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花丸手帳『誕生日はご一緒に』

登場人物一覧

音呂木・ひよの(p3n000167)
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

 ひよのさんお誕生日おめでとうデートしようよっ!

 メッセージアプリに1件のメッセージ――返信だ。音呂木ひよのの文字列が躍る。

 明日暇ですよ。

 花丸は其れを確認して直ぐに返信とスタンプを押した。もうすぐひよのの誕生日だ。お祝いの準備をするために一緒に出掛ける約束を取り付けた。
 勿論、最初から用件は伝え済み。『ひよのさんお誕生日おめでとうデートしようよ!』と単刀直入に送信した返事である。
 自分自身も飾らない言葉であるがひよのも大概だ。その距離感が心地よくて、花丸は明日はどんな服を着ようかと心を躍らせながらベッドの上にごろりと転がった。

 ――AM08:00

 メッセージアプリに1件のメッセージが届いた。『起きていますか?』と問うのは何時もの揶揄い半分なのだろう。起きていると返せば詰らなさそうなスタンプが返ってくる。
 どうやらひよのは遅刻ギリギリで慌てる花丸を期待したのだろう。そうはいくものか、と起き上がってからお出かけ用に考えたコーディネートをクローゼットから取り出した。
 コートも出来れば可愛らしいものが良いか。以前見たひよのはパンツスタイルが多かった。合わせても良いが、今回はスカートをチョイスだ。
 待ち合わせに間に合うようにと薄いメイクを済ませてから鞄を持ち、走る。出来れば早めについて見返してやりた――

「おや、お早いですね?」
 ――かったが、そうは行かなかった。

 にんまりと微笑んで立っていたのはひよの。やはり今日もパンツスタイルだ。長身であることもあり、シンプルな服装でも様になる。
 そろそろと近寄ってから「おはよう」と笑いかければ「おはようございます」と揶揄うように笑う。そんな彼女に花丸は「今日はありがとうね」と微笑んだ。
「いいえ、花丸さんからの折角のお誘いです。断る訳、ないじゃないですか」
「そんなこと言って」
 揶揄うようなひよのの言葉に花丸はへにゃりと笑みを浮かべて見せた。差し伸べられた手を握りしめて街を行く。手を繋ぐのは人混みで逸れてしまわぬようにと言う配慮なのだろうと思えば「子供じゃないよ」と膨れてしまいそうにもなる。
「それで、今日はどこに行くんでしたっけ?」
「え、言ったよ? 花丸ちゃんはひよのさんの事、なーんにも知らないんだなって思って。
 何歳なのか、とか。何が好きとか、何が嫌いとか……ひよのさんのお誕生日デートだよ。お誕生日をお祝いしたいんだから、ひよのさんが好きな所に行こうよ!」
「あら、それなら私だって。花丸さんが『年下』である事とか、握った掌が案外固い事とか、笑うと目尻が下がることくらいしか知りませんよ?」
「……言ってて恥ずかしくない?」
「彼氏っぽいでしょう?」
 くすくすと揶揄い笑うひよのに花丸は「ぽいかも」と小さく笑った。そうした冗談を積み重ねながら辿り着いたのは希望ヶ浜でも有数のショッピングモールだ。広々としたその場所ならば何か好みのものがあるだろうと言う算段で何となく足を運んだ場所である。
「あ、花丸さん。クレープありますよ? 食べます?」
「食べ――……違うよ、今日はひよのさんの誕生日デートだって!」
「ふふ、好きなものありましたよ。花丸さんが美味しそうに好きなものを食べる顔。と言うわけで、私はいちごチーズケーキで」
 そう言われたら致し方あるまい。むう、と唇を尖らせて、いちごチーズケーキとチョコバナナのクレープを注文する。ランチ前からクレープを手にするのは少し冒涜的な気分だ。
 クレープを食べながらあちらこちらへ向こうとひよのは手を引いた。甘いクレープを食べながら美味しいねと笑う顔を見て嬉しそうに目を細める彼女を見るだけで花丸は嬉しくなるような気がした。それにしても、扱い方を分かられている気もしてしまう。
「ひよのさんって買い物に出掛けるのとかって好き?」
「ウチはご存じの通り神社ですから、あまり洋風のお祝い事や料理に巡り会うことはないんですよね。だから、ちょっぴり羨ましかったり。
 ああ、けれど……家でパーティーなんかも楽しいかも知れませんね。花丸さんがお望みなら其れでも良かったですけど」
 そこまで言ってからひよのは何かを思いついたというように淡い空色の瞳を細めてにんまりと微笑んだ。勿忘草を彷彿とさせる瞳には悪戯めいた感情が宿っている。
「それでは、本日は『花丸さんがひよのちゃんを知るデート』です。まずは雑貨屋に行きましょう。ランチはカレー屋さんへ。
 ランチプレートにチーズナンとラッシーを。それから食後はウィンドウショッピングで服を見ましょう。私、『今から購入する物』に合わせる服が欲しいのですよ」
「へえ――……?」
 何を購入するのか、と聴くのも野暮な気がして、花丸はフロアガイドを眺めるひよのの横顔を見遣った。長い髪をみつあみひとつに纏めていたひよのは髪飾りを揺らして「こちらへ」と花丸の手を引いた。
「実は和風の雑貨や小物が好きでして、簪なんていいかなあと思って居たのですよ。花丸さん帽子をよく着用されますからお揃い――とは行きませんけれど……和柄の帽子なんかで『和風コーデ』を二人でして見るのもいいかなあと思って」
「和風コーデ! いいね!」
「でしょう? それで、私は簪を……ああ、けれど、ひよのちゃんには選べません。花丸さん、選んで頂いても?」
 ぱちりと瞬いた花丸の前には和雑貨と小物がずらりと並んでいる。髪飾りには簪をはじめとした可愛らしい物が陳列されていた。ひよのが欲しているのは一本差しの簪のようである。
「此処で買う簪は『デート』で購入するものですから、私も花丸さんにキャスケットを選びます。『お誕生日』のプレゼントはまた選んで下さってもいいのですよ?」
「ふふ、ひよのさんに一杯貢ぐ事になっちゃう」
「私だって。3月の花丸さんのお誕生日にはあなたの手首を飾る可愛らしいブレスレットを用意したいと思っているのですから」
 ぎゅうと手を握りしめてくるひよのに花丸はぱちりと瞬いてから可笑しそうに小さく笑った。
 どうやら、彼女は花丸の手を好んでいるらしい。傷だらけで『女の子らしくない』と何となく思う固くなった掌。それを彼女は花丸が頑張った証なのだと称した。
 頑張り屋さん、と。ひよのが花丸をそう呼ぶ言葉はそうしたところから来ているのだろう。傷だらけになっても挫けずに走る。そんな女の子の掌が固くても『かっこいい』と感じるのだと――
「じゃあ、花丸ちゃんは此れにしようかな。誕生日プレゼントは決定したから、それと一緒に付けて欲しくって。三色団子の簪!」
「花丸さん模様ですね。では、私はこれを。キャスケットのリボンが和柄なんですよ。可愛くないですか?
 お誕生日は桜のブレスレットにしますね。シンプルな物ですよ。それを付けて花丸さんがもっと一杯頑張れるようにって」
 邪魔なときは外して下さいと微笑んだひよのに花丸はぱちりと瞬いてから「分った」と大きく頷いた。
 彼女が簪をもう一本と求めたのはブレスレットを自身に送るためなのだろう。ならば、豊穣の市場で簪を見にいこう。桜が良いだろう。可愛らしいものだが、ひよのは屹度喜んでくれるはずだ。
 ランチはカレーショップへと。ひよのはこの店のチーズナンがお気に入りだそうだ。マンゴーラッシーに少し辛いカレーは絶品である。
 食べてばっかりだと二人で笑い合えば、なんだか可笑しな気持ちになって二人で顔を見合わせ腹ごなしだと歩き出す。
 今日購入した雑貨と『次に貰う雑貨』に合わせたファッションを選びに行くのだ。全身和風では可笑しい。其れなりにシンプルな物もが良いだろう。
 和風のキャスケットに合わせるならば洋服はシンプルな方が良い。ひよのは手持ちの着物を洋装にアレンジするのだとベルトやフレアスカートを選び始めた。
 あれでもない、これでもないと二人して選べば、何となく趣味が分かる。ひよのはシンプルな方が好ましいらしい。着物も普段着になる為か洋服は軽くて着やすいものを好むようだ。
「ひよのさんの趣味は分かってきたけど、花丸ちゃんちょっと謎があって……」
「なんですか?」
「ひよのさんって、何歳―――」
 そこまで口にしたときに揶揄うようにひよのは目を細めて「秘密ですよ」と微笑んだ。花丸よりは年上だという彼女は永遠の女子高生なのだという。故に、アルコールの摂取は行わず18歳であるかのような素振りを見せる。それでも『謎』は『謎』なのだ。それ以上でもそれ以下でもない。
「そんなこと言うと、花丸さんの掌を手袋なしでまじまじと見詰めちゃいますよ」
「ええ!?」
「いえ、見たいのは本当ですよ。だって、花丸さんの頑張りの証ですし」
「そ、そう言われてもー……」
 秘密なのは何方も同じ。買い物袋を握りしめる掌に僅かな力が籠もればひよのはくすくすと小さく笑った。
「冗談」
「――ええ?!」
「花丸さんの嫌がることはしませんし、女の子は謎が多い方が気になるでしょう?」
 ねえ、と揶揄い笑うようなひよのは花丸の手をぎゅうと握ってからそっとその顔を覗き込んだ。長身の彼女が少しばかり背を屈めるように覗き込めば花丸は驚いてきょとんとしてしまう。
「ねえ、花丸さん、『花丸手帳』に一つ追加して頂いてもよろしいですか? ――ひよのと手を繋いで『一緒に選んだもの』と『誕生日プレゼント』を付けてデートするって」
 そんなの、勿論だと花丸はにんまりと微笑んだ。
 彼女は手帳に自分との予定を書いて欲しがる。それは、屹度、忘れない約束を増やしておきたいからなのかもしれない。
 少し知れた気がして花丸は「それも約束ね」と頷いた。

  • 花丸手帳『誕生日はご一緒に』完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2021年04月15日
  • ・笹木 花丸(p3p008689
    ・音呂木・ひよの(p3n000167

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