PandoraPartyProject

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柳田少年、歌手を案内ス

登場人物一覧

柳田 龍之介(p3n000020)
若き情報屋
九重 縁(p3p008706)
月下美人の花言葉は

「……変じゃないかな?」
 柳田少年は、鏡の前でやたら身嗜みを気にしながら髪をいじくっていた。
 とはいうのも、今日はイレギュラーズから混沌世界の案内を頼まれたからである。
 柳田は若い情報屋だ。前線を張るイレギュラーズに対して人一倍の憧憬を抱いている。
 だから新しいイレギュラーズを見かけたら媚びを売るついでに道案内を買って出るようにしているが……ひょんな事から、時間を取っての道案内を頼まれた
 相手は『九重 縁』。神逐で活躍したイレギュラーズの一人――だとは聞き及んでいる。出身は異世界で、機械人形を操れる高度な文明。扱いこなす道具もその類が多いらしい。
 ならば、その手の道具を調達するに適当な『探求都市国家アデプト』を一通り道案内しておくのがよいだろう。柳田は鏡に映る自分にそう言い聞かせた。

「やぁ、お待たせしました」
 ローレットの練達支部でその人物と顔を合わせる。
「ううん。私も今来たところ! 龍之介くん、今日は宜しくお願いします」
「い、いえ。こちらこそ」
 戦働きをした人だと聞いていたから、もっと物々しい立ち振る舞いをした人物かと身構えていた。だが目の前にいる九重 縁――ユカリは幼げのある、整った顔立ちの女の子だ。態度も明朗で、見た目の年齢も柳田と大差ないだろう。
 丁寧に頭を下げ合うのもほどほどに、「何か困った事がないか」とか「気になる場所はないか」とか話を切り出した。
「うーん……そうですねぇ。しいて言えば――」

 ユカリはまず始めに、マイクのお店への案内を頼んだ。
「機械のお店なら知っていますが、一体何に使うのです?」
「あ。私、戦う時は歌って味方を応援するのが得意なんですよ。ほら」
 ユカリは自分が身につけているマイクロフォンを指さした。柳田は「成る程」と納得する。詩歌に魔力を乗せて自他の力を強める術師の存在は知っている。
 そんな彼女に、物資を融通出来ればイレギュラーズへ間接的に寄与出来るだろうか。そんな事を考えた柳田少年。
「よし、では。その道具の代金もわたくしがお支払いしましょう!」
「え、あ。それは……」
 柳田少年はユカリの忠告も聞かず、意気揚々と店がある方へと進んでいった。

「……高ッ!!」
「機械製品ってプロ仕様のものだとそういう値段のが多いですからねぇ」
 お店に到着してそれら道具の値札を見るなり龍之介は愕然とした。ユカリの方も困ったような笑みを浮かべている。
 ちゃんと働いている大人の給料一ヶ月分が軽く吹き飛ぶのではあるまいか。柳田少年のような子供が買える値段ではないし、イレギュラーズとして自立しているユカリでさえ気軽には買えない。
 他に居並ぶ立派なマイクも、多少の差はあれど大体同じような値段だ。この手に疎い柳田には判然としないが、彼女の言う『プロ仕様』の代物が揃っているらしい。
 とてもすぐに購入を決断出来る値段ではないとみた二人は、愛想の良い店員にアレコレ売り口上を投げかけられる前にその店から退散する事にした。
「……面目ない」
「ううん。売っている場所が分かっただけでもとても助かりました! 購入する時の参考になりますし、今使ってるのが壊れても修理とか……」
 ユカリにとってそれは嘘でない。仕事道具が壊れたら修理や購入が出来る当てがあるのは大分気が楽だ。
 だが柳田少年にとっては、「格好悪いサマを見せてしまった」とバツが悪い事この上ない。
「つ、次は挽回してみせましょうとも! 他に行きたい場所もあったんですよね!?」
「うん。ルナの整備に使える道具とか、あとは……直してくれる人とか」

 ――ルナ・ヴァイオレット。
 ユカリの愛機。元々は空中飛行といった芸当が可能だったらしいが、転移の際に故障あるいは『不在証明』の影響でそのほとんどの機能が失われている。
 ユカリが喚び出したルナを目の前に、柳田少年は興味深げに機体を撫でる。
「見た事ない材質ですね」
「うん。だから修理出来そうな人がいたら教えてもらいたくて」
「えぇ、そういう事でしたら! 整備に使える道具を探すついでに思案致しましょう!」
 柳田少年は自分の頭にある情報を総動員して大真面目に考え始めた。
 異世界人が集まる練達の性質上、他の世界から流入した機械人形も一定数は存在している。
 だからそういった代物向けの道具を使えば、軽い破損くらいなら修繕可能かもしれない。
「……だ、だから……練達の道具とか揃えれば、ちょっとした傷くらいは……」
「あぁ、えぇっと、あんまり無理して持たなくても」
「じょ、女性に重……重たい物持たせるわけには……」
 だが中身は、どうだろう。ユカリが居た異世界の技術。知識豊富な練達人達でさえ同じモノを作ろうとしても出来るかどうか怪しい。
 戦闘による外部的な損傷は直せても、飛行などの機能を取り戻せるかは――。

「……申し訳ない。散々引き連れ回した上に、機能を直せると請け負ってくれる人を見つけられなくて」
「あはは、不在証明の打破にあの人達も悩んでるみたいでしたからね」
 柳田達はその手の技術がありそうな方々ほうぼうを回ったが、「転移前の状態まで修理出来る」と頷いてくれる者は居なかった。
 柳田は薄々分かっていた。この世界は便利な代物を全て受け入れてくれるほど優しくない。ユカリもなんとなく理解していた事だ。
 だけど、柳田にとってイレギュラーズへ明確な力になれなかった事が少し悔しかった。マイクの事だって、格好悪い場面を見せたままだ。
「今日はどうもありがと……どうかしました?」
「え、あぁ。いや」
 ユカリは少年が落ち込んでいる場面を見て、その顔を覗き込む。気分が浮かない暗い顔。
「――♪」
 そんな顔を見たユカリは、柳田を励ますようにハミングを始める。
「ルナの事、気にしてくれたんですね。でも、大事な機能はちゃんと残ってるんですよ」
 そういってユカリは指をパチンと鳴らす。すると、どうだ。コンクリートで殺風景な路径に、多数色でライトアップされた派手なステージを展開してみせた。衆目がちらほらと注がれる。
「さぁ、良い照明を手に入れた事ですし。情報屋さんとの思い出の締めくくりに、新曲一ついっちゃいまーしょう!!」
 そういって、マイクロフォンを使って観衆に向けて歌声を紡ぎ出す。
 柳田はユカリが歌手としても活動しているとは知っていたが、いざそれを聞いてみると明朗な声色に胸が躍った。暗い気持ちが吹き飛ぶようだ。
「いつものことをいつもどおり――♪」
 ――明るい歌声ね。いいね、好きだ。 
 ――だが誰だあれは。
 同じような気持ちを抱いた観衆の一人が、興味深げに口にした。
 他の観衆も好意的な反応なれど、誰も彼女の名を知らぬ。
 異世界から来た人間というのは、そういうものだ。右も左も分からぬ。他人からも知られていない。ユカリもその内の一人。どれだけ実力をもっていようが、1からの始まり。
「あの人は、九重 縁というイレギュラーズです」
 一般人がその言葉に関心を示す。柳田少年は、周囲の反応にニヤリと笑みを浮かべる。
 ならば知らしめてやればいい。ここに異世界から来た歌い手がいると。
 客の反応を窺ったユカリと柳田は、彼らを楽しませる為にまるで示し合わせたように明朗な歌声と大仰な語りを合わせ始めた。
「カムイグラで『気丈な覚悟』と呼ばれた九重 縁。彼女の武勇伝をご紹介しましょう。どうぞ、ご清聴を――」

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