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アルちゃんが幼女になりまして
登場人物一覧
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これは同人作家『かぴぶたのみそに』が委託販売中の同人誌『アルちゃんが幼女になりまして』の内容です。
実在の人物団体深緑なかよし幼なじみとは一切の関係がありませんよ。
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「いっけー! 神木ホームラン!」
霊験あらたかな木からまんまもぎとったような丈夫な枝を握り込む、フランのスイングが冴え渡る。
深緑をゆるがす怪獣ドラゴンザッソーへ、マジックベースボールが豪速で命中した。
「いいスイングだわ、フラン!」
「アルちゃん、続いて!」
カモン! と手招きするフランに頷くと、アルメリアは長い前髪の内側でキラリと目を光らせた。
ドラゴンザッソーへと走る。
グリーンの魔術光をカイトシールド型に展開すると、その端っこを右手で掴んで跳躍。身体全体で大きくスピンすると、その勢いを乗せて盾を投擲した。
「トドメよ、フラン!」
回転して飛ぶマジックシールドがドラゴンザッソーへえぐりこむように突き刺さり、それをステップにして飛んだフランが高く杖を掲げた。
ゴッ――という大きな音の後、暗転。
フランとアルメリアはそれぞれ首元の髪を払うようにかきあげ、崩れ落ちたドラゴンザッソーに背を向けていた。
どちらからともなく手を翳し、強くハイタッチする二人。
――『繋ぐ命』フラン・ヴィラネル(p3p006816)。
――『絵本の外の大冒険』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)。
二人は、故郷を同じくする幼なじみだった。
そんな彼女たちの、盆。
アルティオ=エルムで開かれるいわゆる魂送りの儀式は毎年夏場に行なわれ、古い先祖の霊を迎え、そして精霊の世界へと送り返すと言い伝えられてきた。
そのため深緑出身の若者たちはよくこの時期に深緑へ帰るか『魂送りがあるから!』といって同人誌即売会に行くかのどっちかと言われていた。
(前者の)例に漏れず実家に帰ってきたフランは、あのいい感じの木の棒に荷物袋をぶらさげ、肩に担いで歩いていた。
大きな木々があっちこっちに伸びるファルカウ階層都市の一角。木のなかに森があるというこの不思議な光景にこそ、深緑の香りがあるというものだ。
ジーンズ生地のホットパンツに『森ガール』と書かれたタンクトップ。そしてベースボールキャップを斜めに被ったフランは……。
「うん、やっぱり故郷はいいにおい」
キャップのつばを指で上げ、懐かしい景色ににっこりと笑った。
「そうだ。アルちゃんが確か先に帰ってたよね。
遺跡に帰る前にアルちゃんち寄っていこ!」
大きな煉瓦作りの家は、巨木に殆ど覆われていた。
育った樹木によって自然と包み込まれたその家は、なぜだか都合良く窓や玄関口だけ木が避けており、玄関のドアには『イーグルトンはうす』という札が下がっている。
ドアを拳の甲でこんこんとノックするフラン。
「アールーちゃん、あそぼー」
子供の頃から変わらないこの呼び声。
しかし予想された返事はなく、沈黙があるばかりだった。
フランが小首を傾げた……その時である。ドアの向こうからガターンという大きな音がした。
「アルちゃん!?」
思わずドアノブをひねると、玄関の鍵は開いていた。
怪我をしていてはいけない。フランが家の中へと入ると――そこには!
「あうあう」
紫の長い前髪で目元を隠した、五歳くらいの幼女がぶっかぶかのニットセータから頭を出してあうあうしていた。
「これは……」
ハッとして今まさに倒れた机を見ると、いかにも魔女の薬ですって感じのガラス瓶が倒れ、ほんの僅かに内容液を床に流していた。
本来瓶に満たされていた筈のものはそこになく、瓶のラベルには『アポトキシンなんとか』と書かれていた。
「あ、あ……」
担いでいたいい感じの木の棒と荷物を取り落とし、両手で顔をはさむように覆うフラン。
「アルちゃんが幼女になってるーーーーーーーーーーーー!!」
熊のぬいぐるみを片手に一人で遊ぶ幼女アルメリア。
その様子を頬杖ついて眺めていたフランは、深くため息をついた。
「あのママさん、またへんな薬作っちゃったんだね」
回想雲の中で、アルメリアを更に二段階くらいワガママボディにした女性がぱたぱたと手を振っていた。
「きっと新手の回復ポーションと間違えて飲んじゃったのかな。
ママさんはずっと留守で連絡がとれないって言うし……。
とにかく元に戻す方法を探さないと!」
机の周りや棚を探りはじめるフラン。
そんな彼女の服の裾をくいくいと引っ張るものがあった。
振り返る。もとい、見下ろす。
すると。
幼女メリアがフランの服の裾を掴んでいた。
こちらを見上げ、長い前髪の間からぱっと目を開いた。
「まま!」
「ままじゃない!」
フラン身体ごとふりかえって、自己紹介するかのように胸元に手を当てた。
「まったくもう。記憶までおかしくなってるのかな。こうしてみると昔のアルちゃんみたいでなつかしかわいいけど…………ん?」
幼女メリアの視線が、一点に集中していた。
フランの、胸である。
暫く凝視したあと。
「……ままじゃない」
「どの部分で判断したの!?」
それから。
フランは机から見つけ出した解除薬のレシピをもとに作業台へ向かい、まるで初めてオシャレ料理に挑戦する新婚主婦みたいな真剣さでレシピ片手に薬を作り始めた。
その間……。
奇声をあげるニャンドラゴラをかじろうとする幼女メリアをとめたり。
ドクロマークのついた瓶を開けようとする幼女メリアをとめたり。
見るからに毒って感じのキノコをあーんする幼女メリアをとめたり。
ひたすらバタバタにバタバタを重ねた結果。
苦労(主に幼女メリアのお世話)の甲斐あって解除薬ができあがった。
はらはらと涙を流して瓶を天に翳すフラン。
「これさえあればアルちゃんも元通りに……ほら、アルちゃんおいでおいで」
手招きするフランに振り返り、それまでぬいぐるみを抱えて椅子でうたた寝していた幼女メリアが目をこすりながら寄ってきた。
「ままじゃないひと」
「うんままじゃないけどどこ見てるのかな?」
「あのね」
目線を合わせようとかがんだフランの顔を、両手ではさむように覆う幼女メリア。
「今日はいっぱい遊んでくれて、ありがと――フランちゃん」
後日談というか、今回のオチ。
「うああああああああああああああああああああ!!」
幼女状態の時の記憶をまるまる維持していたアルメリアは、それから暫くの間枕に顔を埋めてじたばたしつづけたという。