PandoraPartyProject

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罪と罰と、交差

登場人物一覧

咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
咲々宮 幻介の関係者
→ イラスト

※ご注意
 これはもしもの世界。ありえなかった可能性の物語である。
 この物語の人物、団体、技術、エネミー種や現象は本来の混沌世界では起きていないものである。
 以上をご確認の上、ご覧頂きたい。
 ある青年の罪と、決断と、そして罰の物語を。





●咲々宮の選択
「いやいや無理でござるよ拙者姉上に見つかったら一体どんな目にあうか!」

 ある初夏のこと、大遠征を達成し豊穣郷カムイグラを発見した大陸諸国は、はじめての外交としてイレギュラーズを便利屋として遣わすことを選択した。
 此岸ノ辺をポータルとして自由に移動できるイレギュラーズを大量に抱えるローレットは、あらゆる意味においてこの任に適していたのだ。
 魔種によって支配され、肉腫の主であるザントマンに深く侵食されていたこの国の闇を知るのは、まだ先のこと。
 そんなローレットが妖怪退治や悪党退治に東奔西走していた中、咲々宮 幻介 (p3p001387)の姿もそこにあった。
「裏咲々宮一刀流――弐之型」
 一歩で風の速度を超え、二歩で音を置き去りにした幻介はすでに振り抜いていた刀で悪しき子鬼を切り裂き、閉じていた目をうっすらと開く。
「『飛燕』」
 真っ二つに切断され、鮮血をちらして崩れ落ちる子鬼。仲間の子鬼がハッと振り向くも幻介の姿ははるか遠くへ駆け抜け、もはや手出しのできぬ距離に立っていた。
 ギギ、と唸りせめて一矢報いねばと走るも、幻介はすでにゆらりと反転。
 気づけば再び子鬼たちの前――否、背後に回り込み、5つの閃きを放っていた。
 振り向く子鬼が吠えながら反撃を繰り出すが、なぜだろう幻介にはかすりもしない。どころか腕も棍棒もすりぬけていくばかり。
 いったいなぜ……とつんのめって数歩あるいたのちに振り返ると、八つ裂きにされた自分が見えた。それが死をまえにした幻覚だと気づいた時には……。
「無之型――『夢幻』」
 パチンと鞘に刀を納め、乱れた髪をひもでゆわえる幻介。
 仕事を終えた彼は、仕事仲間である鎧武者の肩にポンと手を置いた。
「幻介殿……」
「鎧武者殿……」
 ちらりと顔をみやる鎧武者に、幻介はニヒルに振り返り――。
「お願いお願いお願いでござるよ拙者の代わりに報酬受け取ってきて下され拙者今姉上にあったらコロされるで御座るううううう!」
 振り払おうとする腕にガシッてコアラみたいに抱きついてヤダヤダーといって首を振る幻介。
 鎧武者はため息をついて『わかったわかった』と手をかざした。
「お主の言う通りにしてやろう。……だが良いのか? 長く離れていた家族なのであろう?」
「…………」
 幻介は腕をはなし、一秒たらずうつむいて、そして苦笑した。
「心配無用に御座る。何も明日死ぬ命ではあるまいに……たとえ死すとも、それが定めなれば」
 戦士の考え方だ。いつ死ぬともわからぬ命ゆえ、明日を惜しまない。そのかわり、過去交わした約束や絆をこそ惜しむのだ。
 それがわかったのだろう。鎧武者は頷いた。

●罪と決断
 時は流れ、夏祭りの末のこと。
 豊穣郷の都に無数の妖怪たち、そして肉腫に寄生され怪物と化した者たちが進撃し、ローレットへも大規模な迎撃依頼が舞い込んだ。
 そうした依頼をいくつもこなし、次は何かと訪ねた幻介に……仲間の鎧武者は言いにくそうに顔をそむけた。
「幻介……都で開発されたという、新種の肉腫を知っているか」
「反転した肉腫と言われる『膠窈(セバストス)』のことで御座ろうか?」
「いいや」
 歯切れの悪い様子に、幻介は首をかしげる。
 鎧武者は『これは噂に過ぎないが』と前置きをして語った。
「肉腫は本来、運命力(パンドラ)をもつものに寄生しない。これは拙者や幻介のようなイレギュラーズには寄生しないという意味だ」
「ふむ……」
 『イレギュラーズ』という言葉はよく内部ではローレット・イレギュラーズにばかり使われがちだが、練達三塔のようなウォーカーたちや、一度は召喚されたがローレットに所属することなく活動している人々もそれにあたる。
 だがなぜそれを? 幻介のこめかみにぶわりと汗が浮かび、頬を通じて顎へと流れていく。
「だが新たな個体として、『呼び声』の狂気に呑まれたイレギュラーズを肉腫によって包み込み根を張り、発する狂気を食らって成長する個体が現れたという」
 その語りに、幻介は当を得たという様子で頷き汗を拭った。
「今回はその肉腫を討伐するのでござるな?」
「ああ……そうだ」
 未だ歯切れの悪い仲間に首を傾げつつ、あるき出す幻介。
「なら決まりで御座る。倒そう。全て倒し、京の平和を取り戻したなら……拙者もやっと、姉上と胸を張って会える気がするので御座るよ」

●罰
「裏咲々宮一刀流、参之型――『神断』」
 神速の剣が肉腫に覆われた人形物体の間を波のように通り抜け、鞘に収めたその僅かな振動によってやっと真っ二つに切り裂かれる。
「狂気の苗床と化した者は、もはや分離させることも難しいか」
「不可能ではないとは思うが……」
 別の敵を倒しおえた鎧武者が刀を下ろす。すると、壁を突き破って巨大な触手が出現。たった一瞬にして鎧武者の腹を貫いていった。
「――ッ」
 血を吐き転がる仲間。
 幻介は彼の名を呼びかけることも振り返ることもしなかった。
 できるわけがなかった。
 敵が現れたからか?
 自らにも危機が迫ると察したからか?
 どちらも不正解ではないが。
「幻……す……けぇ……」
 巨大なクラゲ状の物体の中に囚われ、溶けかかった着物から肩を出した姉。
 咲々宮彩柯の姿が、あったがゆえである。
 半透明な物体の中で、ごぼ、と空気を吐き出す。
 その表情は穏やかで、はるかむかし眠りにつく幼き幻介の頭をなでた姉の表情を思わせた。
「おゆう……はん、が……できました、よ……」
 微笑みのまま、手招きの動作をする。
 と同時に触手が伸び、幻介の腕へと巻き付いた。
 巻き付き、そしてちぎる。
「いらっしゃい」
 もう一度の手招き。足首に絡みついた触手が幻介の体を無理やり転倒させた。足首がへし折られたのだと気づいたときには、姉の……彩柯の顔がすぐそばにあった。
「姉上……」
 もっと早く出会っていれば、こうはならなかったのかもしれない。
 差別の横行する中央で、神使である彩柯が高い待遇をえることなどあろうはずがない。山の中であろうと一人でも立派に生きていけるあの女性が、誰かに仕えて生きるはずもない。
 自分のためだ。
 自分を探すため。
 自分に再び会うために、いままで。
「ずっと、いっしょ……よ」
 伸びる触手が幻介の首へと巻き付く。
 かろうじて自由になった片腕で、刀をとった。
「姉上……そうで御座るな」

 そのとき、世界は止まって見えた。
 人も、物も、星や空の色さえも消えて、ただ一本の刀がそこにあるように見えた。
 それだけでいい。
 それだけで、足りる。
「裏咲々宮一刀流、奥義――」
 幻介はまるではじめから決まっているかのように動き。





 死屍累々の屋敷から、一人だけ生存者があった。
 咲々宮彩柯という女性である。
 彼女はやっと再会できた弟を胸に抱き、その名をいつまでも呼んでいたという。

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