PandoraPartyProject

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夢を喰む

登場人物一覧

ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)
永遠の少女

 Sweetie, more, Sweetie.
 甘いものいっぱいに。
「切り刻んだ分だけ愛してあげる」

 Sadness, more Sadness.
 足りない砂糖は継いで剥いで。
「どうして、どうして置いていくの」

 Suddenly more Suddenly.
 永遠を約束したでせう?
「ねぇねぇ、傷口に硫酸をかけたら瘡蓋になるの、早いと思う?」

 Say Hello. Say Good Night.
 嘘吐き。
「私ばっかり、悲しいんだわ」


 甘いものいっぱいに。
 砂糖漬けした花びら、角砂糖の代わりに其れを紅茶に浮かせる。
 今日は小さなお茶会。可愛い幼子を招いて、飛び切り素敵な日にするのだ。
「ルミエール、今日は何をするんだい?」
「知っているくせに。お茶会よ、お茶会。意地悪をしないでよ、ルクス」
「意地悪なんかじゃないさ、ルミエール。君の気まぐれが今日は良い方に向かっているなって思っただけで」
「だって、小さい子供達なのよ。片手で殺してしまえそうな、可愛い子達。可愛そうな子達。愛を注いだっていいでしょう?」
「まったく。後で君が面倒にならない程度にしておくんだよ」
 柔らかな陽光、パステル・ブルゥの空広がる。丹精込めて育てた薔薇の庭園に、白いテーブルと椅子を用意して。
 隣人を待つ。小さくて、可愛くて、脆くて、弱い。そんな、隣人を。

 出会いは突然のことだった。
 小さな孤児院の警護の依頼。不審者が出るのだと怖がった孤児たちは、普段でさえ神経を張っているというのに怯えて喧嘩ばかりになってしまったのだという。不審者の正体は人攫い。親もない子供から此れ以上何を奪おうというのか。
 子供達が大きな影に怯えるという旨を聞きローレットから派遣されたのは。

「こんにちは、愛しい子供達!」

 自身らとなんら変わりない『外見』をした、少女。
 本質は似ているようで、酷く違うのだけれど。お人形のようなブロンドも、優しい笑みと、ちょっぴり背伸びのスパイス。其れら全てがうまく調和した彼女の溌剌な笑みと言ったら!
 怯えていた影もなく皆と打ち解け話し合うルミエール。鎌を握り人攫いをなぎ倒すなど誰が想像していただろう。子供達が漸く穏やかに眠るその日の夜も同じように現れた人攫いを一撃で圧倒し、薙いで。
「此れであの子達の夜は、素敵なものになるかしら」
 なんて微笑むものだから、酷く強い少女なのだろうと思われたに違いない。
 否、強い少女であるのは間違いない。他の一般的な少女に比べたら、うんと、月と鼈の差がある程度には。
 だから子供達の警戒が解けるのは早かったし、懐いた子供達が『ルミエール』と嬉しそうに笑うのだって、納得も行くものだ。子供達にとってルミエールは、『こわいひとからまもってくれたヒーロー』そのものなのだから。
「ねえ、ルミエール。つぎはわたしたちのおうちで、パーティをしましょ!」
「おれたちもがんばってよういするけど、こんなにきれいにはできないかも」
「でも、やってみなきゃわかんないよぅ!」
「うん。ぼくも、おてつだいする」
「お、おれだって!」
「だから、あたしたちのおうちにまたきて。それから、パーティをしましょう?」
 差し出された小指。笑顔の花は咲き乱れ。

「! ええ、ええ。勿論よ。約束!」

 ぼくたちの英雄へ。ありがとう。
 不審者の影を月光が消し去ったかのようだった。

 きゃらきゃらと笑う子供達の影を、ルミエールは幸せそうに見守っていた。幸せだと愛していた。それなのに。なのに。



「ねえ、ねえ。どうして、なの」
「起きて。起きてったら。ねえ。無視なんて、いけないのよ」
「ユキ、レオナ、ハルキ、セン、ねえ、ねえったら!」
「せんせ、先生も、起きて。ね? ……ねえ!!」
「どうしていつも、私を置いていくの」

 結論から言うならば、あの日招いた愛し子はすべて永久の眠りについていた。
 赤い花をたっぷり。血を吸った白薔薇。
 優しく眠る影は無い。惨状に巻き込まれたのだろう、その表情は困惑、悲哀、激情に塗れていた。

 嗚呼、嗚呼、死にたくない。
 ルミエール。たすけて。
 どうしてきみはここにいないの。
 痛いよお、苦しいよお。
 逃げて。お願い。はるか果てまで。
 ぼくはしぬけど、きみはいきて。
 あたたかいちのうみで。
 こわいひとは、こわいまま。
 ルミエール、どうか気にしないで。

 守ってくれて、ありがとう。
 どうか、かなしまないで。

 愛を注ぎ、慈しみ、そうしていつか大人になっても友のまま、優しく眠るその瞬間まで傍に居られたならいいと思っていた。
 そんな些細でちっぽけな願いすらも踏みにじられた。
 ひとちらの願いすらも、叶わぬまま。

 つぎは、ここで、パーティを。

 今日はパーティの日だった。
 私よりも先に招かれたのは、きっと招かれざる客だったのだろう。
 その証拠に、ほら。

「……クラッカー」

 開かれていないクラッカー。祝いの音を鳴らすこともなく、血でふやけ、水分を吸っている。
 私が、もう少し、早ければ?
「ねえ」
「うん、なぁに」
「ルクト」
「どうしたの、ルミエール」
「においを、追うことは」
「ああ、それくらい」
「できる?」
「できないわけ、ないでしょう?」
 
 白狼の笑みは強かに。
 半身たる片割れは、少女の魂の揺れを確かに感じている。
 ざわめく森が歌う。
 せせらぐ泉が囁く。
 さよならの声を、確かに。その背に。

 手招く影。
 惨劇の夜。
 握られた裁きの鎌は、月光を受けて確かに煌めいた。

 嗚呼、行かなくちゃ。
 だって、悪い子には、お仕置きが必要でしょ?


 男は惨劇の夜を生み出した。
 魔種などではない。ただの愉快犯だ。殺したいから殺した。それだけ。
 それが、何故。
(どうして、俺は追いかけられているんだ!!!)
 泣き叫ぶ子供を殴って蹴って、詰って、それから指の骨を一本ずつ折ってやった。
 飛び切り小さい子供ガキは顔を踏みつぶすみたいに飛び跳ねてやるのが楽しかった。
 大人もいた。アマばかりだった。子供ガキの前で汚してやったときの興奮はたまらねえ。
 全員殺した。仲間を殺されたから。でも、あのチビはいなかった。好都合だ。
 あのチビのために用意されたステージを壊してやったときの感動を、俺は一生忘れない。
 だから、生き延びたい。生き延びてやる。

「ねえ、悪い子にはお仕置きが必要なのよ」

 囁く、声。
 耳元に広がったのは、甘く麗しい鈴の音。
 ただしそれは冷ややかに、毒を孕んでいる。
 夜の森は酷く暗い。そして、総てを飲み込むほどの闇を内包している。
 夜の愛し子たるルミエールは、半身を駆使し男をあぶりだした。

「ねえ、」
「私、いますっごく、の」
「だから、お喋りをしましょうか!」


 Sweetie, more, Sweetie.
 甘いものいっぱいに。
「ちがうちがうちがうちがう!!!! 俺は、俺は命令されただけだ」

 Sadness, more Sadness.
 足りない砂糖は継いで剥いで。
「だろう、だから俺は悪くない。なんなら俺にやれって言ったやつだって教えるから、だから命だけは」

 Suddenly more Suddenly.
 永遠を約束したでせう?
「ぎゃあああああああああああ!!!!!!!! おれの、おれの腕がああああ、あああああ、ああああああ!!!!!!!!!!!」

 Say Hello. Say Good Night.
 嘘吐き。
「ああ、ああ、」

「ねえ、まだまだ、足りないのよ」
 ぐしゅり、びちゃり、ぶちゅぶちゅ。
 赤い水たまりで遊びませう。
 どうかこの時ばかりは、私を悪だと謗らないで。
 世界が私を悪だと指さそうとも、嗚呼、私は。

「失われた命は戻らないのよ」

 悲しい。
 苦しい。
 愛しい。
 恋しい。

 嗚呼、どうか。
 夢だけは、優しいままで。

「ねえ、ルクト」
「どうしたの、ルミエール」
「まだ、パーティはできるかしら」
「さぁ。行ってみる?」
「……そうね」


 優しいオルゴールの音色が響く。
 赤いギンガムのテーブルクロスには、冷めた紅茶とスリーティアーズが優雅に並ぶ。
 サンドイッチに、マカロン、フィナンシェ、マドレーヌ、クッキー、フルーツ。
 ぜんぶぜんぶ、不器用な形をしていて。よくよく見たら、子供達の手には絆創膏がいっぱい。
「ばかみたい」
 私の為に、こんなに準備して。
 それでも。
 臓物を溢れさせて。
 失血死して。
 きっと指の痛みなんて比べ物にならないくらいに、苦しかったはずだ。
 でも、嗚呼。きっと安らかであれと、そう祈らなければ、苦しくて仕方ないのだ。
 どうか、あの愛しい子供達の魂が、報われなくてはと、願わなければ。
 そうでなくては。嗚呼、私は!

「ねえ、ルクト」
「なんだい、ルミエール」
「これ、ぜんぶ、持って帰りましょ」
「……そうだね。おいしく食べてしまおう」
「うん」

 いとしいこたち。
 あなたの傍に、優しい月光が、降り注ぎますように。

  • 夢を喰む完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2021年06月13日
  • ・ルミエール・ローズブレイド(p3p002902
    ※ おまけSS『ルミエールへ』付き

おまけSS『ルミエールへ』

 ぼくたちはルミエールのことがだいすきです。
 いつもつよくて、かっこよくて、やさしいルミエールが、いつも笑えますように。
 そして、ルミエールが、たたかわなくてもいいせかいになりますように。

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