SS詳細
夢幻に想うMerryEnd
登場人物一覧
●
灰色が広がる背景の中で彼、『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)の意識が浮上した。
「ぼく、なにしてたんだっけ……」
ポツリと呟いて辺りを見渡す。モノクロな背景が広がる中で、二人がけのソファーに一人座る自分。何とも不思議な光景だった。
不思議な光景と言えば、そもそもランドウェラ自身の姿も本来の、
一体全体どういう状況かはわからないが、けれど……何故かこの部屋にも懐かしさを感じるのは気のせいではないと思っている。薄らと記憶の奥底、閉まっていた扉の奥、また奥にしまっていたようなそんな背景だったような気がした。そう挙動不審げに周りを見渡していると、不意に部屋のドアが開く。現れたのは……二人の男女。
ランドウェラは彼等をちゃんと
「ランドウェラ」
ふと、男に呼ばれればランドウェラは頬笑みを浮かべて
「パパっ」
極々自然にそんな呼称が飛び出た。
どうやらこの男はランドウェラの『パパ』らしい。確かにそう言われてみればそうだったかもしれない。この状況は相変わらずわかっていないが、であれば……隣にいるこの女は『ママ』になるのだろうか。
「ランドウェラ」
柔らかく呼ばれた女声に何故か違和感を覚える。どうしてかはわからなかった。けれど、でも、何故か、
そんな声で呼ばれて何故か
それはまるで
「ママっ!」
少年は自然と嬉しそうにそう女を呼んだ。
どうやら三人は家族のようで、
三人でギュッと抱き合って、それは幸せを象徴しているようにも見えて。悠久に過ぎ行く夢のようにも思えてならない。
幸せな光景のはずなのに……それは、何故か儚いもののように見えてしまっている自分がいる事に気づいていたものの、それが何故なのかランドウェラはわからなかったのだ。
「ランドウェラ、今日は誕生日だろう? おめでとう」
「おめでとう、ランドウェラ! この世に生まれてきてくれてありがとう!」
どうやら今日は彼の誕生日だったようだ。
「パパ! ママ! ありがとう! だいすき!」
ランドウェラは満面の笑みを浮かべている。大好きな人にこんなに祝われるなんて……なんて幸せなんだろう。
見えてる世界がモノクロなんかじゃなければ、きっと輝かしい瞬間だっただろうと思う。でもどうしてこんなにも灰色に染っているのか。
ケーキの色も灰色、プレゼントの色も灰色、蝋燭に点いた火の色だって灰色なのだ。
どんなに喜ばしいひとときであろうとも、これでは台無しと思わざるを得ない。
「さ、蝋燭の火に息を吹きかけて消してみるんだ」
「お願い事もすればきっと叶うわ」
「うんっ! けしてみるっ!」
いざ挑戦! と言った様子の幼いランドウェラがケーキに刺さる蝋燭に息を吹きかける。すると一発で消す事が出来、辺りは真っ暗に……そして二人からの拍手が響き渡った。
「お願い事は言えた?」
「うん! パパとママとずーっといっしょにいれるよーにって!」
「まぁ!」
「ランドウェラはいい子だな」
パパが頭を撫でてくれた。ママが嬉しそうに笑ってくれた。
ああ、なんてなんて……幸せなのだろう。
嗚呼、
──ドンドンドンッ!!!!
──ドンドンドンッ!!!!
──ドンドンドンドンッ!!!!
それは突如部屋中から聞こえてきた雑音。何かが部屋の壁を破壊しようとしてるかのような大きな音だ。
せっかくの幸せな時間に、何の音? ランドウェラは天井を、壁を、床を見渡す。
「どうしたんだ、ランドウェラ」
「え? だって、おとが……」
「音? 何も聞こえないわよ?」
パパとママには何も聞こえてないらしい。そんな、どうして?
──ドンドンドンッ!!!!
──ドンドンドンッ!!!!
──ドンドンドンドンッ!!!!
やだ。
やだよ。
やめて、煩い煩い煩い!!!!
「起こさないでくれよ!」
ランドウェラが次に目を覚ました場所は、見覚えがある。ここは、自分の部屋だ。
「…………そうだ、アレは……夢……」
「……大丈夫、大丈夫」
夢と言うものは、こんなものまで見るのだなと彼の笑みは乾いていた。