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魔法騎士セララ 第二巻『セララとツヨキなミストルティン』
登場人物一覧
- セララの関係者
→ イラスト
アキバ小学校のスピーカーから終業のベルが鳴る。
小学生たちが席からたち、あくびをしながら教室を出て行く教師をよそに放課後の予定を話し合っている。
そんな教室の後方窓際。
赤いリボンカチューシャをつけた少女が、お腹をおさえて机にぺたんとほっぺたをつけた。
「おなかすいたぁ……」
「セララちゃんセララちゃん、一緒に帰ろ?」
横から声をかけられて、少女セララは机に突っ伏したまま首だけでくるりと振り返った。
「みちよちゃん」
グリーンの髪に大きな丸めがね。地味な印象の子だったが、胸につけた赤耳ウサギのピンバッチが誇らしげにきらりと光った。
セララはカチューシャのリボンをたらーんと下げたまま、のったりのったりと鞄を手に取った。
「うん。いまいくねー……」
そんなセララに苦笑すると、みちよはそっと耳元で囁いた。
「ナイショでミセスドーナッツに寄っていこ」
「いくー!」
立ち上がるセララ。たちあがるカチューシャのリボン。
突然の大声に振り向いたクラスメイトたちに、セララはえへへと苦笑した。
――魔法騎士セララOPテーマ『ドキドキの魔法』とスタッフクレジットをお楽しみください。
『私セララ、小学五年生!』
モノローグと共に小学校の校門を駆け足でくぐるセララ。
はやくはやくといって振り返る彼女を、クラスメイトのみちよがはーはーいいながら追いかけていた。
『帰り道にこっそりドーナツを食べちゃうごく普通の女の子だけど、ホントは……』
走るセララのランドセルからぴぴぴとアラーム音が響いた。
ききーとブレーキをかけ、ランドセルからタブレットブックを取り出すセララ。
「大変! みちよちゃん、ごめんね! ダークネス反応があったの。『ダークデリバリー』がこの先で暴れてるみたい!」
「ええっ!?」
はーはーいっていたみちよが立ち止まって膝に手を当て、前屈み姿勢で息を整えた。
「行ってくるね! ――インストール! マジックナイト!」
ポケットから取り出したカードを返すと、そこには『魔法騎士』の絵が描かれていた。
長い通学路を助走をつけてジャンプし、西洋風のマントとシャツ、そしてスカートによる魔法騎士モードへとチェンジするセララ。
魔法の靴が光の翼を広げ、驚いて見上げる小学生たちの頭上を高く高く舞い上がっていく。
前屈み姿勢から復帰して顔をあげたみちよは、目をハートできらきらにしてスマホを翳した。
「今日のセララちゃんも、やっぱりカワイイ……!」
ここは秋葉原電気街にあるたこ焼き屋。
下校中の通行人も多いこの場所に――。
「ターコタコタコ! 下校中の買い食いはやーめられないタコー! オマエも買い食いの虜になるタコー! そして我がダークデリバリーのたこ焼き屋台にお金を落とすタコォ!」
八本足を振り回し沢山のたこ焼きを爪楊枝にさして振り上げるタコがいた。
足こそ普通にタコなれど、身体は小麦色のボディにほんのりかかったソースと鰹節。ワンポイントとして刺さった爪楊枝。
そう、彼こそは悪の魔法を受けて変身した怪人、ダークタコヤキだ!
「ぬわー!?」
「やめろー!」
「部活帰りにたこ焼きの誘惑はぬわー!」
育ち盛りの中学生や買い食い厳禁の小学生たちが次々に買い食いの魔の手にかかろうとしている!
その中に、長い黒髪にバラの髪飾りをした女子小学生がいた。
「タコタコー。お前も買い食いをするタコォ!」
爪楊枝にさした無数のたこ焼きが少女へ迫る。
少女が髪飾りに手を当て――た、その時!
「セララストラッシュ!」
天空から迫る声。赤い魔法の光を引いて、一人の魔法少女……否、魔法騎士が舞い降りた。
すぱんと切り取られたタコ足の断面を見て、ダークタコヤキは目をむいた。
「ぬぎゃあ!? オレのタコ足が!」
「輝く魔法とみんなの笑顔! 魔法騎士セララ、参上! ダークデリバリー、町に悪意を運ぶのは許さないよ!」
着地と同時に靴から伸びた魔法の翼を畳むセララ。
彼女がカードを宙に投げると、電気街のビルはそのままに、まるで風景だけを切り取ったかのように歩行者天国の人々が消えていた。
平行世界を利用した魔法結界が展開したのだ。
「ええいこうなればこのタコが相手タコ! 焼きたてのたこ焼きで舌を焼けどするがいいタコォ!」
うりゃりゃーといって八本足マイナス1で爪楊枝を持ち、次々にたこ焼きを発射してくるダークタコヤキ。
「あちちっ、あつい! もう夏なのにこんな熱いものたべるなんて!」
「それでも食べてしまうのがたこ焼きの誘惑タコ!」
「折角食べるならもっと冷たい……あっ、そうだ!」
セララはホルダーから涼しげなカードを取り出した。浴衣を着たセララが描かれたカードである。
「インストール、かき氷やさん!」
たちまち浴衣すがたに変身したセララの頭上に、大きな手回しかき氷器が出現した。
「夏は涼しくかき氷だよ!」
高速でしゃりしゃり削った氷がダークタコヤキに浴びせられる。
「や、やめるタコー! さめたたこ焼きは案外美味しくないんだタコ!」
徐々にしおしおになっていくダークタコヤキのボディ。
「いまだ! インストール、フェニックス!」
セララはフェニックスのカードを投げ、真っ赤なスーパー魔法少女ルックへ変身。再び手に取った剣ラグナロクから赤くて巨大な魔法の刃を放出すると、ダークタコヤキを真っ二つに切り裂いた。
「タ、タ……タコヤキの中身はあつあつだから気をつけてーーーーーー!!」
切り裂かれ、爆発四散するダークタコヤキ。
かに、思われたが!
「まだまだタコー!」
爆発の中から飛び出す巨大なたこ足。
それまでのダークタコヤキとは比べものにならないほどの巨大さで、近くに駐車してあった自動車をいとも簡単に掴んで放り投げてしまった。
「これは、まさか……『聖石』の力!?」
あがる煙の中から姿を現わしたのは足のサイズに相応しい巨大なタコ。その額には『聖石』のキラリとした光があった。
「お、大きくなったって負けないんだから!」
セララは再びかき氷屋さんのカードをインストールすると氷を沢山あびせたが……。
「ターコタコタコ! 今の俺様はジャイアント・ダークオクトパス! たこ焼きは冷めたら美味しくないが、タコは寒いところでも平気タコ!」
「きゃあ!?」
巨大な腕がセララを襲う。
セララはすぐそばのビルに叩き付けられ、オフィスフロアを突き抜けて反対側へと飛び出した。
かと思いきや、反対側に回り込んでいた別のたこ足に掴まれ、あちこちに壁や地面にべちんべちんと叩き付けられる。
「ターコタコタコ! 厄介な魔法騎士もここまでタコー!?」
八つのたこ足を駆使してセララをお手玉しはじめるダークオクトパス。
「ど、どうしよう! このままじゃ」
セララが反撃の手がなく困っていた、そこへ。
「ミスト・セレナーデ!」
きん、と走った黒い光。
光はダークオクトパスの額を走ったように見えた。
「ぐ、ぐわああああああ!?」
ただその一瞬だけで、ダークオクトパスは爆発四散していく。
開放されてずべっとうつ伏せに落ちたセララが顔を上げると……。
「まだまだ未熟ね、魔法騎士セララ? ちょっと巨大化したくらいでタコ一匹倒せないだなんて」
「キ、キミは……」
かすむ視界。やがて鮮明になる風景のなかにあったのは黒衣の魔法少女であった。
赤い軍服のような上着と帽子。ふわふわのフリルがついたスカート。
服には黒いバラのようなリボンが咲いていて、手には黒い茨のような鞭がさがっていた。
彼女は……黒い艶やかなツインテールをしていた。
「名乗ってあげる。『薔薇の魔法少女』ミストルティン。コレは私が貰っていくわ。大事な願い事のために、ね」
「まって……!」
セララが起き上がった時には、ミストルティンはバラの花びらを風のように纏ってその場から飛び去ってしまった。
「ぬーーーーんーーーーーー」
机に突っ伏してぼやーっとするセララ。
ホームルームから帰りの会まで(給食含めて)全部ぶっ通しでこの感じだったことで流石にみかねたのか、クラスメイトのみちよが声をかけてきた。
「あ、あの、セララちゃんどうしたの? お小遣いが全部ガチャに消えちゃった人みたいな顔してるよ?」
「ぬーーーーーーー」
「もしかして、魔法少女がらみでなにかあった?」
「ハッ!」
ようやく意識がもどったのか、顔をあげるセララ。
「そうなのみちよちゃん聞いて!」
セララはダークタコヤキを倒す下りからミストルティンに聖石を持って行かれるまでの一連の流れを身振り手振りで伝えた(10倍再生でお送りしております)。
「って、いうことだったの!」
最後にミストルティンの気高そうなポーズをまねしながら言うセララ。
「セララちゃん。それはもう……」
「それはもう?」
みちよはスチャっとスマホを構えると、セララに顔を近づけた。
「特訓しかないよ!」
こうしてセララの特訓は始まった!
「ワックスかける! ワックスみがく!」
血の滲むような特訓はきびしい!
「たびおかー、たぴおかだよー、やすいよー」
しかしみちよによるコーチ(?)のもとセララは鍛えた!
「みかんむけたよー、ひとくちあげるー」
鍛えて!
「みちよちゃんって好きな子いるの? えっボク!? わわわわかんないよ!」
鍛えて!
「えーとえーとこっち……うわーまたジョーカーひいたー!」
鍛えて!
「海だーーーーーーーーーーー!」
鍛え抜いて!
「山だーーーーーーーーーー!」
ついに……!
「この反応、間違いないよね」
夜の秋葉原駅前。観光地開発によって高級テナントビルと化した駅ヨコビル周辺は、巨大な魔法結界が張り巡らされていた。
街灯の上に立ち、髪をはるミストルティン。
「来たようね、セララ」
「ミストちゃん!」
「ミストルティンよ! 略して呼ばないで! それより、アレを倒すんでしょ」
見上げると、駅ヨコビルが突如巨大なモンスターに変形し、駅を破壊し始めた。
「ダークデリバリーの仕業ね。残った聖石を10個全てあのビルに使ったのよ」
魔法騎士セララよりまえに放送されていた魔法少女セララをごらんになった皆なら覚えているだろう。このビルはダークデリバリーの本拠地でありセララの活躍によって今や空きテナントとなっていることを。
「さしずめ組織の再編ってところかしら。この結界を破壊して現実世界に飛び出せば……」
「そんなことさせないよ!」
セララは早速変身!
殴りかかるダークデリバリービルロボ!
靴から翼を広げて飛んだセララはビルロボの腕を駆け上がり、その横をミストルティンが飛んでいく。
と、その時。
「きゃあ!」
ビルの窓から一人の少女が転げ落ちた。
結界の中に迷い込んでしまったのだろう。
「あぶない!」
セララは急速にターンをかけると、少女をかかえて近くの建物の上へと避難させた。
「安全なところに隠れてて!」
「……」
その様子を見ていたミストルティンは。
「セララ、あなたの持ってる聖石を出しなさい。二人で力を合わせるのよ」
自分の聖石を取り出し、セララへと見せた。
頷くセララ。
二人は高く飛び上がると、同時に天空に魔法剣ラグナロクとバラの魔法剣を掲げ、巨大な魔法の刀身を出現させた。
「いくよ、ミストちゃん!」
「だから略さないで!」
天空を絶つかのような袈裟斬りが、ダークデリバリービルロボを破壊した。
傾き、爆発するビルロボ。その各部位から飛び出した聖石がそれぞれの色で光る。
その瞬間に、あちこちから飛んできた無数の『魔法少女』が聖石をそれぞれ一つずつキャッチし、秋葉原のあちこちへと飛び去ってしまった。
「あれは……!?」
「あいつら……この町にもう来てたのね!」
集めることで願いが叶うといわれる十二聖石。
それを狙った全国から集まった魔法少女たちが、それぞれ一つずつ石を手に入れた。
これから始まるのは魔法少女大戦! 願いを賭けたバトルロワイヤルである!
で終わると見せかけて。
「皆さんに転校生を紹介します」
「はじめまして、ミストルティンです」
「ミストちゃんじゃん!!!!!!!!!」
数日後の朝、小学校にて、ミストルティンとセララは再び出会った。
「手を組みましょセララ。あと、名前を略さないで!」