきか迷いながら秋奈は湯飲みに茶を淹れて差し出した。其処からは一先ず『先輩』に任せるしかないだろう。
「――ええ、それはさぞ……お辛かったでしょうね。一先ずは私どもで『お祓い』の用意をさせて頂いても良いでしょうか?」
「ええ……あの、音呂木さん、そちらは……」
 ちらりと、依頼人の視線が秋奈に向けられる。巫女服姿の少女が一人増えていたことに驚いたのだろう。
「ああ。私の後輩なんです。
 巫女見習いでして。一日、此方の体験をしてくださっているのですよ。希望ヶ浜学園の生徒さんなんです。アルバイトで来て頂いていますが、彼女もお祓いの経験はあるのですよ」
 すらすらと言葉がよく出る者だ。表情を崩さず彼女は『希望ヶ浜の住民に伝えられる情報だけ』を伝えていく。
 嘘は言っていない。巫女の見習いなのは確かだ。一日の体験というのも秋奈は特異運命座標として多忙を極める身でもある。
 希望ヶ浜学園の生徒――であるのは特異運命座標が希望ヶ浜で活動するための身分である。そして、お祓いの経験というのも、だ。物理だが。
「そう、なんですか……。すみません、見習い巫女さんにも、こんな霊障をお伝えすることになってしまって」
「あ、いいえ!」
 大丈夫とにんまりと笑った秋奈にひよのは頷いて依頼人を入り口まで送って差し上げて、と静かな声で言った。
 怪異を祓う――それは特異運命座標が暴れる精霊を鎮めるような。モンスターと討伐するような。それと同じでありながら、其れと違う。
 それは『此の地で生まれた精霊にも似通った存在』の特異的な性質のせいかもしれないが。ひよのは己の出来ることと出来ない事を切り分けているのだろう。
 お祓いの準備、として彼女が行うのはあくまで其れが悪性怪異の仕業であるかを確かめる事だ。つまり、情報屋達と何も変わりない。どちらかと言えば裏方稼業である巫女のひよの。霊媒師の端くれではあるのだろうが、実際のモンスターとの戦いには余りに役に立たないどころか足手纏いになる事を知っている。もしも、本件が『夜妖』の仕業なら――その仕事に出向くのは秋奈の仕事だ。

「弟子入りなんて、簡単におっしゃるけれど――そうしたいのは此方かも知れませんのに。運命に選ばれるって、凄いことなんですよ」

 ぽつり、と小さく呟いたひよのの言葉を秋奈は聞くことはない。
 客人の無事を祈って、手を振って見送った秋奈は箒を持って外に出てきたひよのの姿に気付いて手を振っている。先輩、と。
 呼び、微笑む彼女。『ずっと先輩で居てくれるから先輩』だと笑う彼女に、ひよのは小さく笑ってから手を振り返した。
 今から危険な『依頼』二行く事になる彼女にとって、この場所が平穏の象徴でありますようにと、願いながら。

  • 音呂木神社の巫女見習い完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2021年06月02日
  • ・茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862
    ・音呂木・ひよの(p3n000167

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