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登場人物一覧

イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
イルミナ・ガードルーンの関係者
→ イラスト


 電信柱の上に一羽の小鳥がとまっていた。チチチ、と囀る鳴き声は何処か無機質さを帯び、周囲を伺う様に絶え間なく首を振っている。
 ふと、近づいて来る声に小鳥は静止した。真下に覗く水色の髪に、瞳のレンズをチキチキと搾りーー。

『へぇ……これは興味深いなぁ』

「イルミナおねーちゃん、あのポスターなぁに?」
『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)は少年の視線を辿っていった。信号待ちをしている横断歩道の先に、確かに一枚目立つポスターが掲示してある。
「あぁ、あれは『不審者注意』の看板っスね」
「ふしんしゃ?」
「要するに、怪しい人について行ったらいけません! って事っス。皆も気を付けるんスよ」
「「はぁーい!」」
 練達の電気街通りに黄色い声が響き渡る。技術の発展したこの国でさえ、捨て子の存在は後をたたない。
(こんな場所にも孤児院なんてあったんスねぇ)
 彼女がこの場を訪れたのは運命の悪戯だ。身体のメンテナンスしてくれる技師を探す折、この子達が途方に暮れて、立ち尽くしているのを見かけたのだ。その原因は、ビニールにぎっしり詰まった美味しそうな太陽の果実。
「まぁ! どなたか存じ上げませんが、子供達を助けて戴きありがとうございます」
 玄関に着くと、出迎えてくれたシスターは深々頭を下げた。
「それにしても、お使いに蜜柑なんて頼んでいたかしら」
「八百屋さんにサービスしてもらったらしいっスよ」
「気を使ってくれるのは嬉しいけど、あの人いつもサービス過剰なのよね」
 何はともあれ助かりましたとシスターは告げ、ふと思い出した様に手を叩く。
「そうだわ、何かお礼をしないと」
「子供達の笑顔が最高のお代っスよ」
「いいえ! こういうのはしっかりお返ししておかないと」
 言うなり彼女は施設の奥から何かを取って戻り、イルミナの首にかけた。

「神のご加護を貴方に」
 それは黒曜石のペンダント。石が嵌め込まれたプレートには細やかな細工と共に、ほんのりと神秘の気配がする。
「いいんスか? こんな高そうなの」
「ぜひ貰ってください、自信作の呪ーー御守りですのよ」


「やられたっス……」
 首から引っぺがそうとしても、ペンダントは胸の上で揺れるだけ。全く外れる気配がない。
「実は私、お守りを作るのが趣味ですの。でも子供達には配り尽くしてしまっていて。イルミナさんが貰ってくれて本当によかったわ」
 爽やかに笑うシスターとは真逆に、目を逸らす子供達。あの持ちきれない蜜柑も、シスター産呪いアイテムが引き起こしたトラブルだったのかもしれない。
「本当に加護がある事を願うばかり――」

 パキン。キュウゥゥ……ン。

 不調気味の右肩を回そうとした瞬間、事件は起こった。
「えっ、ええぇぇぇ!?」
 肩が思うように上がらない。いや――上がらないを通り越して動きもしない!
 シスターの呪い、容赦なしである。

 さてはて困った。練達に来た当初の目的はメンテナンスであるものの、イルミナは旅人だ。この世界に広く出回る鉄騎種向けの整備をすればいいかというと、これがなかなか難しい。外見が同じでも内部の構造が違えば必要なパーツは違ってくるし、素材が違えば修理の仕方もガラリと変わる。
 仕組みを瞬時に理解する分析力、必要なパーツを揃える収集力。両方を兼ね備えた人物は練達広しと言えどそう居らず、今までは自分の出来る範囲で騙し騙し調子を整えていたのだが。
「このまま技師が見つからなかったら、もしかしてこれ……一生このままっスか?」
「あり得ないね! なぜなら、キミは……ボクという『天才』に、出会っ……」
 ふいに背後から声がかけられ、イルミナは振り向いた。目の前には誰もおらず、不思議そうに足元を見ると――人が倒れている。
「し、死んでるっス――!!」
「待っ……疲れだ、だけだよ……キミ、歩くの早いって言われた事ない?」

 言われた覚えはまったくない。とはいえ、この白衣の男をそのまま見捨てていくのも良心が痛む。また何かに巻き込まれた予感を覚えつつ、イルミナは動く方の手を彼へと差し出したのだった。


「しばらく外に出ていないと、あそこまで筋力と体力が低下するものなんだね。
――改めて自己紹介を。ボクはエメス・チャペック。天才だよ」
 あれだけの騒ぎを起こしておきながら、エメスは一切の臆面もなくそう語った。
 練達の路上から所変わって、ここは彼の研究所。最初はエメスの言動ひとつひとつが胡散臭いと感じていたイルミナも、ここに来るまでに出くわした彼の自作のロボットや、今までお邪魔した研究所よりも最先端をいくセキュリティで彼の技量を認めざるをえなくなっていた。
「はぁ。それで、エメスさんは何でイルミナを追いかけてきたんスか?」
「イイと思ったからだよ。キミの身体、鉄騎種とは違うんだろ? 装甲は混沌の技術を取り入れたようだけど」
「――!」
 エメスの肩に小鳥がとまる。それはイルミナの視界に何度も入った小型のロボットだった。どうやらカメラのレンズ越しに己を見つけた様だが、それにしたって映像だけでよく分析出来ている。
「そんな事まで分かるものなんスね」
「天才だからね。ついでに言えば、その腕の直し方も目星は付いてるよ。さっきのお礼に、修理してあげようか?」

 渡りに船とはまさにこの事!

「ぜひお願いしたいっス! 困ってたところで……あれ? え、ちょっ、何なんスかこれぇ!?」
 起動音が響いた、と気づく頃には後の祭り。部屋の四方八方から伸びる機械のアームにがんじ絡めにされ、イルミナは作業台の上に押し付けられた。ただ腕を直すにしては妙に厳重な拘束だ。
「腕は直すよ。でも、それだけじゃ足りない。ボクならもっとキミをよくしてあげられる」
「ストップ! ストップッス!動きが悪いのは腕であって頭とか胸とかはだいじょ――」
「怖がらなくていいよ。分析のために分解バラすだけだから」
 見上げた男の表情は笑顔だが――完全に目が据わっていた。

――不審者!!

「要するに、怪しい人について行ったらいけません! って事っス。皆も気を付けるんスよ」

 ほんの少し前に自分で言った言葉が脳天に突き刺さる。気を付けるべきはイルミナ自身だったのだ。
 そうこうしているうちに工具が胸元に迫って――。

 バチィ!! と大きく爆ぜる音がした。


「うん、いい感じっス! 前より肩が軽くなったっスよ」
「それは良かったニャ」
「きっとエメスさんの技量がいいからっスよ。また頼ってもいいっスか?」
「勿論ニャ。それはいいから……早くこの呪いを解いてくれニャーーッ!!」

 不機嫌さを隠しもせず、エメスは猫耳と尻尾を逆立てた。
 解体の危機を感じたのはイルミナだけでなく、シスターのお守りもだったようだ。ペンダントは主人を守ろうと最大出力で呪いをエメスに放ち、跡形もなく砕け散った。
 目の前の天才技師が猫耳や猫尻尾の生えた愛らしい恰好になっているのはそのためだ。
「しばらくその姿で反省するっス。人が嫌がる事はしちゃダメって肝に銘じるっスよ」
「ウニャ……。でもボクは諦めニャいニャ! キミの全てを知るまで分析をしに――ふにゃあぁあ! …ぁ」
 イルミナがぶん投げた猫じゃらしを追って、エメスは明後日の方向へ走り――そして体力不足で力尽きた。
 出会った時と同じポーズでぱったり倒れた男を見て、彼女はやれやれと肩を竦める。
「また変な人と縁が出来てしまったっス……」

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