PandoraPartyProject

SS詳細

いと愉快なる練達散策

登場人物一覧

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
武器商人(p3p001107)
闇之雲

●練達の夏
「暑いねぇ」
 顔色変えずにそう囁く人物は、凡そ夏に似つかわしくない長手のコートを着込んだままで。
「暑いね……」
 そう返した人物も、顔色はさっぱり変わらない。ただ、よく見れば……白いテンガロンハットの下の、普段は持ち主の感情を写して揺れ動く金色の髪が、どことなく色艶を失って、ぐったりとしているようにも見えた。

 涼を求めて訪れた練達の街は、無辜なる混沌には似つかわしくないヒートアイランド現象により、むしろ余所よりもずっと暑くさえあった。
「マァ、そんなことだってあるさ」
 『闇之雲』武器商人(p3p001107)が嘯けば、
「そんなことだって、ある」
 『ゲイムメイカー』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)もたどたどしく返す。
「カリブルヌスの方、我(アタシ)の真似をしてるのかい?」
 興味深そうに肩を震わせる武器商人。
「真似?」
 微かに先端を捩ってみせて、疑問を示すマリアの長い髪。

 向かい合って立ち止まった2人のすぐ傍を、巨大な象型のアイアンゴーレムが、ドドドドと地響きを立てながら過ぎ去っていった。
 同時……辺りの空気が少しだけ、ひんやりとしたものへと変わる。マリアの白いワンピースの裾が揺れ、対照的な褐色の肌が、腕だけでなく脚まで露にさせられた。髪はぴくりと息を吹き返して頭上を指して、釣られて見上げれば細かい霧の中に浮かぶ虹。
「おや。あの象が鼻から水を撒き散らすことで、多少なりとも気温を下げてくれるって寸法かい」
「それに、こうして綺麗な虹も出る」

 ヒヒヒ、ようやく真似じゃあなくなったねぇ。
 別に真似なんて、してなかったのに。
 再びゆっくりと歩みを進める2人の前には、いつしか複合商業施設と思しき、巨大な建物が近付いてきていたのだった。

●練達の涼
 自動で開く二重の魔法の扉を潜り、エントランスホールに足を踏み入れたなら、吹き付ける冷風が2人の火照りを奪い去ってゆく。
 右には色鮮やで新鮮な果物の店。左には軽食の店々と飲食スペース。
 宮殿もかくやという吹き抜けの天井の先には炎ではない光の灯るシャンデリアが輝いており、ホールの周囲を取り囲む、数階ぶんもの回廊全てを照らし出している。

「さて、何処に行こうねぇカリブルヌスの方?」
「ここには、何があるのかな」
 無表情のままじっとホールの中空を見つめるマリアの顔色とは裏腹に、髪だけはやけにそわそわと、左手の方向を指していた。
「仰せのままに。我(アタシ)の愛しきモノガタリ」
 恭しく大仰にかしずいてみせた武器商人に手を取られ、向かうはひとつのポップな店舗。『アイスクリーム』と書かれた看板の周囲には、『バニラ』や『ストロベリー』といった見慣れた色と名前のものから、『エキサイティングサマー』やら『マスターシュペルスウィート』やらの何味だかも判らぬ人工色の何かまで、多彩なアイスの絵が描かれている。
 藍方石の瞳でじっとそれらを見つめたままで、微動だにしなくなってしまった褐色の少女。ああ、さぞかし何を食べようか悩んでいるのに違いあるまいと、武器商人の口許も愉しげに釣り上がる……本人は何でもないように振舞って見えるのに、髪の毛だけがリズミカルに左右にぱたぱたと振れて、どのアイスに興味があるのか丸分かりなのが可笑しい限りだ。
「どうして我慢なんてするんだい。欲しいものがあるのなら片っ端から求めてしまえばいいのさ……手に入るかは別としてね」
 そう声を掛けてやったのに、マリアはしばらく悩み続けた後で、ようやく答えを出しす。
 選んだのは……『チョコバナナ』と『ソーダ紫芋』のダブルを2つ。
「そうかい、我(アタシ)たちと同じのを選んだんだね、カリブルヌスの方」
 チョコバナナが褐色の肌と金色の髪のマリアなら、ソーダ紫芋の青白い銀色と紫は、武器商人の髪と瞳なのだろう。2つのコーンを店員から渡された後、より上手い形のほうを差し出してきたマリアから武器商人は受け取って……それから2人はアイスを舐めながら、再びこの“宮殿”の中を散策しはじめる。

 練達の超技術で管理された農園で作られた、産地も季節感もガン無視した野菜や果物らを眺め、これは何だ、あれの味はどうだと語り合い。
 お互い旅人同士の2人のどちらにも解らぬような、見慣れぬファッションのブティックに立ち寄って、これは似合う、あれはやめとくと評し合い――もっとも武器商人が普段の格好を崩すことはなく、着せ替え人形になるのは専らマリアの役目だったりもしたが。
 難解な異界の技術書に満ち溢れた書店に、一目では使い方の見当もつかない道具が並ぶDIYショップ。メカ子ロリババアのニューモデルが展示された電子ペットショップもあれば、どこまで使い物になるかも判らぬ家事ゴーレムの店もある。
「どうだい、練達は」
 尋ねた武器商人ではあったけれども、実のところ、答えを聞く必要なんてなかった。無表情を崩さずじっと店々を覗き込むマリアの髪が揺れ動く様子を見れば、彼女がどれだけそれらに興味を持って、散策を楽しんでいるのかがよく判る……その上彼女の褐色の肌は、何階建てもの広大な建物の中を隅から隅まで歩いたことにより、この冷房の効いた建物の中においてすらしっとりと汗を帯びている。
「さて。他には何を見に行こうかね」
 そう言って武器商人が辺りを見回せば……ちょうど『夏休み練達科学展 コキュートス展』なる特別展示の案内ポスターの水色が、偶然にも目に飛び込んでくるところだった。

●練達の氷獄
 外気温との差、約100℃。練達の最先端科学が映し出す氷の地獄コキュートスを地上に再現、と銘打たれた施設の入口は、大々と「体の弱い方は入場禁止!」の文言が踊る。
 青く仄暗い通路の中を、アニマトロニクスで動く悪魔らが飛び交っていた。氷に埋もれた作り物のミイラ。剣を掲げた勇者の人形。入口で貸し出された防寒具に身を包んだマリアの青い瞳は、何かを言いたげに武器商人を見る。
「ヒヒッ、流石に涼しすぎたかねぇ」
 受け取った防寒具なんぞどこかにやって、いつも通りの格好をしていた武器商人の顔を半ばまで隠す前髪の上で、凍りついた空気がきらきらとした氷の粒がゆらゆらと揺れる。武器商人の吐息はマリアの前髪に当たって、今度はこちらも結晶と化す。
「凍ったね」
「ああ、凍ったさ」
 半ば冬眠していたマリアの髪が、リズムよくふわふわと楽しそうに揺れた。寒すぎてご機嫌斜めかとも心配したが……どうやら武器商人の杞憂だったらしい。

 氷獄の出口を潜り抜けたなら、空では真夏の午後の太陽が、いまだぎらぎらと照りつけていた。肌を灼くほどのヒートアイランドの熱風は……しかし氷点遥か下の世界から帰還した2人にとっては、雪解けの後の春風のように気持ちいい。
「どうだい、我(アタシ)との『デート』の感想は」
「わからない……でも、思ったとおり、楽しかった」
 だとすれば、この好意を向けるに足る娘を今日連れ出してやれたのは、武器商人にとっても正解だったに違いない。
 『デート』なんて甘い言葉とは縁のなさそうな怪しげな人物と、その言葉の意味するものなどよく判ってない少女。
 そんな奇妙なコンビの足取りは、はたしてどこへ向かうやら?

  • いと愉快なる練達散策完了
  • GM名るう
  • 種別SS
  • 納品日2019年07月30日
  • ・エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787
    ・武器商人(p3p001107

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