PandoraPartyProject

SS詳細

『空腹』

むかし、むかし/鳴蚊嶋五連IL

登場人物一覧

メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
メイメイ・ルーの関係者
→ イラスト

名前:アルト
種族:魔種(獣種)
性別:男性
外見年齢:20代後半
一人称:俺
二人称:呼び捨て、お前
口調:だ、だな、だろう、~か?
特徴:狼の耳と尾、歪んだ大きな角、黒い髪、赤い瞳
設定:
 北方戦線の最前線に立ったことのある青年。特殊部隊に配属され、幾重もの人の死を見てきた。
 明るく、心優しい好青年は、幾重もの戦の中で擦り減り、国家への忠誠も、矜持もかなぐり捨てた。
 保身の為に鉄帝国より逃げ果せた青年は深い傷を負っていた。幻想王国へと逃げ果せ、洞窟に隠れ住んでいた所を近隣の村の子供に発見されて匿われた。
 幼い羊の獣種は事を荒立てないように、村の大人には内緒にし、青年を介抱し続けた。

 傷を癒しながら少しずつ心を通わせた青年の傍らで子供は何時だって笑顔であった。
 辛く、悍ましい出来事から目を背ける青年に仔細を問うことはなく歌を歌い、食事を与え、日々を穏やかに過ごせるようにと願っていた。
 だが――
 執拗な追手が放った攻撃が青年を庇った村の子供の命を奪った。
 平穏を与えてくれた唯一を失った絶望が、青年を変貌させた。平穏など何処にもないとせせら笑った絶望よびごえは彼を『暴食』へと変えた。

 魔種へと成り果てた青年は恐ろしい程の空腹に襲われた。自身を庇い、微笑んでくれた子供の亡骸へと食らい付いた。
 優しく哀れな羊の子は、とても美味しかった。
 人を喰らうた罪悪感も嫌悪感もない。空腹感を満たしてくれた子供が愛おしくて堪らなかった。
 喰らった証であるかのように、彼の頭からは羊の如き角が生えた。狼には似合わぬ其の角は彼の罪を知らしめるかのように。
 晴れ渡った空のような蒼い瞳はギラつく熱を帯びた紅色の瞳へと変貌した。
 喰らうても、喰らうても彼には足りなかった。
 腹を満たすためには食わねばならない。そこに倫理も、理性も何もなく――彼はついにはただの『獣』と成り果てた。
 信じても、何時かは奪い去られるならば、もう何も信じず喰らうてしまえば良い。
 人も、家畜も、分別無く唯の『肉』だとそう認識しながら。

 それから時折、近隣で人や家畜が消えることがあったが、人々は「きっと性質の悪い『獣』の仕業なのだろう」と考えた。
 ――彼がかつて食らった羊の子に良く似た匂いの少女に出会うのは、長い年月の後……。

 それがメイメイ・ルーにとっての村に戻れぬ理由であった。

おまけSS『ひつじの娘』

 ――どうして、狼さんと子羊さんは仲良くなれないの?

 そう問うた一人の娘が居ました。心優しき羊の娘です。ふわふわとした綿毛の、可愛らしい少女に両親は困ったように笑うのです。
「さあ、どうしてだろうね」
 狼さんは羊さんを食べてしまうから。そんな事を言ってしまえば末の娘が悲しむことを彼等は知っていました。
 どうしてだろう。どうしてだろう。
 そう考えながら散歩に出掛けたある日、少女は洞窟の中で『狼さん』に出会いました。
 腹を空かせて傷だらけの……猟師に襲われたのだと少女は気付きました。
「狼さん、狼さん。だいじょうぶ?」
 それが、二人の出会い、二人の始まり。

 そして――狼さんアルトにとっての絶望の幕開けでした。

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