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『魔法少女セララNovice 第三巻 怪人博士ロスヴィータ』
登場人物一覧
- セララの関係者
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近頃話題の魔法少女と言えば、それはセララだ。
すっかり秋葉原の顔となった彼女は、街を脅かす怪人が現れるたびにこれを退け勝利していく。
その活躍の様たるや、本人の可憐な容姿も相俟ってさながらアイドルの如く。勝利のポーズを決めるたびに周囲からは拍手喝采と激写の嵐。
SNSのトレンドにセララの名が挙がらぬ日は無く、彼女の魔法少女としての活動は順風満帆そのもの。
目的のカードも確実に集まりつつある状況で、相棒のたぬぽんもセララに全幅の信頼を置いていた。
「これでトドメだ! セララスラーーーーーッシュ!!」
「グエーッ!!」
今日もまた怪人が現れ、駆けつけた魔法少女セララが危なげなく退治したところだった。
最早紹介すら省かれたモブ怪人の核となっていたマジカルカードをキャッチし、その勢いのままくるりとターンしてキメ!
待っていましたと言わんばかりに巻き起こる声援がやんややんやと盛り上がる中、たぬぽんがむふふとニヤけてカードを回収した。
「いや~今日も大手柄ぽん、セララ! もうぼくが教えることはなにも無いぽんね~」
「えへへ……そ、そうかな?」
「いよっ、期待の大新星セララ! その調子で残るカードも頼むぽん! 既に折返しは迎えてるし、このペースならそう遠くないうちにきっと集め終わるはずぽん!」
「うんっ、ボクにまかせて! だーいじょうぶ、ダークデリバリーの怪人なんて、ぜーんぶボクがやっつけちゃうから!」
調子良くおだてるたぬぽんに、まんざらでもないセララ。
しかし事実、セララの魔法少女としての素質は想像以上のものだった。
世に魔法少女は数あれど、一年に満たないキャリアでこうも活躍する娘は少ない。
特に先立ってのダークデリバリー幹部、百獣怪人メギガマルの撃退は、数々の魔法少女を目撃してきたたぬぽんにとってもとびきりの快挙だ。
まだ半年にも満たないルーキーにも関わらず戦績はベテランのそれ。たぬぽんも思わず大絶賛。
そして良い子のセララは褒められるのが素直に嬉しいので、えへえへと表情を緩めて笑顔を返す。ウサ耳リボンもピコピコ。可愛い。
――しかしそんな彼女たちの頭上に突如として暗雲が差した!
『ほう……聞きしに勝る実力だな、魔法少女セララ』
「! 誰っ!?」
頭上から降り注いだ拡声音。
敵意に満ちたそれにセララが視線を彷徨わせた先は遥か上空。
それはミョインミョインと奇っ怪なエフェクトを響かせて浮遊する未確認飛行物体。
いわゆるUFOというやつだったが、カラーリングのせいでそれはお皿に乗ったプッチ◯プリンのようにも見えた。
「お、おいしそう……じゃなかった! 何者だー!!」
『クックックッ……』
ミョミョミョと唸りを上げて伸びたトラクタービームの中から一つの影が降臨する。
その姿を認め、セララは驚愕の声をあげた。
「お……女の子!?」
姿を現したのは、セララと然程変わらぬ齢の小さな少女。
だぼだぼの白衣に帯びたいくつもの試験管。真っ白な髪に爛々と赤く輝く瞳はまるでウサギのよう。
しかしその顔に張り付いた笑みだけは、ニヤニヤと悪意に染まって歪んでいた。
「お初にお目にかかる。私の名はロスヴィータ……怪人博士、ロスヴィィイイイイイイイイイタ!!!!
魔法少女セララ! 貴様に引導を渡す者の名だぁああああああああああああああ!!!!」
「わ、テンション高い!」
セララの前に降り立つや否やハイテンションで名乗りをあげたロスヴィータにセララは目をぱちくり。
しかし彼女の名乗った”怪人博士”の異名に察しがついて、次の瞬間には油断なく剣を構えていた。
「もしかしなくても……ダークデリバリー!!」
「ククク……いかにも! 『あなたの心の闇に悪をお届け』でおなじみダークデリバリーの四天王、ロスヴィータ様だ!」
「てことはこないだ戦ったマル……マル……ド◯ガマルの仲間!」
「おいやめろ! アイツの名前はメギガマルだ! メ・ギ・ガ・マ・ル!
メガでギガでアニマルな百獣の王! 二度と間違えるんじゃあない!!」
「えっ、ごめん」
「悪の組織にも越えてはいけないラインがあるのだ。コンプライアンスとか著作権的に」
そういうものらしい。
「コホン。ともあれ……ようやくお目にかかれたな、魔法少女セララ。
貴様の活躍は全て調査させてもらったぞ……なるほど、奴が敗走するのも頷けるスペックだ。
類まれな戦闘センス、溢れ出る正義の心、そして他に類を見ない隔絶した魔力量……どれもが脅威的と言える」
「えへへ、まいったか! 悪者なんかには負けないもーん!!」
堂々と胸を張るセララ。その姿は虚勢などではなく、実績に裏打ちされた確かな自信だった。
しかしそれを見てロスヴィータはますます笑みを深め、同じく胸を張って声を張り上げる。
「だがしかぁし! 頭脳明晰なるこのロスヴィータ様には、貴様の弱点なぞまるっとお見通しなのだぁ!!
ゆけぃ、我が配下達よ! 魔法少女セララを引っ捕らえろ!!」
「むっ、やっぱりきたなー! えーい、返り討ちだ!!」
ロスヴィータが命令を下すと同時、UFOから転送された戦闘ロボがセララを取り囲む。
これまで戦ってきたダークデリバリーの怪人たちとは毛色の違う、全身機械の戦闘マシーンたち。
彼らこそロスヴィータが”怪人博士”の異名で呼ばれる所以。
ダークデリバリーきっての頭脳と技術力を誇るロスヴィータは、マジカルカードに頼らずとも戦力を量産可能!
素の実力では四天王最弱ながら、四天王最大の戦力を誇る大幹部……それが怪人博士ロスヴィータなのだ!
「むむむっ、そんじょそこらの怪人より強いかも! だけどボクだって強くなってる! せりゃーっ!!」
されどセララも大したもの。
成り立ての頃と比べれば魔法少女として大きく成長を果たした今のセララにとって、多少数を揃えどもこの程度の敵、なんということはない。
強く、硬く、素早い機械兵たちだが、サンダーのカードによる雷撃魔法、そしてすっかりおなじみとなったセイバーのカードによる卓越した剣技の両方を駆使し撃破していく。
ダブルインストール――強敵メギガマルとの戦いで編み出したセララの切り札。
雷撃と剣閃による連携で機械兵たちをショートさせ、その隙に動力部を断ち切って沈黙させる。
見るも見事な戦いぶりに、ロスヴィータは「ほう……」と感嘆を滲ませ、興味深そうに観察していた。
「これで……終わりっ! 残すはキミだけだ!」
「これはこれは……雑兵共では相手にもならんか」
数秒の後にはセララを取り囲んでいた機械兵たちは全て撃破され、勇者パースで構えられた剣の切っ先がロスヴィータに向けられていた。
しかしロスヴィータもまた余裕を崩さず、ポケットからラジコンサイズの機械を取り出すと……
「だが私の想定内だ。ポチっとな」
「なにを……えっ!?」
その中央にある如何にもな赤いボタンを押した。
訝しむセララ。その疑問の声はすぐに驚愕へ変わった。
「な、なんで……雷が出せない~~!?」
「これが貴様の弱点だ、魔法少女セララ。ダブルインストール……と言ったか? なるほど大した技だ、脳筋のメギガマルでは対処できないだろう。
しかぁしこのロスヴィータ様の技術力を以てすればその程度の術式を乱すマスィーンの創造など容易い容易い!!
ククク……繊細な魔力運用を必要とするのが仇になったな。この魔力ジャマーの中ではダブルインストールは使えんぞ!!」
「そ、そんな……!」
「そして再びゆけい、我が配下達! 今度こそ奴を引っ捕らえるのだぁ!!」
窮地に陥ったセララを更に追い詰めるべく、ロスヴィータが新たな機械兵たちを転送する。
戸惑いながらも応戦するセララ。しかし如何に卓越した剣技を以てしても、剣撃だけでは機械の身体には分が悪い。
劣勢に追い込まれるセララ。最早万事休すかとセララが歯を食いしばったその時、たぬぽんの声が届く。
「きっと……今のセララなら……」
「たぬぽん……?」
「セララ、キミの信じるカードを掲げて! ――ユニゾンインストール!」
「えぇっ!? ゆ、ユニゾンインストール!!」
咄嗟の指示に戸惑いながらもセララが掲げたのは、これまで何度も頼りにしてきた『セイバー』のカード。
魔法少女セララの剣技の根源とも言えるそのカードがセララの身体から飛び出て浮かび上がり、燐光を纏って輝き出す。
そしてもう一枚……それは『魔法少女』のカード。
セララが魔法少女足り得る全ての理由。全ての力の根源を為すカードが同じく輝きを纏い、『セイバー』のカードと一体化する!
「成功したぽんセララ! 創出(クリエイト)――」
「――『魔法騎士(マジックナイト)』、インストール!!」
「な、なんだ!? 何が起こっている!!?」
想定外のイレギュラーに戸惑うロスヴィータ。
狼狽える彼女の前で眩い光に包まれて、今ここにセララが新生する。
「魔法少女……ううん、違う。魔法騎士――魔法騎士セララ、参上!!」
「魔法騎士……だとぉ!?」
ダブルインストールのその先、ユニゾンインストール。
2つの力を同時に使うのではなく、1つに束ねて使う力。
その効果は加算ではなく乗算……いいや無限大。
セララの正義の心が燃え上がるほどに、際限無く力は高まっていく。
そしてその魔力の奔流は、魔力ジャマー如きで掻き消せるほど弱くはない!
「ええい何が魔法騎士か! ゆけっ、囲んで痛めつけて」
「そうはいくもんか! 必殺――」
「こ、この魔力の高まりは――!?」
輝く両手剣を腰溜めに構えたセララ。
爆発的に高まる魔力を刀身に込めて……
「――セララ、ストラアアアアアアアアアッシュ!!!」
「こ、こんなはずではぁああああああああああ!!???」
解放。広がる極光の輪、閃熱の激流。
放たれた必殺の回転斬りは、無数の機械兵諸共ロスヴィータを呑み込んだのだった。
おまけSS『三段笑いさせたかった』
「負けた負けた負けた負けた負けた……この私が……うあああああああああああああ!!!!!」
ダークデリバリー本拠地、ロスヴィータの部屋。
無数のモニターと実験器具、作業機械に囲まれたその部屋で、屈辱に震えるロスヴィータの声がこだまする。
絶対の優勢からまさかの逆転、ユニゾンインストールという新技を会得したセララのセララストラッシュから命からがら逃げ延びたロスヴィータは、帰還してからというものずっと悔悟と屈辱に引きこもっていた。
「私の調査は完璧だったはずだ……機械兵だってまだまだ用意してた……魔力ジャマーだって誤動作もなく万全だったのに……それなのに……それなのにぃいいいいいいいいい!!!!」
初めてだった。こうして己が窮地に追いやられるのは。
ダークデリバリーきっての頭脳派、ロスヴィータ。
発明力、技術力、情報処理能力に長け、万全の態勢を以て事に臨み、あるべくして成果を掴む少女は、故にイレギュラーというものに弱かった。
というよりは、普段何事も優勢と余裕をもってこなせてしまえる分余計に打たれ弱い。
故にロスヴィータは――滅多にあることではないのだが――壁にぶつかったとき、こうして引き篭もって泣き喚くクセがあった。
お気に入りのハツカネズミのぬいぐるみを抱いて、ベッドの上でごろごろじたばた。ぬいぐるみに顔を埋めてしくしくと。
なんだかんだ言って年頃の少女……なのかもしれない。それはさておき。
「――さんぞ……」
やがて平静を取り戻したロスヴィータは、泣き腫らした両目を上げてモニターの一画を睨む。
そこに映し出されているのは人々の賞賛を受けるセララ。
己という悪を退けて拍手喝采を浴びる、にっくき正義の味方の姿だった。
「絶対に許さんぞ魔法少女……いや、魔法騎士セララ!!
今度こそ今度こそ今度こそ! 私の最強無敵絶対邪悪究極ダークネスモンスターで仕留めてやるからなああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!!!!!!!!」
ぬいぐるみをセララの映るモニターに投げつけ、拾い、抱き締めて。
ぐしぐしと残った涙を拭って大きな培養槽の前に立つ。
「ククク……”コレ”さえ完成すれば……あのセララと言えども……!!
しかしそのためには今しばらくの時間が……他の四天王にも働いてもらうか……調査も継続して……クックックッ」
ケミカルな溶液に満たされた培養槽の中には、ゆらゆらと揺蕩って眠る不穏な影。
それを愛おしそうに眺めながらロスヴィータはガラスの表面を撫で、いつの間にかすっかり元の元気に邪悪な笑みを取り戻していた。
「今のうちに精々栄華を誇るがいい、魔法騎士セララ。貴様を倒すのはこのロスヴィータ様だ!
クックックッ……フハハハハハ……ハーッハッハッハッハッハッハ!!!!!」
――不穏の眠る密室に、悪しき三段笑いが高らかに響き渡った。
To be continued――→