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形守・恩の肖像
登場人物一覧
名前:形守・恩
一人称:ウチ
二人称:お前さん
口調:~じゃ、~なのじゃ、~なのかえ? 廓風の言い回しが時折交じる
特徴:猫のように甘くときに意地悪
設定:
あげた髪の下のうなじの白さときたらおしろいもいらないほどだ。それは彼が遊郭にいた頃から変わらない。
彼は壱畝屋の看板、だった。娘ではない、男だ。だがその妖しいまでの美貌と才知あふれる話術が客を虜にし、太夫の位まで押し上げた。あの場所でおそらく、唯一の男太夫だったろう。にもかかわらず花魁道中では、ひと目見ようと屋根にまで登る輩が出た始末。視線一つで客をのぼせ上がらせ、眉を震わせただけで地獄の悪鬼も憐れむという儚さを感じさせた恩。
だがどれほど華やかに見えようと、岡場所は苦界。恩もまたその苦しみから逃れることは出来なかった。それは恩が生まれる前にまで遡る。七度目の妊娠を経験した時、花魁であった母はなんとかして腹の子をおろそうと四苦八苦した。これまで六人の水子を産んできた母は、どうしてもおりない子どもへやがて愛着を抱くようになり、神が自分に遣わした子に違いないと月満ちて生まれた赤子へ恩と名付けた。
だが壱畝屋は恩につらく当たった。当初は売り物にならないと思われていたのだから。母は最後まで恩をかばい続けたがやがて病を得て力尽きた。父であった男は逃げ、恩は両親の借金を幼い身で背負う羽目になった。手伝いができるようになってからは火の番ばかりしていたので、灰被りと呼ばれていた。しかし遣り手が煤を落とした恩の素顔を見て、これは商品になると踏んだ。そして源氏名に「夢郷」とあて、恩を遊女にしたてあげた。とばっちりもいいところであったが、借金を握られては反抗できない。芸事を仕込まれ、閨での仕儀を仕込まれ、そして恩は才能を花開かせた。
いつか飛んで逃げたいと内心願い続けていた恩は、人気絶頂の身でとある商人に身請けされた。
現在はサヨナキドリ豊穣支店の補佐役。
藤をあしらった小振袖に漆黒の帯を結び、末広がりのズボン、ショートのゴアブーツが彼の普段の服装だ。
背丈は168。ほっそりとした吊り目の瞳は大海色で古めかしい丸眼鏡をかけている。
頭頂部でシニヨンにしている髪は青みがかった黒、そこへ揺れものと結びものの一本軸の簪。前髪は顎ほどの長さでかっちりとした真ん中分け。
白いささやかな角が額の両脇に見え隠れしている。運命の人への、恋心のように。