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海洋鳥貴族四方山話『ぴぃぴぃ』

登場人物一覧

ソルベ・ジェラート・コンテュール(p3n000075)
貴族派筆頭
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
カイト・シャルラハの関係者
→ イラスト

「よぉ、ソルベ! 冬場はやっぱりソルベの別荘が暖かくって過ごしやすいよなぁ。
 あ、親父がお土産を持って行けって五月蠅くって。これ、イレギュラーズの特権ワープ転送機能でカムイグラから持ってきたワガシだ! 知ってるか?
 これはリョクチャってお茶と合うらしいぞ? 茶葉なんだけど、えーと……多分紅茶と同じだろ、多分」
 明るく元気に扉を開いて飛び込んできたカイトに対してソルベは「そうですか」と淡々と返した。彼の意識は書類から緑茶の淹れ方に移っている。成る程、其れ用の茶器があればより楽しめるのか。ティーセットで飲むのは余りに似合わなさそうな風味だが――と其処まで考えたソルベは「私が淹れて差し上げましょう」と胸を張った。
「え!? ソルベ、淹れれるのか!?」
「ええ。勿論。これでも海洋貴族の筆頭ですから。そうした事にも造詣が深いのです。何せ、出来る男ですから!」
 カイトはけらけらと笑って見せた。堂々としたソルベが可笑しくって堪らないのだ。そうして和菓子と緑茶を楽しむカイトは溢れてきた欠伸を噛み殺す。
「ふおあ」と少し間抜けで気の抜けた欠伸を吐き出したカイトへとソルベは「眠たいですか?」と柔らかな声音で問い掛けた。
「和菓子もそうも直ぐに駄目にはならなさそうですし、メイドに一度下げさせましょうか。お茶も冷たくなってきましたし……寝ますか?」
「いや……」
「無理しないで本音を」
「……ちょっと眠くなってきたな」
 ソルベはゆっくりと立ち上がってからカイトの肩をぽんっと叩いた。目の前に存在して居たのは鳥籠である。クッションも備え付けられていてふかふかそうで気持ちいい。流石は飛行種の貴族(?)、そうした備えは万全なのだろうか。
「どうぞ」
「え? この鳥籠ベッドを使えって……?」
「ええ。イレギュラーズとしても大変でしょう? そのままゆっくりとお休み下さい。ゆっくりと――」
 ――実は、睡眠薬を盛られて居るなんて事をカイトは気付くわけはない。ソルベの悪戯めいた笑顔には気付かないまま、重たい瞼をそっと閉じた。

 ―――――――――
 ――――――
 ―――

「失礼、コンテュール卿」
 仕事モード全体のファクルはノックもおざなりにしながらソルベの執務室へと顔を出した。今日は一日別荘で過ごすという彼に急ぎの届け物をすれば今日の任務は終了だ。
 何せ、コンテュール家の家令直々に「良ければソルベ様にお会いになって下さいね」と強要おねがいされたのだから、それを無碍には出来まい。
「ああ、ファクル。有難うございます。最近はどうですか?」
「……大号令から丸一年、集結から半年。大号令という夢から覚めての初めての冬がやってきました」
「ええ。……ああ、気楽にどうぞ」
「……海洋は交易ルートを得た。カムイグラという新たな地を確認し他国家からも評価されたことは分かる。
 だが、国益とすれば、だ。この狭い領地を少しでも広げることを考えての新天地、新領地を目指した航海! そうと思えば余りに一押し足りないと、思ってしまうのは仕方が無いことだろう?」
「ええ、ええ。そうですね。貴方のような人ならばきっとそう言うと思っていました」
 弁にも熱が入る。ファクルの苦だけ始めた口調にソルベは悪戯っ子の様な笑みを浮かべたまま、頷いた。海洋王国が得たのは交易権だ。新たな領地を得るわけではなく、新たに発見した陸地には先人が国家を形成していたのだからそれ以上の手出しは大号令で疲弊した海洋には難しいことだった。
「それでも、得るものが無かったわけではありませんよ? アクエリアとフェデリアの海域は我々が握って居るようなもの。海では我らはあの鉄帝国のうきんにも渡り合えるのですから其方は我々の領土と云える」
「だが――! 狂王種達は未だに航海の障害だろう? それにカムイグラの航路の作成だってまだまだ正常とは云えない。事故も多い。
 アクエリアの資源開発やフェデリア海域の掃討も必要だ。それからバラミタ鉱山の……」
 指折り数えるファクルにソルベは大きく頷いた。彼は結局の所、外に出て暴れ回りたいのだ。あの戦いから半年も経てば狂騒の日々が恋しくなるのも分かる。
 基本的には『留守番役』であったソルベでさえも、イレギュラーズ達が日々を過ごしていた喧噪が去ってしまえば寂しくなると言うものだ。前線に出ることの多い飼ったファクルからすればそれはそれは、物足りないことだろう。
「『秘密拠点』エスペヒスモでも潰すか?」
 茶化していった彼に「まさか」とソルベは揶揄うように笑った。ファクルとて阿呆ではない。海洋は疲弊している。あの大航海で冠位魔種さいやくと滅海竜とやり合ったのだ。それ故に、軍事力の疲弊は凄まじく国家としての力も余りに残っていないだろう。
「……何だその顔?」
「何でしょうか?」
「い、いや俺も外に出たいわけではないぞ? ――どうせ、また言う言葉は分かって居るぞ。
 『今は時期ではない』なんだろうな。ああそうだ、時期じゃない。が、けしかけるのぐらいは許されるだろう?」
「ええ。そうやって私へ進言してくれるのはですから」
 実に、含みのある言葉だとファクルは感じていた。にんまりと微笑んだソルベを見ればファクルは彼の飄々とした態度は今に始まったことでは無いかと気を取り直す。
「それで? 次は何を目指すんだ? 海洋王国の悲願とされていたのは絶望の青の踏破だ。その目標が達成されたとなれば、今のこの国は目標を失ったとも言い換えれる。
 なら、国家という船は何処を目指している? 羅針盤はどこへ動いているのか。それを民に示すのは、そろそろ『時期』だと思うんだがなぁ?」
 ファクルの言葉にソルベは「それは私一人の一存では決定できないでしょう。其れを示すのは玉座を自身の物にしている海の奴等あのかたがただ」と含んだ笑みを零した。
「私達はあくまでも貴族。そして、あくまでも飛行種という派閥に属している。長年、海種がその王座を欲しいものにしているのに甘んじ続けるわけではありません。
 何時か――そう、然うして目標を定められなかった時に私達がその椅子を奪ってやれば良い! それが一番だとは思いませんか?
 ……ああ、それに。時期尚早なのですよ。軍事力が疲弊した国家の行く先を次に定めれば戦は付きものだ。国家には凪が訪れる。それが丁度今であると――まあ、そうは言っても貴方は納得しないでしょうね」
 腑に落ちないと言った様子のファクルにソルベはくすくすと笑みを浮かべた。幼い子供のように駄々を捏ねるファクルは今も前線へと飛び出して暴れ回りたいのだろう。それは傍らで眠っているカイトと同じだ。親子揃って飛び出していく勢いで場に嵐を吹き荒らす。其れは特に父であるファクルの方が激しかったか――彼の奥方がストッパーになっているのだろうか、などとソルベはぼんやりと考えた。
「……納得できないという顔ですよね?」
「当たりま――」
「なら、貴族にでもなって議会で堂々と宣言してみてはどうですか? ああ、それとも階級でも上げて貰って勝手に軍部を動かしますか?
 それの勝手が聞くようになれば、ご自身で誰かを手駒にして暴れることが出来る。……まあ、そうすれば貴方自身は外へ出ることは叶わなくなるでしょうけれどね」
 籠の鳥状態です、と微笑んだソルベにファクルはあからさまに厭な顔をした。ファクル自身が外で暴れ回る口実を探し求めているだけなのだから、
「……この話は、無かったことで……」
「ええ。貴方はとっても御し易――いいえ、物わかりが良くて助かっていますよ。
 私としても、貴方には何処かで暴れ回る機会を与えたい物ですが、ご存じでしょう? コンテュール家は穏健な貴族なのですよ。そうでなくっては、可愛い妹がオイタをしてしまいますから」
 激情派のカヌレ令嬢を指し示した言葉にファクルは溜息を吐いた。10も年が離れれば娘のように扱っているところもあるのだろう。令嬢は未だ年若いとも言える。彼女自身が少女のように暴れ回れば被害を被るのはソルベ本人だ。其れを御すためには穏健にを続けていきたいという事だろう。
「……帰る」
「おや、もうですか? 珍しい菓子を頂いたんですが。其れに合うという茶もありますよ。よければ、如何です?」
 ファクルは暖炉の傍の小さな鳥籠が気になるというようにちらりと見遣った。クッションが中には据え置かれた鳥籠の中には赤い鳥が心地よさそうに眠っている。
 やけに人間的な眠り方だということが最初に気になった.その次に、息子がどうしても脳内から離れなかったのだ。いや、イレギュラーズとして毎日を忙しそうにしている息子がこんな所で眠っているわけもない。屹度、息子に似た存在を見せ付けて此方の反応を伺っているのだ。きっとそうだ。ソルベはそう言う男なのだ。


「……あの鳥は豊穣という国から手に入れたのか?」
「おや、どうしてそう思われるのですか?」
「あの菓子は豊穣のヤツだって教えて貰ってな。ウチの息子が気に入ってたらしい。大凡、息子から紹介された品だろう?」
 ソルベはその言葉に「ええ、そうですね。紹介されました」と微笑んだ。まさか、其の当人が変化して小さな鳥として眠っているなどとは父は気付かないままか。
 悪戯は失敗しただろうかと些か残念そうに笑ったソルベは「それでは、また遊びに来て下さいね?」とファクルを揶揄うように小さく笑った。
 ――因みに、僅かの後目が覚めたカイトは「何の話をしてたっけ?」と起き上がりカムイグラについて語り始める。古来の精霊が神様であったのを引き継いで精霊種が神であるように扱われている事や飛行種が天狗と呼ばれる事。
 楽しそうに聞くソルベは先程までの剣呑とした空気も、ファクルが来たこともおくびも出さず玩具の役に徹するのだった。

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