PandoraPartyProject

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夢か現か幻か

登場人物一覧

影縫・纏(p3p009426)
全国大会優勝

「……」

 砂埃の舞う喧噪の中、影縫・纏は一人歩く。
 ここはサンド・バザール。通称『闇市』。この世界で何かを探すのならばここが一番だと紹介された場所。纏の所持金で、という注釈はつくが。稀に掘り出し物も見つかるらしく分の悪い賭けではない。
 顔をストールで隠しながら纏は乱雑に並ぶ品物たちを物色を続ける。

 そもそもなぜ纏がこんなところにいるのか?
 もちろん元の世界でも戦闘経験がある纏は自身の得物を持っていた。それは今もスカートの中に隠してある二振りのナイフ。学生という立場とその世界の法を考えるとこれが纏に持てる精一杯の武器だった。
 しかし同業者にはもっと大きな得物を持つ者ももちろんいた。

 ――ギターケースの中に大型ライフルを忍ばせる者。
 ――スーツケースに重火器を仕込む者。
 ――ロングコートの内側に刀を隠し持つ者。

「……今のままだと戦力不足だからな」

 つまるところ纏もそんな彼らに憧れていたのだ。だってカッコいいじゃん?
 戦力増強のためというのも嘘ではない。だがどうせならカッコいい方がいい、と考えるのも自然なこと。何も間違っていない。
 そんな纏が今回探すのは刀。刃物の扱いならそれなりに覚えもあるし影纏いとの相性を考えると音の出る銃火器よりも接近戦向きの方が合っている。それにカッコいい。これが大事。


 そんなわけでしばらく闇市を回っているが目ぼしい物は見つからない。
 それもそのはず。纏は異能を持ち怪異を狩っていたとはいえただの女子高生。使っていたナイフも既製品であり武器の目利きなどしたこともない。初心者がいきなり掘り出し物を見つけられるわけがないのだ。

「お、嬢ちゃん! なにかお探しかい?」
「刀をな、探している」
「それならちょうどいい! 掘り出し物があるぜ!」

 一人でふらふらと歩いている纏を見かねて一人の商人が声をかけてきた。
 当てもない、餅は餅屋という言葉もある。纏はひとまず男の声に従うことにした。
 それにいざとなれば影纏いを使って逃げるればいい。



「刀は……これだな」

 商人が差し出してきたのは鞘に入った漆黒の刀。受け取り手に持ってみると中々の重量感。

「これが刀か……」
「ちょ、ちょっと待った! ここには他の商品もあるんだ。振るのは別の場所にしてくれ」

 思わず刀を鞘から抜こうとした纏を商人が全力で静止する。言われてみれば確かにここで何かあって商品を傷つけでもしたら弁償できるかわからない。

「ならどこかこの刀を振れる場所はないか?」
「しばらく行った先に広場がある。そこなら問題ないとおもうぞ」

 早速刀を振ってみたい纏だが買ってもいないものを持ち出すわけにもいかない。というわけで結構気に入ったこの刀の購入を決意したのだった。

「これはいくらだ?」
「一万! ……と言いたいところだが俺としても武器はちゃんと使って貰いてぇ。嬢ちゃんの出せる額にしてやろうじゃねぇか」
「商人……っ」

 どこの世界にも素晴らしい人物はいるものだ。そう実感した纏は手持ちをすべて商人へと渡し刀を受け取る。ずしりと手にかかる重みが纏に刀の存在を訴え思わず頬が綻んだ。

「毎度ありー。……よし」
「何か言ったか?」
「いや、なんにも言ってねぇよ。その刀を試してぇんだろ? 早く行きな」

 こうして纏は店を後にし、広場へと向かった。



「確かにここなら刀を振っても問題なさそうだ」

 商人の言っていた場所は小さな公園ほどの広場。幸い人も少なく刀を振るうにはうってつけ。
 纏は腰に携えた刀を鞘ごと引き抜き、身体の前で刀を抜こうとした。

「……」

 が、刀が抜かれることはなかった。
 刀身がちらりと見えた瞬間に感じた明らか妖気。この刀呪われてない???
 そんな馬鹿な。あんなにいい商人が勧めてくれた刀が呪われているわけがないと纏はもう一度刀を鞘から抜こうとするがやはり出る妖気。しかも心なしかさっきより出てる。
 数多くの怪異と渡り合った纏の直感が言っている。この刀はやばい、と。今は鞘がなんとか封印している様だが血を吸いだせば何をしでかすかわからない。
 商人には申し訳ないがこの刀を使いこなせる自信が纏には皆無だった。

 返金の対応と刀への適切な対処をしてもらうべく纏は来た道を戻っていく。

「……? おかしい。さっきはこの辺りに店があったはずだが……」

 しかし先ほど店があった場所はもぬけの殻。そこには誰もいなかった。
 まだ日は高く、店じまいには少しばかり早い。もしや商人になにかあったのかと心配する纏は周囲を探し出す。

 そんな心配を余所に商人はすぐ見つかった。日差しの暑さからか日陰で涼みながら煙草を吸って休憩中の様だ。

「お――」
「いやー、それにしても儲かったぜ」

 声をかけようとした纏だったが影纏いのせいもあり気づかれる前に商人が独り言を始めてしまった。

「処分に困ってたアレをまさか買ってくれる奴がいるとはなぁ。ちょろいぜ」
「……」
「さて、嬢ちゃんが気づく前にバックレるとするか」

 今の言葉から察するに商人はあの刀が呪われていると知っていたらしい。つまり纏は商人に騙されたということになる。そうなると正規の方法で金は返してもらうのは難しいだろう。
 しかし纏には影纏いがあり今ここは影の中である。方法はある。


 まずはむかついたので刀の鞘で商人の頭を小突く。影の中にいる纏の存在を商人は気づけない。

「いてっ! な、なんだ!?」

 続けざまに財布から代金+慰謝料をちょろまかし、刀も腰へと装備させた。まだむかついたので靴の紐同士も固結びにしておいた。

「うおっ!?」

 バランスを崩し転倒する商人を尻目に纏はまた武器探しを再開した。
 ちなみに商人は捻挫した。
 世界は思ったよりも優しくなかった。


「まさか詐欺にあうとはな……」
「気にすることはないよ。よくある話さ。それよりアンタ武器を探してるんだって?」

 とぼとぼと歩いていた纏に声をかけてきた一人の老婆。先の商人の件もあり、やや警戒を強める纏だったが老婆はそんなことを気にする素振りも見せず話を続ける。

「アンタは刀よりももっと身軽で扱いやすい武器の方が向いとるよ」
「しかし」
「ほらコレ」

 ぽいっと老婆が投げてきたのはなにやら複雑な形をした武器のような物。組み合わせ次第で様々な形に変化する暗器だった。
 これがまた結構カッコいい。纏の心の奥をくすぐった。

「ほう……」

 取り回しに関しても基本的にはナイフと似ており慣れれば問題はなさそう。

「刀なんかはもう少し慣れてからにするんだね」
「気に入った。これはいくらだ?」
「もうお代は貰ったよ」
「え?」

 老婆の意味深な発言で組み替えに気を取られていた纏は顔を上げる。
 しかしそこにもう老婆はおらず、残されたのは財布がほんの少し軽くなった纏だけ。
 また詐欺かと疑ったが手元にはしっかりと得物が握られている。
 夢かと思い頬をつねってみるが――。

「……いたひ」

 きちんと痛い。どうやら現実で合っているらしい。
 暗器に刻まれた銘は『幻魔』。幻の様に魔を刺す刃。

「とりあえずこれからよろしく、幻魔」

 纏が武器を選んだのか、武器が纏を選んだのかはわからない。
 だが結果として纏は命を預ける相棒を手に入れた。



 ――影を歩む少女は幻魔と共に混沌を進む。

  • 夢か現か幻か完了
  • NM名灰色幽霊
  • 種別SS
  • 納品日2021年01月15日
  • ・影縫・纏(p3p009426

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