PandoraPartyProject

SS詳細

けだもの達が残したもの

登場人物一覧

リトル・ドゥー(p3n000176)
動物好きの
ラダ・ジグリ(p3p000271)
剣砕きの

「直接見舞いにはいってやらないのかい」
 ラダ・ジグリは、祖母のニーヴァから薬品調合の片手間にそう尋ねられる。ラダは黙り込んだままだが、その表情は言葉よりも雄弁に語る。
 少し前、ラダは物資護衛依頼にて盗賊と交戦し、物資をほぼ十全に守り撃退してのけた。その成果はニーヴァの耳にも届いている。
 そこまでは良い。
 ラダが負い目に感じている事は、共闘したラサの傭兵やキャラバンが壊滅的被害を負った事だ。
 傭兵ならば、戦いにおいて死ぬ事も覚悟の上だろう。だが、キャラバンの民においては……。
「まさか、自分の責任と思い詰めてやいないだろうね」
 相変わらず黙り込んだままのラダに対して、ニーヴァは怪訝そうな声色でラダに問い詰めた。
「……婆様。私の不注意は、皆に咎められても致し方ない事だと思っている」
 ラダ・ジグリという女性は心身共に大人びているとはいえ、十九歳の若い女性だ。下手すれば少女といっても差し支えない年齢である。そんな彼女に顔を見知った者達が大怪我を負った事を、気にしないとする度量は無かった。
「だから薬も他人に届けてもらってるっていうのかい」
「……」
 返す言葉がなかった。顔を上げて祖母の表情を窺う勇気がない。
 そう思っていたラダの手元に「ぽん」と優しく薬瓶を包んだ袋が渡される。
「ほら、今日はアンタが直接渡してきな。その方が、元気が出るってもんだろ? 目を背けていたら得られるものも得られない」
 見上げた祖母の顔は、孫娘に向けられるいつも通りの顔だった。

 それがいくらかの助けになったかは分からないが、ラダはあの時に護衛したキャラバン達が入院している病変へ見舞いに行く事にした。
 赴いた病院の中は、明るい雰囲気ではなかった。負傷した者達があちこちにいる。
「あの規模の戦いの後です。必然ですな」
 聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。振り返ってみると、護衛をしたキャラバンの長だった。
「やぁ、久しぶりですかなジグリ殿。ニーヴァ殿は相変わらずお元気か?」
 快活に笑う長の腕をみると、厚く巻かれた包帯とそこから見え隠れする赤く爛れた皮膚。おそらくあの時に焼夷弾の被害を受けたのだろう。
 ラダは頭を下げて謝罪しようとしたが、それを遮るように長の手がラダの腕に添えられた。
「どうぞ、こちらへ」
 長に促されて病院の廊下を歩いていくラダ。内心では長から失望や罵倒の言葉が来る事を身構えていたが、一向にそれらが向けられる事はない。
「何故、咎めないのですか」
 思っていた事が漏れて、ラダは口を手で塞いだ。
「何を仰います。あなた方がイレギュラーズが増援に来てくれなければ、それこそ傭兵ともども全滅していたでしょう」
 それは、そうだが。
「別のイレギュラーズや傭兵なら、もっと上手くやれた。そういう考えが頭をよぎるのです」
 ラダは、自分の中にある溜まったものを吐露した。
 直接怪我をさせたのは襲撃した盗賊達といえど、非戦闘員への攻撃を防く事が出来なかったのはラダにとっての事実だ。だからラダにとって、大きな負い目なのだ。……恨みをぶつけられるなりしなければ、胸に溜まった罪悪感が抜けはしない。
 そういうラダの表情を見て、キャラバンの長は何も言わず病室の扉を開いた。
「あ――」
 キャラバンの者達が十人前後で共用で使っている病室。怪我を負っている者の驚いた視線が、一斉にラダへ集まった。
「あー! 傭兵のお兄ちゃんだ!」
「バカッ、あの人は女の人よ」
 向けられたのは罵倒ではなく、歓迎するような黄色い声。
 そんな状態だから、驚かされたのはむしろラダの方だ。薬瓶が詰まった袋をどういう言葉で渡そうかと思い悩んでいる彼女に、長から言葉があった。
「我々は、自分の非力さから他人を恨むほど脆弱ではありませぬ。感謝こそすれど」
 長はそういって、今までにラダが送った薬品の空瓶などを示した。
「ほら、お礼言うんだよ!」
「兄ちゃ、じゃなくてお姉ちゃんありがとなー!!」
 母親に促されて、頭を下げるキャラバンの少年。望んでいた言葉ではなかったが……手酷い後遺症がある者もいないと分かって、胸に溜まっていたものが抜けていくような感覚にラダは安堵した。
 祖母があのように言った理由がなんとなく分かった気がする。気遣われたのはむしろ自分の方だったか。
 ラダの心中察した長は、ニーヴァと同じような表情で僅かに笑みを浮かべながら穏やかに声を発した。
「是非リトルにもお会い下さい。あの子も、以前からあなたに会いたがっていましたから」
 ラダは静かに頷いて、別の病室にいる彼女の元へ赴いた。

「……ぁ!」
 会いに行った彼女は、きらきらとした目をラダに向けて声をハッする。そして痛みにもんどおりを打った。
「鼓膜が破けましてな。いや、なに、もう音は聞こえるくらいに治っておりますが……喋ると顎頬が酷く痛む様子で。書くものを持ってきましょう」
 そういって、長は一旦席を外した。二人っきりになってもドゥーは騒がしい仕草でラダの元に擦り寄る。
「もう立てるのか」
 ラダの声にこくこくと頷くドゥー。傷の具合を観る。下半身は全くの無傷で、破片を受けたであろう腕や頭に至っては乾いたかさぶたが点々と残っている程度だ。余程医者か治癒術師の腕が良かったか。この様子なら残る痕は薄かろう。
「はぁ」
 ラダは病室の椅子に尻餅をつくように座り込む。こんな小さい子供に後遺症たるものを背負わせずに済んだ事に、心の底から安心した。
 ラダの様子に、ドゥーは首を傾げた。それから、わざと変な身振り手振りや表情をしてラダを笑わせようとしたり……落ち込んでいると心配されたか。
「違うんだよ。あぁ、そうか。喋ると痛いんだったなら。今日は、そうだ。筆記で算術を教えようか」
「……ぅン」

 それから彼女達は商売に関わる算術だとか、十七匹のラクダだとかの昔話をした。
『公平に分配する為には、私が一匹連れてくればいいんだ』
『こっちの十一匹の場合は?』
『え』
 先日に頼まれた訓練の延長線でありながら、言葉も交わす事は叶わなかった。だがそれでもお互いよき学びを得たに違いない。
「目を背けていたら得られるものも得られない、か」
 ラダは祖母の言葉を思い返す。きっと、このような状態をなんとなく予期していたのではあるまいか。微笑ましい機会を得て、そんな事を考える。






 ぱあん!

 廊下の方で、箒が地面に叩きつけられた音が聞こえた。清掃係が手を滑らせ落としてしまった様子だ。患者が拾い上げて、清掃係に渡す平和なやり取りが見えた。


 ハッ……ハッ……。

 そんな状況に反してけだもののような息づかいが耳に入った。そちらの方に振り返る。みれば、ドゥーが耳を塞ぐように頭を抱えて縮こまっていた。
「リトル?」
 ラダは彼女の顔を覗き込んだ。瞳孔が縮んだ目には涙が滲んで、凍えたように歯をカチカチと鳴らしている。意思に反して口が痙攣する毎に、激痛でけだもののような息を漏らしていた。
 ――ラダは、純粋無垢に思えた少女の取り乱しように絶句した。
 殺傷能力がある武器が真横で爆発する経験をした直後なのだ。それと似た音を聞いて、こうならない子供はどれだけいよう。きっと、他の子も……。
『目を背けていたら得られるものも得られない』
 ラダは祖母の言葉を再び思い返す。平和な現実だけを見ていたい感情をこらえ、ドゥーの震えがおさまるまでその体をそっと抱き締めた……。

  • けだもの達が残したもの完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別SS
  • 納品日2021年01月15日
  • ・ラダ・ジグリ(p3p000271
    ・リトル・ドゥー(p3n000176

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