PandoraPartyProject

SS詳細

幻想アイドルすぴかちゃん護衛大作戦

登場人物一覧

幻想アイドル すぴかちゃん(p3n000068)
今日も元気にすぴすぴかっ☆
主人=公(p3p000578)
ハム子
主人=公の関係者
→ イラスト

●脅迫状って面白いですね
 それはある日の日常にとても自然に差し込まれた。
 幻想アイドルすぴかちゃんを擁する幻想に拠点を置く芸能プロダクション。その事務所に届けられた一通の手紙が発端である。
「ふぇぇ~~、私脅迫状なんて初めて見ましたぁ~」
「こら、すぴか! 何が仕込まれてるかもわからないんだから勝手に触らない!」
 『きょーはくじょー』と書かれた謎めいた手紙を手に幻想アイドルすぴかちゃんが目を輝かせる。それを咎める(自称)美人マネージャーが手紙を取り上げた。
 手触りは普通の手紙のそれである。中に何かが仕込まれているような形跡はない。
 さて、どうしたものかとマネージャーは思案を浮かべる。
 このまま手紙を開けずに捨ててしまうというということも考えたが、もし真実『脅迫状』なのであればすぴかちゃんに危険がせまるかもしれない。
 で、あればやはり中を確認して内容を確認するべきか。
「それでそれで、マネージャーさん中を見ますかぁ?」
「なにをわくわくしているのやら……もうしょうがないわ、中を見ましょう」
 何が仕込まれているかわからない。
 マネージャーは慎重に封を開け手紙の中身を取り出していく。
 中は――普通の手紙のようだ。
「紙が一枚……これは――」
 それはニュースペーパーの切り抜きで文字列を作ったありきたりな脅迫状。
 目を通して読んでいく。
「なになに……、
 『幻想アイドルすぴかちゃん その輝かしき活動は 新たな秩序世界にこそ 相応しい
 故に 無限の接続を 成すために これより一週間の間に その身 我等が もらい受ける
 【A∴A∴A】聖櫃の秘儀協会』
 ……脅迫状というより犯行予告ね……」
「もしかしてもしかして、すぴかまた攫われてしまいますか?」
「わくわくしてるんじゃないの! あーでもそういうことよね、これは」
 無限の接続とやらが何を指しているのかは不明だが、当然善良な目的ではないのは明白だろう。
 となれば、やはりすぴかちゃんを誘拐し、何か儀式の生け贄に捧げるとか――マネージャーの思考は悪い方へと進んでいく。
「すぴかの活動予定は詰まってるのに、誘拐なんてされたら溜まったものじゃないわ。
 しかし、どうしようかしら。自警団に相談したところで真剣に対応してもらえるかしら?」
 犯行予告ではあるが、いたずらと思われそうでもある。
 そもそも『【A∴A∴A】聖櫃の秘儀協会』とはどんな組織なのか。聞いたこともない名前であるし、何を目的にしているかが不明だ。
 もし、もしも殺人などを容認する組織であれば――いけない、この子(すぴかちゃん)をそのような連中に攫われるわけにはいかない。
 脳天気に手紙を見てるすぴかちゃん。この娘を守るのはマネージャーたる私の役目だ、と力強く拳を握った。
「とはいえ、どうしたものかしら。自警団では心許ないし……すぴかを守れる人といえば――」
「それならローレットの皆さんにお願いするのはどうですか?」
 すぴかちゃんの提案にマネージャーは難しい顔を浮かべる。
「確かにローレットなら十分な仕事をしてくれると思うけど……経費がねぇ……」
 ローレットの依頼料はそう安い物ではない。事務所から出せる経費にも限度があるし、もしいたずらだったりしたら、それこそ無駄な出費となるだろう。
「それに八人とか十人とか来られてもそれはそれですぴかの活動に影響がありそうだし、ここは少数――それこそ一人で護衛とかしてもらえないかしら?」
「ローレットさんにはいつもお世話になっているので、話せば対応してくれそうな気がしますよぉ~」
 マネージャーは瞳を閉じて様々な事情を勘案する。そうしてこの事態に対応する答えを導き出して――
 即日、ローレットにすぴかちゃんの護衛依頼が舞い込むのであった。
 張り出される依頼書。偶然その場に居合わせたのは――『ハム子』主人=公(p3p000578)であった。
「すぴかちゃんの護衛依頼かぁ……今なら予定もないし……うん、受けようかな」
 すぴかちゃんとはもっと交流したいと思っていたこともある。公は依頼書を取るとローレットの受付へと持っていくのだった。
 こうして、すぴかちゃんとすぴかちゃんを狙う【A∴A∴A】、そしてすぴかちゃんを守る主人=公の長いようで短い一週間が始まった。

●危なくてもアイドル活動はするのです!
「と言うわけで護衛の為にローレットから来た主人=公だよ。久しぶりだねすぴかちゃん」
「わぁ公さん! お久しぶりですぅ! 公さんが担当してくれるなら安心ですね!」
 思い返せば、すぴかちゃんがローレットに関わることになった最初の一件より二人は面識がある。
 その関係は実に健全なアイドルとファンの関係に近しいものだが、それは単に交流のきっかけが少なかっただけに他ならないだろう。
 ボディガードとして同行する今回、きっと二人の距離は縮まるに違いないと思われる。思われるのだが――
「いやぁすぴかちゃんのアイドル活動に同行出来るなんて良い依頼だなぁ」
「えへへ、まぁそんな大きな活動ではないですけどね」
 なんて、ファンな態度丸出しな公に、相変わらず脳天気なすぴかちゃん。あまりにも健全すぎるこの距離感――果たして縮むのだろうか?
「コホン、まぁ心配はそうしてないのですが、護衛の方しっかりとお願いしますね」
 マネージャーの釘に、公は真剣な表情に戻って、
「もちろん、その点はしっかりとお役目を果たすよ。安心してほしいな」
 と、答えるのだった。
 脅迫状に記されていた期間、一週間。
 すぴかちゃんのスケジュールはそれなりに密であり、中々に骨の折れる護衛になりそうではあるが、すぴかちゃんを守る為にと、公は気合いを入れた。
 さて、そんな感じで始まった護衛だが、その多くは忙しくイベント会場へと足を運び歌を唄うすぴかちゃんに連れ添うものである。
 大人気アイドル、という程のものではないにしても、それなりに人気の出てきたすぴかちゃんだ。幻想中を駆け回り、喉を震わせ笑顔を振りまく。
「すごいや、今日はもう三本目なのに、あんなに元気に変わらぬ笑顔で」
 ステージ脇からいつでも飛び出せるように集中する公は、ステージ上で輝くすぴかちゃんに一目奪われる。健気に頑張る彼女の姿を見れば、応援したいと気持ちも強くなり、ますます護衛に力が入ると言う物だろう。
「お疲れ様。とても良いステージだったよ。思わず目を奪われちゃった」
 ステージが終わり控え室に共に帰ってきたすぴかちゃんを労う。
「ふぇぇ~えへへ。ありがとうございますぅ。でもちょっぴり力が入って失敗しちゃいましたぁ」
 額に汗を浮かべながらそう笑うすぴかちゃん。傍目にどこで失敗したかなどわからなかったが、きっと細かなミスとかがあったに違いない。
「ダメ、ですね。もっとちゃんとしないと……!」
 そういった細かな点も見逃さず、反省していく様はまさにプロという感じで、公は思わず感心した。
「それはさておき、今日は特に怪しい人はいなかったかな」
「う~ん、やっぱりいたずらとかなんでしょうかぁ~?」
「どうかな。まだ日にちはあるし、悪戯と決めつけるには早計だね。
 明日からも、気を抜かずに頑張って行こう!」
「はい! よろしくお願いしますぅ!」
 そんな感じで、公の護衛は大きな問題もなく進んでいく。
 イベントへの出演、慰問コンサートなどの大きめの箱から、商店街のイベントや、孤児院でのふれあいイベントなど小さな活動もあった。
 その間、公はすぴかちゃんを守る為に影ながら活動する。
 目立たず、しかし常に側に。ボディガードとしての役割を完璧にこなす。そういうお話があるのならば、まさに主人公と言った所だろう。
 時にすぴかちゃんの休憩中。何気ない会話から交流を育んだ。
「すぴかちゃんはどうしてアイドルに? やっぱり何かに憧れて?」
 すぴかちゃんは小首を傾げて口を開いた。
「確かに小さな頃に見た映像で憧れに似た気持ちをもったこともあるのですけど、でもアイドルになろうと決めたのは、眠って目が覚めたときに、不意にならなきゃ! って思ったんですぅ。
 えへへ、なにか変ですよね、私」
「中々にスピリチュアルだね。それで事務所に入ったんだ?
 でも、入ろうと思って入れるものじゃないし、やっぱり才能はあったんじゃないかな?」
「どうでしょうねぇ……えへへ、最初オーディション受けたときは凄い失敗して、もうダメなんじゃないかなと思ったんですけど……なんだか受かってしまいましたぁ。
 ラッキーと言ったら同じようにオーディション受けてた人になんか悪い気もして、だからすぴかは絶対に実力で通ったんだって、そう思って貰う為に頑張るのかもしれないです」
「見かけによらず負けず嫌いだ」
「えへへ、そうかもですね」
 恥ずかしそうにすぴかちゃんが笑うのを、公は目を細めて見つめていた。
 これが男女の仲であれば、より距離を詰めるワンシーンとなったかもしれないが、生憎、公は女性アバターであり、そして真実性別は不明な所だ。
 でもきっと、確かにアイドルとファンの関係からは進展があったはずだ。
 そうして、すぴかちゃんと共に過ごす一週間は瞬く間に過ぎていき、依頼開始から一週間が経とうとしていた。
「今日が最終日か……きっと、なにかあるに違いない」
 僅かな予感を感じながら、公はすぴかちゃんを迎えに行くのだった。

●来ました! 【A∴A∴A】!
 最終日。
 今日のすぴかちゃんの仕事は恒例となった地元幻想でのライブコンサートである。
「みんなぁ~! 今日も来てくれてありがとう!!
 今日も元気にすぴすぴかっ☆ 元気にいっくよ~~~!!」
 歌い出しと同時に盛り上がるファン達。大観衆というわけではないが、その全ての人がすぴかちゃんの笑顔に釣られて笑顔のままに声を上げていた。
「うん、怪しい人はいなさそうだ。皆ノリノリでボクも仕事がなければ一緒に応援したいところだけど――
 と、あれは……なんだろう?」
 ファン達の後ろ。出入り口から現れる黒い三角。
 いや違う。アレは――
「フゥー! フゥー! オォォォ……フフゥッッ――!!」
 奇異なムーヴを決めながら現れた黒ずきん達。ファンたちを力任せに押しのけてすぴかちゃんの立つステージへと押し寄せた。
「すぴかちゃん! 下がって!」
 すぐに公が飛び出してすぴかちゃんを守るように立ちはだかる。
 黒ずきん達も見かけによらない身体能力でステージへと飛び乗った。
「お前達だな! 脅迫状を送ってきたのは!」
 公の問いただしに「いかにも」と隠しもせずに黒ずきんは認めた。
「何が目的だ!」
 さらなる問いに黒ずきん達は大仰に手を広げ答える。
「知れたこと……。
 我等【A∴A∴A】聖櫃の秘儀協会(アーク・アルカナ・アソシエイション)の教義はただ一つ。
 この無辜なる混沌世界の滅びによる救済。
 そして、その後に生まれる新たな秩序世界への転生のみだ」
「だったらなんですぴかちゃんの誘拐などと――」
「すでに答えているぞ。
 我等が推し……ゴホン、いや幻想アイドルすぴかちゃん! その輝きは新たな秩序世界にこそ相応しい!!」
「ふぇ~~!? 嬉しいような、なんとも言えない気持ちです~!」
 困ったような顔を浮かべるすぴかちゃん。
「転生が教義と言ったかな。
 だとすれば、すぴかちゃんを誘拐してその後は――殺害が目的か?」
「ふふふ、そんな勿体ない事……いやそうなる前に彼女には我等が信奉する滅びのアークを溜めて貰う必要があるのでな。
 我等同志が考案した聖なる儀式の生け贄となってもらう!」
「儀式だって……!? それは一体……!」「ふぇぇ……生け贄はイヤですよぉ」
 邪悪に違いない企みを漏らす【A∴A∴A】構成員達。
 くくく、とその黒ずきんの下で笑みを漏らして、今一度大仰に手を広げた。
「聞いて驚け! そして畏怖し我等に恭順せよ!
 我等が推しアイドル幻想アイドルすぴかちゃん!
 彼女には我等【A∴A∴A】アイドル部メンバーと、無限握手会をしてもらう!!」
「……え? 握手会?」「わぁ、なんだかすごそうですねぇ!」
 思わず転けそうになる公を無視して、興奮し始めた【A∴A∴A】構成員達が詳細に企みを話してくれる。とっても早口で。
「すぴかちゃんの身柄を確保し我等の秘密アジトへと護送。そしてすぐにアイドル部特設の会場に入って貰う。我等アイドル部は今か今かと待ちわびながら握手会の開始を待ち、そして開始と同時にマナーを守って列を乱さず並ぶのだ。そして始まるアイドルとファンとの邂逅。繋がる手と手。絡み合う視線。そして僅か数十秒の邂逅を終えた後――我等はまた並び直すのだ! そう体力の尽きぬ限り、無限に並び直し、無限に肉体的接触を果たすのだ!!
 オォォ――! 高まってきたぁぁぁ!!!」
 テンションがどっかへ飛んでいった黒ずきんが早くもガッツポーズを決めて乱舞する。
 あまりにもアホらしい企みに思わず公は頭を抱えた。すぴかちゃんはいまいち話を飲み込めないのか、事態を見守るファンへと笑顔を振りまいて居た。
「フゥ、フゥ……思わず興奮しすぎてしまった。
 と言うわけだ。大人しくすぴかちゃんを渡して貰おうか。抵抗するならば、それ相応の報いを受けることになるだろう」
 脱線し掛けた話を修正してくる構成員が凶器を取り出した。そう凶器だ。サイリウムの形をした凶器を指の間に挟んで両の手に四爪を作りだし、手を交差した。その構えにどんな意味があるのかは窺いしれないが、あまりにも堂に入った構えに、公に緊張が走る。
「なるほど、力ずくで事を成そうとする。
 アーク・アルカナ・アソシエイション……思ったより危険な連中のようだね。
 けど、こっちもすぴかちゃんを守ると約束しているんだ。引くわけにはいかないよ」
「ふははは! 姫を守るお付きの騎士気取りか!
 一人で何ができる。我等の数が見えないのか? 痛い目を見る前に降参するんだな!」
「そうはいくか! さぁかかってこい!」
「良いだろう。
 後悔するがよい、愚かな娘よ!
 我等の恐ろしさ、とくと味わえ!!!」
 奇異なムーヴで飛びかかる【A∴A∴A】構成員達との戦いが始まった――!!

「ちくしょー! 覚えてろー! 握手会は諦めないからなぁー!」
 あっという間に戦いは終わった。というか凶器かと思ったら唯のサイリウムだった。おかしな動きで惑わしてくるだけで激弱だった。
「あ、こら! もう、逃げ足だけは速いなぁ……」
「お見事です、公さん!
 えへへ、これでライブの続きができますね!」
「と、そうだった。ライブはまだ始まったばかりだったね。
 もう一回くるとは思えないけど、気をつけて。ボクも見張っているから」
「はい~! ありがとうございます!
 それじゃぁ、みんなぁ! 気を取り直していっくよぉ~~~~!!!」
 光が走り、ステージに立つ彼女を照らす。輝く笑顔と身振りに合わせて曲がスタートし、すぴかちゃんのライブが再スタートした。

●お疲れ様でしたぁ!
「見事なお手並みでした。
 ライブも無事に成功して、脅迫状の懸念も去ったことでこれからもすぴかはアイドル活動を続けていけそうです」
 公に頭を下げるマネージャー。
 ライブのあと、控え室へと戻ったすぴかちゃんと共に公が戻ると、事態を見守っていたマネージャーが嬉しそうに言ったのだ。
「大それたことを言いつつも、戦力的には劣る相手で助かったよ。
 でも【A∴A∴A】かぁ……滅びのアークを信奉するだなんてそれだけで普通じゃない連中だし、もしもボク一人で抑えられない相手だったとしたら、と思うとゾッとするね」
「ええ、現れた人数も多かったですし、次からは対策費用を用意して準備万端でいきたいですね。まあ公さんのお蔭でしばらくはないとは思いますが……」
「えへへ、でも公さん格好良かったですぅ~ばったばったと倒して、初めて会ったときの事件のことを思い出しちゃいました!」
 真剣な思案を浮かべるマネージャーとは裏腹に、すぴかちゃんはライブの興奮と熱気が収まらないように顔を上気させて身振り手振りで公の戦いを真似する。
「すぴかちゃんのライブもとってもよかったよ。どんどん歌もダンスもクオリティが高くなって行ってるし、ファンのみんなとの熱量もとっても高かったね。
 これは幻想アイドルから混沌アイドルになる日も近いんじゃないかな?」
「ふぇぇ……そんな、おだてすぎですよおぉ~~」
 照れるすぴかちゃんに、公は微笑んだ。
「さて、それじゃこれで依頼はおしまいかな」
 公の言葉に、すぴかちゃんは気づいたように残念そうな顔を浮かべる。
「はわぁ、そうでした。これで公さんとはまたしばらく会えなくなっちゃいますね」
「そう残念そうな顔をしないで。
 これからもライブとか行けるときは行くからさ。それにローレットに依頼が入ったときは必ず……とは言えないけど出来る限り参加させてもらうからね」
「はい! ありがとうございますぅ!」
「これからも応援してるから頑張ってね。それじゃぁお疲れ様!」
「お疲れ様でしたぁ!」
 そうして公はすぴかちゃんに別れを告げてコンサート会場を後にした。
 幻想アイドルすぴかちゃんに届いた脅迫状の事件はこうして幕を閉じる。
 主人=公とすぴかちゃんとの絆は――きっと深まったことに違いないのだ。

PAGETOPPAGEBOTTOM