PandoraPartyProject

SS詳細

そこには風があった

登場人物一覧

Gone(p3x000438)
遍在する風



 ──Rapid Origin Onlineラピッド・オリジン・オンライン
 それは練達探求都市国家アデプトは練達三塔主の『Project:IDEA』の産物。練達ネットワーク上に構築された疑似世界を指す。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境……なのだが。現在は原因不明のエラーにより暴走中。
 三塔主ゲームマスターの権限の一部をキャンセルし、ログイン中の『プレイヤー』を閉じ込められるという深刻な状況が発生しているのだ。
 そんな状況のR.O.Oへ降り立ったのは我らが無辜なる混沌フーリッシュ・ケイオスの英雄、特異運命座標イレギュラーズ
 その一人、サン──
「…………」

 R.O.Oの案内所には特異運命座標と呼ぶには些か怪しい黒い影があった。
 データによれば『遍在する風』Gone(p3x000438)。黒いローブに大きな鎌、その深いフードで顔色は伺えないその風貌に、誰しもが『敵』と認識しかねないのだが……どうやら特異運命座標の誰かのようだ。
「キョ……シゴ……」
 何か言葉を発しているようだが、その声は酷く低く……また本人も喋りにくそうにしている。
(くっそ……ほんっと喋りにくいなこのアバター!!)
 一体全体何故こんな姿になってしまったのか。このアバターの中身である特異運命座標、『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は心の中で深いため息を吐く。
(こんなアバターのせいで俺どんだけ敵だって勘違いされてるか……はぁ……)
 どうやらこのアバターはサンディ自身がデザインしたものではないのだと言う。確かに彼がデザインしたにしてはどす黒く怖い印象ではあるが……果たしてそんな事例があるものだろうか?
 疑問に思っていても仕方ねえとサンディ改めGoneは、今掲示板に並ぶクエストを見渡した。
「…………」
 R.O.Oには様々な依頼が並んでいる。伝承レジェンダリアから始まり、鋼鉄スチーラー正義ジャスティス砂嵐サンドストーム翡翠エメラルド……各国様々な特色を放っている。
 中でも伝承はあの有名なフォルデルマン二世が生存状態にあると言うのだから驚きの環境と言えるだろう。
 普段幻想レガド・イルシオンでも特異運命座標イレギュラーズ業をこなす彼にとってもネクストは異色的ではあるだろうが、興味の引かれる環境には違いはないだろう。
 ──寧ろこんな姿でもなければ、どんな依頼にでも飛び込んでいきたいところなのだが。
 まぁ嘆いていても始まらない。Goneは心の中で深くため息をついて伝承の依頼を受けるべく操作を進めた。
 あの後にとある依頼を引き受け、伝承での活動を少しずつ始める事になった。

「くそっ……くそ……!! こんなの聞いてねえよ!!」
 それから数日後。
 Goneとは別の新米冒険者数名が伝承でボロボロになりながら、相手を強く睨みつけていた。
「いい具合に不意打ちが成功したと思ったら……てめぇ等、新人だな? ハハハハ……虐めがいがあるってもんよォ」
「そのピッカピカの真新しい装備も一つ残らず奪い取ってやるぜ!」
 下衆な笑いを浮かべるのはこの伝承にも蔓延る盗賊の内の二人。スキンヘッドにトサカ頭と少々……いや、それなりに古臭い風貌で如何にも弱そうな雰囲気を感じさせるが、新米達がやられるには充分な実力のある敵のようだった。
「殆どの新米ってのはあまり金目の物を持ってねぇが、中には金で物を言う奴も居るから侮れねぇ」
「この前の新米なんかは豪華な装備をしてやがったなァ! ま、俺達が身ぐるみ剥いでやったけどよ。ギャハハ!!」
「実力が装備に追いついてねぇってな! ガハハッ!!」
 好き勝手言う盗賊達に新人冒険者は悔しそうに彼等を睨む。
 確かにそれは有り得る。強い装備を集める事に集中し過ぎてレベリングを怠ってしまったと言うR.O.Oここの新米達はそれなりに見かけた。そこを偶然か意図的なのか、上手い事この盗賊等は狙っているのだろう……なんて卑劣な手段を使うのだろうか。そう彼等は項垂れる事しか出来ずにいた。
「このまま大人しくやられるしかないのか……?」
「だが俺達じゃ、こいつ等を全然倒せなかった……ぐはっ」
「おい! くっ……混沌での俺達なら全然勝てる相手だってのに……ッ」
 盗賊達にまた一人、また一人とじわじわ追い詰められる冒険者達はリセットされるレベルを恨めしく思う。そりゃ最初から高レベルで始められる者等そこまで多い訳でもないが、しかしこれまでの混沌戦いの実績を人並みにでも積んできた者としては、なかなかどうして悔しい状況であろう。
「何をごちゃごちゃ喋ってんだ? あ?」
「ハハッ、別に良いじゃあねぇか喋るぐらい。コイツ等はもう逃げられやしねぇんだからよ」
「それもそうだな」
「さ、早いとこトドメを刺してやろーぜ!」
 盗賊はギャハハ、ガハハと高らかに笑う。何か方法は、ここを切り抜けられる方法は……最後の一人にまで追い詰められた冒険者は先程から幾度となく思考を巡らせるが真っ白になるばかりだ。
 もうこれでお終いかもそれない。……そう思いかけた時



 ──ふと、風が吹いた。



「あ? 風……?」
「なんだよ相棒、風がなんだってんだ?」
 一人の盗賊はふと風に違和感を抱く。先程まで無風だったこの場に突如として発生したもの。
 突風ならそれまでだが……さて、この風は一体どこから来ているのか?
「一体何が……ぁ?」
 盗賊に武器を突きつけられたままの冒険者はふと気づく。自分のの動きがおかしい事に。
「な、なっなんだ……また、てっ、敵か?!」
「今度は何が……今度こそ死ぬ、のか……?」
 R.O.Oでは死の概念はなく、所謂死に戻りが出来るゲームではあるのだが……やはり死ぬのではないかと言う状況下は誰であっても恐怖の対象で。
「もう勘弁してくれェ……」
「死にたくねぇ……死にたくねぇよォ……」
 泥のように泣き叫ぶ冒険者の情けない顔と言ったらないだろう。この世界に降り立った瞬間は誰しもが勇ましく余裕気に武器を奮っていたというのにこの有様である。
 こんな状況を混沌の知り合いの誰かに見られでもしたら……それは彼らの歴史に墨汁を塗りたくられたようなものである。
 だがそれでも彼らは怖いのであろう、この未知なる影が。
「何をごちゃごちゃ騒いでやがる!? ほら、トドメを指してやるぜ!!」
「うわあぁぁッッ!!」
 風に気を取られていた盗賊はまだその影に気づいてはいなかった。そのまま盗賊は勢いよく冒険者へ武器を振り落とそうとする。冒険者への殺意は強く、ギャハハとした不愉快な笑いが周囲に響き渡るであろう。

 ──それはその時だった。
「ぐがぁっ?!」
 そんな声が聞こえたかと思えば、武器を振り落としたと思われた盗賊を次に見た時には少し離れた場所で倒れていた。
「あ?! お、おい相棒!? んでそこで転がって?!」
 冒険者にも一瞬の事過ぎて頭が追いつかなかった。
(な、何が起こってるんだ……?)
 心当たりがあるとすれば、そう。
「ぁ、え……」
 冒険者が恐る恐る後ろを振り向けば目を疑う。は自分のから伸びる黒い何か。嗚呼、これは……紛れもなくだと思う。
 カタカタと震える冒険者は身動きが出来なかった。恐怖で動けなくなると言う事はきっとこう言う事なのだろうと悟る。
 俺達は一体コイツにどう殺されるのか……ただそれだけしか考えられなかった。

「な、なんだァてめぇ!! 獲物の横取りたァスカしてんじゃねぇか!? ……へっ! お前、この辺りじゃあ見かけねぇなァ……ちょいと痛い目見せてやらァ!!」
 吹っ飛ばされた相棒の存在でこの陰に恐れを抱くもう一人の盗賊だが、ここで逃げ出せば奪ったもの全部が台無しだ。
 ここは、と意地でその陰の前へ立ち襲いかかる。
「…………」
 そう勢いよく襲いかかってきた盗賊を、陰はスッと一つの動きで避けた。
「くぁっ?! くそ……まぐれで避けやがって……ぅおらァ!!」
「…………」
 盗賊の度重なる攻撃に陰はスッスッと回避していく。冒険者から見ても並ならぬ者だと言うことがわかる。
「ってて……って、ぉい!! 何遊んでんだ相棒!!」
「遊んでねぇよ相棒!! こいつがちょこまかちょこまかと……くそ!!」
 倒れていた盗賊も加わり二対一の状況になっても、陰に攻撃が当たる事は無い。相当に回避力が積み上げられている様子だった。
「くそっ!! おい早く捕まえろよ!! お前が捕まえられれば俺が痛めつけてやるのに!!」
「ハッ!! それはお前の役目だろ!! 俺がこいつを殺してやるんだからよォ!!」
 次第に盗賊達は身内で言い争いを始め連携が乱れてきた頃。
「…………クゾ……」
「あ? グハッ?!」
 持っていたその大鎌で一振り……陰は漸く回避以外に動きを見せた。
「あ、相棒!?」
 あまりにも簡単にやられた相方にもう一人の盗賊は尻もちをついた。
「ってぇ……くっそ……あ?」

 そして目の前には──あの陰。

「な、なななんだよ兄ちゃん、つえーんじゃねぇか! 参ったぜ? あはは!」
「…………」
「なぁ? ここは見逃してくれよ? 盗ったもんは全部返すからさ、それでいいだろ? なぁ?」
「…………」
 先程までの下衆笑いは向こう彼方のようで、最後に残った盗賊は陰に命を乞う。
 そんな様子に陰は無表情で大鎌の刃を突きつけた。
「…………リダ……」
 聞き取りにくいその声の刹那──盗賊は隙をついて逃げ出した。

「…………」
「ひっ!?」
 盗賊を遠目に見届けた後に冒険者の方へ振り返ると、一部始終を見ていた冒険者達の陰への警戒心は非常に高まっていた。
「…………ハァ……」
 陰は深くため息を着くと、冒険者とは違うルートで街へ向かう事を決めた。



(せっかく助けてやったのにー。まーしかたねーか)
 その陰の正体がサンディであった事など、誰が気づけるだろうか。

  • そこには風があった完了
  • NM名月熾
  • 種別SS
  • 納品日2021年07月03日
  • ・Gone(p3x000438
    ※ おまけSS『おまけSS「冒険者のその後」』付き

おまけSS『おまけSS「冒険者のその後」』



 『遍在する風』Gone(p3x000438)が現場を去った後。冒険者達は今回の戦いを振り返っていた。
「……あの黒い奴が来なかったら……俺達はマジでやられてたんだよな……?」
「まだR.O.Oここに来たばかりで油断してた……盗賊でもあれだけやれる奴がいるなんて、な……。俺達もちゃんと鍛えておかないと……」
 はぁと深い溜息がこの場をどんよりさせる。
「あの黒い……陰? ほら、死神みたいな格好してたけどさ、よく考えたら助けてくれたんじゃねぇか?」
「あ? 何言って……あんな以下にも敵みたいな……」
「言うけどよ、俺達あの黒いのに何もされてねぇぞ?」
「え、あ?」
 よくよく考えてみればそうなのである。あの見た目でこちらが勝手に敵だと判断はしたが、あの黒い方は最初から盗賊のみを敵だと判断し追いやってくれた。
 冒険者達はというものの、ビビり散らかして……その様子に気でも使ったのか、あの黒いやつは冒険者達とは違うルートでどこかへ行ってしまったのだ。
「……やべぇ、悪い事しちまってたな……」
「助けてくれたのにあの反応は……流石に反省しないと、だよな……」
「今度会ったら例の一つでも言わねぇと、な!」

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