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スリープ・モード
登場人物一覧
絞られたシャッター。
細められた瞳は却って夕闇に浮かび上がり、小さな駆動音は寂れた路地に殊の外響いて。
息衝く心は蒼い光を揺れ纏い、刃状のエネルギーが描く軌跡はまるで蒼雷のよう。
「あ、ア………」
目の前で震えて座り込む男へ無情に突き刺さる。
男が最期に目にしたものは、蒼く輝くカメラ・アイ。彼女が|彼女《機械)である証。
*
明日は登校日。シトリン・クォーツが終わっちゃったから、学校に行かないと。
教科書を入れ替えては憂鬱な授業を思い出し、放課後の予定を思い出しては微笑んで。
ゆるキャラのぬいぐるみが見守る中、お風呂に入ってご飯を食べて。さあ、あとは眠るだけ。
食事も睡眠も、ともすれば呼吸さえも機械たる彼女には不要なものだけれど。
人間は美味しい食事を楽しむいきものだから。眠りに安らぎを見出すいきものだから。
彼女もまた、
それは果てない夢。
中間考査を憂鬱に感じるのはそう作られたから。放課後の寄り道に楽しさを覚えるのはそう作られたから。
クラスメイトにもらったゆるキャラのぬいぐるみを飾り続けるのはそう作られたから。放課後に飲むチーズティーがマイブームなのはそう作られたから。
平穏な日常に安らぎを覚えるのはそう作られたから。初めての学校なる未知にワクワクするのはそう作られたから。
人間のように暮らす日々が、一喜一憂する感情が苦しいのも、そう作られたから。
自身を構成するすべてはプログラムされたものであり、定められた計算式に則り思考や感情に見えるなにかを出力しているに過ぎないのだ、と。
軋む心も、潜む息苦しさも、どこかできっと期待をしているから。『ひと』である自分に。『機械』でない自分に。その可能性に。
叶わない願いは苦しいだけ。届かない想いは虚しいだけ。噛み締めた唇の味も、疲れ果てた心の在り処も、知りたくはないから蓋をする。
閉じた瞼の奥で駆動音が静まって。規則正しい呼吸を表していた体はそのまま動きを止めて。
その願いこそが可能性の始まりなのだと気付かぬままに。
*
一日の終わり。深まる夜、静まる気配。
影は密度を増し、ネオンは華やぎ、昼間とは異なる顔を覗かせた街。
その機械は今日もどこかで夢を見る。
おまけSS
翌朝。
意気揚々と、元気いっぱいに登校した彼女を迎えたのは、無情な真実。
「っあーーーーー!!!!!宿題忘れてたッス!!!!!!!!」
廊下まで響く声。笑いに包まれる教室。登壇した教師。
ローレット・イレギュラーズとして仲の良い
楽しみにしていた友達との放課後ショッピングは、次週に持ち越しッスね……。