PandoraPartyProject

SS詳細

とある少年と青年のでぇと?

登場人物一覧

柳田 龍之介(p3n000020)
若き情報屋
透垣 政宗(p3p000156)
有色透明

 その日は初夏だというのにローレットギルドは地獄の釜で煮られているような気温だった。
「暑い」と机に突っ伏しているのは情報屋年少組の柳田龍之介。邪悪に人一倍敏感であっても、笛を吹いて羊達と遊んで暮らせるとは限らない。情報屋としての仕事が無い内は、こうやってギルドの細かい事務を手伝ってその食い扶持を繋いでいた。
 だが仕事場でも身の丈に合わない制服を着込んでいるせいか、内側の肌着がじっとりと纏わり付いて気持ちが悪い。これで美女美少女が隣に居るとあらば、少年は喜んでその場に張り付いただろう。しかし周囲を見回してもがらんどう。目付のおやっさんも水を汲みに席を外している。
 少年は卑しい顔付きでにやけた。こんなものは夏休みの宿題の如く、後でやればいい。そんなつもりで逃げ出した。
 
 目付に見つからない様に早足で廊下を歩いていると、不注意にもイレギュラーズの一人と体がぶつかった。
「だいじょうぶ?」
 龍之介はその声で女性のヒトだと思い、反射的に「気にする事はございません!」と気取った言葉を返す。
 相手がそれに吹き出したので、不思議に顔を上げてみると、少年と顔見知った男性が微笑ましそうに龍之介を見下ろしていた。
 ――男性、とは書きはしたが。この『透垣 政宗』という青年は、白く透き通った艶めかしい顔立ちのものである。彼を女性と見間違うギルド員は龍之介に限った事ではない。
「この前は純情を弄んでごめんね」
 とはいえ、勘違いしたまま堂々と彼を口説くは者は少ない。政宗からそういった謝罪が向けられ、龍之介はその失礼な勘違いを思い出して申し訳無さと恥ずかしさに頬が熱くなり、ひどく赤面した。それらの事も含め、突然体当たりをしてしまった事に頭を下げる。
「きゅ、急にぶつかってごめんなさい政宗さん」
「気にしなくていいよ。それより、暑いのにお仕事ご苦労様。汗を掻いている様だけど、アイスでも食べに行く? 外の方が涼しいよ」
 さして気にしていない政宗は、汗ばんだ龍之介を見てそう言った。本当に外の方が涼しいか、元々汗を掻き難い性質なのだろう。政宗は涼しげな顔立ちで笑んでいる。
(政宗が気前良く誘ってくれているのは目付役のおやっさんが鬼の形相で龍之介を捜し回っていたのを目撃した事もあっての事だが、龍之介はそれを知る由もない)
 どちらにせよ、それについていけば龍之介にとって地獄の釜から逃げ出す口実にはなる。そう考えた龍之介は「イレギュラーズ様の御用命とあらば!」と芝居がかった振る舞いで政宗の後ろをついていき、他の情報屋を尻目に悠々と外出して行くのである。
 情報屋の先輩陣から呆れた視線が投げかけられた様な気がするも、龍之介にとってはこの場を逃げ出す事の方が先決であった。何せ、敬愛するイレギュラーズ様とお食事が出来るというのならばそれ以上に喜ばしい事はない。

「さぁ、好きなものを選んで。今日は僕のおごりだから」
 喫茶店のテーブル席に着くなり、政宗は得意げに言った。龍之介は促されるままにメニュー表を見て、数字の多さに少々狼狽する。忘れていた。外食のアイスはほとんどの場合、安くない。それ以外の菓子だってそうだ。
 政宗含む彼らイレギュラーズが生業とする依頼の多くは命がけである。つい先日も政宗自身が危ない依頼に出立するのを見送っただけに、龍之介は政宗の顔色を窺った。
「アイス、嫌いだった?」
「いえ」
 当の政宗は注文に逡巡している龍之介の顔を見て、困った様な顔をしながら微笑む。その表情を見た龍之介は、反射的にこう答えた。
「政宗おにぃちゃんと同じものが食べたいなぁーって♪」
 甲高い猫なで声をあげながら、わざとらしい媚びた笑みを浮かべた。こうすれば大概、は相手が呆れ返ってくれるから、お互い難しい考えをしなくていい。これが少年なりの経験則だ。
 ――ただでさえ、イレギュラーズ様は依頼の度に苦心なされているのだ。私が彼らの負担になるなんて、あまりに恐れ多い。
 笑顔の内側で少年はそんなつまらない事を考える。
 その笑顔を見た政宗は、満面顔でいる龍之介の頭をポンポンと優しく撫でる。気を良くした龍之介もそれに調子に乗ったのか、彼の腕にごろごろと擦り寄って「政宗お兄様お子様ランチが食べたいです~」と媚びた声をあげる。
「そういう風に我慢しなくていいんだよ」
 龍之介は瞬間、ぎこちない風に表情を固めた。その本心を政宗も知ってか知らずか、宥める様に言ってみせる。
「僕はこう思ってるんだ。龍之介くんは幼いのに情報屋として頑張っていて偉いなぁ、って、善良で未熟で可愛いなぁ、って思ってる」 
 また別の本心を見透かされた様に感じたか。あるいは善良、未熟と言われた事に対してか顔を真っ赤にする龍之介。
「んなぁッ……!!」 
 僕は一人前だとか未熟じゃないとか、男児に対して可愛いというものではないだとか、先程の内心を誤魔化す事も含めて反論をまくし立てようとしたが、感情の余り口から音が出てこない。その様子にまた政宗が吹き出す様に笑う。
「っ…………ち、チーズケーキアイスを所望します」
 このまま変な媚び方を続けるのは分が悪いと思い、龍之介は面を食らった顔をしながらもアイスが来るまで大人しく席へと座る事にした。

 龍之介がアイスを食べる合間、政宗は頬杖ついて微笑みながらその様子を眺めている。
 なんだろう、仕事の話でもあるのだろうか。そう思った龍之介は相手に声をかけた。
「何か私の顔についてます? もしかしてチーズケーキの方がお好みだとか」
「うぅん、そうじゃなくて、なんだかこういうのって――」
 唇に人差し指を当てて、“んー”としばらく考える仕草をした後。思いついたという風に政宗は言葉にする。
「でぇと、みたいだね?」
 盛大にむせ返る龍之介。喉のアイスが気管にでも入っただろうか、えらく咳き込んだ。女性だと誤解して一目惚れした覚えがあるだけに、少年にとって心臓に悪い。
「……仕返しにからかおうと呼び出したんですか?」
 涙目で訴えられた政宗は、とんでもないという風に左右に首を振る。そして横に座る龍之介の頭に手を伸ばしてから、こう言った。
「撫でたり、褒めたりしてあげたかったんだ。だって龍之介くん、色々頑張ってるんだもん」
 過大評価ですよと龍之介は一笑しようとするが、政宗は撫でながら言葉を続けた。
「僕は龍之介くんが他人の痛みに心を痛められる子だって思ってる。こういう時くらいは息抜きしても許されるんじゃないかな?」
 そのまま優しく撫でられ続け、次第に言葉が出なくなる龍之介。
 ……理解した上で言っているなら僕みたいに背伸びした子供の扱いが上手いのだろう。理解してない上で言ったのなら、なんというか、『そういう人』なんだろうなぁ。
 政宗の情報屋に対する心遣いに、ありがたさと拭い切れない物悲しさを感じながらも。相手が撫でやすい様に政宗の体に頭を寄せた。
「…………事件が無い時くらいは息抜きは許されますよね。お互いに」
「? うん、お互いに!」
 首を傾げながらも、政宗は屈託の無い笑顔を浮かべた。
 ――神様、どうか平和が訪れるまでこのイレギュラーズ様も危険な目に遭いません様に。
 龍之介はその顔を見上げながら、それだけ呟いた。


 余談。
 目付のおやっさんにこっぴどく叱られた龍之介は、たまりにたまった仕事を夜通し処理したという。 

  • とある少年と青年のでぇと?完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別SS
  • 納品日2019年08月11日
  • ・透垣 政宗(p3p000156
    ・柳田 龍之介(p3n000020

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