PandoraPartyProject

SS詳細

これはでーとと呼ぶのでしょうか?

登場人物一覧

サンドリヨン・ブルー(p3n000034)
ロマンチストな情報屋
日暮 琴文美(p3p008781)
被虐の心得

 海洋予定していた国の天気予報が雨だと告げた日、サンドリヨン・ブルー (p3n000034)は迷わず、日暮 琴文美 (p3p008781)を練達に誘う。待ち合わせ場所は市街地にある駅前の巨大な砂時計。そこには多くの待ち人が何度も顔を上げながら、大切な人達を迎え入れる準備をしている。
「日暮さん」
 サンドリヨンが大きく手を振れば、今日の為に買った虹色のマントが楽しそうに踊っている。その様子に待ち人達が目を細めた。
「あら、サンドリヨン殿。もう、いらっしゃっていたのですねぇ」
 琴文美は小首を傾げ、金色の瞳に情報屋を映した。純白のドレスに真新しそうな虹色のマント。ぴかぴかの靴。きちんと整えられた髪。サンドリヨンが今日を楽しみにしていたことが解る。
(今日はどんな一日になりますかねぇ)
「はい! 僕、楽しみすぎて十五分前に着いてしまいました!」
 ぺろりと舌を出し、サンドリヨンは笑った。
「それはわたくしもですよ」
 琴文美がそう口にすると、後方で大きな歓声が上がった。琴文美は眉根を僅かに寄せる。聞こえる会話から一年ぶりに会うのだと知った。駅は人が多く、とても賑やかだ。
「えへへ、琴文美さんも五分前です! あっ、あの……」
 サンドリヨンは気が付いたようにゆっくりと屈み、琴文美の耳元で「大丈夫です、これから静かなところに行きますので」と囁く。琴文美は目を細めた。この配慮に少しだけ驚いている。
「ええ、大丈夫です。むしろ、あなたがここを一押ししたいと言われる場所でありましたら多少騒がしくても構いませんから。それにわたくしは寛大なのでこの程度では怒りません」
(たとえ──頂いた地図が理解出来ないとしてもです)
 琴文美は思い出す。三日前に届いたサンドリヨンお手製のしおり。そこには待ち合わせ場所の住所やサンドリヨンが書いたであろう難解な地図が記され、所々に描かれていたイラストからサンドリヨンに残念ながら、絵心がないことが理解できる。でも、お手製のしおりは特別で温かい。ただ、行き先は記されていなかった。
「えへへ、良かったです。では、移動しましょう♪」
 サンドリヨンはいつだって嬉しそうだった。無意識に鼻唄を歌っている。
「流石、サンドリヨン殿です」
 琴文美は呟いた。彼は誰かを楽しませたい、そして、自分も楽しみたいという想いが強いのだろう。
「え? 日暮さん?」
 きょとんとするサンドリヨン。突然、褒められたせいか、びっくりしているようだ。
「聞こえていました? でも、わたくしの独り言です」
「そうですか。でも、嬉しいです!」
 サンドリヨンは微笑み、あっと声を上げた。
「突然、どうしました?」
 琴文美は言う。不都合があったのなら、その不都合を斬り捨てるまでなんて、この国では通用しないのだろうか。
「あ、うるさくてごめんなさい! ちょっと待っててください!!」
 サンドリヨンは走り出した。純白のドレスが波のように揺れ、何故だか見惚れてしまう。忘れ物だろうか。暫し、待っていると──
「日暮さん、お待たせしました。どうぞ、チーズハットグです、熱いのでお気をつけて」
 サンドリヨンは琴文美に金色の衣に覆われた揚げ物をそっと手渡す。
「え? ちーずはっとぐですか?」
 聞き慣れない異国の音だったが、とても香ばしい匂いがする。
「そうです、中にソーセージとチーズが入っていて本当に美味しいんです! 美味しいから僕、日暮さんと一緒に食べたくなっちゃいました」
 サンドリヨンは目を輝かせる。むしろ、弛んだ口元から涎が溢れそうになっている。
「やっぱり、食いしん坊ですねぇ。サンドリヨン殿は」
「えへへ。そうです、美味しいものを食べると幸福になれます」
 ハンカチで涎を拭き、胸を張るサンドリヨン。両手に一本ずつ、熱々のチーズハットグが握られている。
「では、いただきます」
 琴文美は頷き、チーズハットグをゆっくりと齧った。冷静な瞳が大きく見開かれる。
「美味しいです、衣がさくさくしていますねぇ」
 もう一口。琴文美は大きく頷く。味がしっかりしていて食べ易い。
「ふふ、美味しいですよね!! 良かったです、気に入ってもらえて。僕もいただきます」
 サンドリヨンは大きく口を開け、チーズハットグを豪快に頬張っていく。大胆で綺麗な食べ方だと思った。
「ん~は~、美味しいです。幸せです♪ あ、これから突然、景色が変わってびっくりすると思いますが問題ありません」
 食べながらキリッとした表情をするサンドリヨン。
「ええ、分かりましたよ」
(面白いです。これが、でーとというものでしょうか)
 分からないがそういうものだろうか。
「では、あちらです。あ、日暮さん、串は僕にくださいな、捨てちゃいます」
「ありがとうございます」
 サンドリヨンは笑顔で琴文美からチーズハットグの串を受け取り、ゴミ箱に捨て駅前から少し離れた建物に入った。琴文美は見上げる。建物は大きな洞窟に似ているが、蛍が飛んでいるかのように眩しい。すれ違う人々は無言だった。その静けさがとても不思議だった。喋ってはいけないのだろうか。
「日暮さん」
「はい」
 名を呼ばれサンドリヨンを見れば、何処から買ったのだろう。大きな手に紙コップが二つ。
「ほうじ茶でしょうか?」
 紙コップに触れれば手が瞬時に冷たくなっていく。
「ええ、良かったら飲んでください。あ、座りますか?」
 ベンチを指差す。
「大丈夫です」
 琴文美は首を振り、ほうじ茶を口にする。とても美味しかった。
「ありがとうございます、ご馳走です」
「いえいえ、僕が飲みたかったので」
 サンドリヨンはほうじ茶を一気に飲み干し、琴文美とともにゴミ箱に紙コップを捨て歩き出す。サンドリヨンは少しだけ前を歩き、琴文美が迷わぬようゆっくり歩いている。そして、手渡された電子カードというものを言われたとおりに壁に触れさせれば急に景色が変わり、琴文美は反射的に暗器に手を伸ばしそうになった。ただ、サンドリヨンの言葉を思い出し、動きを止める。
「ばーちゃるりありてぃーというものですかねぇ?」
 練達は技術が発達した国だという知識は、ローレット・イレギュラーズとして身に着けている。
「そうです、匂いまで再現していますね」
 サンドリヨンは言った。琴文美の殺気に気が付いているはずなのにサンドリヨンは彼自身のペースを崩すことがない。
(稀有な人です、本当に)
 虹色のマントが道しるべのように輝く。
「ふふふ……本当ですねぇ」
 琴文美は言う。其処は森だ。土と青草と獣の臭いがする。サンドリヨンが立ち止まり、指を指す。その先には黒曜石色の床、円形に並ぶ扉が見えた。人々が列を成している。楽しそうに何を待っているのだろうか。人々は前に進み、順番に扉の奥に消えていった。それでも、列は途切れることはなかった。
「サンドリヨン殿、わたくしたちは何処に行くのでしょうか?」
 聞くのは野暮だろうか。そう思いつつ、琴文美は尋ねてしまう。サンドリヨンはマントを翻し、ほうじ茶色の大きな鍵を取り出し、微笑んだ。
「こちらですよ」
 サンドリヨンは桜色の鍵穴に鍵を差し込んだ。扉は数秒前にはなかったような気がする。琴文美は息を吐く。サンドリヨンが扉を開けば、ドレスが瞬く間に風で揺れ始める。
「日暮さん、今日は二人だけで桜を見ませんか?」
 不意に振り返るサンドリヨン。扉の先には雪色の桜が咲き乱れ、暑い夏の香りがする。

  • これはでーとと呼ぶのでしょうか?完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別SS
  • 納品日2021年03月25日
  • ・サンドリヨン・ブルー(p3n000034
    ・日暮 琴文美(p3p008781

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