SS詳細
どうか夢の中だけで TENGI ver.
登場人物一覧
●
パパ!
なんだい?
あのね、赤ちゃん、ってどうやってできるの?
あはは、そうだなあ――……。
●
そういえばあの時、父はなんて言っていたっけ――?
微睡んだ意識の中で、メルトリリス(p3p007295)は目が覚めた。
天上の高い所に月があり、星が煌めく。静寂な大地に身を沈め、濃い草木の臭いが満たす森の奥。
恐らく此処は幻想ではあるのだろうが、それを証明するものは無く。只広い風景にぽつんと残されている事に、少しの恐怖を覚えて立ち上がった。
不思議と何故こんな所にいるのか疑問は持たなかった。持てなかったと言った方が正しいのかもしれないが、望めば空中庭園に帰れる。そんな自信が胸を満たしている。
「……さむい」
レースのマリアベールを上着のように身体にかけて、歩き出す。風に揺れて葉音を奏でる森の、更に更に奥へ誘われるように。メルトリリスは、ぼんやり歩いていった。
気が付いたら湖面が星に反射してきらきらと輝く場所に出ていた。こんな美しい場所が幻想にあったのだと、なんなら知り合った人たちを此処に連れてきたいような気分にさえなる。
見惚れている内に時間を忘れ、帰ることさえ忘れながら、慌ただしい自分の人生を落ち着かせるように、湖の岸辺に腰を落とした。
「綺麗だなあ……そういえば最近、こういったの全然見てなかったなあ」
ずっと見ていられる景色であった。常に変わり続ける湖面は、風と光の調和で万華鏡のように色々な姿を見せてくれる。そして、再び、うとうと……と微睡んできたあたりで、何処か違和感を覚えた。
「あれは?」
メルトリリスの瞳に映ったのは赤色の物体だ。
湖面の岸辺、早々遠くはない場所にねっとりと蠢いている物体があった。どうみてもこの景色にはそぐわない不定形のそれ。
飛び上がるように立ち上がったメルトリリス。
武器である指輪はいつでも発動できるのを確認しながら、近づいてみる。矢張り勇者を目指すものとして、此の世の脅威になりえるものがそこにあるのならば、見過ごせないのだ。あわよくば討伐して功績にしてもいいかもしれない、そんな楽観を添えて。
「魔物? 魔獣?」
疑問に思いながら、指先で赤色の物体をつついてみた。すると、ゼリーのようにぷるんと揺れたソレ。
なんかちょっと面白いかも?
そんな事を想いながら、ふふ、と笑みを零していると。突然ゼリーは顔のようなものを見上げて、その瞳でメルトリリスを映した。
「うわあ!? やっぱり魔物!?」
再び驚いて条件反射で飛びのいた。距離は開けたものの、視界から『敵?』を離す事はない。
その赤色のスライムの――少女らしきものは、こちらにゆったりと近づきながら手を伸ばした。
がくがくと震えるメルトリリスの足。そう、メルトリリスは少女並みのメンタルを持っている普通の少女でもあるのだ。
怯え、そして怯えたからこそついつい攻撃の一手を放ってしまう。炎を生み出し投げつけ――しかしそれはスライムの身体に吸い込まれるようにして鎮火してしまった。
「そんなっ――え?」
攻撃した瞬間、とぷん、とスライムの身体から触手のような突起物が伸び、身を引いたメルトリリスの身体を捕らえた。腕や足、胴部に絡みつくひんやりとした赤色のスライム。
そのスライムの正体は『溶融する普遍的な愛』Melting・Emma・Love(p3p006309)という名前でイレギュラーズであるのだが、メルトリリスとしては反撃して来た敵で、Meltingも攻撃をしてきた敵として認識し合っているところであろう。
「離して、離せーっ! 離せっていって離してくれるわけないよねー!! わかってたー!! でも離してぇえ!」
メルトリリスがもがけばもがく程、触手はどんどん絡まっていく。まるでタコに捕らえられた魚、もしくは蜘蛛の巣に引っかかった虫のように、暴れるのは無作為な自殺とも呼べるだろう。
だが今はそれどころではない。メルトリリスの思考はこれでもかなり必死で。必死であるが故に、こうしてもがいて更に触手を身体に巻き付けているのだ――そうじゃないと楽しくないだろう。
しかし、ふと気が付いたメルトリリス。
段々と身体を動かす力が抜けていく。触手が肌をなぞり、そして服の中へと冒険しに来た。その感覚冷たくて何故か――気持ちが良いとさえ思える。脳がとろんと蕩けて、足の指先がピンッと張った。
「――ハッ!!」
即座にメルトリリスは、いけない世界に落ちかけたのを自力で持ち直した。なんか知ってるこんな状況、昔見た本で幻想種が緑の魔物に捕まってすごい拘束されて、グヘヘヘってなってやめろ! くっ! 殺せ! とかなっていてその後はお父様(not魔種 yes倫理)が駄目っていってたからなんでか今の状況はそれに似ているからきっと駄目なやつなんだと。故にこの快楽的ななんかとろんとした何かは幻想でいけないことでそれでそれで!
むむ、メルトリリスの瞳にひとつの小瓶が地面に転がっているのが見えた。それは『きもちよくなる薬』だ。
「ま、まさかそれ」
『さっき飲んだの』
「なんと!!」
このスライムの女の子の身体に胃というものはないだろう。つまり、あの薬は今彼女のなかで溶け込んでそれが間接的に今自分の身体をなぞっておりつまりつまりそれって、皮膚から吸収して血液に入り脳へといきこうしてとろんってしているのでは!! ――という超理論がメルトリリスを震え上がらせた。
「いやほんとだめええええ!」
だってほらメルトリリスって設定上は見習い聖少女だし、姉は聖女だし、一家は誉高くはないけれどそれなりに有名なロストレインだし? まさかあの天義のレ●パル・ド・ディケールだって『まさかあの聖女の妹が高潔じゃないとかマジありえないから(青い空に浮かぶ半透明でサムズアップしているレオ●ルの笑顔+歯がキラーン☆)』とかそういう感じのコメントしてきそうなメルトリリスがまさかこんな森で触手に絡まれていて、んぁあ!!(自主規制)になっているとか思わないだろう。
たったひとつ救いがあるとすれば、きもちがいいのはお薬のせいで、身体の反応は別だもんね~~! という理由が言えるところだ。
「ひぁ」
だが現実は残酷だ。
「ひあぁぁっ」
言い訳を並べている内にMeltingの触手――否、腕はメルトリリスの身体を更にいじっていた。いじっているだけだ。擬音にすると、こしょこしょこしょぬるぬる。
『~♪』
楽しくなってきたのか、Meltingは鼻歌を歌いながら、メルトリリスの顔を自分の鼻先に近づけた。すぐにキスでもできるような位置にきて初めてメルトリリスはMeltingの顔をまじまじと認識した。その表情は、なんだか――可愛い。
『身体が凝ってるようなの、ほぐしてあげるの、もみもみ』
「キャァァァアアアアシャベッタアァァアアアアアア!! じゃなくてそんな事しなくても、イイッ、からっ、あっ」
恐ろしいのはこのお話があと2/3も残っているという事だ。
つまりまだ始まったばかりで、このさきも続いていくということだ。
メルトリリスがスライム系女子に遊ばれているここでスライムの作り方を書いておこう。
「ひぁ、だ、だれか!」
まずコップに洗濯のり50mlを入れます。
「やっ、そんなところ触っちゃだめだよ!」
コップ①に、洗濯のりと同じ量の水を入れ、好きな色の絵の具を入れて混ぜます。
「っ、ふあっ、にゃっぁ」
もう1つのコップに、お湯とホウ砂を少し入れてかき混ぜます。
「ん………ぷはっ、ひぅっぁっ」
最初のコップに、ホウ砂水を少しだけ入れて、混ぜます。その後寝かせます。
「んぁっ!!」
よくもみもみすれば、完成である☆
「んぁぁ――――ッッッ!!」
―――――
――――
―――
――
仕切り直して状況を綺麗に整理していこう。
月光の美しい夜であった。
『ここかな』
「んっ」
空高く浮かんだ月は、三日月。雲に隠れてはまた顔を出し、光にあてられて透けた雲の風景もまた雅である。
『ここがすきなの?』
「うぁあああ!」
月の光はどこか寂し気に地上をも照らし、青白く注がれた光は広がる湖に反射していた。
『こってるね、ぐりぐり』
「ひ、だえっ。ぁーーーーっ!」
風に導かれて緑の葉が空中を舞っている。それが羽のようにひらりひらりと落ちて、湖面を静かに揺らした。
『こっちはどう?』
「そこはっ、も、もうやめっ、んひぃ!!」
その岸辺で、戯れている二人。
そう、戯れているだけなのである。
何が起ころうと戯れているだけなのである。
大丈夫です戯れているだけなので。
揺れるメルトリリスの身体に張り付いた桃色の髪や、その髪の毛の先から滴り落ちる雫がなんとも言えない艶っぽさを醸し出していて、指のように自在に蠢くMeltingの腕たちは、なまめかしい動きで少女の身体のラインをなぞっていく。
Meltingの腕が動けば動くほど、与えられる刺激は強くなり、メルトリリスの身体は少しの抵抗として左右に捻っていた。
まだあどけなさの残るMeltingは小さく笑う、新しいおもちゃをみつけたような笑みで。しかしそれは飽きたら捨てるようなものではなくて、本当に心の底から愛おしくて離したくないようなものだ。
おなじく、まだまだ少女の硬さが残るメルトリリスの身体。大人のような曲線美はまだ持ち合わせていないが、将来が期待できるようなするするでぺたぺたである。
『綺麗な身体』
「ふぁっ、んなぁぁっ」
ふにゃふにゃになり、口から唾液を零しながら地面に転がっているメルトリリス。
なんとなく殺される訳ではない事はよくよくよくよーーーーーく理解したが、殺されるよりはまだマシかマシじゃないか解らない狭間の、ただのマッサージを受け、最早抵抗の”て”の字も無くなっていた。
『大丈夫?』
「あっ大丈夫です、大丈夫なんでほんと大丈夫です。あっそろそろ帰らないと門限があはははは」
何故か敬語のメルトリリスは、のったりのったりその場から離れようと四つん這いでほふく前進を始めた。
これ以上いたらどうにかなりそうだ。身体中がくにゃくにゃになりそうだ。
ほふく前進しながら今日の月のほうへ右手を伸ばした、助けてくれ、そんな表情で。まるで異形(もんすたー)に襲われて、これから殺されるフラグを建築しているB級映画のようなシーンそのものである。
つまりフラグは回収されるものだ。
メルトリリスの足首にくるんと絡んだMeltingの腕。
その刹那、メルトリリスの表情から希望の色が消えた。そうか、これが真なる絶望というものなのだろう。どこの世界だって強者が弱者を食う(比喩)、当たり前の事じゃあないか。
『もうちょっと遊んでほしいの』
「鬼ごっこかな? かくれんぼとかどう? あ、あとは!」
『くすぐりっこ!』
「あっ、絶対だめなやつ!!」
Meltingは年頃の少女のように笑う。そんな無邪気な笑みを返されたら、ついつい苦笑を返すしかなくて。
絶対的に強い立場で弱者を弄ぶものよりは、かなり譲歩はしてくれている。メルトリリスの身体に傷がつかないように最大の優しさを以っているし、メルトリリスの反抗的な態度に対して怒りを持つことはないMelting。
鬼なのか邪なのか。
メルトリリスには彼女の真意の判断が着かないまま、されるがままになっていた。
Meltingを憎んでいる訳ではない。そういったマイナスな感情をメルトリリスが抱く事は無かった。ただめちゃくちゃ今すぐお家に帰って風呂はいって寝たい気分で虚空をぼんやりと見つめている。その瞳には光が灯っていないようにも感じられた。
身体を捻り、腕を持ち上げられた状態で、後ろから抱きしめられるような形になったメルトリリス。背中や首にあたるMeltingの吐息さえ、今はメルトリリスの身体をほてらせるひとつの原因だ。
”愛しんで”丁寧に身体を滑っていく腕。
その冷たい感触が当たらない場所には、夏の熱風が肌を滑り、熱と冷が交差する。
Meltingの身体を形成する粘液がとぷとぷと音を鳴らすたびに、その音さえ鼓膜には気持ちよく感じていた。
けして身体の芯は冷めることは無く、切ないような吐息がメルトリリスの口から漏れ出ていく。
儚い時間だが、確かな現実は続いていくのだ。
『これからあたなは』
「んっ」
『湖面が揺れる音を聞くたびに、今日のことを思い出すのーー』
メルトリリスの耳たぶをMeltingはいたずらに甘噛みしてから、そう囁いた。そして。
以下音声のみでお送りします――――(全年齢 *あくまでマッサージです)。
「……ぁ、もうこれ以上は駄目、だから解放し――て。
や、……ぁっダメっ、そんな所入っちゃだめだめだめえ!!!
あっ、な、なにっ!? 変な感覚、あっや、やだ、怖いよお!!
くすぐった、あっぅ、くすぐったいよ、あはははっ、ンァッ!
ん、ンンッ、ひ、ぁっ、だめえっ、ソコッ変な感覚、あっしゅき、ん、んんっ、はわぁ怖いよっ。
声、出ちゃッ!
ンンンッ、ングッ、ぷはっ!!
やだ、アッ、お、おにいぢゃ、お、おにいぢゃんんっ、せんぱっ、はぅっ、あっ、助け、ひうっ、ンァぁっ!!
やぅぅす、すごいっ、しゅごっ、んんっくあああっ、はー、ハーッ、はぁっはっはっ、はあぁぁっ!
も、もうやめてっ、も、もうっ、もう限界、もうっ、あああっ、んぉっ、もっ、あああひぃぃ!
あ、だめ、意、識が………!!
あは、あはははは、ネ、ねめしす、ばんざい……ううっ、ぁっ、おにいぢゃ、れ、ぱるさま、あっ陛下、ご、ごめなしゃ。ああっもっとぉっ!
ひゃぅぅう! ゆ、るして、おねがっ、ひあっ!! ―――――ッッッッッ!(全年齢声にならない声)」
ぽたり、聖少女の一粒の雫が地面へと落ちた。(全年齢)
「―――ハッ!!」
上半身だけ起こし、勢いよく起き上がったメルトリリス。
此処は―――見慣れた自分の寝室であった。
窓があいており、生暖かい空気に撫でられ、太ももの間を汗露がたらりと流れていった。
気づけば全身がシャワーを浴びたように火照っており、そしてぐっしょりと汗をかいている。
段々と記憶が鮮明になり、そういえば昨日依頼から帰ってきたら眠たくて疲れて、それですぐにねたんだと。
だから、さっきまでのは。
「ゆ、夢………?」
きっと暫くは忘れられないであろう夢であった。
今だ身体に残った感覚はリアルで、一夜の熱を思い出して疼いてしまいそうになる。あとなんとなく腰が痛いような気もする。
首を左右に何度も振ってから、頬を両手で叩いて目をあける。
(あれは夢だあれは夢、あれは夢だ~!)
確かに夢ではあるものの、後日、イレギュラーズの名簿のなかにMeltingの名前を見つけて、卒倒しそうになった。
―――TENGIの聖少女は今日も元気です。