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Where is my,
登場人物一覧
「ああ、ロビン。どこに行っていたんだ。屋敷から出てはいけないと何度も何度も言っただろう!!!」
フラヴィアーノはいつも停滞を求めた。
フラヴィアーノはいつも安寧を求めた。
フラヴィアーノはいつも不変を求めた。
フラヴィアーノはいつも誰かを求めた。
フラッフルではない。
彼は、フラッフルではない誰かを呼んでいる。
ロビン。
フラッフルではない、だれか。
ロビン。
「ロビン」
誰を、呼んでいるのだろう。
彼は明確な関係をフラッフルに求めなかった。
フラッフルは、いつも彼に従順な人形のままでいた。
●
「今日はお前に与える椅子と洋服を選ぼう、ロビン」
ロビンは頷かなかった。
あの写真のように微笑むことも、目を伏せることもない。感情を露にすることもない。私のロビンは体調が悪いのだろうか。
「ほら、ロビン、おいで」
手を引いた。細い指を握り、絡める。それでも笑みを浮かべることはなく、ただ首を重力に沿わせてこてんと傾けるだけ。
ロビンは微笑みはしなかった。
(気に入らなかったのだろうか)
焦燥が。困惑が。胸を支配する。
譬え私が気に入らないのだとしても、椅子や洋服を見せればロビンは笑ってくれるだろう。
屹度そうに違いない。
商人が待つ部屋へと手を引いた。愛しいロビンは何も言わない。
「お待ちしておりました、フラヴィアーノ様」
「ああ、遅くなって済まない。少し席を外してくれるか」
「はい、かしこまりました」
薄っぺらい笑みを浮かべた商人を遠ざけ、ロビンに似合いそうな椅子を、服を見る。
「ああ、これは最近人気の白樺の椅子のようだね。ロビン、どうだい?」
「これはシルクのスカートだろうか。触ってごらんよ、ロビン。ほら」
手を伸ばすように告げなければ触れない。
座るよう言わなければ座らない。
ロビンは能動的に動くことをしない。
カーテンを閉め切ったこの部屋のような、薄暗い気持ちが私の心を支配していく。
何故。どうして。ロビン。ロビン!
「……気に入ったものは、あるかい?」
ロビンの視線が、緩やかに動いた。華奢な白い椅子。美しい金の刺繍の入った、小さな椅子だ。ロビンが好みそうなものだ。
「ああよかった、ロビン。それじゃあ、それを貰おうか。あとで私から言っておくから、気にしなくていい」
ロビンの表情に変化はない。ただ頷いて、ぼんやりと椅子を見て、服を見て。それから私の反応を伺うように立ち止まって。
「ああそうか、そうだね、私も選ぼう、ロビン……」
私の好きな色に頷き、ロビンが好きだったはずの色には何も反応を示さず。私が驚いたような顔をすれば、ロビンははっとした顔をして頷いて。
「……ロビン。本当にそれでよかったのかい?」「……」
ロビンは何も語らない。
ロビンは私に、何も答えない。
「ロビン……」
答えはない。告げたいのだろうか。何も言いたくは、ないのだろう。
閉めきったカーテン。白い椅子に座った私のロビン。時折揺れる陽光がロビンの瞳を照らした。
ロビンは、私を見つめるだけだった。
●
服も、椅子も、何もかも。
僕ではない『ロビン』に向けて用意されている。
彼は僕をロビンというヒトに重ねている。
彼の望むロビンは、あの色が好きだったのだろう。
彼の望むロビンは、あの椅子が好きなのかな。
彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは彼の望むロビンは。
でも、それは僕じゃない。
彼が本当に欲しいのは、僕じゃない。
ロビンだ。
埃っぽい部屋のなか。僕は、ゆっくりと瞼を閉じて、世界を拒絶した。