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ヨタカと武器商人の話~Merry Casual Days~

登場人物一覧

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
武器商人(p3p001107)
闇之雲

「まったくこの我(アタシ)にこれだけ運動させたんんだ。ツケはきっちり払ってもらうよ」
 散々走らされたあげく、武器商人はやっと影を追い詰めた。クリスマスツリーがぽつんと異彩を放つ部屋だった。隅へ影を追い詰め、王手をかけようとしたその時、影は急にモノクルをかけた紳士に変身した。
「ツケを払っていただきたいのはこちらだよ」
 紳士はノアール・トアールと名乗った。偽名であろう。
「偽の依頼を流し、君をこの館へ誘い込み、3つの陣を踏ませて、やっと術式が発動した。これで君はこの部屋から出られない」
「ほう」
 武器商人は鼻で笑った。
「閉じ込めたというのかい? 我(アタシ)を? この我(アタシ)をかい?」
「そう、そこだよ。私が苦労したのは」
 ノアールはモノクルのずれをわざとらしく直した。武器商人は視線を走らせ、部屋の様子をうかがった。薪のはぜる音が静寂を際立たせている。ノアールが口を開く。
「名もなき美獣よ、君を捕獲してクライアントへ渡すにはどうしたらいいか、じつに738回試行したとも」
「その気になれば我(アタシ)はどんな檻でも出ていけるのに?」
「まさにそのとおり。結論から言って不可能。だから発想を変えることにしたのだよ。閉じ込めるのでなく、君が出ていかないようにすればいいとね」
 武器商人の視線がノアールの余裕の笑みに留まった。しだいに焦りが浮かび上がる。
「……我(アタシ)の小鳥になにかしたね?」
「そうとも」
 ノアールはフクロウが羽を広げるようにマントをひるがえした。
「君のかわいい小鳥の心臓へ氷の鎖を巻き付けた。君がこの部屋から出ると同時に心臓は凍り砕けるだろう」
「小鳥はすぐに異変に気付くよ。それと、『かわいい小鳥』などと呼んでいいのは我(アタシ)だけだ」
「安心するんだな。小鳥には……」
 ノアールはことさらゆっくり小鳥と発音した。
「まどろみの魔法もかけておいた。今頃夢のゆりかごだ」
 武器商人は歯を噛み鳴らした。ノアールは3つの陣を自分に踏ませたと言った。この状況は自分が招いたともいえるのだ。

 沈まぬ月のものになった。流れていく時間が愛おしく、すこし切ない。どの瞬間も俺と紫月の永遠の思い出、毎日が記念日。最初に言い合うおはよう。寄り添って歩く朝市。新鮮な食材を買いこみ、今日は何をしようと計画を練る朝餉。岬まで遠出をしようか。灯台に登ろう。天気がいいからきれいな景色が見れる。釣りもしようか。釣り竿一本持って。ならお昼はお弁当だね。紫月が微笑む。そうだね紫月、サンドイッチがいいな。マスタードとマヨネーズをきかせて。しゃきしゃきのレタスに分厚く切ったハム。カラスが鳴きだしたら、小魚をやって帰ろう。最近の紫月は料理上手になってきた。新鮮な魚介をさばいて、オリーブオイルとトッピング、今日も美味しそうだね。こんなに愛情がこもった食事ができる俺はきっと世界一の幸せ者。ああ、時よ止まれ、おまえは美し……誰? さっきから窓を叩いているのは。うるさいな。席を立とうとしたら紫月が悲し気な顔をした。どうしたの紫月、すぐに戻ってくるよ。本当だ。誰よりも何よりも俺は紫月を……うるさいな本当に……待っていて紫月、本当にすぐ、すぐ戻ってくるか……。

 バンバン! バンバン!
「……ん、んう、うるさい……。」
 ヨタカは唸った。頭が岩のようで体はでくのぼう。どうやらうたたねをしていたらしい。……何をして、そうだ、紫月を待ってたんだ。依頼に行って帰ってくるのを、じっと。
 バンバン! バンバンバンバン!
「…うるさいなあもう…。…あれ、リリコ…。」
 絵本で窓を叩いていたのは小さな友達だった。必死の形相は情報屋の顔だ。とたんに冷気がヨタカを襲った。吐く息は部屋の中なのに白い。心臓が冷たく、鼓動のたびに痛みが走る。ヨタカは窓を開けた。
「…胸が、痛い…。…もしかして、紫月に何かあったのか…?」
「……くわしいことは私も知らない。けれど、銀の月が依頼から帰ってこない。場所は特定してあるわ。助けられるのはあなただけ」
「わかった。行く。」
 ヨタカはとるものもとりあえずリリコに付いていった。森の奥に洋館が見える頃、リリコは足を止めた。
「……ここから先は私は行けない。安全な場所に移るわ。敵は強いけど、あなたならきっとと信じてる。私の銀の月をお願いね」
「ん。任せて。」
 館に近づいたヨタカは深呼吸をした。整った顔立ちを緊張と怒気に染めて、ヨタカは館の正面ドアを蹴やぶった。
「紫月を出せ!!!」
 大音声で言い放ち、そのまま突撃する。剣を構えた鎧がふらふらと近づいてきたが、ヨタカは翼を広げ上半身をぐんと半回転させた。翼が分厚い斧となり、まともにくらった鎧を一撃で葬り去る。さらに翼から羽が射出され、銃弾の雨と化し鎧どもをうがつ。瞬く間に残骸となった鎧のボディ部分を持ち上げ、ヨタカは一番近くの部屋の扉をたたき割った。
「出てこい! 紫月を返せ、返さないならこの館まるごと火の海に沈めてやる!」
 突然足元に陣が現れ、ヨタカはそれに飲みこまれた。見知らぬ部屋へ招待されたヨタカは目の前のフクロウを思わせる紳士に人差し指を突きつける。
「貴様が黒幕だな…? 紫月を出せ」
「残念ながらそれはできない。あの美獣はこの館ごとクライアントの手に渡るのだから。それにしても私のまどろみの術を破るとは……」
「能書きはいらない! 俺の言う通りにしろ貴様ぁ!」
 ヨタカが飛び掛かる、同時に拳で紳士の顔を殴りつける。紳士はそれをステッキでさばき、半歩立ち位置を変えた。大振りのパンチが紳士を狙い、そのたびにステッキが邪魔をする。いらだつヨタカ。またもストレート、からの回し蹴り、連撃が来ると思わなかったのか、それは紳士のボディへヒットした。遠慮も容赦もない一撃、苦痛で紳士の顔がゆがむ。
「とっとと紫月を出せ! こっちは貴様のせいだとわかってるんだ! このまま脳天カチ割ってほしいか!」
「やれやれ仮にも鷹を名乗るだけある。冷静になってくれないと、君の大事なヒトの状況を説明できないのだが」
 言われて口をつぐんだヨタカは、壁の向こうから乞うて乞うてやまない声が聞こえていることに気づいた。
「小鳥。そこにいるのかい、小鳥?」
「紫月! 俺だよ、紫月!」
 ヨタカは思わず壁へ呼びかけた。
「ぐあっ!」
 背中を鈍痛が襲った。翼が灼けるように痛む。振り向くとノアールが苦々し気につぶやいた。
「方針変更だ。ヨタカ君、君にはこの部屋で石像になってもらおう。ふふ、隣同士、永遠に会えないまま時を過ごすがいい」
 濁った色の魔力弾が次々とヨタカに浴びせられる。ヨタカの体が重くなっていく。
(……紫月、ごめん、助けに来たのに、俺、俺……。)
 みしり。
 壁に丸い亀裂が入った。
 ノアールの焦り声が飛ぶ。
 ミシ、ビキ、ビキ、ガシャン、ガランガラン。
 血まみれの袖が見えた。それは……。
「紫月!」
「よくも我(アタシ)のかわいい小鳥に手をあげたね?」
「バカな、部屋を出ればこやつの心臓が凍り付くはずだ!」
「バカはそっちだよ。隣同士だもの。壁を砕けば一つの部屋になるさ。術理は無効だ」
「……残念だが最後の手段だ、死体にも価値はあるのでね!」
 圧倒的な魔力の奔流がヨタカを襲った。ぶちあたる寸前、武器商人が身を盾にする。
「ぐふっ、く……」
 武器商人の口元から血が垂れる。それをぬぐう袖もまた赤い。腕が砕けるまで、壁を叩き続けていたのだと知れた。
「紫月、紫月……うあああああ!」
 ヨタカが再度ノアールへ突っ込んだ。ステッキで反撃しようとしたノアールの瞳が驚愕で見開かれる。
「どうやら攻撃の起点はここのようだね、ヒヒヒ……」
 すさまじい膂力でステッキの先を握られ、ノアールは意図せず魔力弾の波状攻撃を武器商人の体へ直撃させた。今のはノアールの渾身の一撃。漆黒の魔力弾が武器商人の腹を削り、大量の血がはらわたと共にあふれ絨毯を汚した。が。
「まだ生きている、だと!?」
「キミの相手は我(アタシ)じゃないよ。ヒヒヒヒヒ!」
「……あああああ! 死ね! 今すぐ死ね! くたばれ! 死んで詫びろ! 虫けら以下の存在だってなあ!」
 目の色を変えたヨタカがノアールへ殴り掛かる。乱打、乱打、乱打。ヨタカがノアールを制圧していく。モノクルが吹き飛び、変化で保っていた人の姿が変容していく。
「クソが、おぼえていろ……!」
 最後のあがきでふたりを跳ね飛ばすと、ノアールはフクロウの姿へ戻り窓から消え去った……。

「あ、あ、あ……紫月……」
 ヨタカは虫の息の武器商人の姿を前に滂沱の涙を流していた。両腕は骨が砕けてくらげのよう、腹には風穴があいている。
「…ごめん…ごめん……紫月……俺…何も役に立てなかっ……。」
「抱きしめておくれ。それが一番だ」
「……うん、うん……!」
 ぎゅっと抱いた体はひんやりしていて粘土のようだ。ぬくもりが感じられない。どうか、どうかこの俺の命の炎を紫月に渡せたら……! そうしたら俺はもう何もいらない! ヨタカがそう叫んだ時、頭を撫でられた。
「はい、治った。誰かさんのおかげでね」
「…え…?」
 ヨタカは顔を上げた。武器商人が照れくさそうに笑っている。既にその腕も腹も修復されていた。胸に耳を当てると、熱のこもった鼓動が聞こえた。
「紫月!」
「ああ、大丈夫。大丈夫だとも。小鳥が呼ぶ限り何度だって、よみがえるよ。我(アタシ)はおまえの沈まぬ月」
「……よかった。よか、た……。」
 優しい涙がヨタカの頬をつたう。温かく、心地よい涙だ。それがほとりと胸へ落ちたところを武器商人は目にし、彼の心臓にある筈の氷の鎖が、とうに溶けてなくなっていることに気づいた。
「…どうしたの…紫月…?」
「なんでもないよ」
(愛の炎というやつかね、ヒヒ)
 いつかこの日が思い出になったら話そう。輝くツリーを眺め、武器商人はそう決めた。

  • ヨタカと武器商人の話~Merry Casual Days~完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別SS
  • 納品日2020年12月24日
  • ・ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155
    ・武器商人(p3p001107

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