PandoraPartyProject

SS詳細

甘くビターなグラオ・クローネを君と

登場人物一覧

オリヴィア・ミラン(p3n000011)
海賊淑女
浅木 礼久(p3p002524)
海賊淑女に愛をこめて


 今日は2月14日……グラオ・トローネ。
 混沌におけるヴァレンタインデーであるが、その意味合いは他の世界とは似て非なる意味を持つ。
 伝わるは心温まるおとぎ話。その甘やかな伝説に酔いしれつつも、人々は大切な人に『灰色の王冠』――チョコレートを贈る。

 ――コンコン。
 夜を更けてきた頃、部屋のドアを叩く音が。
「邪魔するよ、礼久」
 礼久の要望もあって、彼の家へとやってきたオリヴィアは幾つかの手提げを下げている。
 それらは彼女が動く度に何度も立てていたことから、幾本かの瓶が入っていることが分かる。
 鼻歌交じりでやってきたオリヴィアはかなり上機嫌だ。何かいいことがあったのだろう。
「やあ、オリヴィア。いらっしゃい」
 何か作業をしていた礼久はその手を止め、小走りに玄関まで駆けてきてからドアを開け、彼女を出迎えた。
 そこは、旅人である礼久が寝床とすべく、借りていた場所。
 内装はキッチンが付属した8畳のワンルーム。ベット、ソファとローテーブル、本棚、クローゼットと、生活に必要な物が一通り揃っている。
 生活感も少なからずあり、旅人の礼久もすっかり混沌での生活に慣れていることを窺わせた。
「……この間、言ったチョコレート、出来たよ。どうだろう?」
 テーブルの上の皿に目をやったオリヴィアは笑みを浮かべて。
「チョコレートを作ってくれたんだね。嬉しいよ」
 素朴な飾り付けをされた一口サイズのチョコレートが載っていたことを確認し、彼女はすぐ礼久へと礼を告げた。
 その礼久の部屋もまた、非常に簡素な印象を受ける。チョコにしろ、部屋にしろ、彼は余り装飾に拘ることはないらしい。
 そんな中、オリヴィアはふと、大切に飾られたオルカのブレスレットへと視線を向ける。
 いつか彼へと送ったプレゼントを微笑ましげに見つめたオリヴィアは、今日の日の為にと新たな贈り物を取り出す。
「グラオ・トローネ用にと赤ワインを用意しておいたよ。海洋の20年ものだ」
 なお、先程のチョコは表面が軽く焼かれてある。
 これは、事前にワインを用意するとオリヴィアから聞いていた礼久の意気な計らいだ。
「気が利くじゃないか。嬉しいよ」
「お酒を飲むのに、煩わしさは最小限に留めたいからね」
 グラスにチョコが付くことを気遣った彼に、オリヴィアは感心していた。
「にしても、20年……すごいな」
 礼久が驚くのも無理はない。何せ、オリヴィアはそのワインをゲームによる賭けに勝って手に入れたというのだから。
 彼女曰く、『行きつけの店の店主にアタシお勧めのビールと合わせて言い値で譲ってもらった』とのこと。
 20年もののワインともなれば、かなりの値がついていたはず。一体、どれだけのレートでオリヴィアは賭けを行ったのやら……。店主の嘆きの声がここまで聞こえてきそうだ。
「カードは駆け引きするのが楽しいし、様々なゲームで飽きがこないのもいいね」
「ちなみに、カード? それともルーレットとか?」
「ああ、カードさ」
 なんでも、オリヴィアは駆け引きするのが楽しいらしく、加えて様々なゲームを遊ぶことができて飽きがこないのだとか。
 なお、オリヴィアは同じく海洋産のビールも持ってきていたそうだが、それらは一旦脇に置き、先程のワインボトルをテーブルまで持ってくる。
「グラスを借りるよ。……ああ、座ってな。アンタの分まで注いでやるから」
 つい先程までチョコレートを作っていた礼久を労い、オリヴィアは彼に座るよう促す。
「嗚呼、ありがとう。じゃあ、先に座ってるね」
 その言葉に甘える礼久の前にワイングラスを置いたオリヴィアは、ワインボトルの栓を抜いてその中身を注いでいく。
「折角なら、アンタの生まれ年のワインを用意すべきだったかね」
 そういえばと、オリヴィアはワインを注ぎながら残念がる。
 なんでも、店にはもう少し前の年代のワインもあったそうなのだが、それだけ値は吊り上がる為断念したとのこと。
「さすがに、店主が可哀想かな」
 思わず、礼久はそれに苦笑してしまう。
 先ほどの彼女の会話から、店主は相当大損したことを感じさせる。オリヴィアなら本当にとってしまいかねないと考えた礼久がそう言うのも無理はない。
「……と、さあ、ワインも準備ができた。乾杯といこうじゃないか」
「ああ。……乾杯」
 席に着いたオリヴィアがそのグラスを突き出すと、礼久もまたワインを重ね、小さく高い音を鳴らす。
 2人はまずその液体を一口。
 長い間ボトルに収められたその風味を一度鼻と舌で感じ、続き、芳醇な香り漂う赤い果実酒の水面を揺らす。
 ワイングラスを揺らすのはスワリングといい、ワインを空気に触れさせることで味わいや香りが変化し、より美味しくなる。
 そして、そこに礼久の用意したチョコレート。
 一口齧ればナッツのような風味が口の中に広がる。後味はビターな味わいが残り、ワインの香りと実にマッチしていた。
 このチョコレートには、初恋が叶ったこと、そして、初めての特別な関係を持った異性ということもあり、オリヴィアに対する思いを滅茶苦茶込めていたのだ。
 それを、舌で感じたオリヴィア。礼久の期待と不安が入り混じった視線を感じる彼女は口元を吊り上げる。
「思った以上の出来だよ。これなら、すぐにボトルを空けてしまいそうだ」
「……そう言ってもらえると、嬉しいよ」
 礼久の言葉を耳にするオリヴィアはすぐにグラスを煽り、中身を飲み干す。
 そうして、彼女はワイングラスを礼久の方へと傾けて。
「まだまだ飲み足りないよ。今度は注いでくれるかい?」
 皿の上のチョコレートはまだまだ残っている。オリヴィアはそれを一口つまみ、礼久へとお酌を要求した。
「もちろんさ」
 すると、礼久はすくっと立ち上がり、すぐに彼女の手にするグラスを赤いワインで満たしていく。
「チョコが欲しかったら、遠慮無く言ってほしい。追加するよ」
 にやりと笑うオリヴィアは立ち上がり、礼久の後ろへと回ってから彼の両肩を押して座るよう促した。
「嬉しいけどさ。折角なんだから晩酌に付き合いな」
「…………」
 そこで、礼久も気づく。
 仮に追加でチョコを作るとなれば、礼久もそちらに専念せざるを得なくなる。
 そうなれば、オリヴィアと語らう時間も減ってしまう。
 だからこそ、彼女は晩酌を勧めてきたのだ。
「分かったよ」
「よろしい。この後、ビールもあるんだからさ。……今夜は飲み明かすよ」
 その前に、酔いつぶれてしまわないだろうかと考えつつ、礼久もまたグラスに2杯目のワインをオリヴィアに注いでもらう。
 ガラスとガラスが再び甲高い音を小さく立てる。
 再び、杯を酌み交わした2人は互いに見つめ合い、再びチョコを齧りながら夜遅くまで語り合うのだった。

  • 甘くビターなグラオ・クローネを君と完了
  • GM名なちゅい
  • 種別SS
  • 納品日2021年03月19日
  • ・オリヴィア・ミラン(p3n000011
    ・浅木 礼久(p3p002524

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