SS詳細
如月の黄昏に春を待つ
登場人物一覧
名前:浅蔵 竜真
一人称:俺
二人称:さん、呼捨
口調:だな、だろ、だろう?
特徴:どこか達観した雰囲気を持つ青年。廻にとって飾らないでいい等身大の親友。
設定:『<祓い屋>夢喰の咎』から一週間ちょっとたった昼下がり。燈堂家本邸の廻の部屋にて。
薄らと目を開ければ自室の天井が見えた。
僕は今日も日の光の下に目を覚ませたのを嬉しく思う。
気を抜けば落ちてしまいそうな意識を振り払うように身じろぎして視線を窓へと向けた。
其処には僕を心配そうに見つめる竜真さんの姿があった。
「廻、起きたのか?」
「……」
僕の顔を覗き込む竜真さんの返事をしようと思うのだけれど、腫れた扁桃腺が邪魔をして上手く声が出せない。
代わりに少しでも彼に安心して貰おうと、笑みを作ってみせる。
僕の身体の中は今、大変な事になっているらしい。
『双別の軛』によってあまねとしゅうに等分された力。しゅうにとっては無力化。あまねにとっては能力増幅。
あまねの負担――つまり、共存代償の増加によって僕の身体は夜妖に浸食されている。
必死にあまねがコントロールする術をしゅうに教えて貰っているけど結構時間がかかるみたいだ。
だから、心配して竜真さんや他の友達がこうして見舞いに来てくれる。申し訳ない。
「……ぁ、の」
「無理に喋らなくて良い。水は飲むか?」
ゆっくりと上半身を起こしてくれて、水の入ったコップを渡してくれる。
飲み込むのは痛いけれど渇いた喉に水が落ちて少し楽になった。
でも、発作みたいにお腹の中が気持ち悪くなって咳き込んでしまう。
あまねからの生命力の逆流を感じる。過ぎる力は毒になるのだ。
枕元のタオルを引き寄せて口に宛がう。
身体の中に溜っていた血が吐き出されてタオルを真っ赤に染めた。
息苦しさに前屈みになれば、竜真さんが背中を擦ってくれる。
「……」
「大丈夫だ。迷惑なんて思ってないぞ。今は時が経つのを待つしか無いだろ。春になればあまねもコントロールを覚えるらしいから。そうしたら花見でもしよう。だから、そんな悲しそうな顔するなよ」
優しい竜真さんの言葉に僕は涙を浮かべ頷いた。
気を失うように眠りに落ちていくのが怖くて、僕は竜真さんの手を握り絞めていた。
明日も目覚める事が出来ますようにと祈ったのだ。