PandoraPartyProject

SS詳細

悪戯は親友の始まり

登場人物一覧

ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉

 鬼桜 雪之丞という娘は旅人ウォーカーである。夏のある日、ティアが彼女の違和感に気付いたのは着物に包まれた彼女の胸元が苦し気に見えたからだ。
「……?」
 違和感を感じる。そもそもに置いて、様々な文化の入り混じる混沌世界の下着事情は多種多様ではあるが一般的にはブラジャーとショーツを利用する者が多い。ファウンデーションの一種ではあるが女性の乳房の形を整えるという役割を持つブラジャーは一般的な下着として認識されることが多い筈だ。
 だが、ティアが違和感を抱いたのは雪之丞がブラジャーを着用している風には見えなかったからである。前述の通り形を整え、崩れるのを防止するという意図のあるブラジャーを正しく着用したならば乳房は持ち上げられ、バストサイズが其れなりに上がって見える筈だ。だが、逆に押さえつけてある。
(小さく見せてる……? そんなことする理由もないだろうけど……。
 もしかして付けてない……? そんなにぺったんこじゃなかった気もするけど……なんだっけ、神威神楽の人たちが良く付けてる……サラシ……?)
 む、と唇を尖らせた。雪之丞の暮らしていた時代せかいでは補正下着としても知られるブラジャーは一般的でない所が存在していなかったのだろう。故に、ティアが『さらし』という存在に行き当たったは良いが、それが雪之丞にとっての一般的な下着であるとは想像もしていない。
 これは可笑しいぞ、とそう感じた。ティアがこっそりと「雪之丞はブラジャー着けてる?」と問いかけた時に「それは水着のビキニブラの事でしょうか」と逆に問われてしまったのだから――

「やっぱり、ブラジャーは付けておいた方がいいよ。……形が崩れるのを防げるし。
 良ければ、サイズ計ろうか? ブラジャーも早めに買いに行った方がいいと思うし。
 このあたりだと、さらしよりそっちの方が下着として主流だから、一つ持ってても困らないと思う」
 首を傾いだティアの無表情は崩れない。ぱちくりと瞬いた彼女に雪之丞は目を丸くして「其れが一般常識なのでしたら」と戸惑ったように頷いた。
「水着、着てたけどサイズとかは覚えてる?」
「いいえ。であったようでサイズに関しては店員の方へとお任せしました。
 その中で選ばれた水着を店員の方が進める儘……でしたから」
 余には不思議な技能の持ち主も居る者だ。
 さっぱりと目を伏せて申し訳なさそうな表情をした雪之丞にティアは「なら、場所を変えようか」と手招いた。
 向かった先はティアの自宅である。殺風景ではあるが、それなりに物は存在しているだろうか。
 彼女の部屋に入るのは初めてだと周囲を見回した雪之丞に「何か飲む?」とティアは問いかける。来客時には茶を出すというのは胸の十字架たましいからの指示なのだろう。
『客人が来た時に茶を出すのは礼儀の一つだ』
「ん、カフェラテと紅茶があるけど……」
 どちらでもいいかと問いかけるティアに雪之丞は頷いた。カフェオレのスティックはお湯を入れるだけでお手軽にカフェタイムが楽しめる。ローレットで受付嬢が飲んでいたものを其の儘頂戴してきたのだ。
「はい、熱いから気を付けて」
「有難うございます。頂きます」
 一息ついたら計測を始めようとマグカップを差し出すティアに雪之丞は頷いた。
 水着の際には服の上からでも確認するだけでサイズを把握することのできる心眼を所有している店員であった所為かそれが彼女の中の常識になって居る。ティアがどうやってサイズの計測をするのかと――そんな事さえ疑う由もなくカフェオレを飲んで一息ついていた。

 そして、雪之丞の受難は此処から始まる――!

「じゃあ計ろう」
 そう言われて雪之丞は一先ず計測用にさらしを解いた。衣服をその上から再度羽織りなおす。淑女たるもの裸で歩き回るのは禁じ手なのだ。
 どうするのだろうかと知らぬ雪之丞が問いかける前に、ティアは何の前置きなしに雪之丞の胸元に手をずぼりと突っ込んだ。そして、ぎゅ、と確認する様に指先を動かす。
「………」
 雪之丞は黙る事しかできない。驚き、ティアにされるがままである。
 胸を揉みしだく指先は惑う事はない。わきわきと指先を動かしてその感触を楽しむ様に――それでも表情は真剣そのもので――ティアは揉みしだき続ける。
「ん、触れば大凡のサイズは測れるから」
「んッ、ふふっ、あの……これで、サイズ測れるのでしょうか?」
「大丈夫」
 世間知らずもここまで来れば違和感を感じるというものだ。そもそも、ティアと言う少女は悪戯っ子である。先ほどから十字架も物言わぬのだから何かがおかしいのかもしれないという予感だけが雪之丞の胸の内を過る。
「さらし、結構きつかったんだね」
「そ、んん、ですね……窮屈でした。ですが、其れしか知らなかったので……」
 計測をするのだからサラシを外した状態だとティアの指先がダイレクトに感じられる。擽ったいと身を捩って「やっぱりおかしい」と言い出せない儘に雪之丞は「もう十分では?」と伺うようにティアを見遣った。
「ふ、ふっ、やっぱり、これは可笑しいでしょう……!?」
 悪戯ですね、と唇を尖らせてぐるりと振り向いた雪之丞にティアはちょっとばかし困った表情を見せた。
 そうした表情を見れば強くは出れない――だが、此の儘されてばっかりというのもどことなく悔しい。
「悪戯するなら、される覚悟は、ありますね……?」
「え……」
 ぱちくりと瞬くティアをも見てから雪之丞は直ぐ様にティアの服の中へと手を突っ込んで驚いたようにぱちりと瞬いた。
 柔らかい。豊かな胸元をしているとは思っていたが、ブラジャーで支え揚げられていた乳房の重みにも驚きを禁じ得ない。自身と比べればどうだろうか。雪之丞とて決して控えめなわけではない。だが、ブラジャー一つでここまで綺麗なラインが作られるのだろうか。
「ふふ」
 擽ったいと小さく笑うティアの胸をぎゅう、と揉みながら雪之丞は考えた「悪戯だったのでしょう?」
「うん。揉むなら脱ごうか?」
 次に困った顔をしたのは雪之丞の方だった。悪戯される覚悟どころか揉みやすいようにと気を配ってくれるのだ。「え」と思わず唇から漏れ出した言葉にティアは「悪戯するんだよね?」と首を傾げる。
『困っているぞ』
「まあ、けど先に悪戯したのはこっちだし」
『そうだが……』
「ダメかな?」
『好きにすればいい』
 十字架もお墨付きだ。そもそもの話ではあるがティアは事、これに関しては羞恥があまり強くはなかった。前提がブラジャーを付けていない雪之丞のサイズを測る事であった。
 手を伸ばして雪之丞の体のラインを確かめるように撫で続ける。「ティア様」と少し叱る様な声が聞こえた事さえも面白く感じる程に――悪戯が大成功していたのだから!
「胸のサイズは分かったから次はウエスト……」
「ひゃっ」
 つう、と指先が脇腹へと落ちた。びく、と体を跳ねさせて不意の指先に雪之丞が非難がましくティアを見遣る。
「それも悪戯ですか?」
「ううん、ちゃんと測れて、ん」
 もう、と雪之丞の可愛らしい反撃が服の上から擽り攻撃の様に降ってくる。雪之丞のウエストラインを撫でて居ればがら空きになって居た全面、首元から手を突っ込んで胸元を露にする雪之丞は反撃に躍起になって居る。
「本当にこれで分かるんですか……?」
「ん、大体は」
 それはすごい事なのではないかと、雪之丞はぼんやりと感じていた。今、この瞬間にティアの両乳房を掌で包んでいるがそのサイズを把握する事は出来ない。残念ながら「やわらかい」「大きい」「重たい」だけが支配してくるのだ。
「……」
 悩んだ果て、ブラジャーの重要さを教えてあげるとティアはもそもそと自身の背中へと手を回す。背のホックをいとも容易くぷちりと外した後、勢いよくそれを上へと持ち上げた。衣服の中でストラップから腕を抜いてまた同じように着用する。雪之丞は彼女の言ったブラジャーの重要性が何たるかをその瞬間に理解した――こんな事で「成程」と思ってしまうのが実に不甲斐ないがそれだけ凄かった。
 位置を持ち上げ支えていたのだろう。ワイヤーでしっかりとサポートされていた為か、それを取り外すだけで一が少しだけ下がったように見える。重たさで重力的に地へと引っ張られているのだろうか。
「ほら」
「ほ、本当に……」
「触ってみて?」
 首を傾げるティアに雪之丞は惑うように頬を赤らめた「良いのですか」とごにょごにょと小さく問いかける。
 ティアはぱちりと瞬いた後、何か閃いたと言うように頷いた。
「まあ、うん、女の子なら別に揉まれるのはいいかな?」
 ――屹度、そういう意味で聞いたのでないけれど……まあ、本人がいいのならいいのだろう。
 ウエストの計測をと言いながら両手で脇腹をなぞって腹の周りを指先でくりくりと撫でる。服の中をもぞもぞと動いた指先に「ん、くく」と笑み半分交えた声を漏らしながら雪之丞も反撃していた。
 擽ったくてしようがない。これが計測だというならば世の女性はどれほど笑いをこらえる技量に長けているのだと悪戯に途中まで気付かなかった自分を恥じてティアを悪戯し続ける。
 スリーサイズを測るならば次に来るのは尻だ。先手必勝と言わんばかりに雪之丞はティアをぎゅうと抱きしめる様に尻を掴んだ。
「――んっ」
「ふふ、どうですか?」
 こちらの方が上手であろうと、そう言いたげな自信満々の瞳を覗き込んでティアが「こっちも出来るよ」と告げる。その言葉の通り指先は直ぐ様にウエストからなぞりながら腰を辿り尻へと落ち着いた。
 両者共に尻を揉みしだいている状況は異様だ。十字架とてコメントを控えているそんな少しばかりいやらしい空間である。漂う空気は決して甘くはなく意地を張った雪之丞にそれを愉快だと言わんばかりに応えるティアという何とも子供めいた空間である。
「お胸もそうだけど、おしりも大きいんだね。いつも、サラシと袴で隠れてるからあんまり意識したことなかった」
「そうですか? 一般的なサイズを知らないので……って、もう、胸は終わったのでしょう?」
「確認」
 背を撫でた指先が脇を通ってから胸元へと着地する。乳房は脂肪だとよく言った物だが柔らかな感触を確かめながら「うん、大きいと思う」とティアは頷いた。
「そういうティア様こそ……驚きました。これが『ぶらじゃー』というものなのですね」
「ん、形を崩さないためとか保護にもなるから。雪之丞もちゃんとつけておいた方がいいと思う」
 目を覗き込んで「ね?」と首を傾げるティアに雪之丞はこくりと頷いた。
 女友達というのは一般的な恋人同士よりも距離が近い時があるという。もしも今の二人を他所の誰かがみれば紛れもなく恋仲の逢瀬を見てしまったと勘違いする状況である。だが、友人であるがゆえに二人はそれを気にする事はない。
 ティアが悪戯の様に笑みを含めた声で「確認」「測り忘れ」「もう一回」と揶揄うそれに雪之丞が対抗し続ける。気付いた頃には衣服は開け、飲みかけのカフェオレも随分と覚めてしまっていた。

『そろそろ休憩したらどうだ?』
「ん、そうだね」
『カフェオレも入れなおした方がいい』
 この場で常識人の様になっている十字架(本来は魂を封じ込められて共存している存在)はぜいぜいと肩で息をする二人へと声を掛けた。最初に立ち直ったのはティアである。十字架の言う通りにマグカップを二つ手にもってキッチンへと向かう。先ほどと同じように湧かした湯を準備する。今度は趣向を変えてココアパウダーを混ぜ込んだ。
「雪之丞、ココア飲める?」
「はい。有難うございます」
 そう、と静かな声が帰って来る。先ほどと比べればしんと静まり返った室内で雪之丞はティアに背を向けていそいそとサラシを巻きなおしていた。
「もう付けるの?」
 こと、とテーブルに二つのマグカップが置かれる音の後、背中にぺたりとティアが引っ付く気配がする。さらしの隙間に指をつい、と突っ込んで悪戯めいて笑う彼女に「もう終わりましたよ」と雪之丞は彼女のブラジャーを差し出した。
「うん」
「けれど、なんだか……、どっと疲れた気がします……」
「うん、私も……けど、これで雪之丞の下着を買いに行けるね。
 サイズが分かったなら次はお店に行くだけだし。まあ、サイズでも測れたりはするけど……」
 ほら、と下着のサイズをメモ帳へと書き出したティア。
 一人で買いに行くことが出来る? と問いかけられて雪之丞は「ん」と悩まし気に唇を尖らせた。
「その……ぶらじゃーというのにはまだまだ馴染みがありません。
 購入時の事も不安ですし、ティア様が良ければご一緒していただいても?」
「ん、そうだね。はじめてだと買っても分からないだろうし。また予定を立てよっか」
「はい。よろしくお願いします。」
 着崩れてしまった和装を正しながらも誘いに応じてくれたことが嬉しくて雪之丞はにんまりと笑みを零す。
 それから、と口にしたとき雪之丞の中で引っ掛かったのは普段の呼び方ティア様であった。
「……次から、ティア、と呼んでもいいでしょうか?」
 距離を感じてしまう、と。付け加えれば何とも気恥ずかしい。先ほどまでほぼほぼ裸体でくんずほぐれつ大騒ぎしていたというのに――それで気心が知れたのもある。悪戯に悪戯を返してきゃあきゃあと姦しく楽しくやって来たことで心の距離が縮まった気が雪之丞にはしていたのだ。
 ぱちり、と瞬いた。そう言えば今迄は『ティア様』だったかと漸く想い出したティアはこくりと頷いた。
 マグカップを差し出しながら、「ティアか」と確かめる様に口にする。そうやって呼ばれることが彼女の中で友人として一つランクアップした証なのだろうか。そう思うとどこか嬉しい。
「うん、いいよ、その方が私も嬉しいし」
 折角友人であるのならばもっと気心が知れた仲がいい。下着を一緒に買いに行くほどの仲良しなのだから、ティア様と呼んだり呼ばれたりだと歪な関係に感じてしまうではないか。
 雪之丞と先に呼び捨てで呼んでいた自分は何も変わらないけれど、彼女の中では呼び名一つ変化するだけでもとても大きな決心だったのだろう。
「それでは、ティア、と」
「うん。此れから改めてよろしく。雪之丞」
 悪戯めいて笑みを零しあって。次の約束をカレンダーとにらめっこして取り付けて置こう。

  • 悪戯は親友の始まり完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2020年12月07日
  • ・ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593
    ・鬼桜 雪之丞(p3p002312

PAGETOPPAGEBOTTOM