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ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
ルルリア・ルルフェルルークの関係者
→ イラスト



 『光の槍』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)には大切に思っていた存在がいた。

 ──ルゥリィ・ルルフェルルーク。
 彼女はルルリアにとっての義理の姉であり、親友であり憧れの少女。
 これはルルリアとルゥリィの幸せだった頃のお話。



 煉瓦造りの建物が建ち並ぶ街がこの世界のメインストリート。そこは無辜なる混沌フーリッシュ・ケイオスで言うところの幻想レガド・イルシオン天義聖教国ネメシスのような雰囲気を感じる洋風めいた世界。
「ルル! んもー! まぁたこんな所にいるのですかっ!」
「ルゥちゃん……」
 そんな世界の片田舎、長閑な麦畑が広がるところにポツンと一本の木の下。銀の毛並みの獣人の少女が駆け寄る先にいたのが、金の毛並みの獣人の少女ルルリアだった。
「ルルったら……ルゥがついているのです、大丈夫なのですよ?」
「わたしはルゥちゃんみたいになれないよ……。もっとみんなと仲良くなりたいけど……」
「ルルは可愛いからもっと自信を持つべきなのですよっ? ルゥみたいに明るく元気になりましょうっ。はいっ、練習です!」
「ルゥちゃん……っ」
 ルルリアの腕をそう優しく、けれど少し強引に引っ張る銀の獣人の少女はルゥリィ。……同じ獣人である二人はとても仲良しだった。
 麦畑の中に見える孤児院で二人は暮らしていて、王国が迫害対象とする獣人としては比較的穏やかな毎日を送れていた。
 そうであったとしても、ルルリアは他人の目が気になってしまい自信が持てずにいたのだ。
「たくさん不安なら……ルゥがルルの手を握ってあげますっ。抱き締めてあげますっ! ……ルゥはルルが自分から一人ぼっちになるのが悲しいだけなのです……」
「ルゥちゃん……うん! わかった、頑張ってみる……っ!」
「えらいのですよ、ルル!」
 悲しげな表情を浮かべるルゥリィにルルリアは思わずそう答えてしまって。そんな様子を見たルゥリィはルルリアの頭を撫でて、ルルリアもそのまま笑顔が溢れた。
(わたしは……ルゥちゃんが居てくれれば……それでいいんだけどな……)
 獣人である自分と同じ獣人であるルゥリィ以外、誰が仲良くなってくれると言うのだろう。幼いながらもルルリアは大人達からの視線で自分達がどう言う存在かは何となく察していた。
 異物を見るような目、そこから感じる嫌悪……恐怖……人々にとって自分はなのだと悟った。
「さ、先ずは笑顔の練習ですっ! ルゥにニコッてしてみるのです!」
「え、こ、こう?」
「うーん……硬い笑顔なのです……楽しい事を思い浮かべてみるのも良いでしょう……ルルの楽しかった思い出はどんなものでしたかっ?」
「楽しかった思い出……」
 そんなの
「……ルゥちゃんと遊んだ事。全部楽しい思い出だよ?」
「ルル……ふふ、ルルは良い子なのですっ」
 ありがとうございますねと嬉しそうにするルゥリィにルルリアは自然と微笑む。
「あ、笑顔になれましたね! 上手ですよー!」
「え、そ、そうかな?」
 ルゥリィの笑顔を見ていたらつられて笑っただけなのだけれども。でもルゥリィが嬉しいならいっか。ルルリアはルゥリィの褒め言葉にまだ擽ったくて仕方がない。……けれどあなたが、ルゥリィが笑ってくれるなら頑張ろうかな? と、そう思えたのだ。
 孤児院の人達のあの目はまだ怖いけれど……いつか笑顔で話せる日が来るのだろうか? 否、きっと願うだけでは、思うだけではダメで。……自分から変わらなければいけないのだろう。ルゥちゃんのように笑顔で話せるようになりたい……ルルリアはその日からルゥリィと二人で、笑顔の練習や人と明るく話せる練習をこの木の下で頑張る事にしたのだ。



 ──後日。
 ゆったりとした時間の中で今日も二人は練習に励む。
「わ、わたしは……ルルリア・ルルフェりゅりゅーぐ……また噛んじゃった……っ」
「大丈夫大丈夫! 焦らなくていいのですよ! ゆっくり言ってみましょう!」
「わ、わわたしは! ルルリア・ルルフェルルーク! ……です……!」
「わ! 最後まで言えたのですっ! やりましたね、ルル!」
「うん! ルゥちゃんのお陰だよ」
 ルルリアが大きな声で挨拶が出来るようになってきた頃、孤児院によく来るお金持ちの人が来ていた。
 名前も知らないし、話した事もない……ただ遠くから見ても煌びやかな装いをしているから『お金持ちの人』だとわかった。
「あの人、いつもここに来るね……」
「誰か引き取られたりするのでしょうか……? あ、ルルだったりして!」
「ええ? は、話した事もないのにそんな事ないよ……!」
 もうルゥちゃんってば! と、ルルリアがぷうと頬を膨らませるとルゥリィは楽しそうに笑う。
 そんな二人の様子に気がついた『お金持ちの人』は二人に気づかれないようにジッと見ていた。
「彼女達は……?」
「ああ、ここの子達です。ここは人も獣人も受け入れているので」
「へぇ……そうなんですね」
 『お金持ちの人』は穏やかな笑みを浮かべてルルリア達を見る。まるで人の子達の戯れを見るのと変わらないように穏やかに。
「ご紹介しますか?」
「……良いんですか?」
「ルゥリィ、ルルリア」
「え?」
 院長に突然呼ばれたルゥリィとルルリアは再度振り向き、院長の元へタッタッと駆け寄ってくる。
「どうしたのです? 院長先生!」
「わたし達に、な、何か御用……です、か?」
 ルゥリィは人懐っこそうな笑みを浮かべて、ルルリアは滅多にない機会に緊張した様子で、院長の次の言葉を待っていた。
「この方はね、この孤児院に出資して下さってる貴族の方なんですよ。簡単に言うと……孤児院を助けてくれてる人です」
「わぁ! そうなんですね! あ、ルゥはルゥリィ・ルルフェルルークなのです! こっちは……ほら、ルル」
「え? あ、わ、わたしは! ルルリア・ルルフェルルーク、です……っ」
 ああちゃんと言えた……! とルルリアは心の中でホッと一息。
「ルゥリィにルルリアだね。可愛い狐の獣人さん……私はこれからもここに顔を見せる時があると思うからよろしくね」
「はい!」
 二人の元気のいい返事に院長と貴族の人は微笑ましそうに頷いた。

「今日の貴族の人、凄くいい人だったのです!」
 あれから自分達の部屋に戻った二人。ルゥリィは開口一番嬉しそうにそう言った。
「孤児院を助けてくれてる貴族の人……だっけ? わたし達にも笑ってくれた……」
 獣人を毛嫌いする人には出会ってきたが、獣人を嫌わず笑顔まで向けてくれる人は二人にとっては珍しい事なのだ。
「どのくらい来る人なのでしょう?」
「わからないけど……でもわたし達の事嫌いな人じゃなくて良かった!」
 まぁ嫌いな人がこの孤児院を助けようなんて思わないか。二人の貴族への印象は好印象。
「今度お花を贈ってみようと思うのです……ルゥ達に笑ってくれた大人は滅多に居ないのですから! 仲良くなりたいのです!」
「ルゥちゃん……良い考えだね! わたしも……わたしもそれ手伝うっ!」
 だから明日は少し先にある花畑で花を摘んで花束にしよう。そう約束すると二人はニッコリ顔を合わせた。

 今夜は二人にとってきっと眠れない夜になる。誰かが自分に笑顔を向けてくれる……たったそれだけでも、二人にとってこんなに嬉しい事は初めてだったのだから。
 眠れないお互いの顔を見てはキャハハと苦笑して……それを繰り返しているうちに二人の穏やかな寝息が聞こえていた。





 それはある日突然の事だった。
「え……?」
「ル、ルゥちゃんがあの貴族の人のお家に……?」
「ええ、以前会った際に気になっていたようなの。極め付きはあの後に花束を贈ったでしょう? それからいい子だって思ってもらっていたみたいよ!」
「良かったね、ルゥちゃん!」
「うん! ……あ、でも……ルルは? ルルは……」
 貴族に引き取られるのは純粋に嬉しい。しかし自分を慕いついて回ってくれたルルリアが独りになるのではとルゥリィはルルリアへ視線を向けた。
「…………寂しいけど……でもね、ルゥちゃんの幸せの方が大事、だよ!」
 ルルリアは笑顔を無理やり作る。本当は離れたくない、行かないで欲しい、これからどうしたらいいの? ……そんな気持ちでいっぱいになっている。だけれど、でも。
 それよりも何よりもルルリアはルゥリィの幸せを、ルゥリィがルルリアを思うぐらいには願っているのだ。
「……だからね、気にしない、で……」
 無理やり吐き出された言葉は途中で詰まってしまう。本当は声を震わせたくなかった、だってルゥリィなら迷ってしまうかもしれないから。だがルルリアはまだ子供なのだ、その幼い心はどうしても、どうしても……顔色に出てしまうもので。
「ルル……」
 を見てしまったルゥリィは一瞬不安気な表情になる。ああ、ダメだ。ちゃんと祝福してあげたいのに、離れ離れになると思うと胸が張り裂けそうだ。ルルリアは一旦唾を飲み込んで、そして……ルゥリィの手を両手で握った。
「ルゥちゃん、本当に本当に気にしないで? これはルゥちゃんの未来に関わる事だから……わたしはルゥちゃんの未来を閉ざしたくないの」
 ルゥちゃんのこの性格だもん、貴族に引き取られたってやっていけるはずだ。獣人が蔑視されやすいこの国で、あの温かい笑顔にルゥリィならきっと応えられると……ルルリアは彼女と過ごしてきた日々を振り返りながらそう思う。
 誰よりも勉強家で、誰よりも人を見る気遣い屋で……そんなルゥリィの努力が実りかけている瞬間に居合わせたのだ。だから、だから……ルルリアは本当は心から祝福してあげたいのだ。
「ルルの気持ちは、わかりました」
 涙を堪えながら訴えた言葉にルゥリィは優しい声でそう返事をする。
「ふふ、では素直に喜びます。ルゥはとても嬉しいですのです! それに皆に後押しもして頂いて……ルゥはとっても幸せ者だなって思いましたっ」
 ルルリアの必死な言葉にルゥリィは笑顔を咲かせる。その言葉にルルリアは安堵の表情を浮かべて……そして。
「……あ、あれ? あれ??」
 ルルリアのその目から無意識に涙が溢れてしまっていた。
「ご、ごめん……何でだろ、あはは。……もう、嬉しいはずなのに涙が出るなんて……い、今止めるから……っ!」
「いいのです、ルゥは……嬉しいですよ」
「え?」
 瞬間、ふわりと温もりに触れる。ルゥリィはルルリアを優しく抱きしめていた。
「ルルがルゥの幸せを願って送り出してくれる……それがとても嬉しいのです。……ならば、ルゥはちゃんと応えなくちゃって……思いましたっ」
 ルゥリィの言葉を聞いたルルリアが顔を上げて彼女の表情を見てみる。その表情はこれまで見てきたどんな表情よりも辛そうな微笑みだった。
「……院長先生やルルにはお手紙を書くつもりでいます。これから離れ離れになってしまいますが、離れていてもずっと仲良しでいて下さいねっ」
「そ、そんなの……当然だよ! ずっと……っ、ずっと仲良しだよ!!」
 お互いにギュッときつく抱き合う。
 きっと今生の別れと言う訳では無いけれど……でもそのぐらい二人にとって嬉しくて、しかし悲しい一報だったのだ。

 ──そして数日後
 また会える事を祈って、ルルリアは笑顔のルゥリィを手を大きく振って送り出した。





「え?」
 ガシャンと孤児院の台所で皿が割れる音が響き渡った。ルルリアが食器洗い中に皿を落としてしまったようだ。
「……ですから」
 ルルリアが思わず皿を落とす程の話題を持ってきた院長は目頭を押さえる。



「──ルゥリィが亡くなりました」



 ──ルルリアがそんな知らせを聞く数ヶ月前。
 ルゥリィが貴族に引き取られたその日、その貴族の屋敷に着いた時から始まった。
「おい」
「え?」

 ──パンッ

 ルゥリィが振り返ると同時に来たのは何かを叩く音と、自身の頬の痛み。何が起こっているのかわからなかった。
「あ、の……?」
「喋るな獣人。私は獣人と言葉を交わすつもりは無いのだ」

(……こ の
人 は 、 一 体 誰 だ ろ う か ?)

 あまりの人の変わりようにルゥリィは混乱する。孤児院ではあんなに笑顔で接してくれたと言うのに、仲良くなれたと思っていたのに。
 彼もまたあの蔑視の目でルゥリィを見下げていた。
「お前達の屋敷らあちらだ、こちらの本館と衣食住共にしてしまったら、私自身も獣臭くなってしまうからな」
「じゃ、じゃあなんで……、ッ!!」
 なんでルゥを引き取ったのか、ただそれだけが聞きたかった。
 だがルゥリィを鋭く睨みつけた貴族は彼女の腹を躊躇なく蹴り、そのまま彼女は倒れ込んでしまった。
「喋るなと言ったはずだ」
「う、ぐ……」
(痛い……痛いよ……)
 腹部に染み渡る強烈な痛み。ルルリアと穏やかな日々を送っていて忘れかけていたが、自分達獣人は『迫害対象』だった事を嫌でも思い出す。院長や周囲の人々も穏やかだっただけで……本来はが多いのだろう。
「何をそこで寝ている。さっさと起きてあちらの屋敷にいけ。呼ばれたら来るように」
「…………はい」
 ルゥリィは腹部に手を当てながら無理やり立ち上がって、また怒られないようにそそくさとその場を離れ言われた屋敷へ向かった。

「なんですか、ここ……」
 ルゥリィは絶句した。歓迎されて与えられた場所であるその屋敷は、傷だらけの獣人で溢れていた。
「……君もここに連れてこられたのかい?」
「こんなところに来てしまうなんて、運が尽きたね」
「そんな、どうして……ルゥ、一言言って──」
 獣人達の目にはもう光はなかった。何故こんなに好き勝手されなくてはいけないのだろうか。震える心のまま引き返そうとしたルゥリィを、まるで止めるかのように強く方を掴まれた。
「無駄よ、ここでは獣人に何一つ権利はないの」
「でも……でもっ!」
 孤児院の院長先生は私を温かく見守ってくれた。暖かい料理を与え、何不自由なく生かしてくれた。なのになのに……!!
「こんな小さな子が……」
「可哀想に……」
「……」
 向けられる哀れみの視線に、ルゥリィはもう押黙る事しか出来なかった。

 貴族の裏の顔を知り、獣人であったルゥリィの末路は……
「──かはっ」
「おっと。壊れたか、やり過ぎたな……。おい、コレを何処かに処理しておけ」
 まだ子供だったルゥリィの身体はその過酷な扱いに限界が訪れ……今力尽きようとしていた。
「る、る……」
 嗚呼、ルル。せめてルルは幸せに……。



 ──
 ────

「……さない」
 院長の口から全ての真実を聞いたルルリアの瞳に点るのは……怒り。
「……絶対に、許さない」
 この出来事から数年後。ルルリアはその貴族に対して報復を下し、貴族は社会的に抹殺されて悲惨な末路を辿る事になったが……それはまた別のお話。

「……ルゥちゃん、ルルはずっと思いながら生きていくのです」
 ルゥリィが生きた証を、ルゥリィの生き方を模倣する事でルルリアは紡ぐ。

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