SS詳細
けもみみギャルのさまーばけーしょん!
登場人物一覧
●乙女たちの休日
「むは~」
ゆるみにゆるんだソア(p3p007025)の顔をご想像いただけようか。
これが、ネット式ハンモックで仰向けに寝そべり、ゆったりゆらゆらしているソアの顔である。
「ハンモックを発明したひとって天才だー……のーべる賞あげよう」
「この世界におらんけどなノーベル……おらんよな?」
扇風機に向かって『あ゛~』ってしていた『田の神』秋田 瑞穂(p3p005420)が振り返った。
こちら瑞穂の暮らすアパートの一室。
庭で暮らす鶏がこけっここけっこいいながらニワ臭をさせるというなんともな物件だが死ぬほど安いおかげで瑞穂もソアも懐を気にせずのんびり暮らせるお家なのである。
四畳半和室一間の安アパート。こんな物件が普通に町中にあるのが幻想(というか混沌世界)のすごいところだった。
ハンモックの上で器用にくるんと寝返りをうつソア。
「ねえこのハンモック貸してよ。うちでも使いたい」
「べつにかまわんぞ? ビンゴ大会で貰っただけのもんじゃし、わし敷き布団派じゃし」
そう言って背後にある押し入れの襖を親指でさす瑞穂。
「表は唐草、裏は花色木綿じゃ」
「じゃあなんでハンモックつるしたのさ」
さらっとふった落語ネタが通じないとみて片っぽの頬を膨らませる瑞穂。
「おぬしが寝てみたいとかゆーからじゃろがい」
軽口のペースとくつろぎっぷりからおわかりの通り、二人は仲良しフレンズである。
虎精霊と化狐というミョーにねじれた共通点なれど、付き合ってみると案外普通にヒトとヒト。お互い異文化に寛容なこともあり頻繁に互いの家に集まってはダラダラするのだった。
そんな仲良しフレンズは二人だけではない。
三人目の仲良しフレンズをご紹介しよう。
「やっほー。瑞穂ちゃんソアちゃん来たよー」
玄関のドアを拳でごんごんやって存在をアピールする少女。
ドアを開けるとお出かけ着の『忘失の過去』クランベル・リーン(p3p001350)が紙袋を手に立っていた。
ぴこんとした猫耳をはやしたとしはもいかぬ少女である。本当はしっぽも生えているが無意識にスカートの中へ丸めて隠しているらしい。
「お嬢様たちにお休み貰ったの。これおみやげね」
「おー、はいれはいれー」
ハンモックの上でうつ伏せになりしっぽをふりふりすることで手招き(尾招き?)するソア。
「わしんちなんじゃけど?」
「おじゃましまー」
「はいるし」
とか言いながら、瑞穂は一人暮らし用の小さな冷蔵庫を開けて麦茶の入ったガラスボトルを取り出した。
部屋のすみに置いたちゃぶ台に湯飲みを三人分並べると、そこにとくとく注いでいく。
「お休みというのは丸一日かの?」
「うんー。今日ははねをのばしなさいって」
「まあ、最近大仕事があったばかりじゃしのう」
「ねー、大変だったよねー」
ハンモックの上から手招きして器用に湯飲みを貰うソア。
ソアとクランベルに湯飲みを配り、瑞穂は自分の分の麦茶をすすった。
「あの大魔種とかいうのを相手にきったはったの大勝負を……」
「瑞穂は出てなかったじゃん」
「わたしとソアちゃんだけだったよね」
「でとったしー!? わしだって首都の田園を大雨から守ったり稲の不調を治したりしとったしー!?」
「想像したよりずっと地味に活動してたんだね瑞穂ちゃん」
「夏前の大雨で稲穂が水につかると米がダメになるんじゃよ。だから水かさが増すときは水門を開くんじゃがあそこって木板をつかった手動式じゃろ?」
「じゃろといわれても」
「それにあの辺の米農家組合にいる藤巻さんってわしの信者じゃろ?」
「じゃろといわれても! ――あ、そうだこれお土産お土産。お嬢様が『皆で食べるのじゃ』って」
クランベルが紙袋から出してきたのは観光地やなんかでお土産として売られがちな四角い箱。
パッケージには『まんじゅうひよこ』と書いてあった。
「おー、なんじゃなんじゃ、まんじゅうひよこではないか」
「えっなに、ひよこたべるのか?」
まじなの? という顔でハンモックから首だけ出すソアに、クランベルは箱を開けて見せた。
「ちがうよー、おまんじゅうだよ」
箱に並んでいたのはなんかこうつるっとしたいい具合の形をした栗まんじゅうだった。
「なーんだお饅頭か」
「親まんじゅうの巣にわけいってこのまんじゅうひよこの雛をとってくる仕事がこのまえ雑誌でやっとたのう」
「やっぱりひよこなんじゃん!」
窓のそとでコケーと鶏がないた。
まんじゅうをぱくつきながら麦茶をすすり、三人はいつものように雑談オブ雑談をかわしていた。
透明人間視点だと自分のまぶたってどうなってるのみたいな雑な話である。
そんななかで、ふと。
「うがー!」
瑞穂が頭の無くなったまんじゅうひよこと湯飲みを手に立ち上がった。
ぎょっとして見上げるソアとクランベル。
「なにをやっとるんじゃわしらは! うら若きギャルが三人もいて……夏まっさかりに四畳半で車座になってまんじゅうぱくついとるばあいか!」
「ばあいかといわれても」
「いつもこうじゃない?」
「こうじゃない!」
瑞穂は残るまんじゅうを頬張り麦茶でんぐぬぐ流し込むと、空っぽの湯飲みを高く掲げた。
「ギャルらしく外で遊ぶのじゃ! サマーをえんじょいするのじゃ!」
するったらするのじゃーといってじたじたする瑞穂に、どうやら家に籠もるのが退屈になったんだなーと察したソアがクランベルの顔を見た。
『?』の笑顔で首を傾げるクランベル。しかたないのでソアが肉球ハンドでぽんぽんと手拍子をうってみせた。
「じゃあ、どこに行く?」
「どこじゃと? そんなものは決まっておる!」
カッと振り向いた瑞穂は――。
●ギャルといえばたぴおかじゃろ?
「ギャルといえばたぴおかじゃろ!?」
章タイトルと同じことを言ってタピオカドリンクショップにやってきた瑞穂。
クランベルは『たぴ、おか?』と未知の言語みたいな反応を示し、ソアもソアで『のみ、もの?』とクランベルとシンクロして首を傾げていた。
「ふっふっふ……説明しよう。たぴおかとは……」
どや顔で人差し指を立てた瑞穂が、ぴたりと停止した。
首を傾げたまま停止するソアとクランベル。
「あのころころしたやつじゃ!」
「「あのころころしたやつかー」」
ギャルにうんちくはいらない。
三人は『たぴおか百万石』とかいうのれんを潜ると、カウンター越しに腕組みしてるねじりはちまきのおっさんとその横に添えられたファンシーなメニューボードを見比べた。ボードには丸文字で『きょうのおすすめ☆』とか書かれていた。
普通の人だとうっかり深く考えちゃうところだが、ソアはナチュラルに『おじさんが書いたのかー。文字かわいいね』みたいな反応をするしクランベルはそもそもなんも考えてないようなぽわーっとした顔をしているし、瑞穂に至っては横文字がよくわからなくて唸っていた。
突っ込み不在のほんわかトリオであった。
「注文して即座に出てくるとは、やりおる」
窓際のテーブル席について、瑞穂は目の前に置かれたプラスチックカップを凝視した。
大体のひとが想像するタピオカドリンクのそれである。透明なカップに蓋がついて、普通よりずっと太いストローがささったあれである。
瑞穂のドリンクはミルクティーにオーソドックスなブラックタピオカがころころしたやつで、比べるように横に置かれたクランベルのドリンクは綺麗なピンクから白にかけてのグラデーションがかかったものだった。底の方にはカラフルなタピオカがころころしている。
「なんじゃそれは」
「いちごみるくだよ?」
「ほう……で、それは?」
ソアの前に置いてあったのはブルーのドリンクに明るい色のタピオカが沈み、レモンスライスがやんわり浮かんだドリンクだった。
「ん……わかんない。ブルーハワイって言ってた」
「わしの知っとるブルーハワイじゃないのう」
うむむ、といいながらもストローを加える瑞穂。そしてクランベル。
ソアはストローで底のほうにあるタピオカをくるくるさせてから、ふと瑞穂のほうを見た。
「こうしてるのがギャルなの?」
「フフ、甘いなギャルにはギャルのタピオカ作法があるのじゃ」
「ハッ……わたし見たことある!」
ストローくわえてすここここーってしていたクランベルが目を見開いて立ち上がった。
どにゃ~っと笑うと、プラスチックカップを胸元にあててストローをくわえてみせた。
「この状態でドリンクを飲むんだよ。タピオカチャレンジってゆ――」
すこーんと垂直落下するカップ。
ストローをくわえたまま沈黙するクランベル。
すぐ隣で、すこーんという音がした。
ストローをくわえたまま沈黙する瑞穂がいた。
二人はストローをくわえたままソアへ目をやる。
「ん? できたぞ? このあとどうしたらいいの?」
たわわな胸の谷間にカップを挟んで両手を後ろに回したソアがストローからタピオカをすこすこ飲んでいた。
「まって。もしかしてタピオカチャレンジって胸の大き――」
「ギャルにたぴおかなど不要!」
瑞穂はテーブルをずだーんと両手で叩いた。
「ショッピングに出かけるのじゃ!」
●ギャルといえばウィンドウショッピングじゃ!
「ギャルといえばウィンドウショッピングじゃ!」
また章タイトルと同じことをいってファッションショップを指さす瑞穂。
ここはみんな大好き幻想王都のファッション通り。
幻想のモードはここから始まると言われるくらいのオシャレスポットだ。
「わー、すごーい。みんなオシャレして歩いてる」
ソアがつま先立ちできょろきょろしてみれば、あちこちで攻めたファッションの男女がこれ見よがしにアピールしながら通り過ぎていく。
どにゃってして胸を張るクランベル。
「トーゼン。ここにはファッション雑誌の記者なんかもいっぱいいるからね。
オシャレを磨けばトップモデルの貴族みたいにノンノンの表紙に載っちゃうかも!」
「実に……ギャルじゃろ!?」
「ギャルだね!」
「ギャル!」
三人はグッとガッツポーズをとりあった。
突っ込み不在の三人娘である。
こうして三人は意気揚々と一列(背の順)になって幻想ファッション通りでもある意味名高いファッションセンターしまむまへと突入していくのであった。
大量の服。服。服!
ほえーという顔で瞬きしていたソアが、横で同じようにほえーってしてるクランベルの肘を小突いた。
「ねえねえ、ウィンドウショッピングってなに? ハンティングと似てる?」
「ぜんぜんちがうよ?」
「ふっふー、仕方ないのう二人とも。ここはショッピングのカリスマと呼ばれたわしが説明してやろう」
瑞穂はピッと人差し指を立て。
そのまま停止した。
「う、うぃんどうを……買う? のじゃ?」
「うぃんどうかー」
「うぃんどう屋さんどこかな」
三人でうーんと悩んだ後、クランベルの猫耳がぴこーんと立ち上がった。
「もしかしてショーウィンドウを見て回るってことかな!?」
「それJA!!!!」
両手の人差し指をビシッとつきつける瑞穂。ヤッターといって万歳するクランベル。すごーいといって肉球ハンドで拍手するソア。一連の様子をただただ微笑ましく見つめている店員。
ソアはしっぽを機嫌よさげにくねくねさせた。
「けど見て回るだけじゃもったいないよ。このお店は試しに服を着られるらしいし、似合う服を選んでみない?」
「似合う服……? といってものぅ……のう?」
首を傾げてクランベルへふると、クランベルも同じように首を傾げてみせた。
「いつもお嬢様任せだったし……? 自分で選ぶのはピンとこないよね。ソアちゃんは?」
「ボク? ボクは………………」
ソアがぽあーんと虚空を見上げたまま停止した。
「そういえばよくわかんないぞ。適当に選んで貰った気がするな」
「自分で選ぶとダメそうじゃな……おっ、そうじゃ!」
狐耳をぴこーんと立てる瑞穂。
「コーデゲームじゃ!」
説明しよう!
コーデゲームとは三人で集まって行なうコーディネート遊びである。
まずモデル1人とコーデ2人を決め、モデルに似合うファッションパーツを交互に一つずつ持ち寄るのだ。
これを全員一回ずつ一サイクル行ない『楽しかったらみんな勝ち』というゲームだ! ……ゲームか!?
というわけでエントリーナンバー1番!
瑞穂モデル、ソア&クランベルコーデ!
「どーじゃー!」
試着室のカーテンをずばっと開いた瑞穂は毛皮の胸元と腰のラインがよく出るドレスに厚底サンダルを履き、中指のリングで固定するタイプの指出しロング手袋と耳が突き出るタイプのつばのひろい帽子を被り、上からもふもふした毛皮のコートを羽織っていた。
ソアのワイルド趣味とクランベルのふわふわ趣味と貴族が合わさり、なんかの女主人みたくなった。
「自分で言うのもなんじゃけど、ひたすら斬新な気分じゃな」
白い羽根の扇子をバッて開いて顔を仰ぐ瑞穂。
ソアとクランベルも『おー』といって頷いた。
では続きましてエントリーナンバー2番!
クランベルモデル、ソア&瑞穂コーデ!
「おまたせー!」
試着カーテンをばーんと開き、両手を腰に当てて登場したクランベル。
ジャングルでみるような大きくて長細い葉っぱを胸元に巻き付け、同じ葉っぱをロープ状に加工したものに草を沢山つけてミニスカートみたくしたスーパーワイルドなジャングルファッションができあがっていた。(余談だがしっぽは丸めて葉っぱの中にかくしていた)
「ボクもね、途中でこれ服なのかなって迷ったよ?」
「わしもそう思ったんじゃが葉っぱが出た段階でなんかな? なんか野生の血がな?」
どうやらソアと瑞穂の野生がシンクロしてジャングルスタイルに行き着いてしまったらしい。
「これはこれで、わたし新鮮かもっ」
クランベルの環境ではまず着ない服装(?)らしく、クランベルは身体をふりふりしてした。
ではいよいよラストのエントリーナンバー3番!
ソアモデル、クランベル&瑞穂コーデ!
「お、うおー……」
そっとカーテンを開いたソアが見せたのはフリル満載の和服であった。
丈の短いミニスカート風のシルエットに白いフリルが沢山ついた花模様の和服。頭にはフリルカチューシャがつき手袋も白いロングタイプ。一方でロングブーツはつやのある黒い革製。
普段露出の多いソアからあえて露出を抜いたことで、ソアは逆にもじもじしていた。
「ど、どうかな。へんじゃないかな……」
「ソアちゃんがもじもじしてるのかわいい」
「新鮮じゃのー」
クランベルのフリル趣味と瑞穂の和服趣味がそのまま合致したことで生まれた衣装だが、ソアが着ることでかなりの斬新さが生まれたようだ。
三人はいつもじゃまず着ないような服装で鏡の前に立ち、それぞれ顔を見合わせた。
「こういうイメチェン……してみちゃう?」
「ど、どうじゃろ……?」
「た、たまには……ね?」
とかいいながらそっとそれぞれの値札をチラ見してから。
「「今日は着るだけにしよう!!」」
満面の笑みで言葉を合わせるのだった。
●ギャルといえばプールじゃ!
「ギャルといえばプールじゃ!!!!」
今度は章タイトルに勢いをつけて叫ぶ瑞穂。
白布と和柄を組み合わせたワンショルダービキニをきた瑞穂である。
そして、ハイネックビキニにふんだんにフリルとパレオがついた水着を着込んだクランベル。
でもって自慢の花柄ビキニを装着したソア。
三人は『とりゃー』と叫んで同時にプールへジャンプした。
両膝と用肘を曲げるように身体を反らしたアニメの水着回でよく見るフォームで、である。
ざっぷんと舞い上がる水。顔を出した瑞穂はぷるぷると首を振った。
「やっぱり夏はプールじゃのー。実にギャルギャルしておる」
「最初っからこうすればよかったねー」
アヒルの浮き輪に乗っかってぷかぷかするクランベル。
「これだけ外が暑いと水浴びがきもちーよね」
ソアはプールで仰向けになってすいすい泳ぐと、空をながめてぷかぷかと浮き始めた。
二人はちらりとソアの胸元を見て、次に自分の胸元を見た。
「ぐおおおおおおおおおおおお! こうなることはわかっておったはずうううううううう!!」
「落ち着いて瑞穂ちゃん! これから大きくなるよ!」
「御年三百七歳じゃい!」
ほんとは千三百七歳じゃい!
「おっぱい大きくても特にいいことないよ?」
「大きい奴はみんなそういうんじゃ! このっこのっ!」
瑞穂は仰向けに浮かぶソラめがけて水をかけまくり、ぷはっってなったソアは肉球ハンドで瑞穂に水をかけかえした。
「やったな、くらえ!」
「なんかたのしそう! わたしもやる!」
浮き輪の上から足をばたばたさせるクランベル。
三人は日が暮れるまでプールできゃっきゃはしゃぎまくり、ぐったり疲れて帰路についた。
「今日のわたしたち、ギャルだったかな」
「ボクは楽しかったからどっちでもいいかも」
「ふっふー、まだ気づいておらんようじゃな。もうわしらがギャルをきわめておることに」
瑞穂はピッと人差し指を立てると、目をきらりと光らせて振り返った。
「ギャルといえば、やっぱり青春じゃろ!」