PandoraPartyProject

SS詳細

Eye to eye.

登場人物一覧

イルミナ(p3x001475)
冒険者

●本日のクエスト
 現実となんら遜色ない、しかし明確に違う世界。此処はR.O.O.――仮想世界『ネクスト』である。クエストを受けログインしたイルミナ(p3x001475)。
 豊満な身体と豪快な戦い方で、ばったばったと敵を薙ぎ倒す、世界を股にかけるS級冒険者! ……という設定だ。そう、設定。そういうRPなりきりで遊ぶゲームなので細かい事は気にするな! 早速クエストの指示通りの場所へ向かう。
 今回のクエストは至極単純。近隣の村の農作物を荒らすモンスターを倒すというもの。情報によれば敵は4体、恐らく家族と思われる。姿は鳥のような姿らしいが……? 住民NPCに住処だという洞窟へと案内され、松明を手に奥へ進む。何の気配もしない、出払っているか――?
『クゥァーーッ!!』
「っ、おっとぉ、隠れるのがお上手で」
 襲い掛かってきたモンスターを照らす。それはまさしく、モンスターだった。鶏を本体とし、翼は竜、蛇の尾を持ち羽毛は黄金。松明の炎に瞳が緑色に光っている。さて、一体だけということは無いだろう。残りの奴らも何処かに潜んで、こちらへ攻撃するタイミングを伺っているか。だが、そんなは後回し。今は目の前の一体を狩るだけ!
 ザンバー・ブレードを構え、モンスターを睨みつけながら松明を傍の岩に立て掛ける。相手の方が小さいので素早さは上、住処なのだから地理にも詳しいだろう。でも、精々その程度。こちとら天下無敵のイルミナ様、ってね! こんな雑魚に苦戦するような設定じゃない。
 バサバサバサっと音を立てて突っ込んでくるモンスターを迎え撃つように、イルミナは剣を掲げ脳天目掛けて振り下ろす! 羽毛が舞い散り苦しむモンスター。この一太刀を受けてまだ生きているとは中々根性あるじゃないか……なんて思いつつ、返り血を浴びた箇所から身体に違和感を覚える。
「おーっと、嫌な予感がするねぇ。これは毒……じゃないな。石化か! 状態異常バステ持ちだなんて聞いてないよ。こりゃ急いだほうが良さそうだ」
 その一体にトドメを刺して、再び松明を手に奥へ奥へ。途中二体の同型モンスターと出くわしたが、今度は返り血を浴びないように注意しながら倒した。段々と身体の動きが鈍ってくる。完全に動けなくなる前になんとかせねばと思っていると、分かれ道。
「んー。どっちかがボスでどっちかはハズレなんだろうけど……ハズレが本当にハズレとも限らないしね。ゲームなんだ、ボス戦前は何か良いアイテムが拾えたりするもんだろ?」
 ま、勘だけど。右の道を選んだイルミナは予想通りと言うべきか、行き止まりに当たった。何もいないが、何かある。それはもうあからさまに『宝箱』だった。長方形の箱にドーム型の蓋、まぁ擬態魔ミミックの可能性もあるが……その時はその時。剣先を宝箱の隙間に差し込み、梃子の原理で開ける。
 中身は緑色の液体が入った小瓶だった。見覚えは無い。どういう効果かは分からないが……ここにきて可笑しな物は置いてないだろうというゲーム的理論セオリーに基づいて、蓋を外し一気に飲み干した! するとたちまち疲労感は無くなり、あの身体が徐々に固まっていく感覚も消えた。
「ははぁん、回復リカバーの効果か。有難い。じゃあ、さくっとケリをつけに行くか!」
 軽やかになった身体で来た道を戻り、今度は左の道を進めば段々と殺気が溢れてくる。こいつは大物かな? と松明も剣もしっかりと握りしめ、奥へと進む。そして遂に出逢った最後の一体。草や枝で出来た巣の上で、どっしりと身構えながらイルミナを睨みつける。爛爛と輝く瞳と目を合わせてはいけないと瞬時に判断し視線を少し下げた。
 相手はまだ立ち上がってもいない。先制をとるチャンス、とイルミナは地を蹴った! バサっと翼で風を起こしたモンスター。風が刃となって頬や服を掠める。スゥっと痛みすら感じない切れ味に、油断は出来ないと胸元を薙ぎ払って即座に後退。返り血をまた浴びるのは御免被る。
『クルゥック……グゥゥ……クァーーッ!!』
 雄叫びと共にモンスターの眼から緑色の光線ビームが放たれる! それは地面を抉り、土だったそこを石へと変えた。あんなもの喰らったら死亡ロストしかねない。いくらアバターといえど無暗にデスカウントを増やしたくはない。であればあの眼を潰せば良い!
「たぁぁああっ!!」
 松明をモンスターに向かって投げつけ、羽毛に炎が燃え移る。風を送って消そうとするが、逆に炎の勢いは増すばかり。それに気を取られている隙にイルミナは全速力でダッシュ! モンスターの眼に剣を突き立てた! 洞窟中に響き渡る程の咆哮にビリビリと耳をやられながら、素早く剣をもう片方の眼にもザクリ。
 炎上する肉体と視界を失ったことで暴れるモンスター。しかしこちらの動きを捉えられないならもう一息。その巣から意地でも動かないモンスターの心臓は狙えない。ならば手っ取り早い急所は首!!
 ガッ、と首に剣を突きさして横へ薙ぎ払う。か細い悲鳴をあげて、モンスターはこと切れた。辺りには鶏肉の焼いたようなにおいがする。流石に毒のありそうなモンスターを食べようとは思わないが。燃えるモンスターが横へ倒れると、その下からは卵が5個出てきた。
「こいつを守ってたのか……」
 イルミナはその卵を革袋に入れて、真っ暗になってしまった洞窟を壁伝いに引き返す。幸いほぼ一本道なので太陽の元に戻るのは簡単だった。住民に退治したことを報告し、ついでに卵も差し出すと驚きの声があがる。
『姉ちゃん、こりゃあコカトリスの卵じゃないか!!』
「そうなんだ? アタシが持ってても仕方ないし、どうするかはアンタらに任せるよ」
 どんなに希少なものでも、どうせ現実には持ち帰れないのだし。住民たちは感謝を込めて報酬を上乗せしてくれた。これにてクエスト完了!

●勝利の一口
 報酬を受け取ったイルミナは、想定より多めに頂いたので、折角だからと評判は良いがちょっとお高い店に入った。酒と脂の匂いが食欲をそそる。まずは店のテイストを見極める為に日替わりメニューを頼んだ。出てきたのは熱々焼き立ての肉に、目玉焼きと揚げ芋が乗ったプレート。ソースは甘じょっぱい、何とも言えない味わいが美味しい。
「これはどういうメニューなんだい?」
『はい、こちら暴れ牛のハンバーグとコカトリスの卵の目玉焼き乗せです。お客さん、運が良かったですね。こちら先程仕入れたばかりなんですよ』
「コカトリスの卵ォ?」
 先程も聞いたな、と思いつつ食べながら店員の説明に耳を傾ける。
『高級食材で滅多に手に入らないんですよ。鮮度が落ちないようにすぐ店に出せって、急遽日替わりメニューが変わったんです』
「……体が石になったりしないだろうね?」
 イルミナの怪訝な表情に、店員は笑って。美味しいのでイルミナも食べ続けてはいるが目玉焼きはまだ一口、それも白身部分しか手をつけていない。
『大丈夫ですよ。コカトリスは大きくなるにつれて体内に毒素を貯めるんです。むしろ卵の状態は滋養強壮に効くと高値で取引されてるくらいですから』
「……そうかい。ありがとう、頂くよ」
 一礼して去る店員を見送り、ソースを絡めぱくっと目玉焼きを食べる。こりゃ住民に一枚食わされたか? なんて思うも、そのあまりの美味しさの前には全てどうでもよくなるイルミナだった。一仕事終えた後の食事、最高――!

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