SS詳細
チキンどもの腸、哀れなコック・ローチ
登場人物一覧
知るものか。知る筈がない。知られたとは思わなかった。息が域を侵し続けて数時間・数分間・数秒間・刹那、そもそも時間の感覚が狂っているのだ。惰性で走っているに違いないと自分に言い聞かせる。虚勢で駆けているに違いないと自分を吐い糺して魅せる。ゲル状の世界観は何処か幻想的で、つまりは大嘘のようにさまよってきた。企んではいない。そう断ずる咽喉は焼けていた。悪い事は何もしていない。そう言する脳髄は眩みに暗んでいた。だらりとたれさがった腸を抱えながら在り得ない所業。しかしオマエ、如何して此処が判断出来たと謂うのか――きゅらきゅらと星々が回転している。愈々幻覚でも視始めたのか? 未に放り投げた身が、がらがらと音を立てて屑折れる――成程、我々はひどい間違いを犯していた。時は未来だ。時はたとえばに喰われ、煉獄じみた螺旋を描いていたのだ。そうとも人類、最早『呪いは解く事が出来ない』と知れ。塵化められた汚いもの……。
楽な仕事だと最初は感じていた。退屈な作業とも開幕は罵っていた。とある組織の『機械』を解体してこい。とある組織の『人間』を破壊してこい。上は『機械・人間』を何処か危険視していたが、目標のデータは可愛らしい者・物で在った。ロボットとやらがたくさん『在る』未来世界の旅人・希望ヶ浜で未来科学部とやらを立ち上げている。お年寄りから子供まで『とてもやさしい』――嗚呼。嫌だ。厭だ。これだから悪名禍業は嫌いなんだ。誰かさんを殺す・穢すのは簡単だが、それが善良では後味が悪い。最も悪いのは如何成っても変わらないが――破り捨てるように命を受け、穿たれたかの如くに闇夜を進む。いいや。這うという表現が望ましいか。相手が偶像で自分は悪魔、蠅にもなれない蛆には其方が相応しい。今日の得物は獲物に合うだろうか。機械仕掛けが相手と聞いた故、それなりの物は用意した――筈なのだが。結局のところ【上】のおびえは正しかったのだ。
糞……糞。クソ……しねぇクセに随分と生々しい皮膚じゃねえか。最初に接触した観測は『ちょっと色の変わった娘っ子』か。妙な語尾が目立つだけの愛おしくも厭しい殺す相手。あかぶちのかわいさが人の頭の中を『みている』ようで仕方がない。会話する気も――すみません。この場所まで行きたいのですが教えてくれ――ッス……するすると流れるが儘に設定地に着いてしまった。ずるずると手を振っていた自分自身に気付いて溜息を吐く。そんな莫迦な。仮にも裏世界で生きる事を決めた人間だぞ。たかが旅人一人に――?
思えばこの時点で可笑しかったのだ。
カメラ・アイが同してもと微笑している。
バグ・ウィルス・ノイズ。記し方は幾等でも在るだろう。デウス・エクス・マキナ。アーカーシャ。銀色の鍵。繋がりを見つける術は幾多も廻るだろう。ふいに貌を上げれば俺か私、遠方を覗き込んでいるようで近方に立っていた。シナプスが動力源に飛び込んだのか。星辰が不在証明につつかれて位相ズれたのか。手元を改めて鋭利か鈍器の輪郭を知る。良かった。まだ自分自身は此処に『存在』している。は、は、は。そうか。想禍と叩いた両頬の痛み、この仕事を終えたら美味い酒を頼もう。浴びるように呑もう。あの不味いチーズタッカルビ――今何と口走った。そんな料理名は知らなかった筈だぞ、気分が悪くなってきたのは※※※※――目と鼻の先、鬼さんは此方だときゅいん・きゅいん。
脳味噌がイカレ始めたのは『隣人』その面を認識して終ったが故だ。何度も何度も見えないお友達に祈るような逃走劇、これは劇中劇と描いた方が素敵だろう。きらめく曇り空を疾走して幾生葬、この心臓が地獄に浸かっている。畏怖。ああ、イフ。ifなのだ。本当のオマエは【こんなことをしない】だろう。真実の自分自身は【こんなせかい】にないだろう。辞めてくれ。止めてくれ。やめろ、命令が聞こえないのか――肺臓が破れて久しく、善人の僕は絶望していた。なまなましいだと? 忌々しいかおぞましいだ。前言撤回と絶叫したいが如何して咽喉が灼けて逝く。某日某所、※はおそらく死んでいた。少なくとも殺せと咆哮していた。
いよう、クソガキ。ひでぇツラじゃねえか。
無機質が服着て歩くなんざ、狂っているとは思わねぇか?
四肢がエネルギーを嘔吐している。眼球が空間を歪めているかの如くだ。実際に歪んで在るのだろう、邪魔者・物が錯視に中てられていく。くるくると巻き取られた臓物が見えた。成程、呵々々、楽にするのも難しいだろうさ。何せ、まだオマエは命令されていない――肩は砕けて使い物にならない。如何様な足裏だと笑ってやった。そろそろお別れの挨拶としようか、レースは終いだぜ、愚直なるマシン――門の前で突っ立ってるのがお似合いだ、暗転。
冷えた血管が欠陥を警鐘してみた。
熱された得物が重さを失っている。
セカンド・ライフは楽しめたのか。ならば上々!