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その過去は『毒』足り得るか?
登場人物一覧
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名前:トキノエ
一人称:俺
二人称:お前
口調:だな、だろ、だろう?
特徴:【イケメン】 【ぼさぼさ頭】【アウトロー】 【酒豪】 【情が深い】 【根は真面目】
設定:
……一概に。
全ての病が、悪とは言えない。
人に投与されるワクチンと同じように。弱体化した病毒は却って感染された者の抗体を作り、微弱だったそれらを成長させていくことも有り得る。
然る村の人間にとって『 』はそのような存在だった。抵抗力が弱い者は別として、その力は病気に罹りづらい強い体を作ってくれる存在として、敬われ、慕われていた。
『 』は、それを誇りに思った。自らが天に選ばれた人間であるのだとすら思っていた。
その傲慢を、しかし打ち砕くかのように――天災が、村を襲ったのだ。
とある日の夜、一つの巨大な地震が村を襲った。
家の中で眠っていたものは多く、それゆえ、その殆どが押し潰された。偶然「月見酒」と称して外に出ていた『 』は被害を免れたものの、嗚呼、けれど。
「たすけてくれたすけてくれ」
「ほねがとびでて。ああ、ちが、ちが、こんなに」
「うちのこをたすけて。わたしはいいの。おねがい、おねがい」
救いを求める多くの声に、『 』は迷わず手を差し伸べた。
瓦礫をのけて、火を消して。だけど、最後。
……怪我で死にかけた村人たちに触れるたび、『 』のギフトによって、彼らはみな、こと切れたのだ。
救おうとした瀕死の村人たちは、自己の毒(ギフト)を後押しとして残らず死んだ。今この時になって『 』は漸く、自身の存在が、力が、人に徒為すものであると知ったのだ。
それでも、最期、村人たちは。
「ありがとう」
必ず、それを口にした。
助けようとしてくれて、ありがとう。その力で死ぬ私達を許してほしい。貴方の心に傷を残してしまうことを、許してほしいと。
――恨んでくれればよかったのだ。
そうすれば彼は自己を苛み、自らの手によって死を選ぶことすら出来ただろうに。
だから、彼は死ぬことすら出来なかった代わりに……無限の放浪を経て、壊れたのだ。
その心を。それまでの記憶と諸共に。
――現在。
『トキノエ』となった彼に、過去が去来する機会は殆ど無い、が。
何時か、何かをきっかけに、彼は自己のルーツを見出しうるのだろうか。
そしてもし、それが叶ったとしたら。
彼の心は今度こそ、砕けずにいられるのだろうか?