PandoraPartyProject

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誰かのために

登場人物一覧

リーネ=フローライト(p3p007892)
幻想の冒険者

 ローレットの掲示板に張り付けられた無数の紙切れを眺めていると老婆が隣に立ち、薬草茶に使う水が欲しいと言った。目的の水は少し先の森にあるようだった。曲がった腰を叩く老婆の横顔を見つめながらリーネ=フローライト(p3p007892)はすぐに「勿論よ」と笑った。

 手書きの地図はしっかりとしたものだった。
「ええと……今度はあの木を左ね」
 リーネはタンクを背負い、湿った土をしっかりと踏みしめながら揺れる木々の音、森の静謐な香りを楽しんでいる。青空を泳ぐブルーの蝶、足元を横切るこげ茶の大きな蜘蛛、何もかも新鮮だった。汗を拭い、目を細める。見たことのない白いキノコが地に散らばった木の枝にびっしりと生えている。匂いは青リンゴに近い。
「あら?」
 首を傾げた。川の音が聞こえたような気がしたのだ。慌てて地図を見ようと目線を下げれば、子狐が身体を震わせ何度も水滴を飛ばす姿が見えた。
「なんだ! すぐ、傍だったのね!」
 飛ぶように急斜面を降りれば、きらきらと輝く川がリーネを出迎えた。黒色の魚が沢山、泳いでいる。リーネは指先で水をすくう。
「冷たいわ!」
 思わず、笑ってしまう。背負ったタンクをおろし、きょろきょろと左右を見つめ──リーネはパッと自らの服と靴を脱ぎ、大切な剣と一緒に大きな岩の上に置いた。本当に綺麗な川だ。冷たい水に足を浸せば、途端に身体がクリアになる。気持ちが良い。此処は両足が浸かる程度の深さだった。タンクを水流に力一杯、押し沈めれば──とくとくと水がタンクに流れ込む。やがて、水でいっぱいになったタンクを岩の上に置き、ふちに身を預ける。緩やかな深み、冷たい水が腰を揺らす。途端に汗が水流にさらわれていく。顔を洗い、身体に水をかけ、ほぉと息を吐く。冷たさに身体が慣れ始めていた。
「ああ、気持ちがいい……」
 誰もいない森。リーネは水浴びを楽しんでいる。
「いいね。じゃあ、俺もアンタで気持ち良くなるわ」
 ハッとする。湿った男の声が聞こえたのだ。だが、振り向くことすら出来なかった。後ろから手で口を塞がれ──「動くなよ、死ぬぜ? なんてな」
 男は耳元で嗤い、リーネに自らの欲望を押し付ける。恐ろしさに身体が震え始めた。
「森に入るアンタをずっとつけてたのよ、心配だったからな。ふふ、紳士だろ?」
 男は自分の言葉にげらげらと笑っている。狂っている。山賊だろうか。冷静に思う一方で、この男があの時の恐怖を思い出させる。今のリーネには使用人も護衛の者も剣すらなかった。男は抵抗しない女の髪に唇を落とした。リーネはぎりぎりと奥歯を噛みしめた。悔しさに顔が熱くなった。
「あんな屈辱二度と味わってたまるものか……!」
 リーネは男の足を踵で強く踏みつけ、仰け反った顔面に頭突きを放った。
「ぐっ……!」
 後頭部に強い衝撃を受けながらリーネは身を捻り、男から逃れた。男はよろけ、舌を噛んだときのような哀れな叫び声を漏らす。リーネは息を吐く。身体は強ばり、心臓の音が聞こえる。男の顔をリーネはまじまじと見た。黒色の外套を羽織り、麻の柔らかな服を質素に着こなしていた。猫顔の若い冒険者。右頬には赤い蛇のタトゥーが刻まれている。
「何すんだよ!」
 男は唾を飛ばし、川の底に尻餅をついた。水飛沫が上がり、すぐにいつもの川に戻る。男は鼻を押さえ苦しそうな顔をしつつ、ぬるぬるとした視線をリーネに向け続ける。男の細い指の隙間から赤い液体が垂れ、川に溶けていった。
「わたしに近づかないで!」
 リーネは濡れた石を掴み、男に投げつけた。男は動かず、リーネをずっと眺めていた。角の取れた石が男の胸を打ち、ぽちゃんと水に落ちていった。リーネは胸を片手で隠し身構えた。
「もう、終わりか?」
 男は硬い乳房を見ていた。完成された美しい果実。急速に欲望が膨らんでいく。苦しくて破裂してしまいそうだ。リーネは後ずさった。男の瞳は血走っている。リーネは男に背を向け、川を鳴らし岩場の剣に走った。
「はっ、逃げられるかよ……」
 男は弾けるように立ち上がり、リーネを追いかけた。おぞましい鬼ごっこ。あったわ! 見つけ、手を伸ばした。もう、大丈夫よ。武器さえあれば──駄目だ。最後の希望を男は簡単に打ち砕いた。
「誰が逃げていいって言った?」
 男はリーネの剣を蹴り、凄まじい力でリーネの身を反転させ、あっという間に引き寄せていた。あまりのことに声が出なかった。気が付いた時にはリーネは恋人のように男と抱き合っていた。逃げようにも身体は男に支配され、その背には太い幹があった。男はぬらぬらと嗤い、咳き込んだ。興奮で喉の奥が苦しくなっていた。
「はは、どうする? どうしたい?」
「やめて……いや……!」
 リーネは抵抗するが──
「うるせぇな、静かにすればすぐに終わるさ。ああ、でも、鳴いてくれ……! その方がずっとずっと楽しい……」
 男はリーネを座らせ、強引に太ももを開き、舌を這わせる。
「あっ……いや……!」
 ねばついた舌が拙い絵を描くように這っていく。男の赤い血と混じり、気持ちが悪かった。
「あっあっ……だめ……!」
 なのに──身体は反射的にうねり、乱れ、声が止まらない。あの時と同じ声が聞こえ、リーネはゾッとする。男の鼻息が今度は胸に触れ、リーネはびくりと跳ねた。男はああと唸り、嗤った。
「ああ、うまい。うまいな、なんてうまいんだろう……どうしよう、もっとほしくなるな……」
 男は唇に涎の粒を浮かべ、にやにやと嗤った。リーネは呻き、かぶりを振った。赤い顔。男の唇は彼自身の唾液と鼻血で光り、瞳は涙でうっすらと濡れている。
「ああ、早くしずめてやらないとなぁ! せつねぇんだわ……」
 男はベルトを乱暴に外し、唇の端を残酷に歪ませた。膨れ上がった欲望は苦い蜜を垂らし続ける。
「やっ……やめ……!」
 ぎょっとし、リーネは懇願する。
「悪いな、神様なんて何処にもいないんだわ……アンタには分かんだろう?」
 男は近づく。
「うん、俺もそう思うよ。じーちゃんが亡くなったとき、そー思ったもん……!」
 男は唖然とした。大きなリュックを背負った少年が真横に立っていた。
「は? 誰だよ、お前……!」
「うん?」
 少年は小首を傾げ、男を見た。リーネは助けてと必死に叫んでいた。少年はうんうんと頷き、男をねめつける。
「それ、カッコ悪くて気持ち悪いよ」
 少年は男の下半身を指差し、男の横顔を弧を描くように蹴り飛ばした。
「じゃあね」
 凄まじい音。男は川に転がり落ちた。
「はい、お姉さんの服と剣! あ! タオルと石鹸もあるよ」
 後ろを向き、少年はリュックから見慣れた服と剣を取り出す。その瞬間、リーネはぽろぽろと涙を零し自らの服と剣を抱きしめる。
「本当にありがとう……」
 涙が止まらなかった。
「いいんだよ。俺もそいつ、大っ嫌いだもん」
 少年はふんと鼻を鳴らし、胸を張る。男が立ち上がることは永遠になかった。

「はい、水よ」
「ああ……ありがとう! 助かったよ」
 待っていた老婆は少年から話を聞いていたのだろうか。リーネを抱き締め、ぶるぶると震えていた。
「大丈夫よ、すべて……
 リーネは老婆の背に触れ、静かに笑った。本当は危なかった。それでも、そんな風に言いたかった。もっと強くなりたいという誓いなのかもしれない。自らの身を守り、誰かの勇気になれるように。リーネはそんなことを静かに思っていた。

  • 誰かのために完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別SS
  • 納品日2021年05月18日
  • ・リーネ=フローライト(p3p007892
    ※ おまけSS『とある旅人との出会い』付き

おまけSS『とある旅人との出会い』

「おねーちゃん、おねーちゃん、焚き火が見えたから来たけどもしかして一人? ご一緒させてよ、危ないしいいでしょ?」
「ええ、いいわよ。でも、わたし、駆け出しだけどイレギュラーズよ」
「それは強い! いいなぁ! てか、そのおっぱいも強そう!」
「え……? おっぱい?」

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