SS詳細
このゆびとーまれっ
登場人物一覧
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ずっと、ずっと。
思っていた事だった。
『──するひと、このゆびとーまれっ』
かつて、その言葉に勇気を出して伸ばした手は無残に叩き落とされた。
いっしょに遊ぶのではなく、あたしで遊ばれた。
あたしは幼い彼等のオモチャだった。
あたしもいっしょに遊びたかった。
いっしょに笑って、泥だらけになって……かえったらお母さんに叱られて、泣いて。でも現実は……転ばされて泥だらけになって。指さされ笑われて、泣いても……かえる家も、お母さんもいなかった。
涙はただ流れるままに落ちていった。
うらやましかった、あたしもあの指をつかんで……
みんなといっしょに、キラキラと笑いたかった。
あの指をつかめば、きっとあたしも──。
──
────
それはもう一つの現実。それはもうひとつの混沌。それはもうひとつの世界。
介入手続きを行ないます。
存在固定値を検出。
──コゼット、検出完了。
世界値を入力してください。
──当該世界です。
介入可能域を測定。
──介入可能です。
発生確率を固定。
宿命率を固定。
存在情報の流入を開始。
──介入完了。
<Rapid Origin Onlineへようこそ。今よりここはあなたの世界です!>
ログイン完了のシステムアナウンスを聞いた後、ゆっくりと瞼を押し上げればそこに広がっていたのは見慣れた景色であった。
「ここが……げーむの、世界……」
コゼットこと『このゆびとまれ』ポシェット(p3x002755)がログインしてまず降り立ったのは、ネクストにおける
伝説の冒険者である勇者王アイオーンが迷宮攻略の為に建国した古豪。血統主義、権威主義が根付いており、貴族は総じて専横的に振る舞う傍ら
伝統国の実力は十分に有しており、ネクストの勢力の中でもかなりの強大国として存在する。そして極め付きは
「ネクストの、幻想……伝承……今のところ、は……あまり、かわら、ない……?」
幼い姿を形成したポシェットと言うアバターで、周囲をキョロキョロと見渡すコゼット。
街の広場で響き渡る商人の声、井戸端で話し込んでいる主婦たち……それから、楽しそうに遊ぶ子供たち。
大きくなっても、そんな子供の頃の憧れは消えず……仮初でも子供の頃をやりなおしたくて、遊んでみたくて……
コゼットはどこか縋るような気持ちで『ポシェット』を作り出した。
「おにごっこするひと、このゆびとーまれっ」
突然聞こえて来た声にポシェットはその方向へ振り返る。どうやら女の子が遊び相手を募っているようであった。
「おにごっこするー!」
「ボクもボクもー!」
「わたしもまぜてよー!」
女の子の声に次々と子供たちが集まってきた。その光景にポシェットはソワソワとした気持ちで近寄ってみる。
「おに、ごっこ……」
「あなたもする? おにごっこ!」
指にとまるのは、少しだけ……少しだけ勇気がいる。……でも、でもね。
「……っ、やる!!」
この世界でだけでも、変わりたいから……!
ポシェットはそう不安を拭うようにその女の子の指にとまった。
「やったー! たくさんあつまったね!」
「じゃあはじめよっか! だれがおに? ジャンケン?」
「ジャンケンにしよー!」
誰かの指にとまってこんなにワクワクしたことがあっただろうか。ポシェットがそう目を輝かせていると──
「ジャーン、ケーン!!」
「え、あっ?!」
つい1テンポ出遅れてしまったポシェットは慌てて出すも……
「ポイッ!」
「……ぽいっ!」
見事に出遅れた上に一人だけ負けてしまった。
「あなたがおにだ!」
「わーにげろー!」
「わっ! わわっ!!」
誰が鬼か決まった瞬間、子供たちは散り散りに逃げ出していく。ポシェットはその勢いの良さに戸惑いながらも、子供たちを懸命に追いかけ始めた。
(いつもは追いかけられる事が多いのに……何だか新鮮……!)
いつもより覚束無い幼い足取りの自分の姿に何だかおかしくなって。彼女の表情に思わず無邪気な笑みが溢れ出す。
「たーーーーっち!」
「わー! つかまったー!!」
懸命に走って漸く一人。ポシェットは楽しくて楽しくて仕方がない。
「あなたすごーい! あし、はやいね!」
「ほんと? ふふ、とっても、がんばったんだ……っ」
女の子に撫でられ褒められて嬉しくて。ポシェットはそれから次々に子供たちを捕まえて行った。
「おまえつよいなー!」
「なんてなまえなの? またいっしょにあそぼ!」
「あたしはポシェット! うん! いっしょにあそぼう!」
子供たちに囲まれていたポシェットはその日一番の笑顔を咲かせていたのであった。
──別の日。
それは今日の始まりの合図になっていた。
「おにごっこするひと、このゆびとーまれっ」
おまけSS『おまけSS『あしたは、なにしてあそぼっか?』』
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「だるまさんがころんだするひと、このゆびとーまれっ」
「ポシェットちゃんだ! やるやるー!」
「ボクもまぜてー!」
子供たちの中心にいるのはいつだって『このゆびとまれ』ポシェット(p3x002755)。始めて
──また別の日。
「おいしゃさんごっこするひと、このゆびとーまれっ」
「わーたのしそう!」
「オレ、すっげーおいしゃさんのやくがいい!!」
きょうはどうされましたか? ふむふむ……これは手おくれですね、全治みっかです。だいじょーぶ、すぐ治ります。なぜか。
──そして本日は。
「かくれんぼするひと、このゆびとーまれっ」
「やるやるやるーっ!」
「はやくジャンケンでおにきめよーぜ!」
毎日毎日被らないように提案される遊びに子供たちも興味津々。
「今日はポシェットちゃんだ!」
「じゃあかず、数えるよ!」
いーち、にーぃ、さーん……ポシェットが数える間に子供たちはいろんな所へ隠れていく。
「よーし、いくよー!」
そう叫ぶポシェットは勢いよく駆け出して、彼女は今日もあっと言う間に子供たちを見つけていくのである。