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蛍と珠緒の話~距離をなくして~

登場人物一覧

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻

 希望ヶ浜でチョコ作りに腐心したふたりは、見事立派なチョコレートを作り、交換し合った。
 というわけで帰宅しまして、ここは桜の杜。木々の合間に立てられた庵からは、甘い香りが風にのって漂ってくる。縁側で蛍と珠緒のふたりがチョコレートを取り出したのだ。蛍が急須からお茶を入れると……。
「あ、茶柱」
「いいことがあるのでしょうか、それともあったのでしょうか。珠緒はもうありましたよ」
 などと言いつつ珠緒は蛍の作ってくれたチョコレートを掲げる。大きなハートにたくさんの金平糖が散らしてあるものだ。友情の青をざらり、尊敬の黄をざくり、そして愛情の赤はたっぷり。
「こんなにうれしいものを頂いて、珠緒はどう応えればよいのでしょうか」
「そ、それは……言ったとおりよ。金平糖を食べる順番でボクへの返事をしてくれたら嬉しい……」
「わかっているのに珠緒にさせるのですか、蛍さんは意地悪ですね」
「そそそそんなことないよ! 意地悪するつもりなんてない! えっと、もし、嫌だったらやめてくれてもぜんぜんいいし……」
「嫌などといつ申しましたか。珠緒の気持ちはとうに伝わっているものと思っておりました、それだけです」
「珠緒さん……」
 微笑む珠緒は美しい。あふれんばかりの優しさ、儚さ、柔らかさ、それでいて芯の強さ。なんと変わったことだろう。日々洗練されていく珠緒の魂へ自分は引かれてやまない。
 混沌へ来る前の珠緒の身に何があったか蛍は知っている。神威都市『邪摩都(やまと)』。ただ形ばかりきれいなだけの都市で、珠緒はひとりぼっちだった。それでもそこを守ると決めた珠緒の強さに、己への厳しさに、蛍はこっそりと涙したものだった。
 そして決めた。自分が珠緒の帰る場所になろうと。なにがあってもふたりで進んでいこうと。そのために研鑽を積んだ。教科書は異形と化し、学生服は見た目も変わってしまったけれど、後悔はない。桜と共にある自分が誇らしい。
 一方、珠緒のほうも蛍を慕っていた。彼女へ心を開き、変わっていく自分がいやではなかった。ひとつ心配な点があるとしたら、自分はまだきっと蛍にふさわしい一角の人物ではないということ。立ち上がることもできなかったあの頃に比べれば、様々なものを手に入れたが、それは「すべて」と付けてもいいほどに蛍のおかげだ。こんなに頼ってばかりで、守られてばかりで、自分は本当に蛍にふさわしいのだろうか……。
 揺れ動くこの心も、蛍がくれたものだ。だからこそ、大切にしたい。喜びのシーンすべてに蛍がいる。何者にもかえがたい人であるから、二人でひとつでありたい。これから先、ずっと。
「蛍さん」
 珠緒は笑みを浮かべながら蛍を見つめた。
「なぁに、珠緒さん」
「チョコレートをいただいてもよろしいですか」
「う、うん! もちろんよ! ボクも珠緒さんのあとにいただくね!」
 緊張の一瞬、珠緒はどの金平糖に手をかけるのだろうか。ここまで振られておいて別の色だったら蛍は大ショックだ。珠緒の白い手が大きなハートの上をさまよい、ひとつの金平糖をぷちりとつまみとる。それは赤、たっぷりと飾り付けられた、夕焼けのような、炎のような色。
「やはり愛あればこそ、と申します」
 すました顔は、ちゃんとできているだろうか。珠緒は頬が熱い。あまりみっともない自分を蛍に見られたくはないのだけれど、そんな部分もわかちあっていけたらいい。
「珠緒さん……!」
 蛍は感激した様子で珠緒の手を取った。
「赤を選んでくれたのね、ボクとってもうれしいよ!」
「はい、ええ、他の選択肢など、珠緒には想像もつきません」
「珠緒さんっ!」
 蛍は珠緒をぎゅっと抱きしめた。
「心拍数がかつてないほどに上がっていますね、蛍さん」
「だって珠緒さんがあんまりうれしいことを言ってくれるから……」
「……蛍さん、失礼ながら、若干苦しいです」
「はっ! ご、ごめんなさい珠緒さん!」
 珠緒を手放した蛍が後ずさる。そこまでしなくともと珠緒は苦笑した。さてと珠緒はチョコレートを水平に顔の前にかかげた。ゆっくりと回してみるも、どこへ口をつければいいのかわからない。
「変な割れ方をすると気分が損なわれそうですが……」
「ボクは気にしないわ珠緒さん」
「では遠慮なくいただきます」
 カリッとチョコレートをかじる珠緒、その一口といっしょに赤い金平糖も口の中へ。静かにもぐもぐしている珠緒を、蛍はぼんやりと眺めた。
(食べてくれた……珠緒さんが、ボクの愛といっしょに……)
 胸の奥へ喜びがふつふつと湧いてくる。
 蛍は自分のチョコレートを見た。すべての色を、愛とともに添えてくれた我儘欲張りセット。その心遣いに胸ときめかせ、目を閉じて一つを口にする。珠緒の愛は深く甘い。
(今日ほど、『お友達』から『恋人』へ天秤が傾いたことはないっていうくらい、珠緒さんを意識しちゃってる……)
 まぶたを閉じたわずかな暗闇の中でも、珠緒の姿は色褪せない。
「蛍さん」
「なぁに?」
 意を決したような珠緒の声に、蛍はすこしあわてた。
「よろしければ今夜、いっしょにお風呂へ入りませんか」

 ふたりで風呂へ入るのは、ひさしぶりだ。
 この世界へ来てからすぐは珠緒は要救助者扱いだったから、風呂へ入る時も蛍が様子見がてらくっついてくることはあった。だがそれも昔の話、それなりに健康になり、自分の世話をできるようになった珠緒はひとりで湯を使うようになった。
(それをいっしょに入りたいというのは、あれよね。恋人として、扱ってほしいということ、よね?)
 蛍の顔がぼんと赤くなる。
 いやでも、もしかしたら珠緒は甘えたいだけなのかもしれない。
 裸の付き合いというやつに憧れているだけなのかもしれない。
 思考が混乱する。それは脱衣所の珠緒を見た瞬間、停止した。
「珠緒さん、かくして!」
「どこをでしょう?」
「前とか、あのボクには、いろいろと刺激が強いから!」
「今からご一緒しますのに」
「そ、そうだけど、とりあえず深呼吸させて」
 背を向けて肺の空気を入れ替えるとすこしだけ理性が戻ってくる。
 珠緒は裸だった。血の気の薄い肌が雪花石膏のようで女神像かと思った。思わず触れたくなった自分がひどくよこしまな気がして、蛍は念仏のように「珠緒さんは17才、珠緒さんは17才」と唱え続けた。
「風邪を引きそうですので、先に入りますね」
「うん、待っていて。すぐ……なるべくすぐ、行くから」
 珠緒は宣言どおり、浴室へと消えた。蛍はぱぱっと脱いで、ものすごく悩んで、かつて珠緒の付添をしていたときのように湯着を着た。なんというか、そうしなければいけない気がしたからだ。風呂場の扉を開ける蛍。その姿を見た珠緒は、きょとんと目を丸くした。
「なぜそのようなものを着ていらっしゃるのですか」
「そ、それはね、うん、ないしょ……」
 珠緒は洗い場で、すこし足を崩して座っていた。
(す、据え膳)
 蛍は顔をそむけ、深呼吸を乱発した。
 なるべく彼女の方を見ないよう視線をそらしたまま珠緒へ近づく。
「あのね、珠緒さん、すこし聞いてほしいのだけれど」
「なんでしょう」
「珠緒さんはとってもきれいなの」
「ありがとうございます」
「だからね、ボク、自分を抑えられなくなりそうで怖いの。珠緒さんのこと、恋人だと思ってる。それ以上にはなりたいけれど、それ以下には絶対になりたくない」
 蛍は「わかってくれる?」と眼差しで珠緒へ問うた。だが珠緒は悲しげな顔をしている。
「……自分だけが恋人だと考えているなどと、どうして思っているのですか」
 珠緒は切なげな瞳で蛍を見つめた。その視線は何よりも雄弁だった。
「珠緒は、いちゃいちゃというものを、してみたかっただけなのです」
 ほんのりと頬を染めて告白する珠緒。ああ、想いはひとつなのだ。回り道していたのは蛍の方。
「……珠緒さん、ごめん。ボクちょっと勘違いしてたみたい」
「いえ、蛍さんが珠緒を大事に思ってくれているのは伝わりました」
「これ、脱いじゃうね」
「はい」
 するりと湯着を脱ぎ捨て、蛍の素肌があらわになる。
「それじゃ、背中を流そうかな、昔みたいに」
「お願いします蛍さん」
 蛍は石鹸をふわふわのタオルで泡立て、白い背中へそっと触れた。しゃわしゃわと優しく背中を流していく。泡に包まれた肉付きの薄いからだがまぶしかった。洗い終えると同時にふと、いたずらごころに火がついた。
「珠緒さん、ひとついいかしら」
「なんでしょう」
「えいっ!」
「あら、ふふふ」
 蛍は珠緒の背中へ抱きついた。ぬくもりが肌を通して伝わってくる。ふたつとない宝を腕に抱いて、蛍は喜びに酔っていた。
「珠緒さん……心地いいわ」
「はい、珠緒からもひとつよろしいでしょうか」
「なんでも言って」
「……だっこ……」
「ふふっ。はーい、抱っこするわね」
 珠緒を抱きなおし、泡に沈めていく。まっしろなおくるみに包まれているような珠緒の姿は神聖で、例えようもなく蛍の心を痺れさせた。
「蛍さん」
 珠緒が手を伸ばし、蛍の首に腕を絡める。胸から腹にかけてが密着し、柔らかな感触がふたりの合間に走った。
「心地いいです……ずっとこうしていたいくらいに」
「珠緒さん、ボクも」
 二人の唇がかさなる。いままでの、ただ触れるだけのそれではなく、恋人のキス。甘く優しく、心地よく、溶け合っていく。いつしかふたりは夢中になっていた。息苦しさを覚え、ようやく離れる。
「今夜はいっしょの布団で寝ませんか」
「うん……いいよ、でも寝るだけだからね、珠緒さんはまだ17才だから」
「わかっています。大事にしてくださる蛍さんの思いも」
「ありがとう。大好きよ、珠緒さん」
「珠緒も同じ気持ちです。あの……珠緒も蛍さんの背中を流したいです」
「大歓迎よ」
 ふたりはいったん離れ、蛍は珠緒へ背を向けた。タオルが動いたその後に。
「……えい」
 背中に広がるぬくもりに、蛍は目を閉じ微笑んだ。

  • 蛍と珠緒の話~距離をなくして~完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別SS
  • 納品日2021年05月09日
  • ・藤野 蛍(p3p003861
    ・桜咲 珠緒(p3p004426

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