PandoraPartyProject

SS詳細

とこしえのユメ

登場人物一覧

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
リゲル=アークライトの関係者
→ イラスト


「レグルス、そっちにいったぞ!」
「わかっている」
 リゲル=アークライト (p3p000442)とレグルス・ド・ヴィルパンは所謂盗賊団のアジトに乗り込んでいた。
 天義の領主、バテンカイトス伯の娘ルミナリア・フォン・バテンカイトスが街に視察にでていた際にさらわれたのだ。
 『不思議にもそのとき護衛達は全員彼女から目を離していた』。
 友人であるレグルスがその任務の助けをもとめてきた。リゲルは二つ返事でそれを受諾しての今だ。
「それにしても――」
 襲いくる盗賊を切り捨てながらリゲルは口をひらく。
「君と同じ任務なんていつぶりだったかな?」
「それはお前がイレギュラーズの仕事にかまけていたせいだろう?」
 軽口でもって同じように盗賊の心臓を一突きしながらレグルスが少しすねたような口調で言った。
「ははっ」
 まるで騎士見習い時代の時にもどったようだとリゲルは思う。リゲルの言葉にはいつだってこんな少し皮肉交じりの軽口で答えてくれるのだ。
 彼だけは自分を「英雄」としては扱わない。
 その気安さが心地よかった。
「リゲル!」
 そんな彼が突然リゲルに向かって剣を向けた。
「っ!!」
 リゲルは一瞬で意図を察し半歩体を傾ければ背後からリゲルを襲おうとしていた盗賊へレグルスはその剣を突き立てる。
「大丈夫だな」
 レグルスは大丈夫か? などとは聞かない。そうできるのが当然だからだ。
「ああ、悪い」
「悪い、そうだな。そのとおりだ。反応が悪い。昔のお前だったらもっと早く避けていた」
「厳しいな、レグルスは。まあそこが君のいいところだとは思ってるけどね。でも、もっと可愛げがあってもいいとおもうけど」
 はは、とリゲルが笑えば、一瞬だけレグルスの眉根にシワがよったあと、笑う。
 いつだって彼はこんな笑い方をする。
 簡単にいってしまえばレグルスはたまに人が悪い部分があるのだ。偽悪的、とでもいうのだろうか?
 だがそれも彼らしいところ。リゲルはそんな彼を快く思っていた。
「さあ、あとは姫君を救い出さないとね」
「そのとおりだ」
 リゲルたちはアジトである洞穴を進んでいく。明かりも広さも申し分のない洞穴。それはこの盗賊団の大きさを示す。
「こんな大きな盗賊団を放置していたとは……」
 まだ天義の汚職は拭い去りきれていないのか。
「だろうな。この盗賊団から献金をうけて見逃していた領主のあたりはついている。大方バテンカイトス伯を気に入らないものだろうな」
「だね……あの事変で出し切ったと思っていた膿はまだ残るか」
「目上にあった膿が抜けてもその下に潜んでいた膿がまた浮上してくるものだ。なんともはや、天義の不正義は根が深かったんだな」
「同感だ」
 悪徳を摘んだことにより、その悪徳に押さえつけられていた悪徳が芽吹く。
 まるでそれはいたちごっこのように思えてうんざりする。
 彼らの進む先に大きな木製の扉が見えた。
 不思議とこの扉の前に近づけば近づくほどに敵の数は減っていた。
「罠、だね」
「だな」
 その理由は自ずと知れる。
「あきらめるかい?」
「お前もそんな軽口がたたけるようになったとは。答えは否だ。罠があれば突破すればいい」
 レグルスのそんな小気味のいい返しにリゲルは頷いた。
「いくよ」
「ああ」
 騎士二人の言葉は少ない。それで構わない。十分だ。意図はすべて伝わった。
 リゲルが、剣を構える。
 この門の先には多くの盗賊がいるだろう。
 しかし吹き飛ばしてしまえば問題はない。露払いは自分だ。
 そうすれば、レグルスの必殺の剣が悪を屠る。
 それが天義の白銀と真紅の騎士のコンビネーションだ。

 ドガァアア!!
 大きな音をたて扉が破られる。扉前で待機していた盗賊が幾人か吹き飛んだのが破壊された扉だったものの破片越しに見える。
 リゲルがそのまま飛び込めば、幾人もの敵が迎えるようにリゲルに襲いかかってくる。
「……ッ!」
 リゲルは返す剣で一人を屠り、更に進む。
 自分の役割は状況の判断と露払い。
 最奥の王座に座っているのが盗賊団の首領だろう。その後ろにある鉄格子には半裸で繋がれた女性。アレがルミナリアだろう。
 力なくうなだれていたが、騎士の姿を認め目に生気が戻ってきている。
 安心してくれ。今すぐに助け出すから。
 リゲルはそう目でルミナリアに合図する。
 ダン、と地を踏みリゲルは回転しながら剣を振るい、周囲の盗賊たちを切り捨てていく。人数は多いが押し切られるというほどではない。
 この程度であれば耐えられる。
 これよりの苦境など何度も、そう、何度ものりこえてきているのだ。
 それに、自分の背後には親友――レグルスが居る。
 何も不安はない。
 自分が踏み込めばレグルスがすかさずフォローする。
 思ったとおりに動いてくれる。
 合図もなしにだ。
 なんて戦いやすいのだと思う。
「くそ! なんだ?! 話が「違う」ぞ!!」
 やけに動揺した首領がシミターを構え叫ぶ。
「おい、お前!! どういうことだ!!」
 まるで何者かに裏切られたかのような声色で首領が叫ぶ。
 リゲルが、訝しみレグルスの方をみやれば、レグルスはその鋭い瞳を更に鋭く細めると、剣を構え一気に踏み込んだ。
「ガッ!!」
 レグルスはその切っ先を大きく開いた首領の口に付き入れていた。
 その動きはリゲルをもってすら見ることができなかった素早い動き。
 相棒の所作にリゲルは一瞬見惚れてしまう。
 鮮やかで美しいその剣技はリゲルにはないもの。
 リゲルが輝くような一等星であれば、レグルスは一条の流星。
「終わりだ」
 首領が倒されてしまえば、まるで蜘蛛の子を散らすかのように、盗賊たちの残党は逃げ出してしまう。
 リゲルはそうだ! と首領の腰にぶら下がっている鍵を引きちぎると牢獄に向かい鍵を開ける。
「助けに。きてくれた。白銀の騎士様」
 ルミナリアはその大きな瞳から涙をこぼしながらリゲルに抱きつく。
「わっ!」
 慌てるリゲルの後ろからレグルスは全く……とつぶやきながら自らの上着を脱ぎ、姫君の肩にかける。
 あられもない姿で放置はできないだろう、とレグルスはリゲルを睨む。
「あっ……真紅の騎士様も。ありがとうございます」
 レグルスの上着の裾をぎゅっと寄せながら頬を染めてルミナリアは微笑む。
 美男美女、まるでおとぎ話の英雄譚の最後のページの挿絵のようだとリゲルは思う。
「それでは帰ろう、姫君」
 レグルスはその場で姫に跪き、手を差し出す。
 エスコートまで完璧な王子様だなとリゲルがレグルスに耳打ちすればゴツンと額を叩かれた。
 姫君を助けた騎士は凱旋する。
 この物語はここで終わり、ハッピーエンドに――なるはずだった。


「どうして――」
 翌々日、リゲルはバテンカイトス領が滅びたとの知らせを受けた。
 愕然とする。
 令嬢を送り届け、令嬢の帰還にバテンカイトス伯は大いに喜び白銀と真紅の騎士を讃え、晩餐も用意してくれた。
 祝いの場でリゲルは如何にレグルスが活躍したかをバテンカイトス伯に演説した。
 ついでに未だ妻を娶らない親友をルミナリア嬢にプレゼンテーションして、レグルスに小突かれた。
 そんな和やかな場であった。
 問題もなく、そう問題もなく任務は完了した。そのはずだったのに。
「と、とにかく情報を集めてくれ」
 絞り出すようにリゲルは部下にそう命令した。


「姫君、おかげんはいかがですか?」
 祝宴の最中、疲れがでたのか気分の悪くなったルミナリアはレグルスに連れられ寝室に向かうことになった。
 通常であればそれはメイドの仕事ではあるが、そこはバテンカイトス伯がいらぬ気をきかせ、レグルスがそのエスコート役になったのだ。
 ヴィルパン家の家柄は天義でも高い位置にある。
 アークライト家の騎士はすでに妻帯者だ。それならばとバテンカイトス伯の打算も働いたのだろう。
「ええ、申し訳ありません。殿方にこんな――」
 ルミナリアは紅潮した顔でベッドに座る。
「水はいかがですか?」
 紳士然としたレグルスがベッド脇の水差しからグラスに注いだ水をルミナリアに渡す。
「ありがとうございます」
 こくこく、と喉をならして水を飲むルミナリアの頬にレグルスは手を添える。
「あの……白銀のリゲル様には……奥様がいらっしゃるのですよね」
 どこか遠くをみるような瞳でルミナリアは口をひらいた。
 ああ、ああ。
 レグルスの心にどす黒いしみのようなものが広がっていくのがわかる。
 いつものアレ、だ。
 同じようなことは今までなんどもあった。
 『姫君はいつだって白銀に恋する』
「ええ」
「ふふ、それなら私は横恋慕になるのかしら?」
 無邪気にリゲルへの恋慕を表す目の前の女をめちゃくちゃにしてやりたい。
「そうならない、方法があるとしたら?」
 思ってもない言葉だったのだろう。ルミナリアはなんども目をぱちぱちと瞬かせた。
 聲。
 甘い、地獄よりなお深い煉獄からの聲。
 レグルスはその聲を一層甘く、優しく、とろかせるように続ける。
「ありますよ。方法。あの白銀を貴方のものにする方法が」
 レグルスが立ち上がり窓際に向かう。
 窓の外の月が照らす彼の影は妙に大きくて。
「ふふ、どんな方法かしら? 私にもできますか?」
 ルミナリアはレグルスの言葉を戯言ととったのだろう。いたずらげな顔で続きを促す。
 レグルスはニッコリと笑い、胸元から小さな小瓶を取り出す。
 可愛らしい小瓶にルミナリアはかわいいと微笑んだ。
 レグルスはルミナリアの飲むグラスの水にその小瓶のなかの液体を注ぎ込む。
 桃色の液体は水に溶けふんわりと広がっていく。
 そこにレグルスは花瓶から桃色のバラの花びらをちぎり、ひとつ、ふたつとグラスにいれる。
「ルミナリア嬢、これは恋の魔法です」
「まあ」
 桃色の液体にうかぶハートの形のももいろのバラの花弁。
「これを飲み干せば、あなたはより美しい姫になれる。
 そう、白銀の騎士が貴方を放置などできないほどに」
「もう、レグルス様って冗談もお云いになるのね。ふふ、ありがとうございます。慰めてくれるんですね。
 でも気をつけてくださいね。そんな魅力的な姫になった私にレグルス様が魅了されてしまわぬように」
 くすくす笑いながらルミナリアはグラスを傾ける。
 こく、こくと薬液が喉をとおっていく。
「素敵なユメの世界に誘いましょう」
 レグルスの姿が二重にぶれていく。
 ふふ、ほんとうに優しい騎士様。
 白銀様を好きになった瞬間に失恋した私に素敵なユメをみせてくれるなんて。きっとこの薬液に魔法なんてない。
 ふうわりと眠気がおそいかかってくる。
 そんな素敵なユメをみればいいと、そうおっしゃってくれるのね。
 ふふ、ほんとうにキザで優しい騎士様。もし私が貴方を好きになることができれば。きっと。
 きっと幸せだったのでしょうね。
 ああ、とても眠い。いい夢がみれますように。
 ふわりと体がたおれていく。気持ちがいい。
 とても、気持ちがいい。

 レグルスはベッドに広がった金髪をすくいあげその髪に口づける。
 そして自らもルミナリアに覆いかぶさり、口づけをしその白い肢体を指先で撫でる。
 ああ、なんて愚かな姫君。
 真紅を白銀と誤認したユメはさぞかし幸せだろう。
 愛してやろう。
 人から魔に堕ちる君を。
 人でいれる最後の瞬間まで。
 月明かりに照らされる二人の影が一つに重なる。
  
 その日、バテンカイトス領が地図から消え去った。

● 
 結論から。
 リゲルがどれだけ調べてもバテンカイトス領消滅の理由は見つからなかった。
 領地のすべての人々はみな心臓をとめていた。
 ただひとり、ルミナリアの姿だけは確認することはできなかったのが唯一の手がかりではあるが、その姫君の行方もまたわからぬまま。
「まさかこんなことになるとは」
 レグルスもリゲルの招集にすぐにこたえきてくれた。
 レグルスの方面からも調べたが結果はリゲルが調べたものと大差ない。
「俺が……きづいていれば」
 リゲルが帰還したその後にレグルスは帰還したという。
 親友があの姫君を気に入ったらしいと思ったリゲルが気を利かせたのだ。
「なんていうか……君のほうがショックだと、思う」
 リゲルの眉根に深い皺が刻まれる。
「ああ……せめて、ルミナリア嬢がいきていると信じて、捜索するしかないな。なにがあったか知るのはきっと彼女だけだろう」
「本当に、すまない」
「なぜお前が謝る。お前は誠心誠意彼女を捜し、真実を明かそうとしてくれている。それが俺にとってどれほどありがたいか」
「レグルス……」
「俺のほうでも捜索の手は増やす。なにかあったらすぐに知らせてくれ。俺もそうする」
「ああ、必ず、彼女を見つけよう!」
「もちろんだ」


「……ッ、ふは、はははははははははっ!」
 リゲルと別れ暫くすると、レグルスは笑いが堪えれなくなる。
 なんと、なんと滑稽な茶番劇だ。
「ねえ、『リゲル』。楽しいことがあったの?」
 いつのまにやら隣に現れた金髪の少女がレグルスを覗き込みながら問いかける。
「ああ、傑作だったよ。あいつはお前を探すらしいぞ」
「ふふ、りげるが私を捜してくれるの? かくれんぼ? おにごっこ? かんたんにはみつかっちゃだめよね?」
 ユメの中に揺蕩うような表情で金髪の少女はくるくるつま先で回る。
「『リゲル』これから、素敵に楽しくなりそうね」
「ああ」
 レグルスは笑いを必死に抑えながら答えた。そうなってもらわねば困る。盗賊の首領に彼女をさらう算段をつけ、こんな面倒な茶番を用意したのはこの愉悦のため。
 正直誰でもよかった。どうせ自分と白銀が並べばいつだって、女は白銀を選ぶのだ。
 どうせならその遊戯の駒は見目が麗しいほうがいい。
「私ね、『リゲル』が楽しいと私もうれしいの。幸せなの。幸福なの。ハッピーなの。至福なの。楽しいの。素敵なの。愉快なの」
 恋するユメの少女――ルミナリア・フォン・バテンカイトスだった少女は本当に本当に幸せそうに笑う。
 そんな愛らしくも憎らしい男の名で自分を呼ぶユメの少女をレグルスは抱きしめ口づけた。
「ふふ、だいすき。だいすき。『リゲル』。だれよりもだいすき。だいすきよ。もっとキスして。
 でもねえ。りげるが私を捜してくれたらうれしいなあ。しあわせだなあ。ふふ、はやく、はやく――ころしたいなあ」
 永久にユメ見る少女は淫蕩に笑った。 
 

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