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ナディア・ベールの肖像・2
登場人物一覧
- 沁入 礼拝の関係者
→ イラスト
名前:ナディア・ベール
種族:グリムアザース
性別:女性
年齢(或いは外見年齢):16歳
一人称:わたし
二人称:あなた ~さん
口調:です ます ですか?
特徴:白皙の肌 色あせた黄金の髪 青い瞳 しおれたアゲハ蝶の羽
設定:
ナディア・ベールは努力家で、しかもそれを人に見せるタイプではなかった。傍から見れば、スタートラインが大幅に前へ出ていて、しかも俊足、まっすぐにゴールへ向かい、堂々とテープを切っている。そう見えたのだろう。貴族でもないのに。そう、貴族でもない、ただの庶民のくせに。
周りに鬱屈がたまりつつあることなど、ナディアにはわからなかった。ただひたすら前だけを見ている彼女にわかるはずもなかったのだ。だから彼女が覚えているのは、げらげら笑うクラスメートたち、くりかえし自分へ乱暴する友人だった男ども、それからヤブ蚊の羽音。
翌日には証拠が掲示板へ貼り付けられ、ナディアは放校された。
悪評とともに帰ってきた娘を、両親は涙を流して迎え入れた。だがそれと並行してベール家はとつぜん横のつながりを断たれた。商売のコネがなくなったベール家は没落していく。再起をかけても、どこからともなく邪魔が入る。ナディアを憎んだ貴族たちからの嫌がらせである。執拗な彼らのせいで、とうとうベール家はスラムへ落ちることになった。
誰も恨むまい。ナディアはそう決めていた。そうでもしなければ心が壊れそうだった。毎日必死に神へ祈り、自分はともかく家族だけでも元の暮らしへ戻れるよう願い続けた。
だがある日、彼女に囁くものがあった。
「もうそれ以上抗わなくていい、すべて受け入れて楽になろう」
それは彼女の胎からの声だった。彼女は恐怖し、己が腹を確かめた。そしてそこへたしかに、命が宿っていることを知り絶望した。壊れかけの心の裏側を貪り続けた胎児は、とうに魔種化していたのだ。
その日、ベール家からナディアは失踪した。
噂によればどんづまりの者の前に現れ、「救い」としての反転をうながしているらしい。この噂がどこまで本当かわからない。だが、ナディアが失踪した日、ベール家の全員が謎の死を遂げたのは本当のことだ。
おそらく彼女の意識は混濁し、半ば胎児にのっとられかけているのだろう。反転が救いになったことなど古今東西ないのだから。