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寝たら覚めたら

登場人物一覧

ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

●幕間庭園
「おお、やっと参ったか! 正直、待ち侘びておったぞ!」
「……ふぇ?」
 ウィズィ ニャ ラァムは何が何だか分からなかった。
(ちょっと待って、私は昨日仕事の後、簡単に部屋でご飯を食べて――)
 積んでいた本をめくっている内に眠気がやってきた所までは覚えていた。
 ならばウィズィが居るべきは風光明媚な宮殿の庭園等では有り得ない筈であった!
「驚くのは分かる。さもありなん。
 じゃが、ウィズィよ。理屈はさて置いて、お主にはこの場所に――妾に何となく思い当たる節があるのではないかぇ?」
「……っ……!」
 ウィズィの目の前には白いテーブルが設えられていた。
 見事な庭園には花々が咲き誇り、小鳥が憩う姿もある。
『この風景にしても、目の前の少女にしても似たものを見た事があった』。
 完全に一致しないにせよ、である。
 寝ぼけた頭が覚醒すれば『それはそういうものなのだ』と理解する事に時間は掛からなかった。
「――エリザベス女王」
「御名答じゃ。ウィズィ ニャ ラァム。この程は家臣が随分と世話になったの」
 有り得ない返答だったがウィズィの中では恐ろしくしっくりと来る言葉だった。
 積もった時間の分、少し姿を変えてはいたが――確かに庭園は海洋王国で見た宮殿の姿そのものであり。
 目を細めて嬉しそうに笑う少女は――そちらは些か薹が立ってはいるものの――イザベラ女王の面影を感じさせていた。
「エリザベス様、わたし、その――」
「うん?」
「――ずっと、ずっとあなたとお話したかったのです。お会いできて光栄です――」
 夢幻だとしても、これは確かに邂逅だった。
 二十二回目の海洋王国大号令から始まった一連の冒険は彼女にとって特別だった。
 潮風の香るあの海も、絶望の大波に抗った日も。『最後に自身の頭上に帽子を被せた海の男』も――
「奇遇じゃな、妾もじゃ! そういえばお主、それは……」
「はい。ドレイクから……
 貰ったわけじゃないんですけど。えへへ。勝ち取りました
 ……似合いますか?」
「うむ。少し妬ける位じゃ」
『気付けば海賊の衣装に帽子を被っていた』ウィズィをエリザベスは手招きした。
 お洒落な腰掛は二つで一式だ。白いテーブルの上には紅茶とお菓子が用意されている。
「砂糖は?」
「お任せします」
「では、二つで。妾はそれ位で丁度良い」
 白磁のカップに揺れる琥珀色の水面が角砂糖で波打った。
 そして歓談の時間を暫し。やがてエリザベスは切り出した。
「話したい事の正体の見当はついておるが――」
「――ええ、あのドレイクの事です」
 薄い唇をカップにつけて、二人。以心伝心のように話題は『共通の知り合い』の事になる。
「その、失礼かも知れませんが……
 ドレイクは、私のことを……あなたに似ていると言ったんです」
「ん」
「…………私はどうしても実感が持てなくて。こうしてあなたに会ってもやっぱりすぐには分からなくて。
 エリザベス様、私は知りたい、聞きたかったのです。私達、どこが似てると思いますか?」
「そうじゃなぁ……」
 思案するエリザベスは自身を注視するウィズィを見て、少し意地悪な笑みを浮かべた。
「『紅茶に砂糖は二つで良い所とか』」
「それは――」
 呆気に取られたウィズィにエリザベスは「冗談じゃ」と付け足して華やかに笑う。
「そうじゃな、恐らくは。うむ、お主の全てを知っておる訳ではない。ドレイクの思惑もな。
 あくまで妾の意見じゃが、それで良いか?」
「はい!」
「妾はな、我儘なのじゃ。そして極めて諦めが悪い」
「……」
「とても前向きじゃ。絶望を知らぬ。出来る出来ないではなく、無鉄砲で。『やってから考える』方じゃな」
「……………」
「どうじゃ? 思い当たる節はあるか?」
「……いえ、あ、はい。はい……」
 全てではないが、身に覚えのない事ではない。
「主を好ましく思ったドレイクの気持ちは良く分かる。妾も生きておったら友人欲しかった位じゃ。
 だが、今の答えは予測に過ぎぬ。詳しくは本人に聞かねばな、のぅ?」
「――――!?」
 背を見て掛けられたエリザベスの言葉にウィズィは目を見開いた。
 慌てて振り返ればそこには背の高い影が一つ。逆光に遮られた顔は良く見えない――

 ――お嬢さん、海にも人生にもミステリィは必要だ。答えは次に君に会った時に持ち越そう――

 頭の中に声が響いた気がして世界がぐらぐらぐるぐる揺れていた。
 陽だまりの庭園でテーブルにつくエリザベスがひらひらと手を振っていた。
「――ありがとう、ありがとう、ありがとう!」
 ウィズィは大きく声に出さずにはいられなかった。

 私はまた、前に進みます
 前に進み続けると、約束します
 どうか、どうか。見ていてください

 私の、私達の冒険を――!

 彼女の傍らには肩に手を置く海賊が居た。こんな幸せな光景、きっと夢に過ぎまいに。
 目覚めれば記憶からは解けて消える幻想幕間の庭園を、ウィズィの在り様はきっと生涯忘れない。

  • 寝たら覚めたら完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別SS
  • 納品日2021年04月11日
  • ・ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371

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